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デスゲーム終了後の世界ですが僕は残り最後の願いを叶えます。

作者:柴犬

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 帝都。


 この辺りでは最大規模の領土を誇る国だ。

 もっとも大小様々な小国が連携し共和国に近い国家を作り上げてる。

 その中の一角。

 帝都に幾つかあるダンジョンを内包した都市の孤児院に僕はいた。


 孤児院から割り当てられた相部屋の一つで僕は短剣を磨いていた。

 時間は夜遅くだったが【短命の明かり】で部屋を薄暗く照らしていた。

 刃こぼれは出来るだけ砥いで無くしたが……まあ此れぐらいで良いか。

 バランスは良し。

 後は油を塗るだけか……。

 其の時僕は誰かの視線に気が付いた。

 僕を見上げる五人の目に。

 獣人、エルフ、人間、ドワーフ、ドラゴンニュートの子供達。


「どうした?」


 僕は刃に油を塗りながら質問する。


「ガイ兄ちゃん子供なのにダンジョンに潜ったの?」


 ワクワクと、何か期待するような目で僕を見る獣人の少女。


「僕は子供じゃない。誰に聞いた?」


 きっ! と睨み僕は問い質す。


「シスター達が話してるのを聞いたの、黙ってダンジョンに潜ってたって」


 ひっ! と悲鳴を上げながらエルフの少女が涙を溜めて僕に答える。


「お前達も僕がダンジョンに入るのを止める気か?」


 五人がコクリと、頷く。

 はあ~~と、僕は溜息を付く。

 シスター達は僕がダンジョンに潜るのに良い顔をしない。

 それは純粋に僕の身を案じての事だ。

 あの程度の所で僕が傷つく筈がないのにだ。


 心配してくれるのは嬉しい。


 だけど僕が潜らなければこの孤児院は潰れるのは明白だ。

 この孤児院はその維持費に対して孤児の数が多い。

 その多くは捨て子。

 ダンジョン目当ての冒険者との間に生まれた子共。

 若しくは娼婦が客との間に生まれた子など理由は様々だ。


 孤児院はそれらを無制限に引き取ってる。

 其の為この孤児院は何時潰れてもおかしくない。

 事情を知ってる友人達が孤児の養子先を捜してくれてるが焼け石に水だ。


 ……匿名で寄付している僕の収入で持ってるようなものだ。



 この事は誰も知らない……筈だった。

 此れまでは……。

 それがばれた。

 それで叱責を受けたのだ。

 幸い僕がダンジョンに潜っているのはこの孤児院の為だと言う事はばれてない。

 今の内にどうにかしないと……。

 せめて自分がダンジョンに潜ってる間の時間を誤魔化さないと……。


「兄ちゃダンジョンは危ないよ! ぬぐっ……」


 人間の幼児が大声で叫ぶのを手で塞ぐ。


「他の子に聞こえたらどうする」

「どうして?」


 ドワーフの女の子が首を捻る。


「あ――……どうしたものか……」


 う~~んと、呻きながら頭を捻る。

 説明に困る。

 何処まで話したら良いか。

 兎も角ダンジョンに潜らないとヤバイ。

 他の仕事は僕のこの容姿(・・)では不可能だ。

 このままでは孤児院の維持は一ヶ月しか持たない。


 維持費の大半は寄付金で賄われてる。

 それに孤児院で経営しているシスター達の治療院の報酬だ。

 だが寄付金の多くは僕が出している。

 今それが無くなれば一ヶ月持てば良い方だろう。


