JUGEM 無料ブログ
ブログをはじめる GMOペパボ株式会社

第17回:HIS MASTER'S VOICE 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.19 Wednesday
  • 18:38

 

 

 

 

 

さて、前回はディクソン巡査とABBAの『チキチータ』について解説したね。

 

 

未読の方はコチラをどうぞ。

 

 

 

この後ディクソンは、ウィロビー署長の自殺を聞かされて気絶するんやったな。

 

 

倒れるところはカットされてるが、その時に発した言葉はおそらく「Abba, Father!」だ(笑)

 

 

そしてセドリック巡査部長に介抱され、ディクソンはトイレで泣いた。

 

 

セドリックは激しく動揺している他の警官たちを落ち着かせるために、ディクソンを残してこの場を去る。

 

ひとりになったディクソンは様々なことを思い出していた。そして彼の中に「やり場のない怒り」がこみ上げてくるんだ。

 

そしてBGMにMONSTERS OF FOLKの『HIS MASTER'S VOICE』がフェードインしてくる…

 

 

あの曲はかなり長く流れていたね。

 

 

せやな。トイレシーンから、殴り込みシーン、そしてまた署に戻るまでずっと流れとったで。

 

 

4番まである歌詞のうち、3番の途中までが流れるんだ。

 

しかもセリフはほとんどなく、バック・グラウンド・ミュージックというよりメインの音として流れるんだね。

 

 

確かにそうだった。何か意味があるのか?

 

 

脚本・監督のマーティン・マクドナーは、あの歌の歌詞で様々なことを説明したのだ。

 

多くの観客が見逃したり聞き逃していた非常に重要なことをな…

 

 

観客が見逃していた重要なこと?

 

 

ディクソンのMASTERであるウィロビー署長の「レッド・ウェルビーを病院送りにしろ」という指示だよ。

 

以前、現場検証シーンの解説で話したよね?

 

ウィロビーがディクソンに言った命令が「どちらにもとれる」ようになっていたことを…

 

Lay off that Welby guy

レッド・ウェルビーは放っておけ

レッド・ウェルビーを仕事が出来ない状態にしろ

 

 

 

第11回だな。

 

ディクソンはトイレであの「声」を思い出したのだ。

 

 

 

なるほど、そうゆうことか…

 

あの場面での重要なダブルミーニングを見落としてしまった人たちに向けた歌詞なんだな…

 

 

そういうこと。

 

では曲を聴いてみようか。

 

 

まずセドリック巡査部長が警官たちに話している声がオーバーラップされる。

 

これも非常に面白いことを言ってるね…

 

That the best thing, the only thing, to honor that man's memory right now, is to go to work. Is to be a good cop. Is to walk in his shoes. Is to do what he did, every day of his life. Help people.

 

普通に訳してしまえば「これまで通り職務に邁進し、ウィロビー署長がそうだったように、人々のために汗を流す警察官であれ」という内容だ。

 

だけど、これがディクソンにとっては別の意味になっているんだよ…

 

「最も重要なのは、偉大なる男が語ったことを今すぐ思い出し実行することだ。職務に忠実であれ。彼の立場になって行動しろ。生前彼が指示したことをやれ。人々のために」

 

 

 

うわあ…

 

最後の「Help people」の「人々」とは、ミルドレッドが出したスリー・ビルボードに対し精神的苦痛を訴えてる人々のことだな…

 

だからセドリックの追悼文が、あそこまで意味有り気にフィーチャーされるのか…

 

 

その通り。ちゃんと深い理由があったのだ。

 

この『スリー・ビルボード』という映画は、延々と「勘違い」を重ねる悲喜劇だからな。

 

 

そして『HIS MASTER'S VOICE』の歌詞も凄い。

 

ディクソンが殴り込みの準備をし、広告代理店の1階のドアを破壊するところまでに1番が流れる…

 

歌詞:James Edward Olliges Jr

訳:おかえもん

 

ムハンマドとキリストは

黄昏時にサイコロ遊びをしていた

そして彼らは主の声を聞き

声に従い早速仕事に取り掛かった

今夜の仕事は聖典をリライトすること

神を信じない若い世代の者たちに向けて

 

 

 

亡き主の指示を思い出し、すぐに行動に移したディクソンと完璧にシンクロしてる…

 

 

往年のボブ・ディランみたいな歌詞やな。

 

神ヤハウェとアブラハムの会話から始まる『HIGHWAY 61 REVISITED』みたいやんけ。

 

 

 

そしてディクソンは2階の広告代理店に侵入し、レッドをぶちのめして、窓ガラスを割って彼を外に放り投げる。

 

ここで2番が流れるんだね。まずは前半部。

 

指導者は人々に向かって叫ぶ

悪は引きずり降ろさなければならないと

それは少年の心を持つ兵士の琴線に触れた

彼は主の声を聞いたのだ

こうして彼は召命された

 

 

「悪は引きずり降ろさなければならない」と叫ぶ指導者って、ウィロビー署長のことだよな…

 

スリービルボードの撤去を叫び、ミルドレッドやレッドを潰そうとした…

 

そしてそれが「少年の心を持つ兵士」というか、8歳児並みの精神年齢をもつディクソンの琴線に触れたんだ…

 

 

あの歌が大きな音で流れるのも当然だな。

 

かつてウィロビーが言った指示の通りにディクソンが行動していることを、歌詞に代弁させているのだ。

 

 

そしてレッドを窓の外に放り投げたところから2番の後半に差し掛かる…

 

少年のように従順な兵と、血を流す扇動者

彼は主の声を聞いた

君も主の声を聞いたのかい?

