オーバードッグ 名犬ポチ《完結》 作:のぶ八
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法国は混乱していた。
ここ数日で法国内部での行方不明者が続出し、国のトップである最高執行機関に位置する神官長からも行方不明者が出ているのだ。
国を挙げて捜索しているが現状では何の成果も出ていない。
スレイン法国の最奥に位置するこの会議室では、最高執行機関の構成員に加えカイレと漆黒聖典からも数人同席し話し合いが行われていた。
だが依然として話し合いは進まない。
あまりにも問題が重なり過ぎているのだ。
現在法国は窮地に立たされている。
占星千里による
漆黒聖典の一人クレマンティーヌにより法国の至宝・叡者の額冠が盗まれ闇の巫女姫は発狂し、本人は逃亡。
ニグン率いる陽光聖典は消息不明。
そのニグンを監視していた土の巫女姫は土神殿に突如現れた複数の小型の獣に襲われ警備の者共々再起不能に。
そしてダメ押しのように要人含め多くの法国民の謎の失踪。
だがそれもこれから起こることの前では不幸とすら呼べるものではなかった。
この日、法国の中心地である神都に謎の暗闇が出現した。
◇
アルベドは上げられた情報に目を通していた。
(弱い、弱すぎる。この世界の生き物の貧弱さには笑いすらおきないわ。ナザリックの脅威と言える存在など欠片も存在しない。まぁ当然なのだけれど)
アルベドも他のシモベと同じく、偉大なる至高の御方に連なる我々ナザリックこそ最強という自負があるために敵と言えるものが存在しないことに対してはさほど疑問を抱かない。
(問題はプレイヤーが存在するかどうかだけど…。今手に入っている情報からすると存在する可能性は低いわね。とはいえ情報を入手するだけでは限界もある。まずは手始めに法国を攻め落とす。あといくつか国を支配するのもいいわね。そして奴を炙り出してやる…!)
そこでふと唯一気になった国の情報を纏めた紙に目をやる。
(アーグランド評議国…。どうやら真なる竜王なる大陸最強のドラゴンがいるらしいけど…。逆に言えば、ここを叩けばこれより強い敵を気にする必要はないということね…。ここに関してはあまり情報も入ってないし、最強がどの程度か試しに戦ってみるのも手か…)
◇
「一体何の用でありんすぇアルベド」
「私はこれから法国へ攻め込む準備を始めるわ。そして貴方にも動いてもらう」
アルベドの言葉に少々ムスっとした感じで答えるシャルティア。
「ふん、《ゲート/異界門》でそこまで運べということでありんしょう?」
数日間ずっとシモベ達と下等な生物の運搬ばかりやらされていたのだ。
守護者たる私がなぜ、とシャルティアは少々不満に思っていた。
「違うわシャルティア。貴方にはアーグランド評議国という国へ攻め込んで貰いたいの。モモンガ様から滅ぼすように命令を受けているのだけれど、ここには真なる竜王と呼ばれる大陸最強のドラゴンがいて少々手ごわそうだから貴方が一番相応しいと思って」
「えっ!」
シャルティアの目が丸くなる。
「それに無事滅ぼせたらモモンガ様もきっとお喜びになると思うわ、何せこの世界で最大の障害となりえる存在だもの。謁見はもちろん、お褒めの言葉も頂けるでしょうね…。法国へ攻め込む予定が無ければ私が行きたかったのだけれど…」
「やるっ! やるでありんす!」
間髪入れずにシャルティアが返事をする。
それになぜか頬を紅潮させハァハァ言っている。
「良かったわ。それに貴方なら何かあっても《ゲート/異界門》で簡単に逃げられるでしょう?」
「何を言ってるでありんすかアルベド。わたしが逃げるわけないでありんしょう? 守護者最強であるこのワタクシが!」
胸を突き出し偉そうに踏ん反り返るシャルティア。
「期待しているわ。あと誰かを付けたほうがいいかしら? 貴方の部下だけで大丈夫?」
「わたしとそのシモベだけで十分でありんす! これほどの大任、わたしだけで見事こなしてモモンガ様に沢山褒めて頂くでありんすぇ!」
すでに任務を終えた後のことを想像しニヤニヤが止まらないシャルティア。
