オーバードッグ 名犬ポチ《完結》   作:のぶ八
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鮮血の戦乙女VS白金の竜王

 

 

ツアーの操作する白金の鎧はアンデッド達を率いている者目指し疾走する。

途中で襲い掛かるアンデッド達を打ち払い、なんとか目的地にたどり着くが話合いの余地なく鎧は粉砕された。

ツアーは自ら動くことを決意する。

 

ツアーのいるこの場所は始原の魔法(ワイルド・マジック)によって作ったマジック・アイテムにより他者からの感知の全てを遮断できるようになっている。

このおかげでギルド武器の存在を他者から完全に秘匿できる。

とはいえ防御能力はないため約500年もの間、自らがここを守ってきたのだが。

 

だがそれもこれで終わりだ。

 

『白金の竜王』ツァインドルクス=ヴァイシオンは永い時を経て地上に姿を現す。

 

それと同時に咆哮が轟く。

 

それは怒りの発露。

 

白金の竜王はその巨体に見合わぬ速度で飛び立つ。

 

世界に仇なす者を屠るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルティアは突如現れた強者がこちらへ猛スピードで向かってくるのを認識する。

 

それは真っすぐ自分へと向かっている。

 

 

「面白い、この私とまともにやり合う気かよ」

 

 

シャルティアは動かない。

向かってくる者を正面から迎え撃とうと待ち構える。

 

 

次の刹那。

 

 

シャルティアの元へツアーが勢いを殺すことなく頭から突っ込んでくる。

スポイトランスを目の前で縦に構え受け止めるシャルティア。

 

 

二者が接触した瞬間、爆発のように周囲に突風が吹き荒れる。

周囲にいた低位のアンデッド達はこれだけでこの世から消滅した。

 

さすがに勢いが乗っていたこともありパワー負けしたシャルティアがわずかに後方へと飛ばされるがすぐに空中で止まる。

 

 

「なかなかやるな…!」

 

 

今度はシャルティアが突進する。

手に持つスポイトランスをツアーの体へと突き立てる。

 

 

「ぐぅあ!」

 

 

回避しようと動くがいかんせん体が大きく、シャルティアの攻撃が突き刺さる。

そのまま連続でツアーの体へと突き刺していく。

 

 

「ほらほら! どうした、どうした!?」

 

 

「うぅぐ…! 離れろぉっ!」

 

 

ツアーの巨体が回転し、勢いのついた尻尾の一撃がシャルティアに直撃し、地面に叩き落す。

すぐに周囲の岩をどかしながら起き上がるシャルティア。

 

 

「ははっはぁ! こんなもんかよドラゴン…!」

 

 

確実にダメージは入っているがシャルティアのHPから考えるとスズメの涙ほどの威力しかない。

すぐに追撃を放つためツアーは口を大きく開く。

その口から高温の炎が放たれる。

それは辺り一帯を焦土と化す灼熱のブレス。

 

直撃するも、炎の中から飛び出してきたシャルティアは無傷だった。

 

 

「馬鹿なっ!?」

 

 

「私に炎は効かねぇよぉぉ!」

 

 

炎無効化を持つシャルティアには一切のダメージが無い。

そして突如、シャルティアの手に三メートルを超える巨大な白銀の戦神槍が現れる。

 

 

「今度はこっちの番だ! 食らえ、清浄投擲槍!」

 

 

白銀の槍がツアーへ放たれる。

投じたのではない。

自動的に浮かび上がり、空中を疾駆する。

ツアーは回避しようと動くがそれは叶わない。

シャルティアはMPを消費し必中効果を付与している。

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

ツアーの体を白銀の槍が貫く。

その一撃は鱗を砕き、皮膚を貫き、骨まで達した。

 

だがツアーもただやられているわけではない。

痛みに耐え、アンデッドに有効な始原の魔法(ワイルド・マジック)を発動する。

空に出現した無数の光の球がシャルティアを襲う。

 

 

「ぐぎゃ!」

 

 

痛みに怯むシャルティア。

間髪入れず、その隙にツアーがシャルティアの体に全力で噛みつく。

食い千切れはしなかったものの、その一撃はシャルティアの片腕を砕くには十分だった。

 

 

(よし! いけるぞ!)

