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第22回:なぜ火事のあとにジェームズはミルドレッドを食事に誘ったのか?『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.23 Sunday
  • 23:11

 

 

 

 

 

さて今回は警察署火事シーンの後半部を、小人のジェームズ中心に詳しく見ていこう。

 

この映画『スリー・ビルボード』において、彼は「James the Greater(大ヤコブ)」の役割だったね。

 

イエスの弟子には「小ヤコブ」という人物もいるんだけど、あえて小人のジェームズに「大ヤコブ」の役を当てがったところに、脚本家マーティン・マクドナーのユーモアセンスが光る。

 

 

 

ちなみに「火事シーン前半部」はコチラ

 

 

 

せやけど、あん時のジェームズにアンジェラが入っとるってホンマか?

 

 

 

うん。間違いないね。

 

火事場シーンでのジェームズにはアンジェラが憑依している。

 

明け方にジェームズは「こんど食事に行こう」とミルドレッドを誘うんだけど、それを言ったのもアンジェラだ。

 

 

マジですか!?

 

母親をデートに誘ったってわけ?

 

 

その通り。

 

 

せやったらアンジェラは他の場面でもジェームズに憑依しとるんか?

 

 

いや、ジェームズにはあの時だけだ。

 

 

なんで言い切れるんだよ!

 

 

アンジェラは様々な人に憑依してるんだけど、必ず見分けられる「しるし」がある。

 

ジェームズの場合「髪型」でわかるんだ。

 

彼はいつもオールバックにビシっとキメてるんだけど、なぜかあの時だけ前髪が「アンジェラ状態」で右目にかかっていた…

 

 

 

 

ズコっ!細かい!

 

 

世間の目は欺けても、この僕の目は欺けないよ…

 

 

よっ!名探偵!

 

 

ではまずディクソン救助の一連の流れを見てみよう。

 

 

 

どこからどう見てもアンジェラだな。

 

 

全然意味がわからないんですけど…

 

 

前回解説したように、ディクソンはアンジェラの《声》を聴いた。

 

燃える事件ファイルの炎の中から、何かを訴える《声》を聴いたんだ。

 

 

 

迫害者サウロが眩い光の中で聴いたイエスの声やな…

 

『Conversion(サウロの回心)』

 

 

そしてディクソンはアンジェラ事件ファイルを手に取り、炎の中へ突っ込んで行った。

 

新約聖書『使徒行伝(使徒言行録)』第9章において、眩い光の中で倒れたサウロはイエスから「町のほうへ向かえ」と言われ「三日間、目が見えず、何も口に出来ない」ほどの重症を負ったので、ディクソンもそれに倣ったんだ。

 

 

可哀想なディクソン…

 

でも、それで迫害者サウロから伝道者パウロに生まれ変われたんだよね。

 

 

 

実を言うと、まだこの時点では「回心」が完了していない。

 

この後に連れて行かれる場所で「ある人物」に出会い「目から鱗が落ちる」のだ。

 

『使徒行伝』ではダマスコ、『スリー・ビルボード』では病院だな…

 

 

そんなところまで再現されているのか!?

 

 

この映画って『使徒行伝』の完全なるパロディなんだよ。

 

あとでじっくり説明しようね。

 

さて、炎に包まれながらメインストリートに転がり落ちたディクソンは、大事なファイルを守るために出来るだけ遠くへと投げた。

 

 

それを見て驚いたミルドレッドは2階から降りてくるが、路上で足取りが止まってしまう…

 

炎に包まれたディクソンの姿が、レイプされた後に焼かれたアンジェラの姿と重なってしまい、体が動かなくなってしまったんだ…

 

 

 

そういえば、あのファイルの中には…

 

焼け焦げて変わり果てた姿になったアンジェラの写真が入っていたんだよな…

 

 

そこに現れたのが小人のジェームズだ。

 

絶妙なタイミングで十字路の角を曲がって来た彼は、火事にも路上で燃える男にも全く驚かず、表情一つ変えずに上着を脱ぎながら、無駄のない動きでディクソン救助へ向かう…

 

