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第26回:J. ARTHUR’S 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.28 Friday
  • 14:55

 

 

 

 

さて今回は、レストランでの「ダブルデート」のシーンを解説しようか。

 

 

バーで流れる曲『Walk Away Renee』を解説した前回はコチラ

 

 

 

あのレストランの名前「J. ARTHUR'S」と同姓同名っちゅう英国映画界のゴッドファーザーって誰やねん?

 

はよ言わんかい!

 

 

 

J・アーサー・ランクだ。

 

J. ARTHUR RANK (1888-1972)

 

 

誰?

 

 

J. ARTHURは父が創業した製粉業を継ぎ、そこからRANK財閥を築き上げた男。

 

欧州のハリウッドと呼ばれる映画スタジオ「パインウッド・スタジオ」を作り、欧州最大の劇場チェーン「オデオン」を展開し、英国最大だった広告代理店などを経営していた。

 

家業であった食品製造・流通・販売・外食に加え、映画製作・配給・宣伝・マーケティングなどを全て自分たちで賄える巨大なコングロマリットだね。

 

日本で言ったら「日清とセブンイレブン・ホールディングスと東宝とイオンシネマと電通」が一緒になった感じかな。

 

 

すげえ…

 

 

だから彼が映画の買い付けに訪米すると、それ自体がニュースにもなった。

 

 

 

どんな男なんだ、J. ARTHURは…

 

 

J. ARTHURは製粉業を営む家に生まれた。いわゆる御曹司だったわけだね。

 

そして厳格なメソジストの家庭でもあった。

 

 

メソジスト?

 

 

プロテスタント諸派の中でも「聖霊の力」を重視する教派だ。

 

「信仰心が高まると、自然と体内に聖霊が満ちて来て、様々な奇跡が起きる」という教えだな。

 

イエスの死と復活から50日後に使徒たちへ聖霊が宿り、自分の意志とは別に奇妙な言葉を喋り出した「ペンテコステの奇跡」がそのルーツとなっている。

 

かなりスピリチュアルな教えなので、保守的な英国国教会から強く批判され、その主流はアメリカへと移った。

 

 

それって、『スリー・ビルボード』のアンジェラが霊魂となって色んな人に憑依したことと…

 

 

ふふふ。

 

さて、敬虔なメソジストであったJ. ARTHURは、最初は教会で牧師兼教師をしていた。

 

当時は一般庶民の子供はなかなか学校に行けなかったから、代わりに教会が教育を施していたんだね。

 

そしてこの頃に普及し始めた映画という最新技術を、イギリスのメソジスト教会は取り入れていた。

 

学校に行けない子供たちや、教育機会のなかった大人たちに「勉強の御褒美」として映画を見せていたんだね。

 

もちろん聖書を題材とした宗教映画だけど。

 

 

なんだよ!

 

そんな線香臭い映画じゃなくて、普通の映画も見せてあげればいいじゃんか。

 

 

そんなもの見せられるわけないだろう。

 

教会の中でキスシーンや卑猥なシーンなどもってのほかだ。

 

 

なに『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいなこと言ってんだ?

 

 

 

冗談じゃなくて本当なんだよ。

 

1920~30年代のイギリスでは「娯楽映画」が社会問題になっていたんだ。

 

当時イギリスで上映されていた映画のほとんどはアメリカ製だった。

 

この頃のアメリカ映画は大胆な描写が多く、肌を露出した女性が登場し、卑猥な仕草をしたりダンスを踊っていたんだ。もちろん今見れば何てことない描写なんだけど。

 

だけどこれが保守的なイギリスでは問題視された。人間を堕落させるとしてね。

 

だから家庭によっては「映画禁止」というところも多かったんだよ。

 

 

そういえば前にもそんな話を聞いたな…

 

アメリカでも「堕落した商業芸術禁止」の家庭が結構あって、テレビやラジオも宗教チャンネル以外は禁止にしてて、映画も宗教映画だけしか観ないって話を…

 

 

せやからアメリカでは映画の週末興行収入ベスト10に、しょっちゅう宗教映画がランクインする。

 

 

レディ・ガガのリメイク版が話題になった『スタア誕生(スター誕生)』も実は宗教映画なんだよ。

 

あれは旧約から新約の世界に移る物語なんだよね。

 

そしてアメリカではゴスペル音楽とかクリスチャン・コンテンポラリーが一大産業になっている。

 

ポピュラー音楽を「聴けない・聴かない」人たち向けに、そのジャンルが発達したんだね。

 

曲自体は普通の商業音楽みたいだけど、歌詞の内容は宗教的な音楽が。

 

 

『BY THE TIME I GRT TO PHOENIX(恋はフェニックス)』で有名なジミー・ウェッブも、そういう家庭に育った。

 

ジミーの父は厳格な牧師だったから、家では商業音楽が禁止だったのだ。

 

だから彼の書く歌詞は、表向きのストーリーとは全く違った意味が隠されている…

 

 

 

ああ!思い出した!