 それ以上となると孤児院は潰れる。

 孤児達は路頭を彷徨うだろう。

 路上生活などはまだ良い方だ。

 中には奴隷商人や娼婦に捕まり売られてしまうだろう。


 他にも懸念がある。

 この都市のスラムを根城にする悪党どもの存在。

 以前ここの孤児を狙った悪党が居た。

 それらは全てシスター達が叩きのめし大事には至らなかった。

 五十人居たのに僅か数分で叩きのめすシスター達。

 その姿は圧巻だったと。

 決してシスター達に恐怖で漏らした等と言うまい。


 それはそうと、シスター達の事だ。

 孤児を養うためにかなり無茶をするだろう。

 その結果孤児が攫われたら意味が無いと思う。

 う~~んと、僕は更に首を捻る。

 此れしかないよな……。


「お前達、皆は好きか?」

「「「「「好きっ!」」」」」


 おおう……。

 五人の迫力に僕は声を詰まらせる。


「皆と離ればなれになるのは嫌だろう」

「「「「「うん」」」」」

「今のままでは皆離ればなれになる」

「「「「「……」」」」」


 考え込んでるな。

 良し。


「僕が皆の為に、お金を稼がないと駄目なんだ分かってくれるな?」

「「「「「兄ちゃんが死んじゃうから嫌っ!」」」」」


 予想外の反応に僕は言葉を詰まらせる。


「皆の為なんだ協力してくれないか?」

「「「「「う~~」」」」」


 上目遣いしない。

 どんだけ僕の事が好きなんだ。

 僕は子供好きではないんだが……。

 ま……まあ――後で焼き菓子でも作ってやるか。


「頼むよ協力してくれよ~~」

「「「「「何を手伝えば良い?」」」」」


 僕の懇願にようやく応えてくれる気になったみたいだ。


「僕がダンジョンを潜ってる時シスター達にばれないようにしてくれ」

「「「「「……」」」」」

「その資金で新しい治療院を作る」

「「「「「う~~ん」」」」」


 ふ~~と、僕は溜息を付く。

 五人とも沈黙している。

 というか息がぴったりだな。


 協力は無理かな?

 後はどうやるかだ。

 最悪――孤児院から抜けだすか~~。

 知人を通して孤児院に寄付すれば良いかな。


「兄ちゃん条件が有る」

「うん? 僕に出来ることならいいが……」


 おずおずと、ドワーフの少女が僕に真剣な顔で近づいて話しかける。


「孤児院の皆に勉強と魔術に武器の扱い方を教えて下さい」


 この中で一番年上のドラゴニュートの女の子が僕に懇願する。

 あ~~と、僕は考え込む。

 勉強は一応シスター達が教えてくれる。

 だが頻繁にではない。

 仕事が忙しいからだ。

 現在この孤児院で勉強が出来るのはシスター以外は僕しか居ない。

 シスターは僕の学力を知ってから自由にさせている。

 まあ僕はと言うと暇を見てはそれとなく教えてるが頻繁ではない。

 しかも年少組にのみ教えてるレベルだ。

 面倒だし。

 本格的に教えろということだろう。


「良いぞ」


 僕は拍子抜けた感じで返事をした。


「「「「将来お嫁にして下さい!」」」」

「だが断る」


 キッパリ断った。


「「「「えええええっ!」」」」


 ガ――ンと、絶望する少女達。

 おかしい。

 僕は結構、皆と距離を取ってたので子供に懐かれる筈は無いんだが……。

 しかも嫌われるようにしている筈なんだが……。

 あっ……。

 この子達に何かフォローしとかないと……。

 人形を作って上げようかな?

