鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October
<< 前の話 次の話 >>

11 / 24
お気に入りが、ついに80に到達…!
皆様、ご愛読ありがとうございます!

評価6.62…うーむ、評価下がっちゃったか…。やっぱり、万人受けする作品を作るのは難しいですね。
評価4をくださいましたガガギゴ様、ありがとうございます。

さて、予告通り、ここからクワ・トイネ公国軍とタウイタウイ部隊は反攻に転じます。


010. ギムは再び、クワ・トイネに還る

 中央暦1639年4月29日 午前10時、クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ。

 例によって政治部会が開かれており、首相カナタをリーダーとしていつものメンバーが集まり、会議を行っている。なお、今回の会議には堺は参加していない。「作戦の時は、将は味方の先頭にあって敵と戦うもの」という堺の戦闘スタイルにより陣頭指揮にあたっているからだ。ただし、報告書はきっちり提出している。

 

「以上が、今回のエジェイ西方会戦の結果になります」

 

 参考人として招致されたノウが報告を行っている。

 

「「「……………」」」

 

 ノウの口頭による報告内容と報告書に書かれた内容があまりにもあんまりな内容であるため、この場にいる全員が唖然として声も出ない。

 

「ノウ貴様、日本軍がどうやって高威力の爆裂魔法を使用したのか、見ていなかったのか?」

 

 気を取り直した軍務卿ヤヴィンが、ノウを詰問する。

 

「いえ、見ていましたが…我々の常識でいう魔法とは、あまりにもかけ離れすぎて、さっぱりわかりません。見た範囲ですと、彼らはまず、陣地の外側800メートルほどのところに障害物を設置していました。これは、ある程度の間隔を空けて地面に2本の杭を立て、その間に銀色のほそい糸のようなものをぐるぐる巻き付けたものです。ただ、糸で馬を防ぎ止められるわけがありませんから、あれは純粋な糸ではないと思います。よほど硬い糸なのでしょう。」

 

 説明を始めるノウ。

 なお、今ノウが話したのはもちろん鉄条網のことである。

 

「ふむ。それで?」

「それを目印として、彼らは魔法を使っていました。魔法の発射に使っていたのは、一概には車輪の付いた金属の棒のようなものに同じ金属の板を1枚突き刺したようなものです。それを地面に置いて、そこから魔法を撃っていました。棒の後方で常に複数人数、およそ4人ほどが動いていましたから、合体魔法の一種と思われます。」

「撃ち方ですが、まず、彼らはその金属棒の後ろに何か黒い物体を押し込んでいました。おそらくこれが魔石だろうと思われます。次に、その複数人数のうち2人が金属棒の両側に1人ずつつきます。これで、発射準備完了と思われます。人がこの配置についてからほどなく、棒の先からものすごい音がして、白い煙と炎が一瞬吹き出ます。これで発射が完了したと考えられます。その一瞬後、金属棒の先端が向いた方向で、かつその金属棒から離れたあたりに猛烈な炎を伴った爆発が発生します。見た限りですと、距離にして2㎞ほどは届いていました。これが、発射過程の全てです。なお、魔石は使い捨てらしく、彼らは発射するたびに黒い物体を詰め直していました。」

「なんとも、よくわからん魔法だな…」

 

 ヤヴィンもお手上げらしい。せっかく説明を聞いたのに、感想が「なるほど、全く分からん」である。

 

「それ以外に、彼らは別の魔法も使っていました。何やら、やたら細長い金属製らしい棒状の物体を1人が1本、両手で顔の前に構えて使うのです。それがおそらく杖なのでしょう。杖の長さは1メートル以上あります。そこから炎と少量の白煙を出して、数百メートル先の敵歩兵を倒すのです。盾を持った重装歩兵ですら倒せているように見えましたから、どうやら盾を貫通できるようです。なお、5発撃ったら金属棒の後ろに魔石を詰め直していました。」

「なんだそのチート装備は」

 

 これは、情報部の代表エドのコメントである。ちなみにノウの説明は、歩兵が構えていた三八式歩兵銃のことである。

 

「その他に、地面に2本の細い足を降ろして使う杖もありました。それの太さは両手に構える杖とあまり変わりません。ですが、なんとも表現しがたい連続した音と一緒に大量の攻撃を連続で行っていました。これで、5人くらいは纏めて薙ぎ払っていたようです。」

