私の好きな証明たち

これは鯵坂もっちょ氏が企画されたアドベントカレンダー

好きな証明 Advent Calendar 2018 - Adventar

の４日目の記事です。今回は今までに執筆したブログ記事の中から私の好きな証明を幾つか選んで紹介したいと思います。

全ての頂点のx座標, y座標が整数であるような正五角形が存在しないことの証明

予備知識: 【高校数学レベル】
全ての頂点が格子点*1であるような正五角形が存在したと仮定します。このとき、以下の図のように内部に別の正五角形を描きます。

この内部にある正五角形がまた全ての頂点が格子点であるような正五角形であることを示すことができれば、いくらでも小さい領域に格子点正五角形が存在することになって矛盾します。

図において、ACBO$ACBO$は平行四辺形であるため、OA−→−+OB−→−=OC−→−$\overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OB}=\overrightarrow{OC}$が成り立ちます。仮定より、OA−→−$\overrightarrow{OA}$およびOB−→−$\overrightarrow{OB}$は成分が整数であるようなベクトルなので、OC−→−$\overrightarrow{OC}$も成分が整数であることがわかります。すなわち、C$C$は格子点です。対称性より、内部の正五角形はの全ての頂点が格子点であることが証明されました。

正五角形を一般の正n$n$角形(n≠4$n\ne 4$)にしても同様の定理が成り立ちます。一般の場合にも同様の証明が可能ですし、上記記事ではガウス整数環を用いた代数的証明も紹介しています。そこで円分多項式の既約性を使いますが、明日icqk3氏が証明を紹介してくださるそうです。

高校数学レベルで好きな証明をもう一つ紹介するならば、IMO2006 Problem 6 - INTEGERSが大変におすすめです。これは国際数学オリンピックの問題です。自分では解けませんでしたが、初めて読んだときに言葉にはできない美しさを感じました。

ネイピア数が無理数であることの好きな証明

予備知識: 【e$e$の定義と実数の連続性】
ネイピア数e$e$が無理数であることの証明を５つ紹介する記事を書きました。eが無理数であることの5通りの証明 - INTEGERS
その中のSondow氏による証明が比較的好きなので紹介します。

I1:=[2,3]$I_1:=[2,3]$とし、閉区間In$I_n$を次のように帰納的に定義します：

In$I_n$はIn−1$I_{n-1}$をn$n$等分してできるn$n$個の小区間のうち、左から二番目のものとする。

In=[sn,tn]$I_n=[s_n,t_n]$とすると、

sn=1+11!+12!+⋯+1n!,  tn=sn+1n!${\displaystyle s_n=1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\cdots +\frac{1}{n!},t_n=s_n+\frac{1}{n!}}$

であって両方e$e$に収束します。つまり、区間縮小法による確定実数がe$e$であることがわかりました：

⋂n=1∞In={e}(1)$\begin{array}{}\text{(1)}& {\displaystyle \bigcap _{n=1}^{\mathrm{\infty }}{I}_n=\{e\}}\end{array}$

さて、e$e$が有理数であったと仮定しましょう。すると、n,m∈N$n,m\in \mathbb{N}$が存在して

e=mn!${\displaystyle e=\frac{m}{n!}}$

と書けます。一方、ある整数a$a$が存在して

In=[an!,a+1n!]${\displaystyle I_n=[\frac{a}{n!},\frac{a+1}{n!}]}$

と書けるので、e∈In$e\in I_n$であることからe$e$はIn$I_n$の端点のいずれかに一致せざるを得ず、(1)に矛盾します。

素数が無数に存在することの好きな証明

予備知識: 【位相の定義】
素数が無数に存在することの標準的なものを含む幾つかの証明をユークリッド数と素数の無限性 - INTEGERSで紹介しました。標準的証明は難しくないですが、有名定理はいつもそうであるように、今ではたくさんの証明が知られています。180以上の証明を調べたサーベイ記事も存在します：

[1202.3670] Euclid's theorem on the infinitude of primes: a historical survey of its proofs (300 B.C.--2017) and another new proof

数ある証明の中で私が好きなのものはFurstenbergによる位相的証明とアデールを使った位相的証明です。

Furstenbergが学部生のときに発表した証明の概略は次のようなものでした。まず、整数全体集合Z$\mathbb{Z}$に或る位相を入れます。±1$\pm 1$以外の任意の整数は或る素因数を持つため、集合の等式

