はじめに

富山シティフィルハーモニー管弦楽団では、2003年6月29日の演奏会でワーグナーの「ニーベルングの指輪」オーケストラ・ハイライトを演奏します。全曲をつないでひとつの管弦楽曲のように演奏するのは、指揮者の吉田裕史氏によれば「おそらく本邦初」ということで、それなりにすごい選曲だと自負しています。(この前日に、横浜で日本フィルがマゼール版で演奏していたそうです。よって、「本邦初」は逃したことになります)
さて、今回の演奏版の詳細及び他の版について、記録としてこのコーナーに残しておきたいと思いますので、どこかで演奏する時に参考になれば幸いです。

2006/9/10 RING視聴記 「ブリュンヒルデの自己犠牲~終曲」を更新!
2006/9/3 RING視聴記 「ジークフリートの葬送行進曲」を更新!




RING Highligts


富山シティフィル版
 指揮者の吉田裕史氏によると、この世界に「ニーベルングの指輪」のハイライトといわれるものは現在3種あるそうです。マゼール版、ヴリーガー版、メルクル版がそうです。(この3種の構成についてもいずれ分析するつもりです)
今回の演奏会では、もともと吉田氏の先生である指揮者の準メルクル氏の構成したヴァージョンを使う予定でしたが、所有者であるアメリカのボルチモア交響楽団の許諾がもらえず、吉田氏の監修のもとオリジナルの版を使うことになりました。メルクル版を参考にはしていますが、用意できた楽譜の関係もあり、全曲で40分の世界最短の独自な「ニーベルングの指輪」ハイライトとなりました。

 さて、言葉だけで説明するのは大変難しいので、楽譜のページをあげて説明していきます。使う楽譜は上記のDoverから出版されている5つのスコアを参照することにします。(これら全部そろえても15000円しかかからないのですから、たしかにDoverは安い!)

※「何小節目まで」と記したときは、その小節を含めます。

1 前奏曲~「ラインの黄金」第1場
この部分はドラティの演奏版を参考にして、多少カットしてつぎはぎをしました。
p1の1小節目から8小節目まで、17小節目から36小節目まで、p2の5小節目からp3の最後まで、p12からp15の最後まで

2 ニーベルハイム~「ラインの黄金」第2場
p154の14小節目からp160の最後まで、続けてp168の4小節目からp171の6小節目の2拍目まで。

3 ワルキューレの騎行~「ワルキューレ」第3幕第1場
p413の1小節目からp435の2小節目まで、続けてp470の1小節目からp475の3小節目まで、その後演奏会ヴァージョンの楽譜からエンディングの最後5小節。

4 ヴォータンの告別~「ワルキューレ」第3幕第3場
p662の2小節目の最初の音を、「ワルキューレの騎行」の最後の音に重ねて(同じコード)、p668の5小節目まで、p674の4小節目からp678の1小節目の全音符をフェルマータにして次の曲に接続します。(4拍目の裏から出てくる弦楽器はカット)

5 ジークフリートの大蛇退治~「ジークフリート」第2幕第2場
p224の8小節目のアウフタクトから(16分音符を8分音符に変更して)、p230の最後まで。(最後のホルンの8分音符はカット)
p229のLangsamからのジークフリートの歌の部分はホルンⅠ&Ⅱで、p230の4小節目からのファフナーの歌はバス・クラリネットで演奏。

6 夜明けとジークフリートのラインの旅~「神々の黄昏」第1幕
p26の8小節目から(歌の部分はカット)p30の1小節目まで、続けてp60の1小節目からp90の最後まで。

7 ジークフリートの葬送行進曲~「神々の黄昏」第3幕
p520の1小節目から(歌はカット)、p534の6小節目まで。

8 フィナーレ~「神々の黄昏」第3幕
p574の10小節目からp577の2小節目まで。続けてp587の2小節目から最後まで。


準・メルクル版
 準・メルクルは若手でもっとも才能のある指揮者の1人でしょう。彼の構成した演奏ヴァージョンはおよそ45分かかり、富山シティフィル版より多少長くなっています。(ニーベルハイムと大蛇退治の部分以外は寸法とつなぎ方が違っています。)
 現在このパート譜はアメリカのボルティモア交響楽団が作成して所有しているそうです。

※「何小節目まで」と記したときは、その小節を含めます。

1 前奏曲~「ラインの黄金」第1場
p1の1小節目からp15の最後まで。前奏曲のすべての部分が含まれます。

2 ニーベルハイム~「ラインの黄金」第2場(シティフィル版と同じ)
p154の14小節目からp160の最後まで、続けてp168の4小節目からp171の6小節目の2拍目まで。

