第24回:貼り付け作業員ジェローム『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説
- 2018.12.26 Wednesday
- 22:09
さて今回は「スリービルボードの修復」からだったね。
前回の入院シーンはコチラ!
大して重要なシーンとちゃうやろ。
さっさとレストランでの「ダブルデート」シーンへ行こや。
スリービルボード修復シーンは、この映画のテーマを再確認させてくれる重要なシーンなのだ。
そんなことにも気付かないとは相変わらずの節穴っぷりだな…
お前の目にはウロコがついたままか?(笑)
なんやとォ!?
もういっぺん言うてみい、公園兄弟!
落ち着いて、ナンボク…
公園兄弟の言う通りなんだ。
映画の最終幕への導入部的役割を担うあの場面は、「スリービルボードの意味」が再提示される重要なシーンなんだよ。
「スリービルボードの意味」が再提示される?
順を追って解説しよう。
まずミルドレッドの自宅に、ひとりの男がやって来た。
ミルドレッドはその男を知らないので、警戒して玄関のドアを開けない。
土産物屋に来た恫喝男の件もあったからね。
こいつは初見やあらへん。
映画の冒頭でハリツケ作業をしていた男やんけ。
《磔》じゃなくて《貼り付け》でしょ…
ワイは《磔》なんて言うとらん!
《貼り付け》って言うたで!
日本語って紛らわしいな…
ところでこの人って、たまたま夜の巡回で通りがかったディクソンに「逮捕できるもんなら、やってみろ」と楯突いた人だよね。
なんでミルドレッドは知らないの?
あの時ミルドレッドは《貼り付け作業》を見に行かなかったからね。
だから作業員とは面識がないんだ。
大事な《貼り付け作業》くらい見に行けや!
目と鼻の先やんけ!
うるさいぞ、節穴。
冒頭でこの作業員とミルドレッドが知り合っては「物語の構成上」マズいのだ。
ミルドレッドが《貼り付け作業》を見に行かなかったことには重要な意味が隠されている。
両者が出会うのがラスト近辺でなければならない理由がちゃんとあるのだよ。
そして男の名前が冒頭で明かされなかったことにも理由が…
そういえば、男はディクソンに「お前を知っている」と言ったけど、ディクソンは男を知らなかったんだよね…
だから冒頭で男の名前は出て来なかった…
男の名は「JEROME(ジェローム)」という。
「JERUSALEM(エルサレム)」と「ROME(ローマ)」がくっついた名前だね。
ハァ!?
この映画でディクソンが演じているサウロ(パウロ)という人物は、アナトリア半島(トルコ)のタルスス生まれのユダヤ人で、生まれながらにローマ市民権を持っていた。
当地で成長して、後に高名なラビのもとで学ぶためにエルサレムへ留学したんだ。
つまりサウロは、エルサレムを知らないユダヤ人であり、ローマに行ったことのないローマ市民だったんだね。
だからディクソンは「JEROME」を知らなくて、「JEROME」はディクソンを知っていたんだ(笑)
じぇじぇじぇ!
だからこの映画においてディクソンは「レッド半殺し事件」を起こしたにもかかわらず刑務所入りにならなかったのだ。
ローマ市民権を持つ特権階級サウロ(パウロ)がそうだったように。
言われてみれば確かにそうだ…
公衆の面前であれだけのことをやって逮捕されないってオカシイもんな…
そしてミルドレッドは最初の《貼り付け作業》を見に行かず、ジェロームが訪ねて来た時も「あなたを知らない」と言った。
この映画におけるミルドレッドの役割は使徒ペテロだったよね?
ああ!
ペテロは「反逆者イエスの一味」だと思われるのが怖くて、エルサレムでのイエス処刑の時に「知らない」と言って逃げたんだよね…
イエスの《磔》を最後まで見届けたのは、最も愛された弟子ヨハネと母マリアだった…
そんでローマでも弾圧される信徒たちを見捨てて「あんたらのことなんか知らんわ」と言うてトンズラこいた…
せやけど道中で主イエスに見つかって、ローマへ向かい《磔》になった…
『聖ペトロの逆さ磔刑図』カラヴァッジョ
だからミルドレッドは二回目の《貼り付け》には参加したのだ。
今回は自分が主役だからな。
そうだった…
二ヶ月目の広告はウィロビーがお金を出したもの…
ミルドレッドを陥れるために…
さて、ミルドレッドとジェロームの会話を見ていこう。
最初にミルドレッドはドアの覗き窓越しにジェロームと話す…
ミ「誰なの?」
ジェ「俺をまったく知らないわけではないと思うけど…」
ミ「まあいいわ。で、何が目的?」
ジェ「スリー・ビルボードの件で来た」
ここで思い出してほしい。
「スリー・ビルボード」とは「三位一体」のことだった。
使徒ペテロが初代教皇となったローマ・カトリック教会で最も重要な思想だね。
3枚の広告看板の文言は《父と子と聖霊》のそれぞれに対応していた。
「HOW COME CHIEF WILLOUGHBY?」は「How does it come Chief Willoughby?」の略だから「どうしてウィロビー署長にそのようなことが起きたのですか?」という意味になる。
つまりユダヤ教では厳格な主であったのにキリスト教では「聖霊」と「子」にもなった《父》のことだね。
そして「AND STILL NO ARRESTS」は「いまだに捕まえられません」だから《聖霊》のこと。
「RAPED WHILE DYING」は「辱しめを受けて殺された」だから《子》のことだ。
こうして図にまとめられると、わかりやすいね。
ドア越しのやり取りは続く。
ミ「ボードの件って何?」
ジェ「見事に燃えちまったから」
ミ「そんなことわかってる」
ジェ「俺はあの最初の時に《貼り付け》をした者だ。名前はジェローム」
その言葉を聞いてミルドレッドはドアを開ける。
ジェ「あんたはポスターの《貼り付け》を依頼したよな?そういう場合、念のために予備に同じものを用意しておくんだ。知ってたか?」
ミ「いいえ…。そんなこと知らなかったわ」
そして場面はスリー・ビルボードの野原へ移る…
スリー・ビルボードに掛けられたハシゴは、3つの十字架に掛けられたハシゴそのものだね…
エルサレムで《磔》になったイエスの次は、使徒ペトロがローマで《磔》にされる番…
そうとは知らず、感動シーンみたいになっとったな…
しかもわざわざ「WILL(意志)」なんて文字まで見せ、ミルドレッドと仲間たちの絆と「不屈の意志」を観客にアピールしてたよな。
ウィロビーが死んだ今、もう犯人逮捕は不可能で、この行為は完全に無意味だ。
いや、無意味どころか「人々の怒りを増幅させたい」ウィロビーの思う壺なのに(笑)
ああミルドレッド…
どこまで勘違いを重ねるつもりなんだよ…
いい加減、気付けっつーの…
そして最後にミルドレッドはこう言った…
ジェ「ウィロビーは死んじまったけど、まだこれを貼るつもりか?」
ミ「当たり前でしょ。He paid for it.」
あっ!
「He paid for it」って「代金を支払った」の他に「代償を払った」って意味にもなってるね!
つまり「ウィロビーは死の報いを受けた」ってこと!
「犯人をぶっ殺す」とウィロビーに豪語していたミルドレッドは、自分の言ったギャグに気付いてないけどね(笑)
超ウケるよな。
ちなみにこの《貼り付け》シーンでは、小人のジェームズがネタバレ級のギャグをかましてくれた。
気付いた?
ジェームズが?
そんなオモロイこと言ったか?
ミルドレッドの梯子を押さえている時に、こんなやり取りがあった。
ミ「ハシゴはしっかり固定されてるから支えなくて大丈夫よ」
ジェ「いいんだ。俺はハシゴを押さえるのが好きなんだよ。こうしてると我を忘れる」
そう言いながらミルドレッドの尻を眺めとったけど。
思い出してよ。
英語の「JAMES」という名前は「JACOB(ジェイコブ)」の変形だったでしょ?
ハシゴとジェイコブと言えば…
ズコっ!
ジェイコブズ・ラダーか!
すべてのセリフにツッコミどころ満載だよな、この映画は。
ということで、次回はいよいよレストランの「ダブルデート」を解説しましょう。
はたして家族の幸せを願うアンジェラの願いは届くのか…
乞うご期待!
JUGEMテーマ:映画
- 『スリー・ビルボード』徹底解説
- -
- -