「な、なんだそれは…」

 

 もちろん、この説明は九六式軽機関銃のこと。

 ヤヴィンがやっとのことで口を開いたが他の者は全員、開いた口が塞がらなくなっていた。

 

「ま、まあ、これでよくわかった。日本軍の魔法は、我々の知るそれとは全く異なっているようだな」

 

 かなり無理やり感があるが、カナタがノウの報告をまとめた。

 

「それで、だ。手元の資料を見てもらいたい。ノウもこっちに座ってくれ」

 

 ノウは言われた通りにテーブルについたが、周りが大臣クラスの勢揃いなのでとてもではないが落ち着かない。

 

「な、何ですかこれは!?」

 

 誰かが驚愕の声を上げる。

 資料のタイトルには、こう記されていた。

 

『ロウリア王国首都攻撃許可願い』

『ロウリア王国逆侵攻に関する宣戦布告の通達願い』

 

「見ての通りだ。かねてから堺殿はロウリア王国への逆侵攻も可能だと言っていたが、正式にその許可を求めてきたんだ。また、それと前後して…ロウリア王国はクワ・トイネ公国への宣戦布告なしに攻撃してきたので格好だけでも付けておきたいとのことで、宣戦布告通達願いを出してきた、というわけだ」

「なんか…『お約束の儀式』という感じがしますな」

「それを言うな…」

 

 ヤヴィンの鋭い感想である。

 

「それで、我が軍はこの後どうするのだ?ヤヴィン卿?」

 

 カナタの質問に、ヤヴィンは壁にかけられた時計をちらっと見てから答えた。なおこの時計も、堺からの寄贈品である。

 

「時間的には現在、ギム周辺のロウリア軍は全滅し、タウイタウイ部隊と我が陸軍が国境に向けてロウリア軍を追い返している頃です。いわば残党狩りですな。今日中にロウリア軍を追い出した後、国外侵攻が許可されるのであれば、明日の朝9時に日本軍は前進を開始、我が国とロウリア王国の国境を突破して、弱っているロウリア軍を撃破しつつ、陸路で王都ジン・ハークを目指す…とのことです。これには、我が軍の西部方面師団からも兵力を派遣し、攻撃を行います。」

 

 この時、ノウが立ち上がった。

 

「たいへん申し訳ありません、私はその派遣部隊を指揮を取らねばなりませんので、これにて失礼します」

「おう、そうか、失礼した。今まで我が軍も国も、日本軍に世話になりっぱなしだ。開戦となれば、今度こそいいところを見せてこいよ!」

「はっ!では、失礼します!」

 

 ヤヴィンの激励を受け、ノウは退室した。

 

「では、この作戦案と堺殿の提案に対し可否を問う。どうする、諸君?」

 

 ノウの去った会議室で、カナタは全員を見渡し、口を開いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 クワ・トイネにおいてこの政治部会が開かれる1日前、中央暦1639年4月29日。

 ギムの東方20㎞の位置を、東に進撃する歩兵や騎兵の大軍があった。ロウリア軍の東方征伐軍本隊である。

 

「先遣隊に連絡は取れないのか!?」

 

 その軍勢の一角で、ロウリア陸軍・東方征伐軍の副将、アデムが怒鳴る。

 

「は、全く連絡がありません!先ほどより導士が魔通信にて呼びかけているのですが、応答が…」

 

 怒鳴られた軍の通信隊の隊長は、冷や汗をかきながら答える。

 何の前触れもなく、ジューンフィルア率いる先遣隊2万との連絡が取れなくなった。何度呼びかけても、応答がない。

 先遣隊とはいえ、2万もの軍勢である。1会戦での動員規模としては、(少なくともロデニウス大陸の常識では)かなり多いほうだ。

 しかも、その先遣隊は機動力の高い騎兵を擁している。特にホーク騎士団は精鋭中の精鋭だ。これも含めて連絡が取れないとなると、よほどの何かがあったとしか考えられない。

 

「ワイバーンによる偵察隊のほうはどうか?」

 

 アデムは、12騎のワイバーンを索敵に行かせていた。

 アデムのこの質問には、通信隊は正確な答えを用意できた。

 

