クロイツと勇者候補選抜御前試合 その二十二 ~迷探偵クロリア編 犯人はお前だ! え? え? ええええぇぇぇ……~
「ポトルガノフ、到着したわよ」
入室した私に気がつかない二人に、私は城門側まで来ていることを伝える。
「おお! やっと来たか。では、配下の者に手を回しておくので、そのまま貴族用の門から入ってくるように。それと何か言われたらこれを見せるように」
そう言うと一枚の羊皮紙を私に手渡す。それはポトルガノフの
「用意周到ね」
「私は兄さんとは違う。危険は常に冒さないことにしているからな」
「なるほどね」
だから兄であるストロガノフを裏切ったと言うわけか。私はその証明書の礼をいうと、馬車までとんぼ返りした。
その際一緒にいた貴族の女が「話が違います」や「私は別れません」等と叫んでいたので別れ話の最中だったのだろう。エマ一筋の兄と違い弟は女癖が悪いようだ。
「おかえりなさいクロリア」
私が帰ってくるのに合わせてアリエルが馬車の扉を開けて待っていてくれた。私は解放された扉から飛び乗ると扉を閉めた。
「ありがとうアリエル。それとただいま」
しかし、あれよね、馬車の扉を開けて飛び乗るという行為は危ない。私はスキルで空を飛べるから良いけど他の子達が浮き板を使ったときこれじゃ怪我をするかもしれないわ。
私はポトルガノフ邸の窓からの侵入を思い出してアリエルに提案した。
「馬車の後ろにバルコニーみたいな部分作れば乗り降り楽じゃない?」
「その発想はなかったです。落ち着ける場所が手に入ったら作りましょうか」
「でも落ち着いたら馬車は使わないかもね」
「何をいってるんですか、覇者になったら国内は元より国外にもひっぱりだこですよ」
そうだった、後ろ楯の条件として覇者になることも含まれていた。覇者になればS級冒険者でも対処できない案件を依頼される。勇者はその性質上魔王以外の案件には関与できない、と言うか暇がない。レベルアップのための討伐はしても人助けの討伐はしないのだ。
だからこそ覇者がいる。あてにできない勇者よりも。身近な問題には覇者が必要なのだ。
まあ、覇者は依頼というより自分で選んで自分から行くそうなのだが。
定住地があって、たまにみんなで旅しながら過ごす、夢の生活。とっとと問題解決して手にいれなきゃね。
「あ、そうそう。戦闘があるかもしれないからみんな油断はしないでね」
「すぐに、ストロガノフさんを助けに行くのですか?」
「いいえ、その前に犯人探しよ」
私はキョトンとするアリエルにニヤリと微笑んだ。
城門にたどり着いた私達は貴族用の門から入場しポトルガノフから渡された証明書を見せると一人の兵士が来て自分についてくるように私達に指示をする。
エマがそれに従いその男の乗る馬の後を着いていくと王都内の人気の無い寂しい僻地へ案内された。
「なぜ、ポトルガノフ様の邸宅ではないのですか?」
エマが道案内の男に訪ねるが、男はここに案内するように言われただけだというだけでそれ以降なにも語らない。周囲には30人以上の兵士が隠れている、もちろんポトルガノフもだ。私は念のために録画用の浮遊球を浮かべさせた。出したとたんベルルが飛び乗ったのでお気に入りなのだろう。
「エマ無事でなりよりだ」
私達が馬車から降りると物陰からポトルガノフが出てきてエマの無事を喜ぶ。その後ろにはあの女も一緒に来ていた。情婦も連れてくるとかエマを捕まえてかっこいいところでも見せようというのだろうか。
エマがポトルガノフの側に駆け寄ろうとするところを私は制止させる。
「その男に近づいてはダメよ」
「何故ですか」
私はポトルガノフの方を指差し言う。
「ストロガノフを嵌めたのはあなたね、証拠もあるわよ」
証拠は録画した映像だ。ストロガノフはエマが死んでいると知っていた、もちろんエマは刺客を撃退したのだが、なぜエマが刺客に襲われたのを知っていたのかそれは刺客を送り向けた張本人だからなのだ!
「バレてしまっては仕方ありませんね」
その声をあげたのはポトルガノフでは無く、後ろの第二王子の娘サラサ・ラササだった。彼女はポトルガノフの前にズイっとでてエマを睨み付けた。
「私はあなたが憎かった、平民の分際でポトルガノフ様の心を奪ったあなたが。だからあなたの主人であるストロガノフ様を無実の罪に陥れ、絶望したあなたを殺す、それが私の計画だったのに」
ポトルガノフの心を奪った? エマが?
「サラサ何をいっているんだ」
ポトルガノフが驚愕の表情でサラサを見る。
「もういいです、こうなったら力ずくであなたを手に入れるのみ。者共であえ、国家転覆罪の共犯であるエマとその一味である引っ捕らえよ、抵抗するなら殺しても構わん」
その言葉と共に物陰から隠れていたフル装備の兵士達が現れて唸りをあげ私達に向かってきた。
私は張っておいた土蜘蛛の糸で兵士達の武器を切り落とし驚く兵士達に大声で言い放った「そこから一歩でも動けば命はない」と。もちろんそれでも私達に向かってきた兵士はいたが宣言通り首を跳ねたらすべての兵士は動くことをやめた。
「今の会話と私達を亡き者にしようとした強行は録画させてもらったわサラサ姫」
私は彼女にそう言うと録画した一部始終を再生した。彼女は言葉を失い、ただただ震えながらエマを睨んでいた。
「なぜこんなことをしたんだサラサ……」
「私はあなたが好きだった、だから貴族の地位を捨て平民の娘と夫婦になるなんて言うことが許せなかったんです」
そういうとサラサは泣き崩れた。あれ?
その後の説明でサラとポトルガノフは愛し合っており兄のストロガノフが王になった暁には地位を捨て夫婦になる約束をストロガノフとしていたそうで、もちろんストロガノフもそれを了承していたのだと言う。
「エマはストロガノフは好きじゃないんだ?」
「好きですよ、でもあのお方は王になるお方です。それにポトルガノフは地位を捨ててでも私を愛すると約束してくれましたので心が動いてしまって」
そう言うとエマは乙女の顔になりポトルガノフの胸に飛び込んだ。
ちなみにポトルガノフが刺客のことを知っていたのはサラサが伝えたからだそうなのだそして失意のポトルガノフを慰め肉体関係を結んだのだとか。
それとストロガノフを裏切っていた兵士達はすべてサラサの私兵だったそうで情報は筒抜けだったそうだ。
そしてポトルガノフに連れられ王と謁見した私はこの件を伝えたところストロガノフはすぐに釈放された。当然第二王子は娘の無実を訴えたが自暴自棄になったサラサが自分で罪を告白したため簡単に信じてもらえた。釈放されたストロガノフの代わりにサラサが幽閉されたのは言うまでもないことだが。
「さすがですクロリア」
「全部わかってたんですねクロリアさんすごいです」
「今回は認めても良いですよ」
「なのだ」
「さすがあたいのクロリアだ」
みんながみんな私を褒め称える気分が良いので訂正しない。
「クロリアさん、あなたのお陰で助かりました」
「気にしなくて良いわ、これで私のお墨付きももらえるんでしょ?」
「もちろんです、それに私のお妃候補でもあるわけですし」
「は? なんでそうなるの」
「私はあなたを好きになってしまいました。それに王家の者からペンダントを受けとると言うのはプロポーズを了解したと言うことなのです」
ああ、なるほどポトルガノフがペンダントを見て驚いていたのはそういう意味もあったのか。私はストロガノフに腹パンをかましペンダントを突き返した。
「ひ、ひどいなクロリアさん」
殴られても諦める気は無いですからと言うストロガノフに「これ以上その話を持ち出すならすべての話は白紙にするわよ」と脅すと「わかりました振り向いてもらえるように頑張ります」とまるで分かっていないので、もう一度殴った。
その日、私の労をねぎらうためのパーティーが催しされた。きらびやかなドレスに身を包みティアやディオナが浮かれているなかストロガノフが私に近づいてくる。
手を軽くあげ牽制するが笑顔を振り撒き私に近寄ってくる。懲りない男ね。
「労ぐらいねぎらわせてくださいよ」
怯えながらもそう言うストロガノフから
まあ、どうせ私に勝てる人間なんて、そうそういるわけ無いだろうけどね。そんなことを考えていると一人の優男が近づいてきた。
「始めましてクロリアさん、私の名前はゼロスあなたの対戦相手です」
どうやら、この男が私の対戦相手らしい鑑定眼で彼を見るとステータスとレベル共になかなかに高い、でも私の相手としては役不足ね。とは言え称号付きか、それも英雄、油断はできないわね。
「こちらこそよろしくねゼロスさん」
私がそう挨拶すると、彼は自分の話をしだした、正直興味がまるで無い私は上の空であいづちを打つ。
「それでアキトゥー神国の代表が復活されたクロイツ様になるそうなのですよ」
「え? クロイツ?」
ゼロスが突拍子もないことを言うので私は目をパチクリさせて聞き直す私に、誰だか分からないと思ったのかその人の名をフルネームで言い直した。
「アキトゥー神国第一王女、姫王と歌われたアキトゥー=クロイツ=シルフィーネ様その人です」
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