3 ワルキューレの騎行~「ワルキューレ」第3幕第1場
p413の1小節目からp435の2小節目まで、続けてp472の3小節目からp484の2小節目まで。

4 ヴォータンの告別~「ワルキューレ」第3幕第3場
p662の2小節目から、p668の5小節目まで、続けてp674の4小節目からp678の最後まで。トロンボーンのⅠとⅡパートは4拍目の音をカットして次の部分の音を入れます。

5 ジークフリートの大蛇退治~「ジークフリート」第2幕第2場
p224の8小節目のアウフタクトから(16分音符を8分音符に変更して)、p230の最後まで。(最後のホルンの8分音符はカット)
p229のLangsamからのジークフリートの歌の部分はトロンボーンⅠで。p230の4小節目からのファフナーの歌はバス・クラリネットで演奏。

6 夜明けとジークフリートのラインの旅~「神々の黄昏」第1幕
p26の8小節目から(歌の部分はカット)p30の1小節目まで、続けてp60の1小節目からp90の11小節まで。

7 ジークフリートの死と葬送行進曲~「神々の黄昏」第3幕
p516の3小節目から(歌はカット)、p534の6小節目まで。

8 フィナーレ~「神々の黄昏」第3幕
p574の10小節目から最後まで。


ロリン・マゼール版
 かつて「鬼才」と呼ばれ、今やすっかり「巨匠」と呼ばれるにふさわしくなったご存じアメリカの指揮者ロリン・マゼールが構成したヴァージョンです。全曲を通して演奏するヴァージョンとしてはおそらく世界初だったのではないかと思います。(このヴァージョンを使った自演盤のCDの初出が1988年)このヴァージョンの音源は上記のベルリンpoを指揮したテラークのものが現在も入手できます。

 ちなみに、このヴァージョンのタイトルは、『 The ”RING” Without Words 』(言葉のない「指環」)となっています。演奏時間は約70分です。

1 かくてラインの「緑色の黄昏」が始まる~「ラインの黄金」第1場
いわゆる前奏曲の部分です。冒頭p1の1小節目からp15の最後まで。

2 ワルハラ城の神々の入場~「ラインの黄金」第1場
p83の9小節目、つまり2場の直前8小節前から始まり、p86の7小節目まで。

3 地下の国~「ラインの黄金」第2場
p154の14小節目からp160の最後まで、続けてp168の4小節目からp171の6小節目まで。

4 雷神ドンナーが槌を打つ~「ラインの黄金」第3場
p280の1小節目から。ドンナーの歌の部分はバス・トランペットで演奏。p290の最後まで。その後、雷鳴のエフェクトを挿入してあります。

5 我らは彼の愛のまなざしを見る~「ワルキューレ」第1幕
p14の2小節目からp16の20小節目まで。続けてp19の21小節目からp20の26小節目まで。続けてp26の4小節目から同じページの17小節目まで。

6 戦い~「ワルキューレ」第1幕
p158の1小節目から第1幕の幕切れまで。(p162の最後まで)p158の9小節目からの2小節間ジークムントの歌の部分をトランペットで置き換えています。(たぶん)

7 ヴォータンの怒り~「ワルキューレ」第2幕
前の部分から続けて、第2幕の前奏曲p163の1小節目からp176の3小節目まで。続けてp291の5小節目からp296の3小節目まで。続けてp411の3小節目から第2幕の幕切れp412の5小節目まで。

8 ワルキューレの騎行~「ワルキューレ」第3幕
前の部分から続けて、第3幕の冒頭p413いわゆる「ワルキューレの騎行」の部分からです。p435の2小節目まで、続けてp472の3小節目からp484の2小節目まで。続けてp576の10小節目からp582の4小節目まで。

9 ヴォータンの告別~「ワルキューレ」第3幕
p662の2小節目から、p668の5小節目まで、続けてp674の4小節目からp678の最後まで。

10 ミーメの恐れ~「ジークフリート」第1幕
第3場の直前p89の12小節目からp96の17小節目まで。

11 魔法の剣を鍛えるジークフリート~「ジークフリート」第1幕
p160の4小節目から第1幕の幕切れp165の最後まで。

12 森のささやき~「ジークフリート」第2幕
前の部分の最終小節がこの部分の第1小節目になります。p212の15小節目からp217の1小節目まで。続けてp217の8小節目から15小節目まで。ジークフリートの歌の部分はカット。

13 大蛇退治~14 大蛇の悲嘆~「ジークフリート」第2幕
p224の8小節目のアウフタクトから(16分音符を8分音符に変更して)、p230の最後まで。(最後のホルンの8分音符はカット)
p229のLangsamからのジークフリートの歌の部分はトロンボーンⅠで。p230の4小節目からのファフナーの歌はバス・クラリネットで演奏。

15 夜明け~16 ジークフリートのラインの旅~「神々の黄昏」第1幕
p26の8小節目から(歌の部分はカット)p30の1小節目まで、続けてp60の1小節目からp90の21小節まで。