Z∖{±1}=⋃ppZ(2)$\begin{array}{}\text{(2)}& {\displaystyle \mathbb{Z}\setminus \{\pm 1\}=\bigcup _{p}p\mathbb{Z}}\end{array}$

が成り立つことがわかります。ここで左辺は±1$\pm 1$を除く全ての整数からなる集合であり、右辺の合併は全ての素数p$p$にわたり、pZ$p\mathbb{Z}$はp$p$の倍数全体集合です。

さて、Furstenbergが定義した位相は空集合以外の開集合は無限集合という性質をもつため、左辺は閉集合ではありません。というのも、閉集合であると仮定するとその補集合である{±1}$\{\pm 1\}$が開集合となって、これは空集合ではない有限集合ですから矛盾です。

一方で、pZ$p\mathbb{Z}$は閉集合になっていることが確認できます。ということは(2)式は「閉集合の合併が閉集合ではない」状態になっています。

位相の定義によれば「閉集合の有限個の合併は閉集合」でしたので、素数は無数になければなりません。

バーゼル問題の好きな証明

予備知識: 【大学初年度の微積】
バーゼル問題

ζ(2)=∑n=1∞1n2=π26${\displaystyle \zeta (2)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{n^2}=\frac{{\pi }^2}{6}}$

の証明もたくさん知られていますが、積分を使った証明が非常に簡明である一方で「何故その変数変換を思いついたんだ！？」という天才性を感じられて好きです。Calabiの証明が有名ですが、バーゼル問題の短くはないが好きな証明 - INTEGERSで紹介したKontsevich-Zagierによる証明が代数関数しか用いないという点で好きです。

まず、無限等比級数の和の公式から

∫10∫1011−xydxdyxy−−√=3ζ(2)${\displaystyle {\int }_0^1{\int }_0^1\frac{1}{1-xy}\frac{\mathrm{d}x\mathrm{d}y}{\sqrt{xy}}=3\zeta (2)}$

がわかります。変数変換

x=s21+t21+s2,y=t21+s21+t2${\displaystyle x=s^2\frac{1+t^2}{1+s^2},y=t^2\frac{1+s^2}{1+t^2}}$

によって

∫10∫1011−xydxdyxy−−√=4∫s,t>0, st≤1ds1+s2dt1+t2${\displaystyle {\int }_0^1{\int }_0^1\frac{1}{1-xy}\frac{\mathrm{d}x\mathrm{d}y}{\sqrt{xy}}=4{\int }_{s,t>0,st\le 1}\frac{\mathrm{d}s}{1+s^2}\frac{\mathrm{d}t}{1+t^2}}$

と変形でき、更に s↦s−1, t↦t−1$s\mapsto s^{-1},t\mapsto t^{-1}$と変数変換したものと組み合わせることによって

∫10∫1011−xydxdyxy−−√=2∫∞0ds1+s2∫∞0dt1+t2=2×π2×π2=π22${\displaystyle {\int }_0^1{\int }_0^1\frac{1}{1-xy}\frac{\mathrm{d}x\mathrm{d}y}{\sqrt{xy}}=2{\int }_0^{\mathrm{\infty }}\frac{\mathrm{d}s}{1+s^2}{\int }_0^{\mathrm{\infty }}\frac{\mathrm{d}t}{1+t^2}=2\times \frac{\pi }{2}\times \frac{\pi }{2}=\frac{{\pi }^2}{2}}$

となって証明が完了です。

さて、紹介記事のタイトルは「バーゼル問題の短くはないが好きな証明」ですが、上記積分による証明は短いです。実は積分による証明を紹介した後の二つ目の証明の紹介の方が本命で、とても好きな証明になっています。詳しくは記事を参照していただきたく思いますが、大雑把に言うと次のような証明になります。

半径N−−√$\sqrt{N}$の4$4$次元球S$S$を考えます。S$S$に含まれる格子点(全座標が整数であるような点)の個数はN→∞$N\to \mathrm{\infty }$でS$S$の体積N22×π2$\frac{N^2}{2}\times {\pi }^2$に漸近します(ここにπ2${\pi }^2$が現れる！)。