「今のところ、目立った報告はありません。それと時間的には、まもなく1騎がエジェイ西方…つまり、先遣隊が消息を絶ったあたりに到達します」

 

 

 

 同時刻、ロウリア軍の竜騎士の1人、ムーラは、相棒のワイバーンにまたがって空を飛び、先遣隊がいたあたりに飛んできていた。

 

「この辺のはずなんだが…」

 

 索敵と状況確認を兼ねた12騎のワイバーンは、各々が分散して、受け持ち区域を決めていた。ムーラは、たまたま先遣隊がいたあたりを割り当てられたのである。

 春先ではあるが、空を吹き渡る風はやや涼しい。晴れた空ではあるのだが、雲が多い。少し飛び辛い空である。だが、気持ちいいことに変わりはない。

 

 ムーラは上空から、地表を見下ろす。

 そろそろ、先遣隊が布陣したポイントのはず…

 

「ん!?」

 

 大地は若草の黄緑色に彩られているのに数箇所だけ、黒くなったところがある。

 彼は迷わず、そこに向かってワイバーンを飛ばした。

 

「な、なんだ!?これは!?」

 

 驚きが、彼の口から言葉として漏れる。

 その黒くなった箇所だけ、まるで月の表面のように地面がところどころ大きく陥没して、でこぼこになっていた。そして、そこかしこに黒く焦げた金属片が散らばっている。

 

 状況確認のため、彼は、ワイバーンを着陸させ、背中から飛び降りる。

 その周辺には、有機物が焼け焦げた独特のくさい臭いが充満し、あちこちに人間だったとおぼしき細長い骨が落ちている。それらに混じって、馬の頭蓋骨もあった。

 

「う、うえっ」

 

 ムーラの胃の府から、吐き気がジャンプするように喉元までせり上がってくる。

 だが、いくら地上に目を向けても、死体はあれど生きている者はいない。馬1頭すら見当たらない。

 

(全滅…だろうか?そんなバカな…)

 

 精強なるロウリア王国陸軍が、しかも2万の大軍が全滅することこそあり得ない。

 だが…現に、生きている者はいないし、そもそもここは敵陣から3㎞と離れていないのだ。敵兵が十分、うろつける範囲である。

 

 探しても埒が明かなさそうなので、ムーラは捜索を諦め、相棒の元へ戻ろうとした、その時だった!

 突然、後ろでガサッと音がして、

 

「動くな!」

 

 ただ一言、鋭い声が投げつけられる。ぎょっとして振り返ったムーラの目の前に、剣が突き付けられた。

 どこにいたのか、数人の男たちが姿を現し、ムーラに武器と思われる細長い金属の筒を突き付けている。その筒の先には、一目で切れ味の鋭さがわかる剣が、付けられていた。

 

(嵌められた)

 

 ムーラはただ、それだけを考えた。しかも、自分の剣の技量では、こいつら全員を倒すことはできそうにない。飛び立つことができれば話は別だが、生憎と相棒にも武器が向けられている。動けそうにない。

 

「武器と鎧を全部、地面に捨てろ」

 

 命の危険を感じ、ムーラはやむなく剣を腰から外して地面に捨てた。続いて鎧も脱いでしまう。

 

「両手を挙げろ」

 

 言われた通りに、ムーラは両手を挙げる。

 横目でちらりと相棒を見ると、相棒にも同じ武器が突き付けられていた。

 

「グルルル…」

 

 相棒が怒りの唸り声を上げ、相手をにらみつけるが相手は全く動じる風もない。

 ムーラは目だけで「やめろ」と相棒に合図した。主人のサインを見て、ワイバーンは大人しく下を向く。

 

「こちら特務部隊、敵兵1名と竜を1匹確保。そちらから迎えを寄越してくれ、どうぞ」

 

 男たちの1人が何かの通信機らしい金属物を手に持ち、一人で喋っている。

 

 こうして、ロウリア王国軍の竜騎士ムーラは、日本軍に捕らえられた。

 ムーラが捕らえられたのと時を同じくして、攻撃隊が空中集合を終え、ロウリア軍東方征伐軍本隊へと突進を開始した。なお、堺率いるギム奪還部隊は、既に別ルートでダイタル基地を発ち、ワイバーンの索敵をかいくぐってギムへと接近しつつある。

 