 

 

心の中で希望が見えるツアー。

だが次の瞬間、シャルティアの傷が時間を巻き戻すように治っていく。

 

 

「何!?」

 

 

「今のは痛かったぞ、ドラゴン」

 

 

それは時間逆行。

一日三回しか使えないスキルだが自身の肉体の時間を巻き戻し、致命傷も一瞬で修復する。

 

 

それを見たツアーは自身の考えを訂正する。

一対一なら可能性はあると考えていたがこれは厳しい、と。

装備の差もあるが何より敵のスキルが未知数すぎる。

自身の炎のブレスが効かなかったことも致命的だ。

 

 

「《インプロージョン/内部爆散》!」

 

 

シャルティアが手の平を向けツアーへと魔法を打つ。

 

 

「あがっ!!」

 

 

ツアーの体内で爆発が起きる。

だがまだ耐えられないレベルではない。

身体のサイズに対して爆発が小さかったからだ。

 

 

「さすがにその巨体じゃこれは効果が薄いか…」

 

 

次の魔法を放とうとするシャルティアをツアーが炎のブレスでけん制する。

 

 

「だから効かねぇって言ってんだろ!」

 

 

炎を槍で振り払うが目の前にツアーはいない。

シャルティアは後ろからツアーの手の平により地面に叩きつけられそのまま拘束された。

 

 

「くそがっ! 下等な生き物如きが生意気なぁ!」

 

 

暴れるシャルティアだが姿勢も悪く、ツアーの拘束を解くには至らない。

 

再びツアーが口を大きく開く。

今度は炎ではなく光がツアーの口へ集まっていく。

周囲の光を凝縮させ一気に放出するこのブレスはアンデッドに有効だ。

唯一の難点はため時間があることくらいだ。

やがてツアーの口から光のブレスが放たれ、シャルティアに超至近距離で直撃する。

 

 

「ぎゃあぁあぁぁあぁああ!!!」

 

 

一気に大ダメージを負うシャルティア。

すぐに時間逆行のスキルを使うが、それでできた隙をツアーは見逃さない。

続いて二発目の光のブレスを放つ。

 

この衝撃で地面が砕け、その隙間からシャルティアが離脱する。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…! く、くそ…」

 

 

それを逃がさず距離を詰めたツアーはシャルティアとの接近戦を仕掛ける。

接近戦に限れば能力的にはシャルティアが不利である。

だがその手にあるのはスポイトランス。

攻撃の応酬を繰り返した後、唐突にツアーはシャルティアから距離をとる。

 

 

(しまった、接近戦は悪手か…! あの槍で攻撃すると体力が回復するみたいだな…)

 

 

接近戦の応酬でツアーが与えたダメージをシャルティアの回復量が上回っているわけではないが、ツアーが受けるダメージ分を考えると不利だといえる。

ツアーが距離を取るのは良い判断だった。

しかし、これをチャンスとばかりにシャルティアは眷属を召喚する。

だがツアーもすぐにその可能性に思い当たる。

この程度のモンスターが場に現れても何ら影響はない。

ならば考えられるのは一つ。

 

ツアーは即座に灼熱のブレスを吐き、シャルティアの眷属を召喚した先から焼き払う。

 

 

「このドラゴン風情がぁあああああああ!!!」

 

 

激高したシャルティアは死せる勇者の魂(エインヘリヤル)を発動する。

 

シャルティア最大の切り札、死せる勇者の魂(エインヘリヤル)

それは単純な直接戦闘しか出来ないが武装や能力値は本体と一切遜色が無い自身の分身を作り出す。

 