一方、半径が0,1,2–√,3–√,…,N−−√$0,1,\sqrt{2},\sqrt{3},\dots ,\sqrt{N}$の4$4$次元球でS$S$を輪切りにして各4$4$次元球の面上にある格子点をカウンティングしていくことによって、その総和としてS$S$に含まれる格子点を数えることができます。半径n−−√$\sqrt{n}$の4$4$次元球の面上にある格子点の個数はn$n$を４つの平方数の和で表す表し方の総数に他なりませんから、それはヤコビの四平方和の定理で求めることができます。

このようにして計算した格子点の総数の漸近挙動の主要項(N2$N^2$の係数)にζ(2)$\zeta (2)$が出現するため、バーゼル問題が証明されるという寸法です。

代数学の基本定理の好きな証明

予備知識: 【複素解析におけるコーシーの積分定理】
定数でない複素数係数の多項式は少なくとも一つの複素数根をもつという代数学の基本定理の証明もたくさん知られています。その中でも私が大好きなコーシーの積分定理を直接的に用いたBoasによる証明が大好きです。代数学の基本定理のCauchyの積分定理を用いた証明 - INTEGERS

証明の概略を述べます。背理法で証明するため、複素数根を持たないような定数でない複素数係数の多項式 p(x)$p(x)$が存在したと仮定します。

まず、p(x)$p(x)$は実数を代入すると値が実数になるという性質を持っていると仮定してもよいことが確認できます。このとき、仮定と中間値の定理によって

∫2π0dθp(2cosθ)≠0${\displaystyle {\int }_0^{2\pi }\frac{\mathrm{d}\theta }{p(2\cos \theta )}\ne 0}$

が示せます。一方、z=e−1√θ$z=e^{\sqrt{-1}\theta }$と変数変換すると、この積分は

1−1−−−√∫|z|=1dzzp(z+z−1)${\displaystyle \frac{1}{\sqrt{-1}}{\int }_{|z|=1}\frac{\mathrm{d}z}{zp(z+z^{-1})}}$

に等しいことがわかりますが、コーシーの積分定理よってこれは0$0$でなければならず矛盾します。

どの証明でも使うことになる「実数の連続性」と、要となる大道具「コーシーの積分定理」の使い方がよくわかる見事な証明と言えるでしょう。

1000009が素数でないことの証明

予備知識: 【二平方和の定理】
大きな数の素数判定は現代ならば基本的にはコンピュータに任せると思います。しかしながら、オイラーの時代には当然コンピュータはありませんでした。当時1000009$1000009$が素数だという誤認があったようで、オイラーはコンピュータなしに1000009$1000009$が合成数であることを証明してみせる論文を書いています。それを紹介したのが記事オイラーの定理：1000009は素数ではない - INTEGERSです。

オイラーの証明の戦略は次のようなものです。自身が証明した二平方和の定理によれば、

4$4$で割った余りが1$1$であるような素数は順序を除いて丁度一通りに二平方和として表すことができる。

という主張が成り立ちます。1000009$1000009$は4$4$で割った余りが1$1$であり、しかも

1000009=10002+32$1000009={1000}^2+3^2$

という自明な二平方和の表示を持ちます。そこで、オイラーは1000009$1000009$の他の二平方和による表示があるかを非常に巧みに調べ上げ、ないということであれば素数と証明できたわけですが、

1000009=9722+2352$1000009={972}^2+{235}^2$

を発見したために1000009$1000009$が素数でないことが確定しました。

特定の数の無限性に関するグラフを使った証明

予備知識: 【凸包の定義】
記事良素数の無限性 - INTEGERS
で紹介したポメランスによる良素数の無限性証明における次の定理の証明手法が面白いです。

定理 0<a1<a2<a3<⋯$0<a_1<a_2<a_3<\cdots$ および limn→∞ann=0${\displaystyle \underset{n\to \mathrm{\infty }}{lim}\frac{a_n}{n}=0}$ を満たすような実数列{an}$\{a_n\}$を考える。このとき、2an>an−i+an+i$2a_n>a_{n-i}+a_{n+i}$が任意の0<i<n$0<i<n$に対して成立するようなan$a_n$が無数に存在する。

V:={(0,0)}∪{(n,an)∣n∈N}⊂R2$V:=\{(0,0)\}\cup \{(n,a_n)\mid n\in \mathbb{N}\}\subset {\mathbb{R}}^2$とおいて、V$V$の凸包をS$S$とします。このとき、S$S$の境界は折れ線で表され、頂点が無数に存在します。このことを図を見て確認しましょう。