「では私はこれで。じゃあアーグランド評議国は貴方に任せるわね。制圧に成功したらその場で連絡を頂戴、国を消し飛ばすか支配下に置くか決めたいから」
「了解でありんす! あ・り・ん・す~!」
満面の笑みで返事をするシャルティア。
それを後目に立ち去りながらアルベドは思う。
(相手の戦力の規模や詳細について考慮もせずよくあそこまで担架を切れるものね)
心の中で軽くあきれるアルベド。
アルベドの入手した情報では真なる竜王について不明確な部分があるものの、法国にいる強者と同等以上の存在だと推定できる。
法国の強者はニグレドに探知させその目で確認したが、確かに強かった。あれは自分達と同じステージで戦える存在だ。それでも負けるとは思っていないが。
アルベドの見立てではシャルティアと真なる竜王が戦った場合、相打ちの可能性もあると判断している。
単純な戦闘力ではシャルティアが勝るとは思うがシャルティアは少々頭が弱い。
それにアーグランド評議国の持つ戦力次第では負けることも十分考えられるのだ。
さてどうなるか見ものだなとアルベドはほくそ笑む。
◇
対名犬ポチ用に使用予定のガルガンチュアの起動実験を終えたアルベドはルベドの元へ向かう。
とりあえずルベドがいればナザリック内で争いになっても戦力負けすることはないだろう。
なので一刻も早く手元に置いておきたい。
アルベドはルベドが封印されている扉の前に立つ。
扉を開けると中で台の上に横になっている者がいた。
それはアルベドと同じ容姿をした女性。
ただアルベドと違うのは白髪で白色の羽を持ち黒い服を着ていること。
外見年齢的にも幼く、アウラやシャルティアと同年齢程度に見える。
だが決定的に違うのは生命を感じないことだ。
そしてナザリック最強の存在。
アルベドはルベドに近づき起動する。
「起動完了。指揮権を持つ人を指定して下さい」
ロボットのような無機質な声が流れる。
だがその声はアルベドを幼くしたような感じだ。
「指揮権を持つのは守護者統括アルベド、貴方の姉よ」
その言葉を聞くとルベドはアルベドのほうへ顔を向ける。
「映像、音声から本人と確認、認証しました。行動を開始」
その言葉と共に目が赤く光る。
それはルベドが起動状態にあることを示すものだ。
そしてルベドはゆっくりと立ち上がり、台からピョンと飛び降りた。
「おはよう姉さん」
「おはようルベド」
「…私は何をすればいいの?」
アルベドはルベドの頬へ手を伸ばし、優しく語り掛ける。
「ルベド。貴方はね、私とモモンガ様の愛を邪魔する者を排除するのよ」
「愛…。難しい、データにあるものだけでは行動を規定できない、学習が必要」
「ふふふ、まずは私に付き従いなさい。愛については追々学んでいくとしましょう」
「了解」
ルベドの起動を無事終えたアルベドは目的に一歩近づいたことに安堵する。
ただ圧倒的戦闘力を誇るルベドだがもちろん欠点も多い。
まずは命令なしに行動できないこと。
そのため臨機応変な対応や細かい作業に向いていない。
そしてルベドの最も使い勝手が悪い所は、一度下した命令をキャンセルできないことだ。
命令を遂行するか、完全に失敗しない限り永遠に行動し続ける。
可能性がわずかでも残っていると失敗と判断できずに行動を止めることができない等、問題もある。
ユグドラシル時代ではこのせいでプログラム的にハマることがあり、ギルドメンバーでさえ持て余していた。
使いどころも難しく、その戦闘力を発揮できないことも多いため普段は眠らせていたのだ。
ユグドラシル時代のことは知る由もないが守護者統括としてルベドの知識があるアルベドはこの妹を心底可愛いと思う。
なぜなら命令に忠実で文句も言わずに永遠に従ってくれるのだから。
もしナザリック内の仲間で最も大事な者は? と問われればルベドだと答えるだろう。
自分が何をしても何を思っても裏切らない存在なのだ。
これほど可愛い存在はいない。
ルベドだけは私を祝福してくれる。
◇
完全武装しニグレドのいる氷結牢獄へ戻ってきたアルベド。
