Jリーグの誕生以来、本拠地に根ざすプロスポーツ経営が新たなビジネスモデルとして日本のプロスポーツ界の新たな基本となった。プロ野球も本拠地制は採っていたが、プロ野球はいわばテレビの発展とともに隆盛した歴史がある。巨人という全国的な人気球団をテレビが生み出し、その巨人が各地域に降臨する形でシーズンの興行を展開していた。だから巨人と対戦できないパ・リーグの球団は観客動員や人気獲得に苦しんでいた。
これを変革したのがJリーグだ。地方の球団がそれぞれ主役となって輝く。地域に根ざしたビジネスを構築する。それに触発されて、野球界も北海道日本ハム、東北楽天、横浜DeNAなどが新たな勢いを実現している。野球界でその「先駆者」だった広島の快進撃も、こうした潮流の中で輝きを増した。
その一方で、巨人ファンとは一体誰なのか? 巨人の人気の基盤は? 本拠は? なまじ全国区を標榜してきただけに、存在やよりどころが曖昧になっている。
サッカーや他の競技で全国区の支持を得るのは「日本代表」だ。巨人は、日本代表でありたいと願っても実際には一クラブチームに過ぎない。
「全国区」というビジネスモデルが、プロ野球界ではもう賞味期限切れになっている現実を早く受け入れ、新たな方向を明確にしないと、巨人の存在はますます危うくなる。
ここぞホームタウンと感じられる新たな本拠地球場を建設するとか、大胆に発想すれば東京から他に本拠を移すなど、明確な旗を立て直す必要がある。
それをせず、FA補強などの一時的カンフル注射に依存し続けるなら、いよいよ巨人は「紳士」「善玉」を装っているが「実際には羊の皮を被った狼に過ぎない」「やっていることはえげつない悪役的な球団だ」という、いわば裏のイメージが肥大して、純真なファンを呆然とさせるだろう。その先に未来はない。
日本の野球界の劇的な変革のためにも、今回の出来事で巨人の経営陣が危機的現実に目覚めることを願うばかりだ。
(作家・スポーツライター 小林信也)