「顧客主導型」の社風を作る9つの方法

2018年03月22日



【POINT】

  • 企業のミッションは、社員一人ひとりが遂行できるものでなければ、意味をなさない
  • 企業文化の醸成は、会社のミッションに対する真の目的意識を見出すことから始まる
  • 製品やサービスよりも顧客体験がブランドの差別化要因になりつつある

会社としての判断と行動を、常に「顧客主導」に行う姿勢の大切さを語るビジネスリーダーは多い。不寛容さが立ち込め、他社への共感が薄れ、さまざまな情報を信頼するのが難しくなった時代において、顧客主導、顧客中心という企業姿勢は、そもそも実現可能なのだろうか?

「顧客の声に敏感な社風であることは、企業にとっても顧客にとっても利点をもたらす」と、ビジネス界のリーダーたちも、メディアや学界も、口をそろえて証言している。以下は、顧客主導への働き方改革を日々実践しているリーダーたちとの対話から、筆者が学んだ教訓である。

「顧客主導型」の社風を作る方法(1):顧客体験を全社員の仕事として捉える

顧客体験を全社員の仕事として捉える

業界に関わらず、顧客体験に対する責任の所在を全社的に広げると、社員は顧客視点から、世の中と自社ビジネスを見つめるようになる。これは、会社のミッションや社員の注力すべき点を明確化し、会社全体としての合意を築く上でも役に立つ。

例えば、ニューヨーク タイムズでは、顧客体験の重視は、組織の最高責任者であるマーク トンプソン(Mark Thompson)に始まり、ニュースルームのジャーナリストたちにまで浸透している。同社の顧客体験責任者を務めるエジーム イロモゼル(Ejieme Eromosele)氏は、以下のように述べている。

「タイムズの顧客は世界の市民である。タイムズ誌には、市民に対する責任、そして我々が生み出すジャーナリズムに対する責任がある」。

「顧客主導型」の社風を作る方法(2):内部顧客のコンサルタントとして振る舞う

内部顧客のコンサルタントとして振る舞う

ゼネラル エレクトリックとヒューレット パッカード エンタープライズ(HPE)のリーダーたちは、顧客体験に関する調査とインサイトの蓄積を、内部顧客へのコンサルティング業務のように位置付けるのが望ましい、と指摘している。内部顧客とはすなわち、営業、研究開発、マーケティングなどの各部門を社内的な「クライアント」として捉えること。そして、彼らと協力して顧客体験についての調査と情報共有を行うやり方だ。総合的な顧客像を会社全体に知らしめる上で、これが実は最も効果的な方法になるという。

HPEのポール ローグ(Paul Logue)氏は、成長分析、市場インサイト、顧客体験を担当するチームのヴァイスプレジデント(VP)を務めている。ローグ氏は、顧客体験、インサイト、データ分析をひとつのサービスとして統合し、顧客とのより深い関係性の形成、迅速で適切な判断を全社的に促進しているという。

「(各部門は)それをもとにアクションを起こせるような情報を求めている」と、ローグ氏は語る。

「データだけあってもダメだ。それぞれのデータをつなぎ合わせ、全体像を語るというコンサルティング能力が必要となる」。

「顧客主導型」の社風を作る方法(3):チャレンジャー精神で経営を行う

内部顧客のコンサルタントとして振る舞う

多くのビジネスリーダーは、「ディスラプション」を恐れている。ディスラプションとは、新興の競合他社が自分たちから市場シェアを奪い、高い期待値を持つ顧客にアピールするなど、会社の屋台骨を揺さぶりかねない変化のことだ。ディスラプションはまた、会計コンサル大手PwCによる調査が2016年に示したように、「顧客によって引き起こされる」こともある。

証券会社チャールズ シュワブのCMOであるジョナサン クレイグ(Jonathan Craig)氏は、金融業界の一リーダーとしてこの現実にどう立ち向かっているのか、以下のように述べている。

「クライアントにとっての長期的な利点があるならば、我々は短期的なディスラプションを歓迎する」。

同社は、柔軟性に優れた「チャレンジャーブランド」という経営姿勢により、顧客のニーズに最も合った新製品とサービスの投入ができたという。

「顧客主導型」の社風を作る方法(4): 顧客の「過去最高の体験」に挑戦する

顧客の「過去最高の体験」に挑戦する

シティバンク、マリオット、ベライゾンの顧客体験リーダーたちは、「製品やサービスよりも、顧客体験が差別化要因になりつつある」と率直に述べている。競争は畑違いの業界との間にも存在し、あらゆる顧客接点で最高の体験を提供しなければならないという。

ベライゾンの光ネットワークサービス、「Fios」で顧客体験とイノベーションを担当するジャスティン ライリー(Justin Reilly)氏が、この点を分かりやすく説明している。

「例えば今日、Uberのアプリを使って、ワンクリックで車が来たとする。次に、ベライゾンのアプリ「MyFios」を使ったときに、Uberと同程度、またはそれ以上の体験ができなければ、その消費者は、その体験にもとづいて我々を評価することになる。我々の競争相手はもはや、直接の競合でも、関連業界の競合でもない。すべての消費者の“過去最高の体験”こそが、我々の競争相手なのだ」。

