流れは米中二極体制へ
―― 不安定な平和の時代
The Age of Uneasy Peace
Chinese Power in a Divided World
2019年1月号掲載論文
いまや問うべきは、米中二極体制の時代がやってくるのかどうかではなく、それがどのようなものになるかだ。米中二極体制によって、終末戦争の瀬戸際の世界が出現するわけではない。自由貿易を前提とするリベラルな経済秩序を重視しているだけに、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるだろう。ほとんどの諸国は、問題ごとに米中どちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するようになり、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、リベラルな国際主義のシンボルだった政治的統合やグローバル統治の余地はほとんどなくなっていくはずだ。・・・
- 米中二極体制の本質
- 米中対立は望んでいない
- 新しいルール?
- 米中二極体制のメカニズム
<米中二極体制の本質>
2018年10月初旬、アメリカのマイク・ペンス副大統領は、ワシントンのシンクタンクにおける感情的な演説で、様々な問題をあげつらって中国を批判した。南シナ海の領有権問題から、米選挙への干渉疑惑にいたるまで、中国は国際規範を破り、アメリカの利益を損なう行動をとっていると彼は批判した。スピーチのトーンはいつになく大胆だった。実際、一部の人が、演説を米中新冷戦の幕開けとみなすほどに、それは大胆な内容だった。
冷戦という歴史的アナロジーを持ち出すのは、一般的だとしても、誤解を招きかねない。但し、核心をついている部分もある。冷戦後の空白期におけるアメリカの覇権は終わり、中国が「ジュニア超大国」の役目を担う(冷戦期のような)二極体制が復活しつつあるからだ。中国の台頭によって様々な利害の相克を抱え込んだ米中が衝突コースにあるだけに、この秩序の移行期が混乱に満ちた、暴力的なものになる恐れもある。とはいえ、ワシントンが対外的な外交・軍事エンゲージメントの一部からゆっくりと後退しつつあるとしても、北京は、そのリーダーシップの空白を埋めて、ゼロから新しい国際規範を構築するはっきりとした計画はもっていない。
この状況からどのような世界秩序が導きだされるだろうか。警世家の主張とは逆に、米中二極体制によって、終末戦争瀬戸際の世界が出現するわけではないだろう。今後に向けた中国の野心は、欧米の外交エスタブリッシュメントの多くが想定するような壮大なものではなく、目的は絞り込まれている。世界における抜きん出た超大国としてのアメリカの地位に取って代わるよりも、今後10年の中国外交は、持続的な経済成長に必要な環境を維持していくことに焦点を合わせるはずだ。この必要性ゆえに、北京の指導者は、アメリカとその同盟国との全面的な対決を回避しようとするだろう。こうして、米中二極体制は「二つの超大国間の不安定な平和の時代」になるだろう。ともに軍備増強を試みながらも、明らかな紛争へとエスカレートしないように、緊張を管理しようと慎重な努力を続けると考えられる。
相手による同盟関係の構築を抑え込んで、グローバルな優位の確立を望むのではなく、米中はその競争関係を経済と技術部門に絞り込むはずだ。同時に、米中二極体制の下では、純然たる経済領域を例外とすれば、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、「リベラルな国際主義」のシンボルだった政治的統合や規範設定の余地はほとんどない。
<米中対立は望んでいない>
中国の世界的影響力の高まりは、その経済的台頭だけでなく、トランプ政権率いるアメリカが、グローバルなリーダーシップを手控えていることに大いに関係がある。経済基準からみれば、最近になっても両国のギャップはそれほど狭まっていない。2015年以降、中国の国内総生産(GDP)成長率は7%を下回るレベルへ鈍化し、一方、最近の推定では、アメリカの成長率は3%を超えている。2015年以降、人民元の対ドル為替レートは10%低下したために、輸入品が高くなり、グローバル市場での通貨の強さも損なわれた。