 

カズオ・イシグロの『夜想曲集』だ!

 

『恋はフェニックス』徹底解説

 

 

5つの短編のうち3つ目で中断しちゃったままだったな…

 

2019年の抱負の1つは、これを終わりまで書き上げることだ。

 

 

さて、教会で信徒に映画を見せていた J. ARTHUR は、次第に既存の宗教映画では物足りなくなってきた。

 

そこで仲の良い教会の牧師たちと協力して、オリジナルの短編宗教映画を作り始める。

 

教会の映画好きを集めて、自主制作映画を撮り出したんだね。

 

 

1920年代に自主制作映画を撮るって相当カネかかったやろ。

 

さすが製粉会社のボンや。

 

 

そこにイギリス社会で「アメリカ映画堕落論争」が勃発した。

 

映画制作にハマりまくっていた J. ARTHUR は、こう思い立つ…

 

 

「それなら自分たちで商業的にも通用する宗教映画を作ろう!」

 

 

そして映画会社を立ち上げ、熱意あふれる映画人を集め、第一作目となる商業的宗教映画を完成させた。

 

それが、小説『THREE FEVERS』の映画化作品『Turn of the Tide』だ。

 

 

思い立ってホントに作っちゃったのか。

 

さすが経営者の息子、すごい行動力だな。

 

 

だけど映画は赤字になってしまった。

 

上映してくれる劇場がほとんどなかったんだね。

 

作ることだけに情熱を注ぎ、配給のことまで考えていなかったんだよ。

 

そこで J. ARTHUR は考えた。

 

 

「それなら配給と上映も自分たちでやればいいじゃないか!」

 

 

彼はすぐさま配給会社を設立し、劇場チェーンの買収にかかる。

 

そして「オデオン」を傘下に収めた。

 

まるで古代ギリシャやローマの神殿を彷彿させるような豪華な内装で有名だった映画館だね。

 

後に彼はオデオン・グループを欧州トップシェアの劇場チェーンにまで成長させるんだ。

 

 

気軽に言うけど、やってることが豪快すぎ…

 

 

そして J. ARTHUR は、ハリウッド・メジャーに対抗して巨大映画スタジオの造成に身を乗り出す。

 

バッキンガムシャーにあったパインウッド・スタジオを買収して巨額の資金を投入、ついには欧州最大の映画スタジオにしてしまったんだね。

 

 

 

『007シリーズ』で有名なスタジオやんけ。

 

 

イギリス映画界のゴッドファーザーというのも納得だ…

 

もはや神の域。日本だったら「J. ARTHUR神社」が出来るレベルだよ…

 

 

そんなに有名人やったら、『スリー・ビルボード』に出て来るレストラン「J. ARTHUR’S」も関係あるんとちゃうか?

 

元々は食品関連事業を手広くやっとったわけやし…

 

 

全くの無関係だ。

 

偶然ロケ先のノースカロライナ州ジャクソン郡で、イギリス映画界の《神》と同姓同名の人が経営するレストランを発見したんだね。

 

だから看板をアップにしてアピールしたんだよ。

 

あのレストランの「ダブルデート」シーンは「天の神殿」での出来事の再現だから…

 

 

ああ、そうだった!

 

『ジェームズの黙示録』の再現だったね!

 

 

イエスの死からしばらく経ったある日のこと、使徒ペテロと使徒ジェームズ(大ヤコブ)の前にイエスが現れ、二人を天の神殿へ招待する。

 

二人が緊張しながら天の神殿へ行くと、そこには父と子イエスが座っていた。

 

『スリー・ビルボード』と同じ並びで…

 

 

詳しくは第22話を読めばわかる。

 

 

 

死んだアンジェラは家族の危機を救うために、ジェームズとペネロープに憑依して「ダブルデート」をセッティングした。

 

母の孤独と暴走を止めるためだ。

 

なんだかんだ言って父への未練が少し残ってる母に踏ん切りをつけさせ、新しい相手と再スタートさせたかったんだよ。

 

そのための「バッティング」だったというわけ。

 

 

なるほどね。「前を向け、前を!」ってことか。

 

 

そして母が抱いている警察や町の人たちへの怒りと憎しみも鎮めたかった。

 

ウィロビーが死んだ今、もう犯人逮捕は不可能だし、あのまま看板を出し続けていたらウィロビー支持者から報復を受けかねない。

 

だから「ある言葉」を母に伝えようと考えたんだ。

 

父チャーリーを使ってね…

 

 

ある言葉?

 

 

ということで、今回はここまで。

 

J. ARTHURの話で、思いのほか長くなっちゃったからね…

 

 

あの看板だけでここまで語るとは誰が予想できただろうか…

 

 

あのレストランシーンでの会話はこの映画において非常に重要な意味をもつので、回を改めてじっくり解説したほうがいい。

 

我ら公園兄弟が言うんだから間違いない。

 

 

ですね。それではまた。

 

 

 

 

 

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