17 ハーゲンの呼びかけ~「神々の黄昏」第2幕
p287の2小節目からp297の3小節目まで。ハーゲンの歌の部分はトロンボーン(バス・トランペット?)に置き換え。続けて第3幕の冒頭p420の7小節目から19小節目まで。

18 ジークフリートとラインの乙女たち~「神々の黄昏」第2幕
p421の1小節目からp425の4小節目まで。続けてp473の2小節目からp474の3小節目まで。続けてp474の6小節目からp476の8小節目まで。

19 ジークフリートの死と葬送行進曲~「神々の黄昏」第3幕
p516の3小節目から。ジークフリートの歌の部分はカット。p534の4小節目まで

20 ブリュンヒルデの自己犠牲~「神々の黄昏」第3幕
p574の4小節目から最後まで。

マゼール版の映像

 マゼール版のライブ演奏がBSデジタル放送にて、オン・エアされました。演奏はCDと同じくマゼール本人の指揮するベルリンpoです。私はBSデジタルを受信する機器を持っていないので、富山シティフィルの団仲間からダビングしてもらいました。
 音だけでも面白いが、実演はいろいろな特殊楽器が見られる分とても興味深いものがありました。ドンナーの雷の部分のハンマーの一撃なんてすごい迫力でした。もっともニーベルハイムの金床は映像に出てきませんでしたが…。オペラを離れても立派にオーケストラレパートリーとして十分に聴かせる曲集といえるでしょう。はっきりとは確認できませんでしたが、パート譜もつぎはぎではなく、ちゃんとできているものを使っているようでした。


Henk de Vlieger版
 ヘンク・デ・ヴリーガーはオランダ放送フィルの打楽器奏者でソリスト、作曲家としても活躍しているそうです。この版は彼がオーケストラ用にアレンジしたヴァージョンです。
 HMVのHPによれば、ヴリーガーはズヴェーデン指揮によるブラームス交響曲全集で、コラール前奏曲のオーケストラ編曲版でもスコアを担当しており、彼による編曲版は、実際のコンサートでは、スヴェトラーノフや、シモノフ、ケント・ナガノ、ジンマンなども取り上げて好評を博しているそうです。

 私が入手した音源は、1992年録音のエド・デ・ワールトが指揮したオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団のRCA盤です。3枚組になっており、他の2枚は「トリスタンとイゾルデ」「パルジファル」のやはりオーケストラ・ハイライトでした。
 ちなみに、このヴァージョンには、『 DER RING  an orchestral adventure 』というタイトルが付いています。演奏時間は67分となっています。

 12の部分の出典がようやくわかりましたので追加しました。(2003/8/1)


”The Ring, an orchestral adventure”

1 Vorspiel
いわゆる前奏曲の部分です。これも冒頭p1の1小節目からp15の最後まで。

2 Das Rheingold
この部分にはかなりヴリーガーの補筆が入っているようなので、はっきりと断言できません。
まず前奏曲の後、p16の1小節目から7小節目の1拍目まで進みます。その後3拍子になり(または8分の9拍子)、補筆の部分に入ります。もっともこの部分に近いと思われる部分は、p66の3小節目からp69の2小節目までを半音下げる(ホ長調→変ホ長調)と似た感じになりますがが、この中にも6小節くらい加えた部分があります。
そして、原典に戻ってp49の1小節目からp56の1小節目まで進みます。しかし、最後の部分はもう1小節繰り返すのと、つなぎに「ラインの黄金」のモティーフをホルンに吹かせて次の部分につないでいます。

3 Nibelheim
前の部分の「ラインの黄金」のモティーフの最後のロング・トーンに重ねて、この部分に入ります。進み方はマゼール版やメルクル版と同じです。p155の1小節目からp160の最後まで、続けてp168の4小節目からp171の6小節目まで。最後の小節の音型を引き延ばした形で次の部分に続きます。

4 Walhall
いわゆる最後の場の「虹の架け橋」の部分です。p293の1小節目から、p304の12小節にいったあたりから多少弦楽器のトレモロをカットして、p305の4小節目のアウフタクトから始まる「剣」のモティーフを転調させながら2回繰り返して次の部分につなぎます。たぶんこの部分も補筆だと思いますが、つなぎ方がなかなかかっこいい。

5 Die Walkuren
一気に「ワルキューレの騎行」まできてしまいますが、他の版とは多少進み方が違います。第3幕の冒頭p413の1小節目から、p436の4小節目まで。その後p462の1小節目につないで、p484の2小節目まで続けます。

6 Feuerzauber
この場面も「ヴォータンの告別」の部分をばっさりカットしてこの楽劇の最終場面に続いています。p679の4小節目の「槍」のモティーフから始まり、最後p710の2小節目まで。最後の音を延ばして次の部分に自然につながったようにしています。この場面転換も見事。