「あ、あれは…」

 

 連行される中、上空を飛び味方の部隊がいる方向へ向かう航空攻撃隊の姿を見て、ムーラは不吉な予感に襲われるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「どうなっているんだぁ!」

 

 再びロウリア軍の東方征伐軍本隊に場面は移る。

 副将アデムが軍の通信隊を怒鳴りつける。索敵にあたった12騎のワイバーン、そのうち1騎と連絡が途絶したのだ。なお、その騎が受け持っていた索敵区域はちょうどエジェイがある方向である。

 

「現在調査中でして…」

「具体的にどんな方法で調査をしているのだぁ!このたわけがぁ!」

 

 アデムの怒鳴り声に、声を失う隊員たち。

 

「まあ待て、わからないことの話をしても始まらん。わかることから取りかかろう」

 

 司令官であるパンドールが口を挟む。

 

「本陣のワイバーンの直掩は、どうなっている?」

「はっ、はい!」

 

 パンドールの質問に、通信隊隊長が答える。

 

「現在、交代でワイバーンを飛ばし、常時10騎が本陣上空を警戒しています。それ以外は、ギムの竜舎で休ませております。もちろん、命令や緊急事態があれば、出撃いたします」

「10も?多くないか?」

 

 パンドールが首を傾げる。

 現在、ロウリア軍のワイバーンを駆使した竜騎士隊は、すでに150騎にまで激減している。ロデニウス沖海戦で、出撃した350騎全てが、未帰還になったためだ。残り150騎のうち、ロウリア王国・東方征伐軍本隊には、50騎が割り当てられている。そして、今偵察にあたっている12騎を引くと、本陣にいるワイバーンは38騎だ。

 これらのうち10騎もを、一度に警戒にあてるとなると、これは戦力としてはかなり多い。

 

「いえ、今までの軍の不可解な消失を考えますと、もしかすると敵はとてつもない力を手に入れているのかもしれません。聞けば、このロデニウス大陸のどこかにも、古代の遺跡があるとか。敵はそこから古代の技術の産物を発見し、解析して利用しているのかもしれません」

「神聖ミリシアル帝国のようなものか」

 

 確かにそう考えれば、ワイバーン隊の損耗も、軍の消失も、納得がいく。

 

「それに、この本軍だけで40万の兵力を使っているわけですから本国にはまだ兵力があるとはいえ、これ以上の兵力の動員はできません。従って、本軍が壊滅した場合、クワ・トイネ公国攻略は失敗します。それを避けるため、警戒には万全を期したいと思います」

「そういうことなら、了解した」

 

 パンドールがそう言った時、アデムが手を挙げた。

 

「将軍、提案があります」

「む、どうした?」

「先ほどの、敵がとてつもないものを持ち出してきた可能性の話…これを、本国のほうに()()したいと思います。それも、魔信ではなく、現地の人間が直接出向いて、報告したほうがよろしいかと。馬の足ならそれほど時間はかからないはずです。どうでしょうか?」

「ううむ、それは確かにそうだ」

 

 パンドールはアデムに、一度本国に帰還して状況を報告するよう命じた。

 

 

 

 本陣よりアデムが退出して20分後、パンドールは本陣を見渡す。

 上空には多数のワイバーンが編隊を組んで飛び、地上には大量の歩兵や騎兵(全軍合わせて約38万。うちギム周辺に展開して、パンドールの直接指揮下にいるのは、ギム市街地にいる者を含めて23万)。後方のギムの街では、市街地にいる部隊5万人が、瓦礫などを使ってバリケードを作っていることだろう。さらに、ちょうど偵察隊のワイバーン11騎も帰ってきた。

 これほどの軍勢があれば、何者が相手でも勝てるだろう。伝説にある、魔帝軍の行進ですら、跳ね返せそうな気がする。亜人の根絶…軍の兵士や国民の大半には、不当に奪われた領土の奪回だと伝えているが…など、たやすいだろう。

 

(これなら、敵もきっと…)

 

 パンドールの思考は、飛び込んできた報告により、中断させられた。

 

「こちら直衛ワイバーン隊、正体不明の飛竜が東方より接近中。数は…なっ、なんだこれは!?目視できたものだけでおよそ30。さらに増加中!」

「何だと!?東から?敵か!」

 