この瞬間にツアーは勝てないと悟る。

ツアーは死せる勇者の魂(エインヘリヤル)の強さを正確に認識していた。

よって迎撃も防御も諦め、自分も切り札を切ることのみに専念する。

 

死せる勇者の魂(エインヘリヤル)がツアーへと特攻し、その後ろでシャルティアが自身へと《グレーター・リーサル/大致死》を発動しHPの回復を行う。

ツアーは死せる勇者の魂(エインヘリヤル)の攻撃に抗わずまともに受け続ける。

 

《グレーター・リーサル/大致死》でHPを回復したシャルティアも後方から清浄投擲槍を発動し追撃する。

 

無防備なツアーに直撃したそれは致命傷ともなる一撃。

 

勝利を確信したシャルティアだがその刹那、説明のできぬ不吉な予感に襲われる。

 

 

その直感ともいえるべきものに従い、反射的に不浄衝撃盾を発動させた。

 

 

 

次の瞬間、シャルティアの視界が白く染まる。

 

戦っていた筈のツアーすら見失い、自分がどこにいるのかも判断できない。

 

竜巻か激流に飲み込まれたかと錯覚するほどの自身の体への衝撃と、うまく機能しない平衡感覚。

何が起きてるのかシャルティアは理解できなかった。

ただ白い光の中、激痛が襲いかかってくる。

防御態勢をとろうとしても体が非常に重く、まともに動かすことができない。

だが、シャルティアは全身全霊をかけて動かす。

これが不味いことだけは解ったからだ。

そしてこの光の中もう一度、不浄衝撃盾を発動する。

先ほど発動したものはすでに消え去っていたためだ。

さらに少しでも体への被害を減らそうと全身を丸め、両腕で身を守るように庇う。

 

 

それは極限の爆発。

白い閃光が世界を染め上げる。

轟音と爆熱。

生み出された衝撃波が大地を吹き飛ばし周囲へと広がる。

だが今度は巻き戻すかのように吹き飛ばされたものが一気に中心へ舞い戻る。

熱気の塊の急速な出現により急激な上昇気流を起こし、舞い上がった土砂と爆発で発生した煙がキノコの形を作り出す。

超熱波による致死領域はアーグランド評議国全域に及び、その範囲内に存在したアンデッドはもちろん、建物や自然物、ありとあらゆるものを消し飛ばした。

シャルティアと能力値上は同等の死せる勇者の魂(エインヘリヤル)さえ滅んだ。

土煙が収まるにつれ、その凄惨な有様が明白となる。

 

アーグランド評議国のあった場所はまっさらになっていた。

 

障害物は何も無く、遠くまで削り出された地面の色、一色だ。

 

この中で生きていられる者がいるはずがない。

 

そんな中、地面が動く。

地面の中から表われ、土を払ってよたよたと立ち上がる人影。

 

 

「かぁ、かぁ、かぁ」

 

 

すさまじい爆発によって生じた超高熱波にさらされたため、喉が焼け爛れ言葉がうまく発せない。

いや、喉だけではない。

全身は焼け爛れ、かつての美しさはどこにもなかった。

髪を全て失い、まるで黒く焼けた棒のようだ。

その火傷以外にも、爆風によって全身に切り傷を負っている。

 

顔の一部は左目と共に吹き飛んでいる。

右目はわずかに白濁しただけですんでおり、ぼんやりとだが周囲を映してくれる。

 

体が傾げてしまうのは左腕が肩口から無くなっているためだ。

血に濡れたような深紅の全身鎧はもうどこにも残っていない。

無事なのは手に持っていたスポイトランスだけだ。

この中でスポイトランスのみ無傷なままなのが異様でもある。

 

 

「ああああああああ!!!」

 

 

思考は千切れ、意識は混濁、ただ叫びだけが口から飛び出す。

シャルティアを襲う全身から突き上げてくるような痛み。

正常に働かない頭でもこれだけは理解できる。

 

 