キミの名を呼ぶ妖魔サイレンの声を…

 

 

「血を流す扇動者」って、吐血したウィロビーのことか…?

 

それともディクソンに殴られて出血した、広告代理店業者のレッド?

 

 

どっちにも取れるな。

 

そして「キミの名を呼ぶ妖魔サイレンの声」は、ディクソンに対して「ブタ野郎!」って叫んだパメラだ…

 

 

 

パメラの顔面を殴打したディクソンは、階段を降りて道路へ向かう。

 

そこには屋根から転げ落ちたレッドが血まみれで横たわっていた。

 

レッドは顔を上げてディクソンに慈悲を求めるが、無情にもディクソンはその顔面を力いっぱい殴り、レッドは地面に沈む。

 

その一部始終を警察署の入口わきで1人の初老の黒人男性、というか死んだウィロビーの後任アバクロンビーがジッと見ていた。

 

ディクソンは「何を見てるんだ、クソ野郎!」と吐き捨てて署に入っていく…

 

この場面で流れるのが3番の前半部だ。

 

若い兵士は無言で天井を見つめている

彼には主の声が聞こえる

「これは戦争だ」と呼ぶ声が

彼の心を捉えてやまない声が…

 

 

ああ、ウィロビーはミルドレッドのTVインタビューを見て「これは戦争になる」って言ったよな…

 

 

歌詞が映画そのまんまなんだ。面白いよね。

 

 

ちなみに3番の後半部と4番はどんな歌詞なんだ?

 

チョー気になる!

 

 

続きの歌詞も凄いよ。

 

「一線を越えろ」と何かが彼の心に訴えた

彼は自分自身の中に眠る幼い自分の姿を見る

そして優しく名を呼ぶ母の声を聞く

霊魂となった兵士の母は紙コップを持ち

そわそわと落ち着かない

人の命とは?愛とは?

そんなことばかりが彼女の耳にこだまする

 

人の耳には自分が聞きたいことだけが聞こえてくる

今あなたは主の声が聞こえていますか?

 

ムハンマドとキリストは

これまでよりもさらに饒舌に話し始めた

だけど僕は自分の胸の中で鳴り響く歌を一番気に入った

僕は今、主の声を聞いているんだ

主が僕を呼んでいる…僕を…

 

 

これは元々同じやった「主」を戴きながら殺し合いの歴史を重ねるキリスト教とイスラム教のことを言ってるんか?

 

 

まあそんなところだろうね。

 

 

若い兵士が人殺しさせられたり、ママの声を聞いたり、なんだかクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』っぽい…

 

 

 

確かに。

 

MONSTERS OF FOLKの『HIS MASTER'S VOICE』は、QUEENの『ボヘミアン・ラプソディ』を意識して書かれた曲なのかもしれないな。

 

 

さて、その日の朝ミルドレッドもTVのニュースでウィロビーが自殺したことを知る。

 

しかもまるでスリービルボードが原因かのような論調だった…

 

ロビー君を学校へ送っていくと、車に向かって誰かがコーラの缶を投げた。

 

これに怒ったミルドレッドは、少年と少女の股間を蹴り上げる…

 

via GIPHY

 

 

 

天才コーエン兄弟の長編デビュー作『ブラッド・シンプル』へのオマージュだ!

 

二度のアカデミー主演女優賞に輝く大女優フランシス・マクドーマンドの原点は、この急所蹴りなのだァ~~~!!!

 

 

 

お前ら、まるで自分ごとのように嬉しそうやな…

 

いっそフランシス・マクドーマンドに蹴ってもらったらええ。

 

 

もうすでに…いや、なんでもない…

 

 

そしてウィロビーの後任であるアバクロンビーが、エビング警察署にやって来る。

 

 

ここでもちょっと面白いやり取りが描かれる。

 

「聴こえづらい」という意味の慣用句「hard of hearing」を「hard of reading」にした会話だ。

 

これはきっと観客への挑戦状だよね…

 

「本当の物語を読み取れるかな?」という、脚本家マーティン・マクドナーからの挑戦状だ(笑)

 

 

ホンマでっか…

 

 

アバクロンビーはディクソンをクビにする。

 

そして場面はミルドレッドの働く土産物屋に…

 

 

謎の男の登場だな。

 

 

あの人、かなり怪しかったよね。ちょっとキモかった…

 

 

 

そうなんだよ…

 

彼についてはもう少し考察を深めたいので、続きは次回にするとしよう…

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

  • 0
    • 『スリー・ビルボード』徹底解説
    • -
    • -

    calendar

    S M T W T F S
      12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
    << January 2019 >>

    hulu

    wowow

    U-NEXT

    RAKUTEN

    GEO

    selected entries

    categories

    archives

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM