「広くてたくさん遊べる」「車通りが少なく、学校が近い」
人気のショッピングモールに隣接するJR武蔵野線新三郷駅から歩いて5分。可愛らしいロゴマークが描かれた入り口の案内板が目を引くUR都市機構のみさと団地(埼玉県三郷市)。緑豊かな敷地内に入ると、子どもたちの元気な声が聞こえてきます。
賃貸住宅と分譲住宅を合わせて約9000戸のみさと団地の敷地内外には、複数の保育園、幼稚園をはじめ小中学校もあり、団地で暮らす子どもたちは車の交通量の多い大通りを通ることなく、学校に行くことができます。放課後、団地に本拠を置く子育て支援NPO法人「MiKOねっと」が、小学生を対象に、遊び集う場所として「われらあそび隊inみさと団地」を週2回のペースで集会所で開催しています。今年10月中旬、子どもたちは、黄、青、緑色など思い思いの色のスライム作りに挑戦。「先生、次に何を混ぜるの?」「できました」。遊びの先生であるMiKOねっと代表理事の工藤トモさんや理事の西脇紀子さんの腕をつかまえて次々に話しかけます。「『地域のおばちゃん』がいる場所として来てもらえたらうれしい」と工藤さん。
「われらあそび隊inみさと団地」に参加する子どもたちのほとんどが、みさと団地で暮らしています。みさと団地の自慢できるところを聞いてみると、小学2年生の女の子2人は、「車通りが少ない」「近くにいろいろなお店が多い」「歯医者さんなど住む時に必要なものがそろっている」「学校が近い」。別の女の子は「公園のピンクの滑り台」と「雨の日でも遊べる(団地内の通路の)トンネル」を教えてくれました。芝生を元気に走り回っていた小学2年生の男の子3人からは、「広くて友達とたくさん遊べる」との答えが返ってきました。
子どもたちを起点に、人のつながりが生まれる
みさと団地のセンターモールにある「みさとのおみせ mi*akinai」の中に11月1日、「おかし☆カフェ ぺんぎん」がオープンしました。お菓子やランチは山川茉実さんの手作り。これまで、同じ場所で「1日店長」として、ランチや手作りのケーキなどを販売していました。
山川さん自身も、小学生2人のママで、子育てをしながら自分のお店を持つ夢に向けて一歩を踏み出しました。「みさとのおみせ mi*akinai」はURが団地の活性化を目指して開設した多世代コミュニティー活動拠点で、女性の自立、家事や育児の両立支援などに取り組むNPO法人To Going Concern for Women(GCW)が運営しています。GCW代表理事の吉川真由さんは、「子育て中のママがちょっとしたおしゃべりをしたり子育ての悩みを話したりするためにいらっしゃいます」。カフェの隣のスペースでは、英語やピアノといった子ども向けの習い事も行っており、吉川さんは共同経営者の山田絵里子さんと一緒にエステやメークのサービスを始めました。カフェの常連客には、団地で暮らすお年寄りも増え、吉川さんは「団地の高齢のお客さまもたくさん来てくださり、少し顔を見ないと心配になる時があります」。
10月末には「みさとのおみせ mi*akinai」のある広場で、ハロウィンパーティーが開かれ、子どもたちが参加できる手作りのワークショップやスタンプラリーが行われました。「若い方向けのイベントをしたいと考えて自治会もお手伝いしています」とみさと団地自治会会長の小橋恒夫さん。ここでは子どもたちを起点に、温かい人のつながりの輪が生まれてきています。
子どもたちの元気な声でにぎわう
みさと団地の南地区に、子育て世代を意識したエリアとして誕生した商店街「グレンタ」。2016年にオープンした焚き火用の薪など火とアウトドアの専門店「iLbf」(イルビフ)は、専門店ならではの豊富な品ぞろえとテントを張って実際に火を燃やすデモンストレーションのスペースがあり、東京をはじめ埼玉県外からの顧客も多く、子どもを連れて家族で訪れる人も目立ちます。オーナーの堀之内健一朗さんは「常連のお客さんのお子さんと団地のお子さんがいつの間にか仲良くなっていました。子どもたちだけのルールがあって団地の中で一緒に遊んでいます」と、団地ならではの立地にうれしい発見があったといいます。「お子さんが団地で遊んでいる間に、お客さまはゆっくり店内を回って楽しまれています」と堀之内さん。
「iLbf」の隣の「カフェ香りの郷」。オーナーの山口美香さんがお客様の顔を見てから一杯ずつ豆を挽きます。週末は、「iLbf」を訪れた後の家族連れや、平日にベビーカーで赤ちゃんを連れて1人で来店する女性客の姿も。山口さんは「おいしい一杯のコーヒーとともに、子育ての合間に一息つける空間になっていたらうれしい」と語ります。
商店街の名前である「グレンタ」は、スウェーデン語で森の中の小さな広場を意味します。この広場は、子どもたちの元気な声とともに、にぎわいを見せています。
家賃割引など、子育て世代向けの施策を拡充
UR賃貸住宅は全国約73万戸。日本の高度成長期に住宅不足の解消に向けて多くが建設され、「団地」として親しまれてきました。近年は、都心回帰や人口減少など社会環境は大きく変化し、社会で求められる団地の役割の位置づけも変わってきています。
時代とともに変わる団地の役割の変化に対応するため、URは、少子高齢化社会に対応して、団地の中に、まちに必要な機能・サービスを導入し、若年層から高齢者まで多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まち「ミクストコミュニティ」の形成を目指しています。
地域によって様々なニーズがあり、その地域の自治体や活動団体、企業、そしてそこで暮らす人々と連携・協力して、子育て世帯を応援する機能・サービスの導入に取り組んでいます。
こうした中、家賃を割り引くなど、若い世代、子育て世代を呼び込む施策を拡充しています。子育て世帯向けには、最大9年間、家賃が20%引きになる「子育て割」をはじめ、親子二世帯が近くで暮らす「近居」者を対象に、指定したエリア内で親族同士が近居した場合に5年間、家賃が5%減額になる「近居割」などを展開しています。
また、みさと団地には、子育て世代に人気のスウェーデン発祥の家具大手イケアがコーディネートした賃貸住宅があり、人気を集めています。他の団地では、無印良品とのコラボレーションも行っています。