7 Waldweben
p215の1小節目からp217の13小節目まで。続けてp221の3小節目から7小節目まで。

8 Siegfrieds Heldentat
前の部分からは原典通りに進んでいきます。有名なホルンのソロの部分です。p221の8小節目から、50小節目まで進んで、「大蛇退治」の場面に行きます。p224の8小節目のアウフタクトから、p231の1小節目まで。同じホルンのパッセージが出てくる第3幕の2場の最後の部分p346の8小節目までとんで、p359の3小節目まで続きます。

9 Brunnhildes Erwachen
前の部分から楽通りにつながって、p360の1小節目「まどろみ」のモティーフが出てくるところからこの部分に入ります。3場のはじめの部分p365の20小節目まで進みます。20小節目を引き延ばした格好でもう1回繰り返して、p377の6小節目「ブリュンヒルデの目覚め」の部分に入ります。p380の4小節目まで続き、その後数小節間ヴァイオリンによる「不安」のモティーフの補筆部分を経て次に続きます。

10 Siegfried und Brunnhilde
p27の8小節目のホルンによる「ジークフリート」のモティーフから始まり、p31の2小節目まで。続けてp61の3小節目からp72の6小節目まで。

11 Siegfrieds Rheinfahrt
楽譜通りに前の部分からつながり、ホルンコールの部分から始まります。p72の7小節目からプロローグの最後p90の21小節目まで続きます。

12 Siegfrieds Tod
2幕の後半の部分p386の7小節目から、p389の7小節目まで。途中ブリュンヒルデの歌の部分をヴァイオリン1やクラリネットが補っています。また、p389の1小節目だけカットしています。
続けて、p401の8小節目からp402の7小節目まで。続けて第3幕に入り、p509の1小節目のアウフタクトからp511の1小節目まで。合唱の部分はカット。p520の1小節目からこのページの終わりまで。

13 Trauermusik
前の部分から楽通りに続け、p521の1小節目からp534の6小節目の3拍目をフェルマータして、若干補筆してppのティンパニを入れてあります。

14 Brunnhildes Opfertat
p574の4小節目のアウフタクト(チェロの装飾的な楽句)から最後まで。




RING管弦楽版試聴記 




「神々の黄昏」~ブリュンヒルデの自己犠牲~終曲(ワーグナー)  2006.9.9

 いよいよリングの管弦楽曲の演奏紹介の完結になりました。
 
 私がこの部分のオーケストラのみによる演奏版の存在を知ったのは、大学生時代に水野修孝教授の作曲法の授業においてでした。音楽史と作曲技法の変遷に重点をおいた講座でしたが、純粋な作曲の勉強よりもどれだけ面白かったことか…。(水野先生と関わったその時の楽曲分析の方法やロマン派音楽への嗜好が今の私の音楽活動を方向付けたのかもしれません…。)

 その中でワーグナーの「指輪」を取り上げられたのですが、とりわけ水野先生は対位法の極みのようなこの終曲を気に入っておられたようでした。演奏はセル/クリーブランドoによるものでしたが、わずか6分足らずのこの曲の毒に私もすっかりはまってしまったものでした。

 後年ようやく「指輪」の全曲を聴くに及んで、この終曲は「ブリュンヒルデの自己犠牲」と言われる部分から続くものだということを知りました。葬送行進曲の後に始まる第三場約30分の後半2/3くらいの部分なのですが、この楽劇のライトモティーフがたっぷりと使われているクライマックスでもあります。この部分に挑戦した指揮者はそれぞれの短縮版を使って演奏していますが、どれも個性があふれていて面白いと思います。

 当然、版の確定したオーケストラ版の楽譜は出版されていませんが、それぞれオペラの全曲版をつぎはぎして楽譜を作ったであろうと思われます。(富山シティフィルでもそうしました。この作業がとっても大変でしたが…。)

 では、曲と演奏を紹介していきます。今回は演奏時間の長い順に見ていきます。

ダヴァロス/フィルハーモニアo(22’54)
 第3幕第3場の後半2/3(Doverのスコアのp553下段6小節目から最後p615まで)をそのままソプラノのソロ入りでまるごと演奏しています。ここからだとかなり聴き応えがあります。

タバコフ/ソフィアso(20’09)
 時間的にはダヴァロスよりも短いのですが、小節数ではダヴァロスを上回り、さらに5小節前から始まっています。この演奏の面白いところはソプラノのソロ・パートをすべて楽器で置き換えて演奏しているところです。常に同じ楽器ではなく、フォルテの部分ではトランペット、静かな部分では木管楽器や弦楽器で置き換えるなど変化を持たせていますが、歌のパートをただ置き換えて演奏するのが効果的かどうかは疑問が残るところです。