しかし、大きく変化したものもある。「アメリカはリベラルな国際主義原則を主な基盤とする国際秩序を、外交的に、必要なら、軍事力を用いてでも促進していく」とみなす世界におけるイメージは大きく後退した。トランプ率いるアメリカは伝統的路線と決別し、自由貿易の価値に疑問を呈し、毒気の強い、何でもありのナショナリスト路線をとっている。核の兵器庫の近代化を試み、敵対国だけでなく、友好国にも強制策をとり、国際合意や国際組織から離脱している。2018年だけでみても、中距離核戦力(INF)全廃条約、イラン核合意、国連人権理事会からの離脱を表明している。
国際主義路線からの後退は一時的な間違いで、規範からの逸脱は短期的なものに終わるのか、それとも、この路線は新しい米外交のパラダイムでトランプ政権を超えて続くことになるのか。この点は、依然としてはっきりしない。しかし、トランプ主義の余波は世界に及び、すでに一部の諸国は、数年前には考えられなかった形で中国に接近している。日本の安倍晋三首相を例に考えてみよう。2018年10月に中国を公式訪問した安倍首相は、50を超える経済協調合意を締結し、それまでの敵対路線から協調路線へと対中関係を見直している。
一方、構造的な要因によって「米中というグローバルな超大国」と「その他」の間のギャップが広がり続けている。すでに、米中の軍事支出は他の諸国を寄せ付けないレベルに達している。2023年までに、アメリカの国防予算は8000億ドルに、中国のそれは3000億ドルに達する可能性がある。一方で「その他」をみると、800億ドル以上を国防に投入することを計画している国は存在しない。つまり、考えるべきは、米中二極体制の時代がやってくるかどうかではなく、それがどのようなものになるかだろう。
北京は、自由貿易を前提とする「リベラルな経済秩序」をもっとも重視している。この数十年における農業社会から世界の主要な経済パワーハウス、世界2位の経済大国への中国の経済的変貌は、輸出主導型の経済成長を基盤としていた。その後、ゆっくりと経済の価値連鎖の上流へと歩を進め、中国の輸出は高度な先端経済国家の製品と競合するまでになった。
かつて同様に現在も輸出が中国の生命線だ。輸出による貿易黒字とそれが作り出す雇用が、国内の社会的安定にとって死活的に重要なエンジンの役目を果たしている。今後10年で、このトレンドが変化していく兆しもない。貿易をめぐる米中間の緊張が高まっているとはいえ、2018年の中国の輸出は拡大している。アメリカの関税引き上げは中国に痛みを強いるかもしれないが、それで北京の基本的インセンティブが変化することも、グローバルな自由貿易への立場を見直すこともないだろう。
それどころか、中国の経済的、政治的成功にとって輸出が不可欠である以上、北京は、外国市場を獲得し、アクセスを維持していくために危険な賭けに打って出るかもしれない。広く宣伝された一帯一路構想の中核にもこの戦略概念が位置づけられている。中国はこの構想を通じて、遠くの市場と輸出ハブをつなぐ、遠大な陸と海のルートを整備したいと考えている。
2018年8月の時点で、70の国と組織が、一帯一路関連のプロジェクト契約に調印しており、契約数は今後さらに増えていくと考えられる。2017年の全国代表大会で、共産党は一帯一路構想へのコミットメントを党規約にさえ明記することを決めている。これは、党幹部がこのインフラプロジェクトに通常の外交政策を超えた価値を見出していることを意味する。
外国市場へのより大きなアクセスを確保する見返りに、外国製品を受け入れる国内市場をさらに開放していくことにも北京は前向きだ。実際、外国製品の輸出市場としての中国のポテンシャルを示すことを意図した2018年11月の上海での大がかりな輸入博覧会に間に合うように、北京は関税率を10・5%から7・8%へ引き下げている。
