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呪刻印のSランク冒険者 ~勇者パーティーを〝壊滅〟させた最強賢者、転生して自由に生きる~ 作者:すみもりさい

第二章:伝説の賢者は冒険者になる

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冒険者登録をした


「こちらがアサルト・ボアーの買い取り代になります。お確かめください」


 手のひら大の布袋が受付カウンターに置かれた。中はほとんどが金貨だ。


「す、すげえな。これなら一年は生活に困らねえぞ」


 付き添いのおじさんが目を丸くする。


「宿代の相場ってどのくらいなんですか?」


 答えたのはエミリアさんだ。


「そうですね、安いところなら銅貨で七、八枚。そこそこならそれに銀貨を一枚プラス、というところでしょうか」


 僕はちょっと考えてから、銀貨と銅貨をいつくか取り出しておじさんに差し出した。


「宿代とアサルト・ボアーの運搬代金です」


「君なあ……いや、律義なのは今さらか。変に遠慮しても納得しねえもんな。んじゃ、これはもらっといて」


 おじさんは受け取った銀貨を袋の中に戻してしまった。


「これは助けてくれたお礼分だ。つっても全然足りないから、今後も遊びに来てくれりゃあカアちゃんの手料理を振舞わせてもらうぜ」


 この人も大概律義だな。僕が遠慮しても納得しないだろうね。僕は「そうさせてもらいます」と笑みを返した。


「では冒険者登録を進めますね。まずはこちらの登録用紙にご記入ください」


 ペンを受け取り、さらさら書く。

 冒険者のタイプは『テイマー』。魔法支援タイプにチェックを入れる。登録料が必要なので、さっきもらった袋から必要額を出した。


「……はい、こちらで問題ありません」


「これで終わりなのか? 冒険者登録って簡単なんだな」とおじさん。


「登録は、ですね。基本は誰でも登録できますから。問題は……等級審査です」


 エミリアさんは「ではその辺りを詳しく説明しますね」と紙を取り出した。


「冒険者登録をしても、すぐに依頼を受けられるわけではありません。依頼は難易度によってランク付けされていて、同等以上のランク――等級を持っていないと受けられないんです」


 紙には七つの等級が記されていた。

 最上級がSランク、次がA、以降はB、C、D、Eと続き、最下級はFランクだ。


「Sランクはかつての十勇士クラスを想定したもので、当ギルドの裁量だけでは選出できません。Aもそれに近いですね。実質、当ギルドの等級審査で到達できるのはBランクになります」


 それでも数人しかいないそうだ。


「登録後、まずは最初の等級審査――初期審査を行っていただきます。C以上は依頼実績を加味した等級ですので、登録直後の最高位はDランクとなります。まあ、ほとんどの場合はFランクスタートになりますね」


「ははは、クリスならDは余裕だろうよ。なにせファルがいるんだからな」


「……たしかにテイマーは使役する魔物の強さで上のランクを狙えますけど、そう簡単でもありませんよ。やはり実績がなければ審査は厳しくせざるを得ませんから」


 僕はFランクスタートでも構わない。むしろそっちのが気が楽だね。


「審査って具体的にはどんなことをやるんですか?」


「依頼の多くは荒事が関わります。ただの素材集めでも魔物の棲息地に足を踏み入れる場合もありますので。ですから戦闘能力の審査がメインとなりますね」


 各々が得意とする武器の扱い、守りの要なら防御力、そしてやっぱり――。


「魔法の能力が重要視されるんですね」


「えっ?」


「ん?」


 エミリアさんはきょとんとしたものの、僕の登録用紙を見て笑みを作った。


「あ、そうですね。クリスさんは支援系でしたか。その場合は魔法でのサポート能力が重要になってきます」


 なんだろう? 言葉の上ではきちんと噛み合っているのだけど、なにか違和感がある。

 その後は冒険者の心得や規則の説明が続き、ひと通りの話でけっこう時間を食ってしまった。でも大切なことだからきちんと聞いておいた。


「本日の初期審査は午後一時からです。しっかり準備を整えて、時間までに一階受付ロビーのあちらにお越しください。説明は以上ですけど、何かご質問はありますか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


