生産性の視点欠く「脱時間給」の制度設計

社説
2019/1/8付
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働き方改革が後退しないか心配だ。労働時間規制に縛られずに働け、職務や成果をもとに報酬が決まる「高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)」の対象者が、より限定的になるからだ。

生産性向上を後押しする制度ができるのは前進だが、働き手や企業の使い勝手が悪ければ意味は薄れる。日本の労働生産性は主要7カ国で最も低く、引き上げは急務だ。制度設計にあたる厚生労働省は危機感を持ってもらいたい。

厚労相の諮問機関である労働政策審議会が、4月から始まる脱時間給制度の具体的なルールを盛った省令案と指針案を了承した。一部の専門職を労働時間規制から外すこの制度は働き方改革関連法で創設が決まり、適用対象の業務や年収基準などは詳細を省令や指針で定めることになっていた。

対象業務は想定されてきた金融商品の開発やコンサルタント、研究開発など5つのままだが、年収条件は一段と厳しくなった。これまで示されてきた「1075万円以上」には、成果や業績に連動する賞与など、支給額が未確定のものを含まないことになった。

年収1000万円超の人でも民間企業で働く人の4.5%にすぎない。柔軟に働ける新制度を活用できる人が当初の想定よりもさらに少なくなるのは問題だ。

企業による働き手への成果の要求や期限の設定も制限し、日時の決まった会議への出席の義務づけもできないとした。働き手の裁量を重視するのはわかるが、組織の生産性を下げる恐れがある。

対象業務についても、たとえばコンサルタントの場合、「時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務」などは除外される。現実的か、疑問だ。

厚労省が制度の対象者を絞り込んだのは、長時間労働を助長するといった反発が労働組合などに根強いことを踏まえたためだ。

だが労働者保護の点では、年104日以上の休日取得の義務づけや、いったん制度の適用に同意した人も撤回できるなど一定の措置がある。制度の対象者を絞り、働く人の選択肢を狭めるのは、労働者保護に反しないか。

脱時間給制度は専門性のある人などが広く使えるようにする必要がある。厚労省は機会をとらえて制度設計を見直すべきだ。仕事の時間配分を自分で決められる裁量労働制の対象拡大は昨年見送られたが、早期の実現を求めたい。

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