カロリー制限で本当にやせられるのでしょうか(写真:DenysProduction/PIXTA)

年末・年始で増えた体重を減らそうと、ダイエットニーズが高まる1月。さまざまな減量法が唱えられるなか、「摂取カロリーを抑える」というのは定番中の定番メソッド。アサヒグループ食品の調査によると、実に9割近い人が「食事の量やカロリーの調整やコントロール」、7割超の人が「カロリーの低い食事を心がける」をしたことがある、と答えています。
しかし、「カロリーを減らしても決してやせないことは、科学的に判明している」と異を唱えるのは、『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』を上梓した、医学博士のジェイソン・ファン氏。カロリーを制限してもやせない理由、そしてカロリー制限ダイエットの知られざる危険性を、減量専門医が解き明かします。

体重増加の6割が年末年始

体重は年間を通じて、規則的に増えるわけではないことをご存じでしょうか? たとえば北米の場合、年間の平均的な体重増加は0.6kgですが、そのうち60%は年末休暇の6週間で増えています。

よって、この時期にダイエットのニーズが高まる傾向にあるのですが、「摂取カロリーの削減」「低カロリー食によるダイエット」では期待しているほど効果は得られません。無駄な努力に終わるどころか、「前以上に太る」危険さえはらんでいるのです。

私たち減量専門医がつねに頭を悩ませている問題があるのですが、それは、「太った医者がいる」ことです。

人間の生理学の権威と認められている医者たちは、肥満の原因を知っているはずで、その対処にも長けているはずです。なのに、なぜ太った医者がいるのでしょうか? それは、これまで唱えられていた「食べる量を減らし、運動量を増やす」という減量理論が、実は間違っているからです。

肥満は、長い年月をかけて蓄積していくものですが、私たちが得る肥満についての情報の多くは、「ほんの数週間」の研究から導き出された情報であることがほとんどです。1週間足らずの期間しか扱わない研究も何千件とある――これが、ダイエットの根拠の実情です。

カロリーを削ったり運動したりすれば、一時的に体重は減ります。しかし、一度暴食しても体重が永遠に増えたままにならないのと同様、減量効果は長続きせず、「ホメオスタシス」という体に備わった現状維持システムが働いて、体は「体重が減る前の状態」に戻ろうとするのです。

1990年から2010年にかけて行われたアメリカ国民健康栄養調査では、「摂取カロリー増加と体重の増加に相関関係はない」とのデータが示されました。肥満の人は1年ごとに0.37%増加したのですが、摂取カロリーはほぼ一定だったのです。

女性の平均カロリー摂取量は1761キロカロリーから1781キロカロリーへ若干の増加が見られましたが、男性の場合はむしろ、2616キロカロリーから2511キロカロリーへと減少していました。

イギリスでも同様の調査が行われ、摂取カロリーの増加も、食品から摂る脂質の増加も、肥満とは関係なし。つまり、「因果関係はない」との結論が導かれました。実際、肥満率は上昇しているのに対し、摂取カロリーはイギリスでも減っているのです。

低カロリーの危険性

今は倫理的に実施が難しい実験の1つに「飢餓実験」があり、興味深い報告が数多くされています。

1919年に行われたワシントンでの飢餓実験では、カロリー制限の有効性を否定する結果が出ています。研究の対象となった被験者は、1日1400~2100キロカロリーの食事を摂ります。これは、通常の摂取カロリーより30%削減された食事なのですが、実験参加者の総エネルギー消費量も30%減少していたことが判明しました。

これは、摂取カロリーを減らしたことで、体がバランスを取ろうとして消費カロリーも抑えたため。摂取カロリーが減った分だけ、体は消費カロリーも減らすよう勝手に調整しているのです。

また、「ミネソタ飢餓実験」と呼ばれる1944年と1945年に実施された調査では、「カロリーを制限しすぎることの恐ろしさ」が判明しました。第2次世界大戦後、何百万人も飢餓にさらされたのですが、当時は飢餓状態が人間の生理活動にどう影響するかは未知の情報でした。