 確かドングリと余った布が有ったな……。

 後でやろう。


「「「「何でええええっ!」」」」

「僕は今年で四十七歳、君らと年齢が合わないよ」


 僕はロリコンでは無い。

 それは断言できる……筈。

 だよね。


「「「「嘘だああああっ!」」」」

「本当だ」


 多分。


「「「「私達と同じ位の年齢じゃない嘘だああっ!」」」」

「あ~~」


 四人の言葉に僕は溜息を付く。

 因みに僕の外見は確かに子供だ。

 但しそれは外見のみ。

 種族を小人族に選択・・したからだ。

 但し今現在小人族は全滅してる。

 僕は例外だ。

 原因は分からない。

 最後に存在していたのは千年前。

 僕が少し前にこの辺りに住んでいた時代・・だな。

 千年前ぐらいだな。


「だからね僕は小人族だからこれ以上成長しないんだって」

「「「「「嘘だあああああああっ!」」」」」


 人間の男の子も混ざって絶叫する。

 大きな声を出すなと言ったのに……。

 小さい子達が起きてくるだろう。


「兄ちゃん達何してるの?」


 というか起きてきたよ。

 ギイ~~と、ドアを開け四歳ぐらいのエルフの男の子が。


「あ~~もう~~何でも無いよ寝なさい」

「うん」


 そのまま寝ぼけ眼でドアを閉める男の子。


「ふう~~前にも言ったが僕は大人なの」

「嘘だ~~背も小さいし子供だ――痛いいいいっ!」


 男の子の側頭部をグリグリと拳で押さえる。


「だったら、もう一度話してやろう――」


 千年前に本当の意味で始まったこの世界を。

 そしてデスゲームが終わり僕が残る事を選択した世界の事を。













 千年前。


 眼前に立ちはだかる絶望があった。


 それは眼窩の辺りに妖しい火を灯している。

 上半身は人型。

 下半身は獅子。

 白骨の巨人にしてキメラ。

 その両手には長さ五メートルの巨大な剣を携える。

 全長は二十メートルを超える絶望の化身。


「GAAAAAAAAAAAAAAA!」


 先程の一振りで同じ攻略者だった仲間は硝子(・・)のように砕け散った。

 当たり前だ。

 この世界は現実世界ではない。

 ゲームの世界だからだ。

 正確には元と付くが。

 仲間達には対魔術及び対物理防御魔術がかけてあったのに死亡した。

 それだけ敵の攻撃力が高いと言う事だろう。


「怯むなっ! 後衛は魔術防御及び物理防御魔術の詠唱開始っ!」


 隊長の指示に従い詠唱の声が上がる。

 魔術の重ね掛けだ。


「遠距離射撃部隊っ! うてええっ!」


 ビユンっ! と、牽制の為の矢が複数放たれる。

 本来こういったスケルトン系の敵に弓矢は不向きだ。

 だが遠距離射撃部隊は例外。

 全員が精密射撃を可能としたジョブの持ち主で構成されている。


「「「【大気の盾】――起動」」」

「「「【魔術障壁】――起動」」」


 矢が正確に骨の中心に的中。

 そのまま突き刺さる。


「近接部隊いけええええっ!」


 隊長の号令と共に各種防御魔術がかけられた僕達は突撃した。


「ああああああっ!」

「だああああああっ!」

「はああああっ!」


 眼前の絶望に恐怖が込み上げてくる。

 それを押さえつけ襲い掛かる僕達。

 眼前の絶望化身の名を教えよう。


 其の名は【門の守護者ゲートキーパー】。

 デスゲームと化したこのゲームの現実世界帰還への最後の試練だ。



 体験型ネットワーク対応RPGゲーム【ユグドラシル・オンライン】。


 元は末期癌患者向けの医療機器として開発された物をゲームに応用した代物だ。

 元となった医療機器の名は【楽園】。

 本来は末期患者の最後を苦痛の無い第二の人生を送らせる物として開発された。


 まず登録された使用者は脳内から放たれる微弱な電気信号を専用の特殊な電子機器で読み込ませる。

 すると使用者は現在の五感から切り離される。

 そして設定された時代、年齢、環境で文字通り幸せな第二の人生を送る事が出来るのだ。

 好きな時代を謳歌できるように時間は現実世界より速く加速されている。

 具体的に言えば現実での一分は設定された環境の中では十年に匹敵される。

