法制執務コラム

改元とそれに伴う法律改正について

 平成29年6月16日に「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が、同年12月13日には同法の施行期日を平成31年4月30日とする政令が公布され、平成という一つの時代に終止符が打たれることが確定的となりました。行政機関や民間企業の各種システム等について、新しい元号表記のための様々な準備を要することが報じられているところです。

 ところで、元号はどの時点で新しい元号に改まるのでしょうか。昭和から平成に元号が改められた際、テレビ中継で小渕恵三官房長官(当時)が「平成」と書かれた色紙を掲げて発表したシーンを思い浮かべる方も多いのではないかと思われます。しかしながら、この行為によって新しい元号に改まったわけではありません。

 元号については、元号法(昭和54年法律第43号)という法律があり、この中で「元号は、政令で定める。」と規定されています。したがって、新しい元号を定めた政令が施行された時点で新しい元号に改まることになります。昭和から平成への改元では、昭和64年1月7日に「元号を改める政令」が公布され、この政令の中で新しい元号を「平成」とすること、及びこの政令が公布の日の翌日から施行されることが規定されており、この政令の公布の日の翌日である1月8日から、元号が平成となりました。

 さて、ここから先はやや細かい話になりますが、改元があった場合、古い元号を用いた法律上の文言はどうなるのでしょうか。例えば、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、法律上「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会」とされていますが、平成31年に元号が改められる予定ですので、「平成三十二年」を新しい元号による表記に改めるため法律改正をする必要があるのではないか、という問題が生じます。

 この点、昭和から平成への改元の際にも同様の問題が生じましたが、結論としては、原則として、改元があったことのみを理由として法律改正を行うことはせず、その他の理由により法律改正を行う場合には、その全般につき、改元に伴う必要な法律改正を併せ行う、という扱いになったようです。「昭和六十五年」、「昭和七十年」といった文言のままでもどの年を指しているのか解釈で特定することは可能であるとの理由からだと思われます。

 今回の平成からの改元に当たり、前回と同じ対応になるとは限りませんが、現時点では、東京オリンピック・パラリンピックを法律上現在の表記のまま迎える可能性も、新しい元号による表記に改める法律改正がなされる可能性も残っています。世間一般には全く実益のある話ではありませんが、日本の法律はこの一大イベントをどちらの表記で迎えることになるのでしょうか。

 (古賀信裕/「立法と調査」NO.402・2018年7月)


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