シリアに力の空白をつくるな

社説
2019/1/8付
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あまりに長い苦難の年月だ。シリア内戦が今年3月で9年目に入る。未曽有の悲劇から人々を救うには、一刻も早く内戦を終わらせ、すべての勢力が参加する和平プロセスを軌道に乗せるしかない。

そのためには内戦に介入する周辺国や関係国の関与が不可欠である。その役割を投げ出す米軍のシリアからの撤収は、無責任のそしりを免れない。力の空白はシリアの混迷を深めるだけではないか。

トランプ米大統領は過激派組織「イスラム国」(IS)を打倒したとしてシリア北東部に駐留する約2千人の米軍に撤収を命じた。

確かにISは支配領域をほとんど失ったが、まだシリアやイラクに数万人の戦闘員が潜伏するとされる。米軍撤収を契機に活動を再び活発化させることが心配だ。

米国はISの掃討でクルド人武装勢力を支援してきた。内戦はロシアやイランの支援を受けるアサド政権が優位に立ちつつある。米軍の一方的な撤収はクルド人を見捨て、政権の勝利を決定付けると非難されても仕方がない。

主権国家に対立国の軍隊が駐留すべきでない。だが、米国が欧州やアラブ諸国と内戦に介入し、反政府勢力を支援したのは、アサド政権による非人道的な弾圧を阻止するためだったはずだ。

シリアの和平プロセスは停滞が続く。政権と反政府勢力が参加し、内戦終結後の憲法改正を話し合う委員会を、国連が主導してつくる予定だったが、昨年末の期限までに設置できなかった。

アサド政権が全土を制圧すれば戦闘はなくなっても、国民は厳しい弾圧の下に置かれ続ける。ロシアやイランの影響力も増す。政権の非道な仕打ちに声をあげた人々が対等な権利を得る国民和解の実現はさらに遠のくだろう。

シリア内戦では30万人以上が犠牲となり、500万人以上が難民となって国を逃れた。日本を含む国際社会は連携し、アサド政権に圧力をかけるとともに、米国に対し、和平への関与を求め続けることが重要だ。

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