ストコフスキー/ロンドンso(19’33)
 寸法としてはダヴァロスと同じですが、ソロは入りません。ただし、タバコフと違い必要に応じてソロ・パートを補っています。さすがオーケストラの魔術師と呼ばれたストコフスキーですから、メロディが全く抜け落ちてしまう場所などの効果的であろうと考えられる部分にしかソロ・パートを補っていないところが一見識です。また彼らしく終わり方もユニーク。四分音符で終わる弦楽器をずっとフェルマータで延ばして、楽譜上は管楽器だけが伸ばすことになっているところを全楽器で延ばし、管楽器、高弦、低弦の順で消えていくようにしています。永遠に続いていく物語をイメージしたのでしょうか、なんと20秒以上も音が続いていきます。

オーマンディ/フィラデルフィアo(7’26)
 ここからあとの演奏は、前半の部分をばっさりとカットしてDoverのスコアのp574下段4小節目から始まる演奏です。ソロ・パートは全く入っていませんが違和感を感じるところはありません。それだけワーグナーの書いたスコアが雄弁だと言うことを物語っているのですね。

セル/クリーブランドo(5’32)
シュワルツ/シアトルso(5’25)
 オーマンディと同じところからスタートしてDoverのスコアのp577の2小節目から少しカットしてp587の2小節目へ飛びます。あとは楽譜通りに進んでいきます。富山シティフィルではこのやり方で演奏しました。

ドラティ/ワシントン・ナショナルso(4’34)
ショルティ/ウィーンpo(4’32)
 さらにカットを施し、Doverのスコアのp592より始まります。これだけの長さだとこの楽劇の大団円としては少し物足りなく思います。ドラティ盤では冒頭にスコアにないティンパニとシンバルの一打が入ります。

その他
 ハイライト版のマゼールとテ・ワールトは葬送行進曲から続いて、オーマンディよりも少し前のp574上段4小節目から続いてスタートします。葬送行進曲の終結の仕方が二人は異なっています。マゼールはホルンで終わり、テ・ワールトはティンパニのソロで終わります。



「神々の黄昏」~ジークフリートの葬送行進曲(ワーグナー)  2006.9.3

 前回の更新からなんと2年以上も経ってしまいました。この葬送行進曲が終われば、残すは「終曲」のみです。がんばらなくては…。

 この曲は「ワルキューレの騎行」とともにこの楽劇の中で最もポピュラーな曲です。楽劇「神々の黄昏」の第3幕第2場と第3場の間奏曲として演奏されます。

 ワーグナーチューバが活躍する曲ともいわれていますが、この楽器が単独で使われている部分はごくわずかなのが実際です。冒頭のテーマもホルン4本とワーグナーチューバ4本の計8本によるオクターブのユニゾンです。ホルンらと一緒に使われてこそその音の魅力を発揮する楽器と言ってよいでしょう。(例外は以前紹介した「ヴォータンの告別」でのショルティ盤。テノールの歌の部分をそっくりワーグナーチューバで2本で演奏しています。)
 ワーグナーチューバを使わない演奏版もあるようです。(Kalmus社では編成の違う2種の版がカタログに掲載されています。)

 さて、演奏の仕方は根本的には変わりませんが、曲の冒頭に「運命の動機」を入れるか、ティンパニで始めるか、また、曲の終わりをオペラの通りにするか、それに続く演奏会用のエンディングにするかくらいの違いでしょう。あとテンポもあっさりと早めのテンポで行くか、粘りに粘って大緩徐楽章のようにやるかでずいぶん印象が変わってきます。

 では、いくつかの部分に分けて曲と演奏を紹介します。

A-運命の動機
B-ティンパニから始まる本編
C-演奏会用のエンディング


B-C…この演奏パターンが最も一般的でしょう。
ダヴァロス/フィルハーモニアo(10:42)…遅いテンポで雄大に曲を進めています。
オーマンディ/フィラデルフィアo(8:30)…冒頭ティンパニのソロを1小節カットしています。
テンシュテット/ベルリンpo…エンディングが通常の版と少し違っています。ティンパニのソロが挿入されたりしています。
セル/クリーブランドo…エンディングの最後が少しだけカットされて、終曲につながっていきます。
ストコフスキー/ロンドンso…盛り上がる部分でピッコロのアルペジオがやたらと聞こえてくるところが面白い。複数の楽器を重ねているのかもしれません。

A-B-C
ドラティ/ワシントン・ナショナルo…運命の動機を2回演奏しています。


A-B
ショルティ/ウィーンpo…ジークフリートの角笛の動機で突然終わっていますが、次のトラックの終曲にすぐにつなぐためか?私の持っている国内初期盤ではこの間に無音部分がありますが、編集ミスなのかも知れません。