 本来は残り僅かに残された末期患者だけの措置だった。


 此れに目をつけた某ゲーム会社は色々な工作を行い特許使用料を支払って新世代RPGを開発した。

 その完成度に日本中が湧いた。

 だが初の正式サービス開始された直後に事件があった。

 某国のサイバー攻撃で幾つもの安全措置がされていた筈のゲームが全て解除されて暴走。

 事実上のログアウト不能状態になった。

 最悪なのは厳重に保護されていたゲーム内時間加速調整管理プログラムが破損した事だ。

 この所為で無制限にゲーム内時間が加速されることになった。

 外からの救援は期待できない。


 通常のログアウトは不能。


 ステータス画面にあるログアウトボタンも使用不能。

 ゲーム世界での死は復活できず蘇生は不可能となった。


 こうして通常の方法ではゲームの使用者はログアウト出来なくなっていた。


 残された手段は唯一つ。


 全五十層からなるダンジョンをクリアした者のみ現実世界に帰還できる。

 という最終手段。


 それがこのダンジョンだ。


 ダンジョンの名は【時騙し】という。


 名前はプレイヤーがつけた。

 由来はダンジョンの特性に由来する。

 このダンジョンは深層に潜れば潜るほど時間の流れが緩やかになる。

 最深部に近ずく程その傾向は強い。

 恐らく最深部の時間の流れは現実世界に近づいてるのからだろう。

 だから浅い階層なら兎も角。

 深層に挑む物は覚悟しなければならない。


 ダンジョンの外に暮らす友人達と二度と会えない事を。

 それを覚悟しなければならない。



 ダンジョン攻略に挑んだ者は全部で二万人。

 残りは帰還を諦めこの世界に残るのを選択した。

 そして生き残った攻略組は僅か十人。

 其の中に僕は居た。


「いくよっ!」

「あいよ」

「だああああああっ!」


 速度に優れ回避能力の高い僕が牽制。

 その間に魔術師のジョブを持つ者が相手の防御力を下げる【暗黒の霧】を重ね掛けする。

 他はタンクが敵の攻撃を凌ぎアタッカーがダメージを与え続ける。


 敵の動きが変わり全身が赤く輝く。



「第二形態だっ!」


 第二形態。


 ひっと悲鳴を上げる仲間の一人。

 自分達の前に眼前の敵と戦い全滅した部隊がいた。

 彼らが託した情報が脳裏に浮ぶ。

 防御を捨てた攻撃状態。

 それが第二形態だ。


 喉の痛みを感じる。

 ごくりっ、と喉を鳴らすが最早唾液が出ない。

 唾液になるほどの水分が無いのだ。


「全員死力を尽くせえええっ!」


 隊長は僕達に激励する。


「突撃するっ! 援護を頼むっ!」


 隊長の言葉と共に装備が現れる。

 其の姿は巨大なランスを持った重戦士だ。

 仲間達の顔が変わるのが分かる。

 突撃重兵士。

 全ジョブ中、圧倒的な突撃能力を持つ。

 一撃の攻撃能力なら全ジョブ最強。

 但し回避能力は無く防御は鎧任せ。

 目標に対し唯一直線に突撃をするという攻撃手段しかもっていないジョブだ。

 対攻城専用ジョブ。

 元は攻城専用のジョブだがあまりの使い勝手の悪さに忌避された不遇のジョブだ。


 外れれば命は無い。

 隊長は其れを選んだのだ。


「ああああああああっ!」


 ランスを構えた僕達は突進。

 一直線に驀進。

 土埃を上げながら爆走。

 巨大な腕から繰り出される剣を砕く者。

 獅子のような足を砕く者。

 体勢を崩した頭部を砕く者。


 こうして僕達は奥の手を使いゲートキーパーを倒す。

 そうしてデスゲームは終わった。

 多くの犠牲者をだして。










「なあ本当に残るのか……」

「まあね」


 仲間の一人が現実世界への出口を前に僕に問いかける。

 手を広げ肩を竦める僕。

 ふう~~と、僕はため息を付く。

 引き止めてくるのは予想済みだった。


「現実世界に未練は無いのか」

「有るけど……」

「じゃあ何で……」


 仲間が現実世界へと帰還する中、僕はは残る事を選択していた。


「末期の癌なんだ」

「癌……じゃあ……【楽園】を使っていたのか」

「まあね。それに身寄りも居ないし最後に第二の人生を送る気だったんだ」


 すんっと、鼻を鳴らす僕。