「アルベド、本当に貴方達だけでいくの…? いくら敵が弱いとは言っても部下を連れていった方がいいんじゃないかしら…」
「そうしたいところなのだけれどね、ワールドアイテムらしき物があるそうだから私とルベドだけで行かないと逆に危険なのよ」
そしてアルベドは手に持つ
「それは…! なるほど、でもルベドは大丈夫なの?」
「ルベドはワールドアイテムの
アルベドはかつてアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがそう話しているのを記憶していた。
もちろん起動後に《オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定》で確認したが間違いはなかった。
「姉さんはアーグランド評議国へ向かうシャルティアの監視をお願い。何かあった時はすぐに私に連絡をして。あの子はちょっと危なっかしいからミスをしないか心配で…」
「分かった」
コクリと頷くニグレド。
「さて、では《ゲート/転移門》を」
横に待機していたシモベが《ゲート/転移門》を発動させる。
「行くわよルベド」
「了解」
◇
突如、スレイン法国の神都に暗闇が出現した。
最初に気付いたのは巡回中の神官達。
その闇から出てきたのは漆黒の鎧を纏った女。
続いて白髪の少女が出てきた。
鎧の女は神官へと向き直り問いかける。
「ケイ・セケ・コゥクを探しているのだけれどどこにあるのかしら?」
鎧の女からただならぬ雰囲気を感じた神官は手に持っていた杖を構える。
「なんだ、貴様は! ここをどこだとっ」
言い終わらぬうちに神官の首が飛ぶ。
「下等生物が、聞かれたことだけに答えろ」
そして横にいた神官へアルベドが再び問う。
「それで? ケイ・セケ・コゥクはど」
「うわっぁああぁあぁぁあああ!!!」
アルベドが言い終わる前に恐慌状態にあった神官が魔法を放つ。
だがアルベドの体まで届く前に掻き消える。
次の瞬間には縦に体を真っ二つにされた神官の体が転がった。
「目障りなゴミが…!」
怒れるアルベドの横でルベドのセンサーに反応が出る。
「姉さん。ここから北に2キロ、強者の反応がある」
「あら、そんなことも出来たのね。よくやったわルベド」
北を指さしているルベドの頭をよしよしと撫でるアルベド。
「せっかくだから道中のニンゲンを皆殺しにして向かいましょう」
「了解」
◇
スレイン法国の最奥に位置する大聖堂内の会議室へ一人の神官が飛び込んでくる。
「か、会議中失礼します! 神都内に謎の存在を確認! 周囲にいた神官たちが応戦していますが相手になりません! こちらへ向かってきています!」
会議室内にいた者たちがザワつく。
「なんだモンスターか?」
「どこから入った?」
すっと黒髪の青年が立ち上がる。
「すぐに片づけて参ります、皆行くぞ」
その声と共に漆黒聖典と呼ばれる者たちが会議室を出ていく。
「わしも行こう」
そう言いチャイナ服を来た老婆も後に続く。
「隊長、何者ですかね、ここまで侵入できるなんて並じゃないですよ」
「わからん。だが決して注意を怠るな」
隊長と呼ばれた黒髪の青年がそう言うや否や、前からまた神官の一人が走り込んできた。
「た、大変、大変です!」
「どうした?」
「近くにいた神聖呪歌、人間最強、天上天下が攻撃を仕掛けたのですが全員殺されました!」
「何だと!?」
隊長の表情が驚愕に歪む。
その3人はいずれも法国最強の漆黒聖典のメンバー。
それが3人もいて敗北するなどありえない。
後ろからチャイナ服の老婆が険しい顔で口を開く。
「最悪、ケイ・セケ・コゥクを使うことになるか…」
「ええ、カイレ様はいつでも使えるように準備しておいて下さい」
◇
隊長達が大聖堂から出ると周囲は血の海だった。
神聖呪歌、人間最強、天上天下の三人も地に伏している。
血の海の中心にいたのは漆黒の鎧を纏った女と白髪の少女。
そこにいるだけでおぞましい邪悪な気配を漂わせている。
見た瞬間、隊長は背筋が凍った。
どうするか逡巡する間に先に彼の仲間が動いた。