 

 

なんか変だな…

 

スムーズ過ぎる…

 

 

人間が燃えてたら普通めっちゃ驚くやろ…

 

スーパーマンに変身する時にシャツを脱ぐクラーク・ケントばりのポーカーフェイスや…

 

 

何も不自然ではない。

 

ディクソンにファイルを持たせて火に突っ込ませたのはアンジェラだ。そして今度はジェームズに憑依して救助に向かった。

 

アンジェラは最初からジェームズにディクソンの救助をさせようと考えていたので、あれだけスムーズな動きが出来たのだよ。

 

 

ちなみにジェームズ登場シーンの背後に映る看板には「PRINTED BULLETIN」と書かれている。

 

 

これは「活字にされた紀要・公報」という意味…

 

つまり信者に向けて使徒の発言や布教活動を報告した『使徒行伝』のことだね(笑)

 

 

ズコっ!そんなところにちゃんと答えが書かれてたのか!

 

 

細部までとことんこだわり抜いてるよな、マーティン・マクドナーは。

 

さすが「コーエン従兄弟」の異名をもつ男。

 

 

さて、ジェームズは黙々とディクソンの消火作業にあたった。

 

 

もう一度映画を観る機会があったら、これだけは忘れないでくれ…

 

あれはジェームズの姿を借りたアンジェラだ。

 

何としてでもディクソンを救おうとしていた彼女の思いを感じ取って欲しい…

 

 

そして、迫害者サウロにも愛を与えたイエス・キリストの姿でもあるね。

 

ちゃんと十字架が映ってるし。

 

 

だけど相変わらずミルドレッドはアンジェラに気付かない。

 

消火作業を手伝うでもなく立ちすくんだまま、焼け焦げた肉の臭いに呆然としていた…

 

ディクソンの火が完全に消えた頃、ようやく消防車と救急車が到着する…

 

 

 

カッコええやんけジェームズ…

 

いや、アンジェラ!

 

 

でも、自分の時は誰も助けに来てくれなかったんだよね…

 

それを思うと切ないな…

 

 

アンジェラはディクソンの命を救うことに精一杯だったから、他のことなんて何も考えていなかったと思うよ…

 

自分が同じように燃えた時のことすらも…

 

その証拠に、火事の後、彼女はもう先のことしか考えていなかった…

 

これからどうやって憎しみの連鎖を断ち切るか、ということだけを…

 

 

憎しみの連鎖を断ち切る?

 

 

自分を殺したウィロビー亡き今、もう犯人逮捕は不可能になった。

 

でも捜査ファイルの焼失は免れたので、いつか誰かが事件捜査に疑問を持って、ファイルを徹底的にチェックしてウィロビーの悪事に気付くかもしれないという可能性は残せた…

 

ただ、彼女には時間が無い。

 

もうすぐ霊体として現世に介入できなくなってしまうんだ。

 

いつになるかわからない事件解決よりも、何とかして家族の非常事態を収拾しなければならないと考えていたんだね。

 

 

この映画では幽霊でいられる時間にタイムリミットが設定されてるの?

 

 

そうなんだよ。

 

それも『使徒行伝』に書いてある。第1章3節だ。

 

1:3 イエスは苦難を受けたのち、自分の生きていることを数々の確かな証拠によって示し、四十日にわたってたびたび彼らに現れて、神の国のことを語られた。

 

 

よ、40日!?