 家族なんか居ない。

 高齢だった両親はもう既に他界している。

 仕事が面白くて家族を省みなかった。

 仕事人間だった僕に愛想をつかした妻は子供を連れて出て行った。


 気が付けば一人なっていた。


 それでも仕事一筋に生きてきた僕にある日悲劇が起きる。

 末期の癌。

 告知を受けた僕を会社はあっさりと切り捨てた。


 何もかも失った僕は第二の人生を歩むことにした。 

 それがこの世界。


 まさかデスゲームになるとは思わなかったけどね。


「なら何で攻略組に志願したんだ?」

「君らが攻略を望んだからだよ」

「それだけの理由で――……自分の家族は会いたくないのかっ!」

「僕には会いたい家族は居ない。家庭を省みなかったからね」

「しかし……」


 何かを堪えるその顔に僕は自分の決断が誤りではなかった事を確信した。

 こんな僕の事を思ってくれる仲間を手助け出来て良かった。


「家族と思えた人は、こんな僕を受け入れてくれた君達なんだ」

「……そうか」

「残り人生、僕の事をおぼえていてくれ」

「ああ……すまない」


 こうして仲間と僕は分かれた。

 仲間は現実世界へ。

 僕はゲームの世界へ。


 つまらない時間が今から始まる。

 友人は現実世界へ。

 僕を知る者の無い世界へ。






「此れは……何でこんなに発展してるんだ?」


 入口に転移する装置でダンジョン外にでた僕。

 その様子に僕は驚く。


 かつて此処は粗末な小屋が建ち並ぶ粗末な村だった筈。

 なのに其処は大都市になっていた。


 そして違和感。

 何故か冒険者がダンジョンに潜りこんでいるのだ。 


「何でこんなに冒険者が居るんだ?」


 攻略前は自分達以外は潜らなかったのに。


「おい坊主見ない顔だな。お前もダンジョンに潜ってたのか」

「ああ」


 すると全身鎧を着込んだ男に話しかけられた。


「何処から侵入してきた」

「向こうからだが……」

「嘘を言うなっ! ダンジョンの奥から侵入したと言うのかっ!」

「嘘も何も言ってないんだが……」


 気が付くと統一化した鎧の男達に取り囲まれていた。

 この男達は衛兵か?


「身分証明は?」

「無いけど」

「あ~~詰め所に来てくれ」


 都市への入国をしようとしたとして衛兵に捕まった。

 まあ見た事も無い子供がダンジョンの入口に居たから不審に思われたんだろう。

 詰め所で色々聞かれたので正直に答える僕。

 此方としても何らかの情報が欲しかったから色々質問させてもらった。


「デスゲームの世界?」

「ああ元は普通のゲームだったが……」

「何を言ってる人が死んだら砕けるのは当たり前(・・・)だろう」


 この世界がデスゲームの世界。

 正確に言えば強制イベントが無くなったデスゲームの世界だ。

 そう言っても信じてもらえなかった。

 うん。

 自分の立場が衛兵なら信じられないだろう。

 だけど聞いてみたかったから仕方無い。


「君は子供では無い?」

「ああ小人族という種族だ」

「何だ其れは? 知らないぞっ!」

「え~~」



 やばい。

 まさか子供でないと言っても信じてもらえない。

 大人なら兎も角。

 小人族は見た目が子供なので当然かも。

 泣きたい。


 この時代、他の亜人は存在する。

 だが小人族の存在はあまり知られてなかった。

 知っていても御伽噺の中だけ。

 だから僕のような存在を見ても信じられなかったみたいだ。


 此れは千年前の時点で小人族自体が少なかった事が原因だ。

 千年前……。

 そう……あれから千年程ダンジョン外の時間は流れてたらしい。

 其の為、全ての小人族は全滅したみたいだ。


 それよりも、この不自然なな程多い人の数。


 明らかに記憶にあるプレイヤーの人数ではなかった。

 衛兵の話を聞いて僕は、ある仮説が立てた。


 答えはプレイヤー同士の結婚での人口の増加。

 若しくはNPCとの婚姻による人口の増加だった。



 あの後僕はどんなに言ってもホビットと信じてもらえ無かった。

 飢えのあまりダンジョンに潜り込んだ子供だと判断されたみたいだ。


 泣きたい。



 え?