グローバル経済を重視するこうした姿勢からみて、欧米諸国で高まっている「リビジョニストの中国」というイメージは誤解を招きかねない。北京は貿易をつなぐグローバルなネットワークに依存しており、アメリカとの直接対立は避けたいと考えている。実際、北京の指導者たちは、アメリカとの対立によって米市場へのアクセスを打ち切られ、アメリカの同盟諸国を中立の立場から反中国へと向かわせ、経済的パートナーシップと貴重な外交的つながりをなくすことを懸念している。
当然、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるはずだ。軍の近代化と軍備増強路線を続けるとしても、北京は、南シナ海、サイバーセキュリティ、宇宙空間の軍事化など、アメリカとの戦争につながりかねないアジェンダをめぐる対立を注意深く避けようとするだろう。
<新しいルール?>
中国の指導者たちがワシントンの高官たちと同格に扱われることを期待しているとしても、北京は米中二極秩序の戦略的意味合いを懸念している。アメリカの指導者は、グローバル秩序の覇権を手放すことを嫌がっており、中国と折り合いをつけざるを得ない事態を避けるために、おそらくあらゆる手を尽くすだろう。一方、北京は(二極体制が確立されて中国が)ワシントンの唯一の懸念とあざけりの対象にされる事態を待ち望んではいない。むしろ、新しい課題を作り出す別のチャレンジャーが登場して、アメリカが中国と協調せざるを得ない多極世界が出現することを望んでいる。
19世紀と20世紀初頭におけるアメリカの台頭は、中国は次のパワーシフトのモデルとみなしている。誰もが認める覇権国だった当時のイギリスは、欧州におけるドイツの台頭を払いのけることに気を奪われていた。このために、大西洋の向こう側のより大きなライバルの封じ込めに手を尽くすことはなかった。北京は当時と似たようなダイナミクスが生まれることを期待しているし、近年の歴史からみれば、実際にそうなる可能性もある。
例えば、ジョージ・W・ブッシュ政権が発足して間もない時点での米中関係は、南シナ海をめぐる地域国家間の領有権論争をめぐって険悪な状態にあった。2001年4月に米軍の偵察機が中国空軍の戦闘機と接触事故を起こし、中国人パイロットが死亡する(海南島)事件が起きたために、米中関係はさらに緊張した。だがその数カ月後に9・11テロが起きると、流れは変化し、ワシントンは中国のことをグローバルなテロとの闘いにおける有意義な戦略的パートナーとみなすようになり、その後、二期に及んだブッシュ政権期に両国の関係は大きく改善した。
だが残念なことに、現状では米中を協調へと向かわせるような、北京とワシントンが共有する脅威はそれほど多くない。17年に及ぶ対テロキャンペーンを経て、かつてこの問題に向けられた緊迫感は薄れている。気候変動が近い将来に、最大の脅威とみなされる見込みもない。米中が立場の違いを一時的に棚上げにして、惨劇を回避するために協力するというシナリオに現実味があるとすれば、それはグローバル経済危機が起きた場合だが、これも仮説の域を出ない。
さらに悪いのは、台湾などの、潜在的の紛争要因の一部が消えてなくなることがあり得ないことだ。緊張関係にあった北京と台北の関係は、近年、さらに冷え込んでいる。2016年に誕生した台湾の現政権は、大陸中国と台湾が一つの国であるとする「一つの中国」原則を疑問視している。しかも、将来の台湾政府が公的に独立を求める可能性もある。
だが、独立の是非を問う住民投票を実施すれば、北京は「台北はレッドラインを超えた」とみなし、軍事行動に出るかもしれない。この状況でアメリカが台湾の支援に向かえば、北京の台湾への軍事介入が米中の全面戦争へエスカレートしていく恐れが生じる。
そうした危機を回避するために、北京は、独立に向けたいかなる台湾の希望も、政治・経済的手段で抑え込もうとするだろうし、多くのラテンアメリカ諸国にそうしたように、今後も北京は、各国に台湾との外交関係を断絶するように働きかけていくだろう。
慎重さからかどうかはともかく、中国は国際秩序を支える規範を、他とは異なる視点からこれまでも重視してきたし、より力をつけていけば、国際法における国家主権概念をさらに重視するようになるだろう。