Bのみ
クレンペラー/フィルハーモニアo…角笛の動機の最後の部分をロングトーンで伸ばして弦楽器のピツィカートで終わります。


その他
シュワルツ/シアトルso…「神々の黄昏」から採った管弦楽曲を組曲にした版なのですが、第2場の終わりの「ジークフリートの死」の部分から続けて演奏されますので、「運命の動機」から始まっているとしていいでしょう。ホルンによる角笛の動機からすぐ終曲の部分につながっていきます。



「神々の黄昏」~夜明けとジークフリートのラインへの旅(ワーグナー)  2004.6.19

 1年ぶりの更新となります。リングには2003年に富山シティフィルで演奏して以来、すっかりはまりこんでしまいました。最近ようやくその魔力から抜け出すことができたような気がします。
 さて、私たちが2003年に演奏した中でも最もボリュームのある場面が今回紹介する曲です。オペラでいうと「神々の黄昏」の序幕の部分からとられています。有名な「ホルン・コール」が聴かれるのもこの曲です。(もっとも、「ホルン・コール」の初出はこの前の楽劇「ジークフリート」です。そこでは長大なソロが出てきます。)

 CDで聴けるこの曲の演奏版は定番がないと思えるほど、指揮者によって違います。オープニングからエンディングまで、人それぞれのカットや継ぎ足しをしています。(だから説明もしにくい…)私が持っておりCDもすべて組合せや細部が異なっていました。

いくつかの部分に分けて曲と演奏を紹介してみましょう。

A-夜明け…一般的にはティンパニのトレモロから始まる場合が多いが、「呪い」の動機から始まるものもある。
B-ジークフリートの角笛(ゆっくりの方)…荘厳なテュッティ。この後に続く「ブリュンヒルデ」の動機が美しい。
C-ジークフリートの角笛(速い方)…軽快なテュッティ。Aからこの部分にとんでしまう演奏も多い。
D-ホルン・コール…オペラでは舞台裏で演奏される。その通りのものが多いがオーケストラで演奏しているものもある。
E-オリジナルのエンディング…第1幕に続くように、そしてジークフリートの死を予告するかのように暗く静かに終わる。
F-演奏会用のエンディング…「ラインの黄金」の動機をモチーフに「角笛」の動機などでにぎやかに終わる。


A-C-D-F  
ドラティ/ワシントン・ナショナルo (9:22)
Bがないと物足りない。





C-D-E
クレンペラー/フィルハーモニアo (6:08)
いきなりCの部分から始まります。ソロ・ホルンはオーケストラの中で吹いている。アラン・シヴィルか?





A-B-C-D-F
オーマンディ/フィラデルフィアo (13:02)
やはりBが入っていないとこの曲のいいところが味わえません。「ブリュンヒルデ」の動機をゆっくりたっぷりと歌わせています。ホルンは外から聞こえます。メイソン・ジョーンズでしょうね。




A-C-D-E
ストコフスキー/ロンドンso (12:08)
ティンパニの始まる前の「呪い」の動機、「眠り」の動機から曲が開始されます。オペラ通りの第1幕の前まで演奏されます。





A-B-C-D-E
シュワルツ/シアトルso (11:15)
開始部分で「運命」の動機が2回演奏されます。ソロ・ホルンはかなり遠くから聞こえてきます。





A-B-C-D-F
セル/クリーヴランドo (12:05)
オーマンディと同じ。同じ時期(1960年代後半)のアメリカでの録音なので楽譜の融通があったのかもしれません?ただし、こちらのホルンはオーケストラの中で演奏しています。たぶんマイロン・ブルームでしょう。




A-C-D-E
テンシュテット/ベルリンpo (10:25)
Bの部分を演奏していないのは意外です。テンシュテットの指揮でこの部分の荘重なテュッティを聴きたかった。





A-B-C-D-E
ダヴァロス/フィルハーモニアo (11:59)
この人らしいさらりとした演奏です。最後はオリジナルと違いロング・トーンで終わります。





「ジークフリート」~森のささやき(ワーグナー)  2003.5.21

 英語題は”Forest murmurs”といいますが、murmursというのが何ともかわいい感じがして好きです。ちなみに原題は”Waldweben”。ドイツ語らしい無骨な感じがしますね。至る所で出てくる鳥の鳴き声のモティーフが名前の所以でしょうが、これがまた演奏するのがとっても難しい。

 現在にところこの曲のアレンジは前にも出てきた2管編成のZUMPE版と3管編成のHUTSCHENRUYTER版がありますが、富山シティフィルで練習した楽譜は前者の方です。いろいろな演奏を聴いた感じではそんなに違わないのではないかなという感じです。ですが、せっかく練習をしたのに今回の演奏会の抜粋では、取り上げないことになり残念です。