 僕がどうなったかって?


 孤児院に放り込まれました。


 それで孤児院に世話になったので孤児の面倒を見ていたら懐かれました。


 何とか距離を置いたにも関わらずだ。

 本当に何故だろう……。


 ああ~~後で洗濯の手伝いと繕い物しないと~~。

 ああ~~何か安くて旨い御菓子を作らないと。

 タンポポコーヒーも作らないと。

 孤児院の皆好きなんだよね~~。


 貧しいながらも楽しい食事を食い眠る。

 それが何時しか当たり前になった頃。


 夜中シスター達が話をしている事を聞いた。

 どうも孤児院の経営が思わしくなかったみたいだ。


 孤児院は人々の善意と寄付金それに治癒院で成立していた。

 だけどそれだけでは維持費が足りなくなっていた。


 今現在も孤児の人数が増えるかだ。

 捨て子が多いのだこの都市は。


 この都市は夫婦で冒険者で身を立てるものが多い。

 その中には子が出来て捨てる者もいる。

 親が死んで路頭に迷う者も居る。

 また娼婦が多くが子供が出来たらすぐさま此処に捨てにくるらしい。


 孤児院が出来る前の捨てられた子供は直に死んでいたらしい。


 運が悪ければ凍死。

 若しくは野犬に襲われ死亡する者が多い。

 運が良くても奴隷商人に売られたりとか。


 其の中で僕は冒険者を親に持つ孤児と思われたらしい。


 少ない維持費に対して多くの孤児がいる孤児院。

 孤児院が潰れるのは時間の問題だった。


 なので僕はアイテムボックスにあったアイテムや素材、魔石を提供する事にした。

 だがシスター達に断られた。

 全て親が僕に残した財産だからと言われた。


 頭を抱える僕。

 そこで名案を思いつく。

 ダンジョン近くに割高の治療院を作ろうと考えたのだ。


「そんな訳で思いついたのは良いが資金が無いんだよ」

「「「「「ふえ~~」」」」」

「それでダンジョンに潜って建築費を稼ぐから協力してくれ」

「「「「「うん」」」」」


 こうして五人の協力の元僕は資金を集めるのに成功した。

 そして隙を見てダンジョンに潜って得たアイテムやお金を第三者を通じて孤児院に寄付した。

 それらは治療院の建築費に充ててもらった。



 さて僕が何故新しい治療院を作ろうと思い至ったか話そう。


 ダンジョンから生還した者は魔力を使い切り息も絶え絶えの状態だ。

 そこでダンジョン外で割高の治療院を営業する事にした。


 この辺はダンジョン近くに魔物が溢れた時の事を考え近くに人は住まない様にしている。

 まあ……あまり意味がないと思うが……。

 それに、それが杞憂だという事を僕だけが知っている。

 ダンジョンの魔物は中から溢れないように調整されているから。


 千年前何度も検証したからだ。


 数日後。


 孤児院は持ち直した。

 予想以上に治療院は売り上げが良かったからだ。

 とはいえ今は最初ほどの売り上げ見込めなくなったが……。


 他のライバルが次々と治療院を建てていったからだ。

 まあ~~維持できればいいか。

 それに収入は孤児院の治療院の方が良い。


 何故なら【小治癒】に限り格安で治療を出来るようにしたからだ。

 僕が【小治癒】の無制限に使えるマジックアイテムを渡してるせいです。

 第三者を通じて。

 無論そのままでは怪しまれる。

 なのでマナポーションに似た力を持つ薬草をシスター達に与えるよう指示。

 此れで魔力を回復しながら治療していると思われる様にした。

 そして僕は暇になった。



「ということが有りました」


 などと酒場の店主に話す僕。


「ねえ聞いてる?」

「はいはい」


 酔っ払いながら店主に話しかけるが聞き流される僕。

 酔っ払いの相手だからと、いい加減な態度だ。