 パンドールはすぐさま、警報を発令するよう命じた。

 

「敵襲だ!全員、空を警戒しろ!ワイバーン隊は、すぐに迎撃に向かえ!地上にいるワイバーンも離陸、迎撃にあたらせろ!」

 

 ただちに上空のワイバーン隊が動きだし、本陣を離れて敵らしき編隊へと向かっていく。

 

「おい、ギムのほうはどうなっている?」

「は、対空用バリスタの配備は完了しています」

 

 パンドールの質問に、幹部がきびきびと答える。しかし、バリスタでは飛竜の相手はたいへん難しいだろう。

 その間に、ワイバーン隊と敵飛竜…ダイタル基地より発進した航空攻撃隊、その先鋒を務める一式戦闘機「隼」が交戦を始めていた。

 だが、ワイバーンの最高速度は235㎞/h、対する隼は約530㎞/hと、速度に倍近い開きがある。しかも、機動性もワイバーンよりも隼のほうが圧倒的だ。隼が火炎弾を撃たれたとしても、パイロットによほどの油断がない限りかわせる。しかし、ワイバーンの機動性では、隼の12.7㎜機銃をかわすのは難しいし、弾を弾くだけの防御力もない。

 あっという間に、ロウリア王国軍のワイバーンは隼の機銃掃射で竜騎士ごとミンチにされ、その数を減らしていく。

 

「な、何ぃ!?こちらのワイバーンが、歯がたたないだと!?そんなバカな!あいつらは我が軍の最精鋭のワイバーン隊だぞ!?」

 

 パンドールらが絶句している間に上空にいたワイバーン隊は全てが撃墜され、敵飛竜はギム市街地の隣に築かれたワイバーン飛行場に攻撃を開始していた。

 パンドールのいう敵飛竜…隼は、その大半が機銃のみの装備である。しかし、今回動員されたのは、一式戦闘機 隼III型改(65戦隊)であり、一部機体が爆装していた。その爆装隼が、飛行場の真上から緩降下を実施する。

 地上では竜舎で休んでいたワイバーンが警報を受けて飛び立とうとしていたが、敵飛竜の進行速度が速すぎて大半のワイバーンの離陸が間に合っていない。そして、なんとか離陸しようとするワイバーンや滑走路周囲の対空バリスタに向けて隼が突っ込み12.7㎜機銃を浴びせる。離陸のため走っていたワイバーンは撃ち抜かれて滑走路上に崩れ落ち、対空バリスタは操作員ごと粉砕される。こうして無防備になった滑走路に敵飛竜が近づいていった。

 

「ちくしょう、何をする気だ!?」

 

 自分たちの無力感を噛み締めつつ、パンドールらが空を見上げる。と、敵飛竜のうちの1匹がその腹から何か糞のような黒いものを落とした。それがまっすぐに滑走路に向かって落ちていき…

 

ドカァァァン!

 

 爆発した。

 それに続いて5機ばかりの敵飛竜が、全く同じ位置に黒いものを落とす。落とされたものは例外なく爆発し、滑走路には大穴が開いてしまった。これでは、ワイバーン隊は発進も着陸もできない。

 …いや、空を飛んでいたもの、なんとか離陸が間に合ったもの、いずれも既に敵飛竜により撃墜されていた。

 

「くそ!どうなって…」

 

 パンドールの言葉は、途中で消えた。

 

ゥゥゥゥゥ…

 

 何か、よくわからない音が小さく聞こえる。

 

ゥゥゥウウウ…

 

 音が少しずつ大きく、高くなる。

 

ウウウウウウウー!

 

 音はさらに大きく、甲高くなる。今まで聞いたこともない音だが、なぜか背筋に寒気がする。

 瞬間、パンドールはすさまじい殺気に襲われた。

 

「!?」

 

 同時に、音の出所が上だとわかり、パンドールはとっさに空を見上げた。

 青い空から、翼を広げた黒い飛竜が急降下してくる…

 

ウウウウウウウウウーーー!!!