「貴様ァァァアアアア!」
後ろから激情に駆られた二人の男が鎧の女へと飛び掛かる。
それは神領縛鎖と時間乱流。
「俺が止める! あんたはその隙に!」
「任せろ!」
神領縛鎖は両手に持つ分銅鎖を投げつける。
神の遺産であるこの武器は相手を強制的に拘束状態にする効果を持つ。
その分銅鎖が絡みついた瞬間、時間乱流がマジックアイテムを発動させる。
これも神の遺産の一つで自身の時を加速させ対象の時を遅くさせる効果がある。
最強のコンビネーションとも言える二人の攻撃だったが鎧の女は意にも介さない。
次の瞬間には二人とも腹から両断され息絶えた。
「バカな…!!」
一撃で漆黒聖典の二人がやられた。
それだけで隊長は理解した。
これは自分達の手に負える相手ではないと。
「カイレ様!」
隊長が叫ぶ。
応じるように老婆の来ていたチャイナ服が光輝き、光の龍が解き放たれた。
それは支配の光。
その光の龍は勢いよく空へ舞い上がり、鎧の女へと降下する。
光の龍が鎧の女へ直撃する瞬間。
光の龍は弾けて消えた。
「「な!?」」
その結果に老婆と隊長が愕然とする。
「それがケイ・セケ・コゥクか、くふふ」
鎧の女が笑い声を上げると同時に姿を消した。
隊長が横を見ると、鎧の女がバルディッシュで老婆と老婆を守っていた巨盾万壁を串刺しにしていた。
「ニンゲン如きが装備したものを着用しなければならないというのは少々屈辱だけれど…。しょうがないわね」
鎧の女はそう言うとバルディッシュを引き抜き、老婆からチャイナ服をはぎ取った。
「あ…、あぁ……」
隊長はあまりの恐怖で後ずさる。
それと同時に一つの可能性に思い当たる。
いや、ここまで来るとそれしか考えられない。
「ま、まさかぷれい、ガッ!」
言い終わる前に鎧の女の手が隊長の首をつかむ。
そのまま宙に持ち上げられた隊長は声をあげることができない。
「ずいぶんとみすぼらしい槍を持っているのね。他の装備はまともそうなのに」
不思議そうに鎧の女が首をかしげる。
死を覚悟した隊長は自身の持つ槍の特殊能力を発動することを決意する。
その名はルーンギース。
ケイ・セケ・コゥクと同じく六大神の残した至宝の一つ。
その効果は、自分の命と引き換えに対象の命を奪うというもの。
だがその効果は強烈でどんな蘇生魔法でも復活することができないという。
だが、と隊長は思う。
邪悪な気配を放つこいつは人類に仇名す存在だ。
自分がここで消えるのは法国にとってかなりの痛手だが、それ以上にここで止めねば、ここで殺さねば人類にとって取返しのつかないことになる。
隊長の意思に反応するように槍が強い光を帯びていく。
(死ね、化け物…!)
そして隊長はその槍を鎧の女に突き立てようとする、が。
槍は弾かれ、光を失った。
「ん? 今のも強い魔力を感じたわ。まさかこれがルーンギース? ふむ…」
隊長はルーンギースの一撃が通じない事に困惑を隠せない。
「あら、何が起こったのか分からないといった顔ね。ワールドアイテムはワールドアイテムでレジストできるのよ、知らなかった? 先ほどのケイ・セケ・コゥクでも学習できたでしょうに。ふふ、本当に愚かな存在だわ…」
そのまま鎧の女の手に力が入る。
首からゴキンという音が聞こえると同時に隊長は崩れ落ちた。
と、同時に白髪の少女から突如声がかかる。
「脅威接近中。距離、200」
ここで鎧の女も認識する。
駆けるたびに地面を抉りながら疾風のように突進してくる存在。
それは瞬時に距離を詰め、鎧の女と激突した。
◇
スレイン法国の聖域、5柱の神の装備が眠る場所を守護する少女。
それは漆黒聖典の番外席次、通称”絶死絶命”。
人類最強である彼女は今日も暇をつぶすためにルビクキューをいじっている。
だがその日はいつもと違った。
遠くで神官達が騒いでいるのが聞こえる。
その騒ぎは止まず、どんどん強くなる。
気になり外へ飛び出すと最初に感じたのは血の匂い。
すぐに戦いが起きていると気づく。
手にウォーサイスをとり、匂いの元へと駆けだす。
少女は笑った。