 因みに酔っ払ってると言ったが気分だけです。

 子供に出す酒は無いと言われたからね。

 代わりに果物ジュースを飲んで酔っ払った気になってます。


 店主は本当にいい加減な態度だな。


 まあ~~仕方無い。

 酔っ払いの戯言と思われてるだろうな。


 何しろこの時代はデスゲームが始まり千年後の世界だ。

 真実を知る者は僕以外居ない。

 というか信じてくれない。


 僕の目の前にいるのはダンジョンに挑ま無かった者達の末裔。

 此処のゲームの世界に留まる事を選択した者の子孫。

 寂しいな。


 今の時代ダンジョンの深部を目指す者は居る。

 深部に行き【門の守護者】を倒せばどんな願いでも叶うという言い伝えがあるからだ。 

 誰がそんな言い伝えをしたんだろうか。

 だけど誰も深部へと至る道をを知らない。

 僕が其処へと至る道を隠し封じたからだ。



 何故か?

 簡単な話だ。

 危ないからだ。


 確かに最深部の守護神を倒せばどんな願いでも叶う。

 だけど此れは半分真実で半分誤り。


 有るのは三つの機能。

 此れが何でも叶うという言い伝えになったんだろう。


 最初に現実世界への帰還方法。


 此れはもう意味が無い。

 僕以外帰還する者は居ないから。


 次にダンジョンの改造の権限。


 これで最深部には行けない様に僕が改造した。


 最後にステータスを弄る事の出来る権限。


 この機能が何でも願いが叶うという言い伝えになったんだろう。

 これは使い方を間違わなければ神にも悪魔にでもなれる。

 此れで僕は不老不死になった。

 本当の願いを叶える為に。

 だけどそんな事をしなくても気が付いたら願いは叶っていた。



 願いは叶った。


 僕の本当の願いが。


 但しそれはダンジョンの奥じゃない。

 此処で願いは叶ったのだ。



 孤児院で家族が出来た。



 まあ子供と間違われたのは嫌だったが家族が出来た。


 僕を我が子のように可愛がる親代わりのシスター達が。


家族が出来た。


 僕を弟のように可愛がる姉や兄代わりの孤児達が。


 家族が出来た。


 僕を兄のように慕う妹や弟代わりの孤児達が。




「こんな所で僕の願いが叶うとはね……」


 僕は静かに果物ジュースの入ったコップを揺らした。



「また此処居た兄ちゃん勉強教えてくれる約束だよ」

「剣を教えてくれる約束だよ」


 酒場に突然現れる子供達。

 それとシスターが一人。

 全員が孤児院の子供たちだ。



「え?」


 そのまま僕の両手を掴む男の子達。


「遊んでくれる約束だよ」

「一緒に御風呂に入ってくれる約束だよ」

「ええ?」


 更にむんずと僕の両足を掴む女の子達。


「オレンジジュース入っが僕の楽しみがっ! というか御風呂に入る約束してないぞ」

「「問答無用です~~」」

「ぎやああああああっ!」


 そこへ僕を見下ろすシスター。


「今日の夕飯をよろしくね」

「シスター僕の記憶が正しければ貴方が今日の担当では?」

「めんどい」

「この横着シスターいい加減にしろおおおおおっ!」

「聞く耳もたない~~」

「いやああああああ家族何か嫌いだああああああっ!」

「「「「「いや~~喜んでくれて嬉しいな~~」」」」」

「喜んでないいいいいいいいっ!」



 僕の悲鳴が辺りに響いた。









 最後に残ったマスターは一言呟く。


「何だ良い家族を持ったじゃないか……あいつ」


 キュキュとグラスを拭く事を再開するマスターだった。






















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