この痛みはまずい。

この痛みはシャルティア・ブラッドフォールンを滅ぼすものだ。

 

炎によるすべてのダメージを無効できる自分がなぜ、これほどの熱ダメージを受けているのか。

自らのスキルや装備による守りはどうして突破されたのか。

無数の疑問が頭をよぎるが、そのほとんどが痛みと混乱によってかき消される。

思考があちこちに飛び交う中、ただ一つだけが最重要事項として頭の中で警鐘をならしている。

それは――これ以上ここにいることは出来ない。

 

このままでは自身が滅びてしまう、即座に撤退すべきだ、と。

 

 

だがシャルティアの白濁した右目が徐々に視界を取り戻していく。

その右目に映ったのはあの忌々しいドラゴン。

 

そのドラゴンもダメージを受けているのだろうが自分よりは幾分か軽症に見える。

自分の技だ、さすがに何らかの対策はあるのだろう。

だがそれでも虫の息。

起き上がるどころか身動き一つとれずその目線だけがシャルティアを追っている。

 

殺さねばならない。

 

シャルティアがツアーへと一歩、また一歩と歩を進めるたびに命が零れ落ちていくのが解る。

死が、滅びがシャルティアの間近まで迫っている。

今は目の前のドラゴンに構っている場合ではない。

一刻も早くナザリックに帰還しなければ命が無くなると本能が騒ぐ。

 

しかし、だ。

しかしナザリック地下大墳墓の守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンが背を向けて逃げて良いのだろうか。

はるかに劣る存在に。

それはナザリックを、至高の41人の期待を、信頼を――裏切る行為ではないだろうか。

自らが死すともこの下らないドラゴンを滅ぼすべきではないか。

忠義と生存本能。

2つがシャルティアの動きを縛る。

 

ギギギギ――。

シャルティアの口からきしむような音が漏れる。

わずかに残った歯が擦り合わされ起こった音だ。

 

 

「かぁああ、くぃうう」

 

 

魔法が発動しない。

 

 

「ぎがあああがっがっぐ!」

 

 

スキルも発動できない。

何らかの影響なのか、それすら使えない窮地なのか理解できない。

 

憤怒。

 

ありとあらゆることに対する怒りがシャルティアを染め上げる。

 

だがそれでも生存本能を振り切り、気力だけでツアーの元まで重い足を動かす。

 

たとえ、自らが滅びても。

 

全てはナザリックの、至高の41人のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始原の魔法(ワイルド・マジック)を発動したツアーは残りの力を全て防御に回す。

 

自身の体は耐性があるので本来なら直撃でもなんとか耐えられるのだが、今回はダメージを負っていたので死ぬ危険性も高かった。

 

だが全てが終わった後、まだ意識があることに気付く。

 

自分は生きている。

 

ただ指一つ満足に動かせない状況ではあるが。

 

安堵するツアーの視界に信じられないものが見えた。

 

 

恐らくはあの吸血鬼だろう。

今は人型のシルエットを保つ黒い何かにしか見えないが手に持つ武器を見て理解する。

 

 

あの直撃を喰らっても死なないのか!

 

 

ツアーのこの一撃は始原の魔法(ワイルド・マジック)の中でも最高の破壊力を持つ。

 

かつてプレイヤーに世界の法則を捻じ曲げられても始原の魔法(ワイルド・マジック)だけはその法則に捉われなかった。

そして炎に耐性を持つプレイヤーにも効果があることは昔の戦いで知っていた。

だからこそ驚いている。

これで決められなければ、殺せなければもう何も打つ手はない。

 

ツアーはこの国を、自らを犠牲にしてまで放った一撃が目の前の吸血鬼に届かなかったことに絶望する。

 

目の前まで歩いてきた吸血鬼が自分に向かって槍を振り下ろす間際。

 

誰かがこの吸血鬼を止めてくれることを心から祈った。

 

 

 

 

ツアーの望みは叶うことになる。

 