 さて、この演奏会ヴァージョンはまったく見事としかいいようがないほどうまくオペラの中の部分をつなぎ合わせて構成されています。(ほんの1部分編曲者の挿入もあるみたいですが)実際のオペラの中ではこのアレンジに出てくるメロディがとびとびに出てくる上に、歌のパートも重なっているので、全く別の曲のようにも聞こえてきます。

 指揮者によって始める部分が違うくらいで版による違いはそんなにないようです。指揮者によって途中にグロッケンを入れたり入れなかったりくらいの違いだと思います。(オリジナルにはグロッケンは入っていません)

・楽譜通り8分音符の弦楽器の動きから始まる演奏
 ショルティ/ウィーンpo、ドラティ/ワシントン・ナショナルo、クレンペラー/フィルハーモニアo


・前半を少しカットして、その後の16分音符の弦楽器の動きから始まる演奏
 テンシュテット/ベルリンpo


・その他
 抜粋版であるマゼールは、16分音符のところから始まって鳥の鳴き声が出たところからしばらくいって次の曲にとんでいます。



「ワルキューレ」~ヴォータンの告別と魔の炎の音楽(ワーグナー)  2003.5.11

 私は「ニーベルングの指輪」の中でも勇壮な感じと叙情的な感じが適度にミックスされたこの部分がとても好きです。今回改めていろいろ聴いてみて、いろいろな曲のつなぎ方やオーケストレーションがあることがわかりました。

 コンサート作品としては、前に紹介したDoverのスコアに出ているものが一般的みたいですが、このオペラの最後の17分くらいを歌の部分も適度に楽器に置き換えて演奏していきます。(Doverのオペラのスコアでp651から最後まで)

 曲を大きく5つの部分に分けて仲間分けをしていきます。A…出だしの部分、B…テンポが遅くなって、オーケストラだけになるところ、C…ヴォータンが告別の歌を歌うところ、D…再びオーケストラだけの部分、E…槍の動機から最後のオーケストラだけの終結部分



A-B-C-D-E
・バメルト/BBCフィルハーモニック
 ストコフスキー版ということで演奏していますが、すべての部分を演奏しているのは私の持っているものではこれだけでした。盛り上がるところで原典にないシンバルなどが入るのがストコフスキーらしい。

B-C-D-E
・ショルティ/ウィーンpo
 Bに入る少し前から始まっていますが、この演奏の面白いところはヴォータンの歌の部分をすべてワーグナーチューバで演奏しているところ。この楽器の魅力が存分に味わえます。

・ドラティ/ワシントン・ナショナルso
 Cのヴォータンの歌の部分をカットしてあります。B-D-Eといった感じ。

D-E
・テンシュテット/ベルリンpo
 ここからだと6分くらいで演奏できてしまいます。

Eだけ
・セル/クリーブランドo
 ここからだと4分くらいで終わってしまいます。あっという間に演奏が終わってしまう感じがします。

 私たち富山シティフィルの演奏は、「ワルキューレの騎行」から続けて演奏して、B-Dと演奏します。マゼールの抜粋版とだいたい同じです。(この部分だけだと正味4分くらいで、少しもの足りない気はしますが…)



「ワルキューレ」~ワルキューレの騎行(ワーグナー)  2003.4.26  追加2003.8.1

 たぶん今回演奏する曲の中ではもっとも有名な曲でしょう。この曲のことだと知らなくてもメロディを聴いたことがある人はたくさんいるでしょうから。(映画「地獄の黙示録」の戦闘ヘリの場面やそれをパロった「こち亀」の爆竜大佐の登場シーンで有名ですからね)しかし、私自身は最近まであまり好きではありませんでした。ワンパターンでもあり、うるさいだけという感じだったので…。とにかく、しばらく聴いていたのが、ショルティの力強い演奏だったせいかもしれません。

 この曲は、楽劇「ワルキューレ」の第3幕の前奏曲の役割も果たしているのですが、一般的な演奏譜(以下、慣用譜と呼びます)は多少オリジナルの楽譜の前後を入れ替えて体裁を整えてあります。また、オリジナル版にはバストランペットが採用されており、慣用譜による演奏と、一聴したときの音質や音量が異なって聞こえます。ワルキューレのメロディは、オリジナルではホルン2本とバストランペットですが、慣用譜ではホルン2本とトロンボーン2本になっており、聞こえ方がずいぶん違います。慣用譜を用いていても、この編成をオリジナルに戻しているものもあるみたいです。

 で、「最近まで」と書いたのは、オリジナルによる演奏を知り、「うるさい」といった感じがしなくなったからであり、そのことによってこの曲のオーケストレーションの魅力を感じ始めたからです。また、曲頭からの木管楽器の16分音符による楽句も、バランスを工夫することで、音色の変化の妙味が感じられるのです。このあたりはいろいろなアプローチがあり、指揮者のセンスがわかって面白い。