そこで、カロリー制限をしている時期と、回復期における状態を理解する目的で実験が行われました。被験者は平均身長178センチ、平均体重69.3キロの健康で、平均的な体格の若い男性36人。はじめの3カ月、ごく標準的な食生活を送り、次の半年で体重24%減を達成するよう摂取カロリーが調整されました。

カロリー制限中、男性たちの心身に変化が見られます。被験者たちは真夏の7月だというのに寒がり、夜には2枚の毛布にくるまらないと眠れないほど震えだしたのです。そして、安静時の代謝量を計測したところ、通常時と比べて40%も減少していたことが判明しました。

精神的にも悲惨な影響が見られました。被験者は、強烈に食べ物に魅せられるようになり、集中力を失い、なんと大学を中退する者まで現れたのです。その後の調査で、カロリー制限によって起こりうる数々のデメリットが次々と明らかになりました。

・つねに寒気を覚えるようになる
・心臓のポンプ機能が衰え、心拍数と1回拍出量が減る
・血圧が過度に下がる
・疲れやすくなり、集中力が低下する
・身体活動量が有意に減る
・皮膚がうまく生え変わらず、爪が割れ、髪が抜ける

リバウンドのメカニズム

「本末転倒」な事態も招きます。それは、「摂取カロリーを減らすことで、反対に体重が増えてしまう」という現象です。

摂取カロリーを制限すると消費カロリーも減ることは前述しましたが、実は「減った消費カロリーはなかなか元に戻らない」という性質があります。カロリー制限をすると、それに反応して代謝活動がすぐに減り、その減少がいつ終わるともなく続くのです。

2011年に行われたカロリー制限の実験では、カロリーを制限したことで食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌が増えることが確認されました。さらに恐ろしいことに、実験から1年以上経過しても、被験者の体内では通常レベルより多いグレリンが分泌されていました。

消費カロリーは減ったままなのに、食欲は抑えられず、むしろ食べてしまう。これでは体重は増えることになります。そして、いつのまにか元の体重以上になってしまう、これが「リバウンド」のメカニズムです。

このように、摂取カロリーを制限すると、やせないどころか前より太ったり、髪が抜けたり疲れやすい体になったりするといった見逃せないデメリットが潜んでいます。また、「運動」も一時的にやせますが、ある一定ラインを超えると食欲が増すことが判明しています。

そもそも、食欲ホルモンや満腹ホルモンなど、ホルモンの働きによって人間の意思が及ばないところで食べるかどうかが決まっているという実情があります。

正常なホルモン分泌状態に戻すのに役立つといわれる「1日おきのファスティング」「間食をしない習慣」「食欲がないなら食べない」など、胃を空にする時間を十分設けることが、減量効果が長続きする方法だと考えています。

「脂質を減らす」機運の高まりが原因

そもそも、なぜ「カロリー制限説」は誕生したのでしょうか? 1950年代、アメリカでは心臓病の大幅な増加が社会問題となっており、その犯人とされたのが「脂質」でした。

そのため、脂質を減らす機運が高まるのですが、肉や乳製品など、タンパク質を多く含む食べ物には脂質も多く含まれています。脂質を減らすと、タンパク質も減ってしまいます。


3大栄養素のうち、残るは炭水化物です。いまでは「精製された炭水化物=太る」と広く認識されていますが、当時はまだ知られておらず、必然的に「低脂質=高炭水化物(それも精製された)」という式が成り立ちました。

しかし、精製された炭水化物は低脂質でありながら、同時に太ってしまうというマイナス面も持ち合わせています。

そこで、栄養学のエキスパートたちは、「炭水化物は食べても太らない」と提唱する代わりに、「脂質の摂取はカロリーが増えることを意味し、カロリーを摂りすぎると太る」と無理やり結論づけたのです。

これにより、エビデンスも歴史上の前例がないにもかかわらず、「カロリーの摂りすぎが体重を増やす」と専断され、世界中に広まったのです。

そして、この提唱が発端となって、「どんなに低カロリー食を食べても体重が減らない」という悩みが今なお生まれ続けているのです。