 

 

アンジェラが最初に現世に介入したのは、イースターの前だったね。

 

スリービルボードのところで母ミルドレッドの車を止め、レッドの広告代理店で虫に憑依したんだ。

 

おそらく3月中旬から4月にかけての頃だろう。

 

そこから丸一ヶ月が過ぎ、二ヶ月目に突入した…

 

つまり、そろそろ期限の「40日」になってしまうんだ。

 

 

じぇじぇじぇ…


 

今のアンジェラにとっての心配事は、離婚した父と母のそれぞれの幸せ。

 

父チャーリーのほうはペネロープがいるから大丈夫だとして…

 

問題は母ミルドレッドだ。

 

スリービルボードの件で精神的に追い込まれ、世間への憎しみを激しく募らせてしまっている…

 

これではアンジェラも安心して成仏…いや、昇天できないな。

 

 

ああ!だからジェームズとくっつけようと…

 

 

そういうこと。

 

警察署の火事が完全に鎮火する明け方まで、ミルドレッドとジェームズ(アンジェラ)は無言のまま座って眺めていた。

 

そこに新署長アバクロンビーがやって来て、二人に事情を聴く…

 

 

ジェ「二人でデート中にスプリング通りの角を曲がったら、すでに署は燃えていて、中から人が飛び出して来た」

 

アバ「お前たちはボーイフレンドとガールフレンドなのか?」

 

ジェ「まだ付き合い始めだけど」

 

アバ「そうなのか?」

 

ミル「何度かデートした」

 

アバクロンビーは「お前ら、見え透いた嘘をつくなよな」とでも言いたげな感じで去っていく。

 

 

ジェ「来週二人で食事にでも行きたいとか思ってたりする?」

 

ミル「行ってやってもいいよ。でもあんたとセックスはしない」

 

ジェ「俺だってあんたなんかとヤルもんか。たぶん…」

 

 

 

うまいな、アンジェラ(笑)

 

これでダブルデートのブッキング完了だ。

 

 

『使徒行伝』第1章4~5節にも、こう書いてあります。

 

1:4 そして食事を共にしているとき、イエスは彼らにお命じになった、「エルサレムから離れないで、かねてわたしから聞いていた父の約束を待っているがよい。

1:5 すなわち、ヨハネは水でバプテスマを授けたが、あなたがたは間もなく聖霊によって、バプテスマを授けられるであろう」

 

 

しょ、食事を共にしている時!?

 

 

つまりレストランでの「鉢合わせ」は、アンジェラが仕組んだものだったんだよ。

 

父と母がそれぞれ別の相手と新しい道を歩んでいくためにセッティングした「別れの宴」だったんだね。

 

 

マジですか…

 

 

そしてジェームズとミルドレッドが、二人には場違いともいえる「お洒落レストラン」へ行くことには、もうひとつの理由がある。

 

そこで元DV夫チャーリーとペネロープ(アンジェラ)と会うこともね。

 

 

『Apocryphon of James(ジェームズの黙示録)』だな。

 

 

じぇ、じぇ、ジェームズ三木の黙示録?

 

 

意味わかんねえよ!

 

 

あの黙示録もヤバかったけど『ジェームズの黙示録』もかなりヤバいんだ…

 

内容が内容だけに、新約聖書全27書からは外されたんだよ…

 

 

どんな内容だったんだ?

 

 

イエスの死から随分と経ったある日、使徒ペテロと使徒ジェームズ(大ヤコブ)の前にイエスが現れる。

 

そしてイエスは二人を特別に「天の神殿」へ招待すると言うんだ…

 

 

死んだアンジェラに「ディナーデート」をセッティングされたミルドレッドとジェームズそのまんま!

 

 

 

そして二人がオシャレして「天の神殿」へ行くと、そこには「父」と、その右側に座る「子イエス」の姿があった…

 

 

それもレストランのシーンそのまんま!

 

 

 

笑えるよな(笑)

 

 

しかも『ジェームズの黙示録』のラストは、地上に帰って来た後に「ケンカ別れ」するんですよね。

 

「父」に会ってしまったことで妬みが生じ、仲違いしてしまうんです。

 

 

ズコっ!そんなところまで一緒って!

 

 

ここまでやってくれるとホント笑うしかないよね。

 

ということで今回はここまで。

 

次回はディクソンの入院シーンから解説しよう。

 

いよいよ「目からウロコ」のシーンだよ(笑)

 

 

 

 

 

 

 

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