離れていても感じる強者の気配に。
◇
アルベドがルーンギースをもつ男の首をへし折ったと同時にルベドが口を開く。
「脅威接近中。距離、200」
アルベドもすぐに気付きバルディッシュを構える。
疾風のように突進してくる敵を迎え撃つために武器を振る。
二人の武器がぶつかり合い、甲高い音が響き渡る。
その衝撃で地面が割れ、まるで爆発したように大地が吹き上がった。
「へぇ、私の攻撃を受け止めるなんてやるね」
「それはこちらのセリフよ」
そして二撃目。
再び武器が衝突する。
地面はさらに抉れ、土は空高く舞い上がる。
番外席次は怯むことなく一歩踏み込み、頭部へ蹴りを放つ。
アルベドはスキルでパリィしカウンタアローを発動する。
それをスウェーで回避する番外席次。
そしてお互いに後ろに一歩飛び、距離をとる。
だがすぐにアルベドが番外席次の懐に飛び込む。
バルディッシュによる横なぎの一閃。
ウォーサイスの柄で受け止める番外席次だが勢いは殺せず宙に浮きあがる。
それを追うようにアルベドは空中へ追撃を放つが全て受け止められる。
だがそれでバランスを崩した番外席次は地面をゴロゴロと転がる。
さらなる追撃を警戒してすぐに立ち上がりウォーサイスを構える番外席次だが追撃は来なかった。
「なんですって? シャルティアが? 分かった。私がシャルティアの元に向かうわ」
ニグレドからのメッセージを終えたアルベドは番外席次へ背を向ける。
「ちょっと、まだ勝負はついてないでしょう!?」
怒ったように問いかける番外席次。
「申し訳ないけれど用事が出来たの、貴方の相手はこの子に任せるわ」
アルベドの前に《ゲート/転移門》が開く。
「ルベド、殺していいわよ」
「了解」
返事を聞くとアルベドは《ゲート/転移門》の向こうへ消える。
「あれ、行っちゃった……」
それを見ていた番外席次だがどうしたものかと悩む。
先ほどの女はともかく、目の前の少女からは強さを感じないのだ。
「ねぇ、どうするの? 貴方じゃ私の相手になるとは思えないんだけど…」
「否定。戦力差を考えると私が上」
その瞬間、ルベドは爆ぜるような速さで番外席次へ突進する。
(はやい!!)
ガードが遅れた番外席次の腹部に向かってルベドは拳を放つ。
と同時にルベドの肘から、拳と逆方向に炎と煙が勢い良く噴射される。
ジェット噴射のパワーが乗り、拳の速度は番外席次の知覚を超える域に達する。
ルベドの拳は番外席次の水月へ綺麗に突き刺さり、遥か遠くまで吹っ飛ばした。
ナザリック最強を誇るルベドは超近接型である。
100レベルに匹敵する前衛職の肉体にパワーを爆上げするギミックが搭載されている。
本来ならば一回使用するだけでもかなりのエネルギーを使う大技である。
だが
100レベルの存在と戦っても一対一なら基本的には負けないレベルまで仕上がってしまっている。
建物や木々をいくつも破壊しながら吹き飛んだ番外席次は数百メートル先で腹を押さえうずくまっていた。
骨が折れ、内臓に突き刺さり、口からは吐しゃ物が漏れている。
(な、なんだ、この一撃は…! ま、まずい、早く立たないと…)
顔を上げようとした番外席次の視界にルベドの足が映る。
次の瞬間、ルベドが足を蹴り上げる。
それと同時にカカトからのジェット噴射により足の速度とパワーが倍増する。
顎を蹴り上げられた番外席次は勢いよく宙に舞う。
顎が砕け、口から大量の血が零れる。
ルベドは宙に飛んだ番外席次を超える速度で追いぬき、その背中に握り込んだ両手を叩きこむ。
空中から高速で叩き落された番外席次は地面に突き刺さる。
次は足を捕まれ地面から引きずり出されると、そのまま体に拳が撃ち込まれる。
何度も、何度も。
やがて意識が朦朧とし、痛みも感じなくなる。
最後に番外席次は。
目の前の存在が男の子だったら良かったな、と呑気なことを考えていた。
次回『鮮血の戦乙女VS白金の竜王』がんばれひんぬー。
あれ…。
ナザリック勢の話が思ったより長引いて名犬ポチの話に戻れない…。
つ、次が終わったら名犬ポチに戻る予定です、恐らく…。