 エミリアさんにお礼を言って外へ出る。

 おじさんにも別れを告げ、適当にお昼を済ませてから、僕は再び冒険者ギルドへと戻った――。


 


 指定された場所には二人がいた。十五、六歳の男女だ。

 一人は剣士風、もう一人は木製の杖を手にした魔法使いの女の子だ。知り合いではないらしく、微妙な距離で押し黙っている。


 僕たちに気づくと警戒するような視線を飛ばしてくる。あいさつしたほうがいいのかなあ、と悩んでいると。 

「あぁん? なんでこんなとこに魔物がいやがるんだよ」


 背後からの声に振り向く。槍を持った軽鎧姿の若者がいた。歳は十七、八といったところかな。


「ああ、今朝魔物の肉を振舞ってた妙なテイマーってのはテメエかよ」


「初めまして。貴方も初期審査を受けるんですか?」


「まあな。つってもテメエらみてえなガキと一緒にすんなよ? オレはCランクを掻っ攫って、明日からバリバリ魔物狩りをやるエリート様だからよぉ」


 槍使いの彼は僕にずいっと顔を寄せてくる。


「特にテメエだ。よく見りゃ低級民じゃねえか。運よく魔物と契約できたみてえだが、こんなちんちくりんじゃモノの役にも立ちゃしねえよなあ。せいぜい気張ってFランクにしがみつきな。いつか荷物持ちで雇ってやるよ」


 ぎゃははと下品に笑いつつ、槍の先端をファルに向けた。


「クエッ」ぼわっ。


 あ、ファルの口から小さな炎が。


「うわちゃぁ!? あち、あちぃ!」


 彼の髪がちょっと燃えた。


「テメエ! 何しやがる!」


「すみません。でもいきなり槍を鼻先に向けるのはどうかと思います」


「ちょっとじゃねえかよ!」


「だからこの子も威嚇で抑えたんですよ」


 その気になっていたら彼の顔面は炎に包まれていた。魔物には冗談でも攻撃姿勢を見せちゃいけないのは常識だろうに。


 くすりと笑いが零れる。魔法使いの女の子だ。


「こういう威勢がいいのに限ってギリギリFランクなのよね」


「んだとぉ!」


「事実、今その魔物の攻撃を避けられなかったじゃないの」


「この至近距離でいきなりだぞ!」


「はいはい、言い訳はお上手だこと」


「このアマァ! たかが(・・・)魔法使いの分際でぇ!」


 憤慨する槍使いの前に剣士の少年が割って入る。


「もうやめましょう。ここで揉め事を起こせば審査の前に冒険者の資格を失いかねませんよ?」


 彼に追随するように「そうですよ」との声が背後から。受付のエミリアさんだ。


「冒険者同士の揉め事は等級審査にダイレクトに影響しますからね。自重してください」


「先に手を出したのはこいつじゃねえか! 魔物を自由にさせてるテイマーなんぞ冒険者とは認められねえよなあ」


 エミリアさんは僕とファルに視線を移してから、大きくため息を吐き出した。


「見ていましたけど、槍の先端を魔物に向ける非常識を先にしたのは貴方ですよね。それ以前にはクリスさんへの強い恫喝もありました。テイマーと契約した魔物は自分だけでなく主人の身を守ろうとするんです。そんな基本も知らないんですか?」


「ぐっ……くそっ!」


 槍使いはぷいっとそっぽを向く。でも歯ぎしりして僕をにらんできた。

 エミリアさんはまたもため息をつき、パンと気合を入れるように手を打った。


「お互いケガもありませんし、今のは不問にします。では初期審査を始めますので、みなさん私に付いてきてください」


 剣士と魔法使いが先に動いた。僕もその後に続いたのだけど、


「このままじゃ済まさねえからな」


 なんだか妙なのに目を付けられてしまったなあ。


「クエッ?」


 心配そうに僕を見るファルに、「君のせいじゃないよ」と笑みを返すのだった――。


次回は試験に臨みます。


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