結果的にこの吸血鬼が槍を振り下ろすことは無かったのだ。

 

その先の未来は決して望んだものではなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の瀕死のドラゴンへトドメを刺そうと槍を構えるシャルティア。

 

だが体の違和感に気付く。

 

命が零れ落ちたわけではない。

 

だが身体に力が入らない。

 

何かが起こっているのに何が起きてるのかわからない。

 

それは目線をわずかに下げたことで解決する。

 

 

 

自らの肩から腹部までが裂け、腹から黒い金属のような物が生えていた。

 

 

 

見覚えがある。

 

誰のものか知っている。

 

これは。

 

 

 

 

アルベドのバルディッシュだ。

 

 

 

 

その瞬間、何が起きたか理解できた。

 

自分は後ろから袈裟懸けに斬られたのだと。

 

だがなぜ、と疑問が浮かぶ。

 

アルベドが、ナザリックに連なる者がこんなことをするはずがない。

 

もしかすると自分は何か失態を犯してしまったのだろうか?

 

やはり下等な者に後れを取ったのは許されないことなのではないか。

 

これはその罰なのではないか。

 

様々な疑念が混乱した頭に飛び交う。

 

恐る恐る後ろを振り向くシャルティア。

 

そこにいたのは予想通りというべきか。

 

守護者統括アルベド本人であった。

 

 

「か…、かぁへ…」

 

 

なんで、と言葉にしたつもりだが上手くしゃべれない。

 

 

「凄いわ、シャルティア。報告で聞いたけどあれだけの爆発で生き残れるなんて。しかし油断はできないわね、これほどの力を持つ者が存在するんですもの。やはり法国に直接乗り込んだのは無茶が過ぎたわね、今後は自重しなければ…」

 

 

シャルティアの疑問を他所にアルベドは呑気にブツブツ独り言を続けている。

 

 

「は、はうへほ…、か、…かぁ…」

 

 

再度問うが言葉にならない。

それでもアルベドはシャルティアが何を言いたいか理解しているようだ。

 

 

「ああ、そうね。貴方にも説明しなければね、せっかくここまで役に立ってくれたんですもの。しかし相打ちになってくれれば最高だったのに。まぁそれは望みすぎかしら? どちらかと言えば手負いの貴方をどうにかして始末しなければならない事態もあったわけだし。ここまで弱ってくれて嬉しいわ。部下も全滅したようだし彼らを排除、あるいは言い包める必要もない」

 

 

「……かへ?」

 

 

シャルティアは理解できない。

目の前にいる仲間が何を言っているのか全く頭に入ってこない。

屈託の無い笑顔でこいつは何を言っているのか。

 

 

「まだ分からないの? 本当に馬鹿ねぇ」

 

 

そのアルベドの顔が邪悪に染まった瞬間、シャルティアはやっと理解した。

 

事情はわからないが、自分はアルベドにハメられたのだと。

 

 

「ぎぅぅぅがあああああ!!!!」

 

 

シャルティアの頭を怒りが支配する。

 

反射的に、残る力の全てを振り絞りスポイトランスをアルベド目がけて振り下ろす。

 

だがその刃はアルベドには届かない。

 

 

「遅いわ、そんな状態での攻撃なんて当たるわけないでしょう?」

 

 

アルベドはバルディッシュを引く抜くと別の武器を取り出す。

 

 

それは真なる無(ギンヌンガガプ)

 

 

広範囲の破壊が可能な、対物体最強のワールドアイテム。

 

その一撃がシャルティアとツアーをまとめて攻撃する。

 

もはやその一撃に両者とも耐えられる筈もない。

 

 

 

 

意識が薄れゆく中、シャルティアの脳裏に浮かんだのは至高の41人のこと。

 

その御方達の役に立てなかったこと、そしてこれからもう役に立つことができないことが酷く悲しかった。

 

そして自己嫌悪に陥る。

 