「顧客主導型」の社風を作る方法(5):明確な目的意識とミッションを持つ

明確な目的意識とミッションを持つ

「ブランドプロミス」とは、企業=ブランドが顧客に、何らかの価値を提供するとうたっていること、すなわちブランドの約束のことを指す。約束は果たされなければならない。しかし顧客にとって、「ブランドプロミスが果たされない」という事態はよく発生する。これは、その約束がマーケティングメッセージ先行になっていて、実際には企業全体の文化に根付いたものではないことに起因する。企業文化の醸成は、会社のミッションに対する真の目的意識を見出すことから始まる。

サントラスト銀行で顧客体験チームを率いた経験のあるジェフ ヴァンデヴェルド(Jeff VanDeVelde)氏は、目的意識とブランドプロミスを形成するにあたり、「外から中を見る」アプローチを取った。このやり方には、同銀行の自社に対する見方、また、顧客の同社に対する見方を、根本的に変える作用があった。

「サントラスト銀行の存在意義は何なのか、という命題に答える新しい目的意識から始める必要があった」とヴァンデヴェルド氏は述べている。以来、同銀行では、会社のミッションを忘れず、顧客に寄り添うための拠り所として、このアプローチを役立てている。

「顧客主導型」の社風を作る方法(6):情熱を持ち、社内の共感を得る

情熱を持ち、社内の共感を得る

企業のミッションは、社員一人ひとりが遂行できるものでなければ、意味をなさない。社員に信じられていないミッションは、成功するはずもない。

シティバンクのグローバルカード事業部門でデジタル/顧客体験の最高責任者を務めるアリス ミリガン(Alice Milligan)氏は、熱心な人材を社内で見つけるにしろ、社外から獲得するにしろ、「会社のビジョンを心から信奉し、情熱的に語れる人材たること」の重要性を強調している。

アメリカで9番目に大きなレストランチェーンであるパネラブレッドは、100%「クリーン」な食品の提供にコミットすると発表した。同社のブレイン ハースト(Blaine Hurst)社長によると、この挑戦は、すぐに社員たちに受け入れられたという。「経営リーダーが設定する目標が現場の心に響き、実際に理にかなったものであるとき、これを実現させようとする社内チームの新たなエネルギーには目を見張るべきものがある」とハースト社長は語る。

「顧客主導型」の社風を作る方法(7):常に顧客から学ぶ姿勢を持つ

常に顧客から学ぶ姿勢を持つ

肩書きに「チーフ(最高責任者)」がつくからといって、顧客理解という仕事から免除されるということはない。逆に「チーフ」こそ、顧客理解に対して最も大きな責任を有している。

この考えには、ハーバード大学ビジネススクールのレン シュレシンジャー(Len Schlesinger)教授も言及している。シュレシンジャー教授は、「顧客主導は、折に触れて顧客に注意を向けるというレベルではなく、組織の隅々にまで組み込んでいく必要があると認識すべき」と、幹部レベルのリーダーたちに呼びかけている。同教授はまた、「2017年は顧客の時代」を謳う記事や企業リーダーの多さに苦笑を漏らしている。

「どの年だろうと、顧客の年である」と、シュレシンジャー教授は断言する。

スニーカーブランド、ケッズのCMOであるエミリー カルプ(Emily Culp)氏も、この点に同意している。「アメリカを代表する婦人用フットウェアメーカーとして創業100年になるケッズが、時代に遅れることなく、現代的なブランドとして生き続けている理由は?」と尋ねられたカルプ氏は、以下のように答えている。

「率直にいうと、消費者から学ぶ姿勢があるからだ。ケッズでは、今現在の女性が何を欲しているかを、マニアックに追求している。消費者の意向が、我々の仕事のすべてを左右する」

「顧客主導型」の社風を作る方法(8):常に「インサイトの精神」に沿う

常に「インサイトの精神」に沿う

さまざまな理由から、プロジェクトは失敗することがある。ビジネスリーダーには、「もう十分」と見切りをつけるタイミングを知ることも求められる。

ホテルチェーンのマリオット インターナショナルで、インサイト、戦略、イノベーションのチームを率いるジェニファー シェイ(Jennifer Hsieh)VPの談話が面白い。マリオットでは、家族連れ宿泊客の体験向上を目指し、あるプロジェクトを企画した。休暇でホテルに宿泊する際、子どもがなかなか寝てくれなくて困っている親が多い、という発見にもとづくサービスだ。

マリオットでは、ふだん子どもたちが家庭でのベッドタイムに楽しみにしているおなじみの習慣を再現し、子連れゲストの力になろうとした。ミルクとクッキーのサービスである。しかし、クッキーの提供に関する食品安全性の問題、サービスをモニタリングする十分なスタッフの配置など、チームは実務上の障壁にぶつかった。結果として、宿泊客の体験はぎこちないものになり、本来の「子どもの寝かしつけの悩みに応えたい」という精神は感じられなくなってしまった。マリオットでは、すぐにこのサービスを廃止した。

「顧客主導型」の社風を作る方法(9):より人間的なビジネスを目指す

より人間的なビジネスを目指す

最後に。最善のアドバイスは、至ってシンプルなものだが、「より人間らしく」ということにつきる。シュレシンジャー教授の言葉を借りれば、「顧客を知ること。顧客が何を欲しているのか理解し、これを提供すること」である。

この点には、LinkedInのようなテクノロジー大手から、室内トランポリンパークチェーン、スカイゾーンの32歳のCEOまで、すべてのリーダーが賛同している。これらの会社が成功を収めているのには、理由がある。可能な限り顧客との距離を縮め、上記の原則を、すべて顧客に寄り添いながら実践しているからだ。

CMO.com
顧客体験制作会社 C SpaceのCEO
Charles Trevail による記事を翻訳   


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