この図の場合(一例)、A=(0,0)$A=(0,0)$であり、B$B$からM$M$がそれぞれ(1,a1)$(1,a_1)$から(12,a12)$(12,a_{12})$に対応しています。B,D,H,K,M$B,D,H,K,M$が凸包S$S$上の頂点になっています。数列に関する極限の仮定より、原点と(n,an)$(n,a_n)$を結ぶ直線(例えば図の緑の直線)の傾きはn→∞$n\to \mathrm{\infty }$で0$0$に収束します。

なので、辺HK,KM$HK,KM$のようなS$S$の境界上の折れ線の傾きはどんどん水平になっていくことがわかります。一方、数列{an}$\{a_n\}$は狭義単調増加数列なので、実際に水平になることはあり得ません。このことから、凸包S$S$の折れ線の頂点は無数に存在しなければならないことがわかりました。

S$S$の原点を除いた頂点のy$y$座標は凸性から所望の不等式を満たすことがわかるため、定理の証明が完了します。例えば図の赤線の例は2a3>a1+a5$2a_3>a_1+a_5$と2a3>a2+a4$2a_3>a_2+a_4$を示しています。

良素数の無限性は未解決問題として提示されたものでしたが、ポメランスによる論文はとても短く、その簡明なる証明にも驚きました。

ラマヌジャンのτが23の倍数になるための十分条件の証明

予備知識: 【ラマヌジャンのτ$\tau$関数、平方剰余、五角数定理】
記事Ramanujanのτ関数の満たす合同式と23の不思議 - INTEGERSで紹介した

素数p≠23$p\ne 23$が法23$23$において平方非剰余であるならば、τ(p)$\tau (p)$は23$23$で割り切れる。

という定理の証明が好きです。

θ(x):=∏m=1∞(1−xm)${\displaystyle \theta (x):=\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}(1-x^m)}$とすると、ラマヌジャンのデルタに関してΔ≡qθ(q)θ(q23)(mod23)$\mathrm{\Delta }\equiv q\theta (q)\theta (q^{23})(\mathrm{mod}23)$が成り立ちます。一方、五角数定理

θ(q)=∑r=−∞∞(−1)rqr(3r+1)2${\displaystyle \theta (q)=\sum _{r=-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}(-1{)}^r{q}^{\frac{r(3r+1)}{2}}}$

によって

τ(p)≡∑p=1+r(3r+1)2+23s(3s+1)2(−1)r+s(mod23)${\displaystyle \tau (p)\equiv \sum _{p=1+\frac{r(3r+1)}{2}+\frac{23s(3s+1)}{2}}(-1{)}^{r+s}(\mathrm{mod}23)}$

が得られます。そうして

p=1+r(3r+1)2+23s(3s+1)2≡1+r(3r+1)2=36r2+12r+2424≡(6r+1)2(mod23).$\begin{array}{rl}p& =1+\frac{r(3r+1)}{2}+\frac{23s(3s+1)}{2}\\ & \equiv 1+\frac{r(3r+1)}{2}\\ & =\frac{36r^2+12r+24}{24}\\ & \equiv (6r+1{)}^2(\mathrm{mod}23).\end{array}$

であることから、p$p$が法23$23$で平方非剰余であればτ(p)≡0(mod23)$\tau (p)\equiv 0(\mathrm{mod}23)$であることがわかりました。

突然の五角数定理！

三木の恒等式の証明

予備知識: 【関-ベルヌーイ数、p$p$進数】
n$n$を4$4$以上の整数とするとき、関-ベルヌーイ数Bk$B_k$に関する次の式が成り立ちます(βk=Bk/k${\beta }_k=B_k/k$であり、Hn$H_n$は第n$n$調和数)：

∑k=2n−2βkβn−k−∑k=2n−2(nk)βkβn−k=2Hnβn${\displaystyle \sum _{k=2}^{n-2}{\beta }_k{\beta }_{n-k}-\sum _{k=2}^{n-2}(\genfrac{}{}{0ex}{}{n}{k}){\beta }_k{\beta }_{n-k}=2H_n{\beta }_n}$.

これは三木の恒等式とよばれています。関-ベルヌーイ数に関する等式ですから母関数による証明なども可能ですが、どうやってこのようなエキゾチックな等式を発見したのかが気になります。実は三木先生による証明は驚くべき手法によるものでした。三木の恒等式のジョンソンの手法による証明 - INTEGERS

ジョンソンという人が関-ベルヌーイ数に関する或るp$p$進関係式を与えており、それを上手く応用することによって関-ベルヌーイ数に関するクンマー合同式やクラウゼン-フォン=シュタウトの定理を始めとしたp$p$進的な結果を統一的に示すというプランを提示しました。

三木先生はジョンソンのp$p$進関係式をmodp2$mod{p}^2$に還元し、巧みな計算でそれを変形していきました。

その結果得られるものは、当然、関-ベルヌーイ数に関する或るmodp2$mod{p}^2$合同式です。p≥n+3$p\ge n+3$という仮定のもと、得られた合同式は

(Hnβn−12∑k=2n−2βkβn−k+12∑k=2n−2(nk)βkβn−k)p≡0(modp2)${\displaystyle (H_n{\beta }_n-\frac{1}{2}\sum _{k=2}^{n-2}{\beta }_k{\beta }_{n-k}+\frac{1}{2}\sum _{k=2}^{n-2}(\genfrac{}{}{0ex}{}{n}{k}){\beta }_k{\beta }_{n-k})p\equiv 0(\mathrm{mod}{p}^2)}$

でした。つまり、

Hnβn−12∑k=2n−2βkβn−k+12∑k=2n−2(nk)βkβn−k≡0(modp)${\displaystyle H_n{\beta }_n-\frac{1}{2}\sum _{k=2}^{n-2}{\beta }_k{\beta }_{n-k}+\frac{1}{2}\sum _{k=2}^{n-2}(\genfrac{}{}{0ex}{}{n}{k}){\beta }_k{\beta }_{n-k}\equiv 0(\mathrm{mod}p)}$

です。なんと、左辺がp$p$に依存していないではありませんか！！！！！

n$n$に対して条件を満たす素数は無数にありますので、左辺は0$0$でなければなりません！

アックス-グロタンディークの定理の証明

予備知識: 【可換環の基礎】
Cn${\mathbb{C}}^n$からCn${\mathbb{C}}^n$への多項式写像が単射であれば全射であるというアックス-グロタンディークの定理を記事アックス−グロタンディークの定理 - INTEGERSで紹介しました。

背理法で証明するために単射であるが全射ではないCn${\mathbb{C}}^n$からCn${\mathbb{C}}^n$への多項式写像が存在したと仮定します。まず、単射性と非全射性をHilbertの零点定理を用いることによって等式で表現することができます。次に、この等式をJacobson環の基本性質を用いて或る有限体k$k$上で成立する式に還元します。そうして、それらの等式がkn$k^n$からkn$k^n$への単射であるが全射ではない写像の存在を意味することになってしまい、有限集合から自分自身への単射であるが全射ではない写像などあるわけがありませんので矛盾します。

無限の世界から有限の世界への旅による華麗なる証明と言えるでしょう。

ファン・デル・ヴェルデンの定理の証明

予備知識: 【特になし】
任意の正の整数k,m$k,m$に対して、或る正の整数N(k,m)$N(k,m)$が存在して次が成り立つ: N≥N(k,m)$N\ge N(k,m)$なる任意の整数N$N$に対して、1$1$からN$N$までの整数をどのようにm$m$色に塗り分けたとしても、必ず同じ色で塗られた長さk$k$の等差数列が存在する。

という定理の証明をファン・デル・ヴェルデンの定理 - INTEGERSで解説しています。

k$k$に関する帰納法で証明しますが、同じ色で塗られた長さk$k$の等差数列=同色k$k$-APから同色(k+1)$(k+1)$-APを作るのは一筋縄ではいきません。そこで、証明を二重帰納的な構造にしてカラフルな車輪と呼んでいる製品を生産していきます。カラフルな車輪のスポークを増やすことが二重帰納法におけるもう一つのパラメータの変化ですが、スポークを増やす際には対角線論法の考え方を適用しています。その際、スポーク数が一つ少ない場合のカラフルな車輪の中で良いものを選び抜かないといけないのですが、その選択に「色塗りの変更」というテクニックを用います。すなわち、スポーク数の一つ少ないカラフルな車輪の様々なデータを色として管理するのです。

初等的ですが非常にアイデアに富んだ証明です。

高次元最密球充填の最近の進展における証明のアイデア

予備知識: 【フーリエ変換、保型形式】
最密球充填 - INTEGERSで離散幾何における最近の進展を解説しています。コーンとエルキースがn$n$次元ユークリッド空間のn$n$次元球による充填率のよい上からの評価を与えることに成功しているのですが、その証明は「シュワルツ関数の満たす双対性(ポアソン和公式)がn$n$次元球による空間充填を制御する」というもので、かような現象の存在を知ってしまうと数学の世界に感服せずにはいられません。

8$8$次元と24$24$次元の場合にはコーン-エルキースのバウンドで最密構造が実現すると彼らは予想するに至り、それはすなわち魔法関数とでも呼びたくなるようなよい関数の存在を意味しますが、ヴィアゾフスカ達が実際に準モジュラー形式などを使ってそのような関数を構成してしまいました。

おまけ

ここに、等式

∫10(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)⋯dx=π212${\displaystyle {\int }_0^1(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{\cdots }}}}}}}}\mathrm{d}x=\frac{{\pi }^2}{12}}$

の証明の概略を紹介します。aaaaaaaa⋯$a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{\cdots }}}}}}}}$はe−e<a<e1e$e^{-e}<a<e^{\frac{1}{e}}$で収束するので、0<x<1$0<x<1$のときはe−1e<xx<1$e^{-\frac{1}{e}}<x^x<1$で、(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)⋯$(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{\cdots }}}}}}}}$は収束することがとりあえずわかります。ランベルトのW$W$関数*2を原点を通る単調増加な範囲で考えます。収束の範囲内でy=aaaaaaaa⋯$y=a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{\cdots }}}}}}}}$とするとay=y$a^y=y$であることから、log$\log$を取ればy=−W(−loga)loga$y=\frac{-W(-\log a)}{\log a}$が成り立つことがわかります。

ラグランジュの反転公式によってランベルトのW$W$関数は|t|<e−1$|t|<e^{-1}$で

W(t)=∑n=1∞(−n)n−1n!tn${\displaystyle W(t)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{(-n{)}^{n-1}}{n!}{t}^n}$

なるテイラー展開を持ちます。0<x<1$0<x<1$のとき−e−1≤xlogx<0$-e^{-1}\le x\log x<0$なので、

∫10(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)⋯dx=∫10−W(−xlogx)xlogxdx=∫10∑n=1∞(−n)n−1n!(−xlogx)n−1dx=∑n=1∞nn−1n!∫10xn−1(logx)n−1dx$\begin{array}{rl}{\int }_0^1(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{\cdots }}}}}}}}\mathrm{d}x& ={\int }_0^1\frac{-W(-x\log x)}{x\log x}\mathrm{d}x\\ & ={\int }_0^1\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{(-n{)}^{n-1}}{n!}(-x\log x{)}^{n-1}\mathrm{d}x\\ & =\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{n^{n-1}}{n!}{\int }_0^1{x}^{n-1}(\log x{)}^{n-1}\mathrm{d}x\end{array}$

と変形することができます。二年生の夢に出てくる積分公式

∫10xn−1(logx)n−1dx=(−1)n−1nn(n−1)!${\displaystyle {\int }_0^1{x}^{n-1}(\log x{)}^{n-1}\mathrm{d}x=\frac{(-1{)}^{n-1}}{n^n}(n-1)!}$

によって

∫10(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)(xx)⋯dx=∑n=1∞nn−1n!(−1)n−1nn(n−1)!=∑n=1∞(−1)n−1n2=12ζ(2)${\displaystyle {\int }_0^1(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{(x^x{)}^{\cdots }}}}}}}}\mathrm{d}x=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{n^{n-1}}{n!}\frac{(-1{)}^{n-1}}{n^n}(n-1)!=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{(-1{)}^{n-1}}{n^2}=\frac{1}{2}\zeta (2)}$

と計算できました。バーゼル問題と合わせると証明が完了します。

*1:ここではx$x$座標およびy$y$座標がともに整数であるような二次元ユークリッド平面の点のこと。

*2:y=xex$y=x{e}^x$の逆関数。