最近では、グローバル化を支持する中国指導者の発言をもって、「北京はリベラルなグローバル秩序の擁護者として自らを位置づけようとしている」とみなす人もいるが、そうした大胆な解釈は希望的観測に過ぎない。中国はたんにリベラルな経済秩序を支持していることをアピールしているだけで、グローバル世界の政治統合のレベルを高めていくことは求めていない。むしろ、外からの干渉を依然として警戒している。特に香港、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区、報道の自由、インターネット規制に対する外国からの批判に神経を尖らせている。国際的な責任や規範よりも国家主権を国際秩序の基本原則とみなしているのはこのためだ。
今後10年間で超大国になっても、中国は、そのパワーがピークにあった当時のアメリカのような介入主義外交はとらないだろう。アフガニスタンのケースが具体例だ。アフガニスタンからの撤退後、ワシントンが中国の部隊が現地の安定を維持するための重荷の一部を担うことを期待していたのは公然の秘密だが、北京はこれにまったく関心を示さなかった。
むしろ、影響力が大きくなるにつれて、北京は自国の古くからの思想的伝統や国政術の教えを基盤とする秩序ビジョンの促進を試みるようになった。特に王道(人道的権威)という言葉が北京では広く取り沙汰されている。啓蒙的で穏やかな覇権国としての中国の権限と正統性は、相手国の安全と経済的必要性を満たす能力に根ざしており、そうすることで各国は中国のリーダーシップを黙って受け入れるようになる。これが王道の意味だ。
<米中二極体制のメカニズム>
核のエスカレーションが大きな余波を伴うことを考えれば、軍事、技術、経済領域での競争が激化していくとしても、米中の直接衝突リスクは今後も小さいままだろう。双方がより効果的なミサイル防衛システムの構築を試みても、ともに核攻撃から完全に国を守れるレベルにシステムを高度化するのは不可能であるために、衝突を避けようとするはずだ。アメリカがINF全廃条約から離脱すれば、双方は核戦力と報復攻撃能力を強化して、「攻撃しても報復攻撃を受けずに済むと互いに確信できない(相互確証破壊の)状況」作り出そうとするだろう。中国は核戦争の脅威ゆえに、インドのような他の核武装国との緊張もエスカレートしないように配慮するはずだ。
しかし、代理戦争のリスクは排除できないし、小国(lesser state)間で軍事的小競り合いが起きる危険もある。実際、超大国が行動を自制する環境のなかで、一部の非超大国(smaller state)が大胆になり、局地的な問題を武力で解決するようになり、小さな紛争が頻発する恐れはある。
特にロシアは、超大国の地位を取り戻して東ヨーロッパと中東への影響力を維持したと考えているだけに、武力行使を躊躇しないかもしれない。国連安保理の改革要請を前に、フランスやイギリスのような内に混乱を抱えるパワーも、外国への軍事介入を通じて、安保理常任理事国の有資格国であるという主張を支えようとするかもしれない。一方、イラン、トルコ、サウジアラビア間の中東の地域支配をめぐる抗争が落ち着きをみせる兆しはない。世界中で、分離独立紛争とテロ攻撃が続くだろうし、特に、中国とアメリカが対テロ措置をめぐる協調を低下させれば、テロが勢いづくだろう。
経済領域では、中国、ドイツ、日本などの輸出主導型経済国が、アメリカがいかなるコースをとろうとも、自由貿易協定、世界貿易機構(WTO)でのメンバーシップを基盤とするリベラルなグローバル貿易秩序の存続に努めるはずだ。
しかし、グローバルな統治をめぐる国際協調は失速していくと考えられる。将来の米政権が多国間主義と国際規範の設定に力を入れたとしても、「ジュニア超大国」としての中国が二極体制の一翼を担う世界では、これまでグローバルな統治を促進する鍵だった力強いリーダーシップをアメリカが維持していくのは難しくなる。
イデオロギー的立場の違い、安全保障利益の対立ゆえに、北京とワシントンが協調してリーダーシップをとる可能性は低く、一方で、経済・軍事的影響力の限界ゆえに、ともにブロック内でのリーダーシップさえ発揮できないだろう。さらに、多国間構想が二極体制の下で維持される限り、それぞれの勢力圏は損なわれる。