きっと至高の御方が、ペロロンチーノ様がナザリックを去られたのは自分が至らなかったからだと。

 

このような失態を演じるシモベなぞに価値なんて無いのだと。

 

心の中で何度も謝罪した。

 

ごめんなさい、ごめんなさい。

 

お役に立てなくて申し訳ありません。

 

どうか、どうか愚かなこの身を許して下さい。

 

やがてそんな思考すら吹き飛び、死の間際。

 

 

彼女が幻視したのはかつてのモモンガとペロロンチーノの姿だった。

 

 

それは彼女の階層で二人が会話していた時の事だった。

 

あの時はただその場で話を聞いているだけだった。

 

だがなぜだろうか。

 

今なら御二方の輪に入れそうな気がする。

 

シャルティアは一歩を踏み出す。

 

問いかけるシャルティアの言葉に二人が笑顔で答える。

 

言葉にできない幸福感がシャルティアを包む。

 

 

‐ああ、モモンガ様、ペロロンチーノ様、どこにも行かないでくんなまし、どうかずっと御傍に…‐

 

 

 

 

 

途切れる夢。

 

 

 

シャルティアは灰になり、ツアーは原型を残さずバラバラに吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルティアを滅ぼしナザリックに帰還したアルベド。

 

ニグレドにはシャルティアの所へ向かう際にルベドの監視をしておくよう頼んでいる。

シャルティアのことは誰も知らない。

敵のドラゴンと相打ちになったという筋書きだ。

 

シャルティアは邪魔だった。

もし自分の行動がわずかでも露見すれば間違いなく敵対するだろう。

自分で言うのもなんだが女の勘というのは馬鹿にできない。

しかも一対一だと勝ち目が無いため厄介だ。

常にルベドがいないと不意の事態に対応できなくなる。

 

だがこれでその心配は無くなる。

 

 

それに何より、モモンガ様を愛するのは私だけでいい。

 

 

すでにニグレドとルベドから法国に関しては報告を受け取った。

法国も評議国と同じく完全に殲滅できたらしい。

 

残る大きな障害はデミウルゴスだけだ。

 

すでに法国で手に入れたアイテムの鑑定は終わっている。

二つとも名前は違ったが間違いなくワールドアイテムだ。

傾城傾国と聖者殺しの槍(ロンギヌス)

効果は以前入手した情報通り。

 

上手くいっている。

 

傾城傾国を身に纏ったアルベドはデミウルゴスのいる地下7層へ向かう。

自分の目的へ大きな一歩となることを想像して笑みが漏れる。

 

だが地下7層についたアルベドは妙な違和感を感じる。

妙な静けさが漂っているのだ。

 

 

「デミウルゴス?」

 

 

アルベドの声にデミウルゴスは現れない。

 

 

「どこなのデミウルゴス!」

 

 

地下7層を声を上げながら探し回るアルベド。

 

だがデミウルゴスはどこにもいない。

 

領域守護者である紅蓮を除き、最高位の配下である三魔将も、十二宮の悪魔もいない。

 

 

やられた、とアルベドは思う。

 

 

尻尾は掴ませていない、証拠などあるはずもない。

 

そもそもまだ自分は動き出したばかりなのだ。

 

それなのにデミウルゴスはこの階層を守護するという創造主の命令に逆らってまでこの場を動いた。

 

そこまでは想定していなかった。

 

出し抜かれた怒りが、自分の甘さが、そして今後の計画に生じるであろう影響が。

 

アルベドの顔を般若のように歪ませる。

 

 

 

 

 

「デェミウルゴスゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

アルベドの絶叫が地下7層に響き渡るがその名前の主はもうここにはいない。

 

 

 

 

 




次回『名犬エ・ランテルに舞う』なんだか懐かしく感じる!


ナザリック陣営の話は一旦ここまでです。
次回から再び名犬ポチの話に戻ります。


てかヤバイィ、目標の五万いってしまったぁ…。
僕はこれからも続けていけるのか…。





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