 

 音がいっそう大きく、甲高くなった。

 ますます強まる殺気に、パンドールはなんとか足を動かして逃げようとする。周囲にも「逃げろ!」と叫びながら。

 

 だが、遅すぎた。

 

 急降下してきた飛竜…ユンカースJu87C改から、大小5つの黒いものが投下され…

 

 視界を包む、まばゆい白い光ー。

 ものすごい轟音ー。

 

 全身を貫く、鋭い痛みーーー。

 

 

 全て、たった一瞬の出来事だった。

 

 ロウリア王国陸軍・東方征伐軍司令官にして、同国の三大将軍の1人、パンドールは妖精ルーデル搭乗のJu87C改の爆撃によりこの世を去った。

 

 

 

「くそ!」

 

 ギムに残されたロウリア軍の兵士たちは自分たちの苛立ちを隠すことなく悪態をついた。

 先ほどから空は敵に制圧され、赤い円を翼に描いた飛竜が空を飛び回っている。ある飛竜は地上をなめるように小さな何かを連続で撃ち込んで攻撃し、ある飛竜はぞっとするような甲高い音を立てながら急降下して爆発する黒いものを投下してくる。それに、別の飛竜が合流してきた。

 空高くを飛ぶ何匹もの飛竜。それは、どの飛竜とも違う形をしていた。これまでに見られた飛竜は、高速でぐるぐる回る物体が鼻先に1つ付いている、というパターンだった。だが、今回の飛竜には高速でぐるぐる回る物体は両方の翼に1つずつ、合計2つ付いている。それらの飛竜はこれまでの飛竜よりさらに高い所を飛びながら、黒い物を4つほど投下してきた。先ほどの急降下する飛竜の攻撃を見ていた者たちは、これも同種の攻撃であると気付いて必死に逃げ出そうとする。が、あたかも絨毯を敷くように広い範囲に広がって飛びながら黒い物を落としてくるため、逃げ場は少なかった。

 1000メートルの高度から一式陸上攻撃機が投下した4発の250㎏爆弾。それらは位置エネルギーを運動エネルギーに変換しながら落下し、着弾と同時にその運動エネルギーと火薬による衝撃を、全て破壊に転用した。その破壊力はすさまじく、石造りの建物は1発で崩壊し、土台を残すのみとなる。ロウリア軍が道路に築いていたバリケードも跡形も残さず吹き飛んだ。

 ギム市街地にはひとしきり、破壊の嵐が吹き荒れた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ふーっ、なんとか収まったか…?」

 

 数十分後、轟音を響かせながら東の空に消えていく飛竜の群れを見て、辛くも生き残ったロウリア兵の1人が呟いた。が、次の瞬間、その兵士の顔面は真っ青になる。

 空爆を隠れ蓑にして戦車を伴った陸上部隊…士魂部隊と妖精陸戦隊、そしてクワ・トイネ公国西部方面師団を連合させた、歩兵3万、騎兵5,000、戦車70両よりなる大部隊がギムを奪還しに向かってきたのだ。地平線の一角を塗りつぶすほどの大軍に、ロウリア軍はあわてふためきながらも戦闘態勢に入る。

 

 しかし、この段階ですでにロウリア軍からは合計13万にも達する将兵が死傷して、戦えなくなっていた(クワ・トイネ公国に侵攻したロウリア軍は40万人。この死傷者の数は今回の空襲による死傷者のみ。ジューンフィルア率いる先遣隊2万を含むと15万の数字である)。しかも残り25万のうち、ギムとその周辺に展開している即応兵力はたった8万人にすぎない。残りはギムより西側に展開して第1予備兵力になっており(第2予備兵力は、国境地帯にいる10万人)、馬の機動力があったとしても、今すぐギムに急行できる位置にはいない。

 よって、8万でなんとかするしかないのだが…歩兵や騎兵は人間なのでどうすればいいかわかるとして、あの怪物(戦車のこと)をどうやって倒せばいいか見当もつかない。

 

 そして…ついに戦闘が始まった。

 

「大和魂を見せてやる!」

「敵軍、歩兵じゃ!」

「突撃ぃぃぃ!」

「天皇陛下、バンザーイ!」

 

 日本陸軍妖精が叫びながら突撃し、三八式歩兵銃でロウリア軍の弓兵を撃ち殺し、銃剣でロウリア兵と斬り合う。

 

「生かして帰すなぁ!」

「ギムの民の、クワ・トイネの民の怒りを、思いしれ!!」

 