中国が国家主権を重視し、欧米社会がグローバル化に背を向けている現状からみて、多国間主義はさらに制約されていくのは避けられない。欧州連合(EU)はすでに対立と混乱のなかにあり、数多くのヨーロッパ諸国が国境管理を復活させている。今後10年もすれば、他の領域でも似たような国家主権重視の措置が復活しているだろう。技術革新が主要な富の源泉になっていくにつれて、各国は知的所有権をさらに厳格に保護しようと試みる。近い将来における経済スランプに備えて、各国はすでに資本規制に乗り出しつつある。移民と失業への市民の懸念が欧米政府の正統性を損なうにつれて、ますます多くの国が外国人労働者のビザ規制を強化するはずだ。
冷戦期の秩序とは違って、米中二極体制は、明確なイデオロギーラインに即して分裂する硬直的な敵対ブロックによってではなく、案件ごとの流動的な協力関係によって規定されるだろう。米中戦争の差し迫ったリスクがほとんどない以上、双方とも、コストのかかる大がかりな同盟ネットワークを構築し、それを維持していくことには前向きではないようだ。中国は依然として同盟関係の構築を避けているし、アメリカは定期的に同盟国のフリーライドに不満を示している。さらに、現在の米中は、数多くの国、そして国内の大多数にアピールするような壮大なストーリーやグローバルビジョンをもっていない。
そうだとすれば、当面、米中の二極体制のイデオロギー色は薄く、グローバル秩序の基本的体質をめぐって生存をかけた争いを繰り広げることもない。むしろ、消費市場、技術的優位をめぐって競い合い、貿易に関する規範とルール、雇用、為替レート、知的所有権をめぐって論争を繰り広げることになる。
ほとんどの諸国は、明確に定義された軍事・経済ブロックに参加するのではなく、問題ごとにどちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するだろう。ヨーロッパは、伝統的な軍事問題については北大西洋条約機構(NATO)の枠内でアメリカと連携しているし、オーストラリア、インド、日本はアメリカのインド太平洋戦略を支持している。一方で、これらの諸国は中国との緊密な貿易・投資関係を維持し、その一部は、WTOを改革しようとする北京の立場を支持している。
この2トラック戦略は、すでに世界が米中二極体制にかなり足を踏み入れていることを示している。このプロセスを動かしている基本要因は両国の経済・軍事的影響力であり、アメリカだけでなく、中国もその支配的優位を次第にこの影響力に依存しつつある。このプロセスが、北京とワシントンのグローバルな超大国としての地位を固めていくことになるだろう。
今後、アメリカがトランプ主義を脱してグローバル世界でリベラリズムを促進するかどうかは、二極体制の帰結にはほとんど影響を与えないだろう。そうした試みは、戦略利益に反する一方で、双方のパワーに同じように作用する。このために、米中は直接的に相手に挑むことはできず、優位を確立しようとする戦いではっきりとした決着はつけられない。
冷戦期同様に、互いに核を保有しているだけに、代理戦争が二つの超大国間の直接対決へ簡単にエスカレートしていくことはないだろう。より重要なのは、中国の指導者たちが現状から恩恵を引き出せることを明確に理解していることだ。その経済パワー、ソフトパワーを拡大するには最適の環境にある以上、北京は、中国の中核利益が維持される限り、現状を揺るがして、この恩恵を近い将来に危険にさらすようなことはしないはずだ。
当然、中国の指導者は、すでに神経質になっている欧米諸国政府を警戒させないように努力するだろうし、今後の中国はこの目的に即した外交政策をとるだろう。緊張の高まりや激しい競争が繰り返されるかもしれないが、グローバル世界がカオスに巻き込まれるような事態へエスカレートすることはないだろう。●
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