 口々に怒声を上げながら、クワ・トイネ公国軍の騎兵隊は瓦礫だらけになった市街地を身軽に駆け、ロウリア兵を追い詰めては斬り倒していく。ギムの民を虐殺された彼らは怒り心頭に発しており、ロウリア軍を許す気などさらさらなかった。

 ロウリア軍は先ほどの空爆によって指揮系統に壊滅的な損害を受けており、加えてバリケードを失ったことで士気も低くなっていた。それでも遮二無二突っ込んできたり、物陰から矢を射ようとする兵士もいる。が、物陰に隠れた者たちは、戦車によって瓦礫ごと砲弾で吹き飛ばされるか、物陰から飛び出したところを撃たれて蜂の巣にされるかするばかりでほとんど被害を与えられない。

 結果、2時間ほどで掃討は完了し、ギムの市街地にはロウリア兵は一兵たりとも残っていなかった。残ったのは死体か、戦意を失って降伏した者ばかりである。

 今回のギム周辺の戦闘の被害は、クワ・トイネ公国陸軍が騎兵32、歩兵80戦死、負傷者計55。タウイタウイ部隊は、妖精30名戦死、11名負傷。ロウリア王国軍がワイバーン隊75騎全滅(シュトゥーカや隼の爆撃で竜舎ごと吹っ飛んだ者が50、滑走中に機銃掃射されたもの2、残りは空中戦で喪失)、歩兵・騎兵合わせて15万が戦死。3万は降伏するか、負傷して動けぬまま捕虜となり、残りは行方不明か逃亡した。

 ロウリア王国クワ・トイネ公国侵攻軍、残り兵力20万。

 この日1日だけで、クワ・トイネ公国侵攻軍は兵力の約半数を失った。

 

 こうして、中央暦1639年4月29日、ギムは占領されて17日でクワ・トイネ公国へと還ってきた。クワ・トイネ公国軍の兵士たちは万歳三唱でこれを讃え、クワ・トイネ公国の国民たちは翌日に発表された新聞…これもまた、誰とは言わないが堺の配下の艦娘の1人によって広められたもの…で、この事実を知った。マイハークと公都クワ・トイネを中心に、公国各地には喜びの声が溢れた。

 クワ・トイネ公国政府は、奮戦した軍を讃えるとともに正式にロウリア王国に宣戦を布告したこと、国境を越えてロウリア王国領内に逆侵攻する計画が進行中であることを、魔法通信にて発表した。また、ギムも含めて公国西部で命を落とした者たちの魂を慰めるため、全国民に対して明後日5月1日は1日喪に服するよう呼びかけた。それに反対するものは、誰一人いなかったという。

 

 一方、堺たちタウイタウイ部隊とクワ・トイネ公国西部方面師団は、引き続いてロウリア国境を突破するための作戦を練り、部隊を集めつつあった。

 その際、堺たちはギムを出発する時に急ごしらえで申し訳なく思いながらも瓦礫を使って墓碑を設置し、ギム住民たちの御霊を慰めようとしたため、クワ・トイネ公国軍の兵士たちからの好感度が上がったことは、また別の話である。




妖精ハンス・ウルリッヒ・ルーデルに、新たな能力が実装されました。

ルーデルの能力:
戦車を破壊する程度の能力
シュトゥーカ隊を率いる程度の能力
敵将を吹っ飛ばす程度の能力←new!

それと、Ju87C改(Rudel Gruppe)のスペックを艦これ流に書くと、こんな感じです。
戦闘行動半径4 対空+1 爆装+15 索敵+7 対潜+1 命中+15
爆装は1トン爆弾を積めると仮定して、この数字にしました。あと、史実でルーデルさんは対潜戦闘は全くやってないようなので、対潜値はこんなもん。命中だけはえげつないことにしてやりました。だって、軍艦よりも圧倒的に小さい戦車を、あんなに破壊してるのですから…

兵力について、計算間違い等ありましたら、感想にでも教えていただけるとありがたいです。

次回予告。

堺率いるタウイタウイ部隊と、クワ・トイネ公国西部方面師団は、ロウリア王国軍をクワ・トイネ公国領内から追い出すことに成功した。そして、残虐なるロウリア軍の本拠地を叩くべく、ロウリア王国の国境を突破せんとする…
次回「逆侵攻!ロウリア国境突破作戦!」





※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。