 まあ、この曲は最初のメロディがでる20秒くらいまでを聴いて、「うるさい」と感じさせない演奏が私は好きです。概してアメリカのオーケストラはトロンボーンががんばりすぎの場合が多くありあまり好きではありません。独襖系の心のあるブラスの音がやはりいいですね。

(2003.8.1追加)
 最近、ネットショップで試聴していたら、すごい演奏に出会いました。指揮者はフランチェスコ・ダヴァロスというイタリア人の指揮者です。何年か前に日本でもCDが発売されていましたが、現在はすべて廃盤みたいです。と言うことですっかりこの演奏が気に入ったので、海外から取り寄せてしまいました。
 とにかく、この指揮者の演奏というのはすごい。テンポ感が今まで聴いたものとは全然違い本当によく前に進む。前のめりになっていくくらいに。「ワルキューレの騎行」の入ったこのリングアルバムもそうした演奏を聴くことができます。バランスも金管が前に出すぎないところがいいです。最初の20秒くらいで圧倒された演奏でした。この人の演奏は癖になりそうです。



「ラインの黄金」~ワルハラ城への神々の入場(ワーグナー)  2003.4.22 追加2003.8.20

 今回の富山シティフィルの演奏では取り上げない曲ですが、けっこう派手で私の好きな曲でもあるので、あえて取り上げます。

 このオペラの最終場面で出てくる音楽ですが、指揮者によっていろいろなアレンジや楽譜も複数存在するようです。

 まず、楽譜で確認できたのは、Kalmus社で扱っているパート譜ですが、2種あってW.Hutschenruyter編曲のものとH.Zunpe編曲のものです。前者が3管、後者が2管編成です。実際に見ることのできたのは、前者の方ですが、どちらもオリジナルよりも編成を縮小してあり、ワーグナーチューバなどは入っていません。憶測ですが後者は、編成から考えるとDoverから出ている「ワルキューレの騎行、リングからのオーケストラハイライト」というスコアの中に入っているアレンジと同じものなのかもしれません。

 では次にいくつかの演奏盤について紹介してみましょう。便宜的にHutschenruyter編曲のものをA、Zunpe編曲(もしくはDoverのスコアに収録されているもの)をB、その他のものをCとして話を進めていきます。

・セル/クリーヴランドo(Aに近い)
 2種の編曲だとドンナーの動機、雷の一撃、虹の動機、ワルハラの動機、ラインの乙女たちの嘆き、神々の入場と音楽が続いていますが、比較的これに近いのがセル版です。どちらかといえばAの方により近いですがまったく同じではありません。雷の一撃はハンマーで、その後の低弦の半音の動きはカットされています。


・ショルティ/ウィーンpo(C)
 これはたぶんオリジナルから作成したパート譜を使っているみたいです。ドンナーの動機の前の弦楽器の分散和音が4小節続く(A、Bでは2小節)のと、ドンナーの動機がワーグナーチューバで演奏されていることからわかります。ハンマーのあと、デジタル処理で雷鳴が入れてあります。ラインの乙女たちの嘆きの部分はあっさりとカットしてあります。

・シュヴァルツ/シアトルso(Bに近い)
 寸法的にはDoverのスコア(B)にもっとも近い演奏をしていますが、冒頭のドンナーの動機がホルンで演奏されている、ハンマーを使っている、ラインの乙女たちの嘆きの部分のオーボエがクラリネットに代えられているなど多少楽器を入れ替えたりはしています。(個人的にはこの方が好きですが)

・ドラティ/ワシントン・ナショナルso(Bに近い)
 前回紹介した前奏曲に続いて演奏されるようになっていますが、つなぎの部分はラインの乙女たちの動機とドンナーの動機をうまく組み合わせてこの部分につながるようにしてあります。ハンマーの一撃がシンバルになっているのはずっこけますが、あとはBの楽譜をそのまま生かしています。

・その他
 全曲の抜粋版であるマゼールのものはハンマーの一撃で「ワルキューレ」にとんでいきます。同様のテ・ワールト盤はドンナーの部分がなく、虹の動機、ワルハラの動機を経て次の部分につながっていきます。

(2003.8.20 追加)
 面白いアレンジ盤を見つけました。ひとつはクレンペラー指揮のフィルハーモニアo盤。ドンナーの歌の部分から入っていますが、肝心のドンナーの旋律がどの楽器ででも充当されていず、しばらくアルペジオだけで音楽が進んでいきます。最初に聴いたときはいったい何が始まったのかすごく不思議な感じがした演奏版でした。もう一つは、オーマンディ指揮のフィラデルフィアo盤です。(RCA盤)これは第3場のニーベルハイムの音楽を始めに入れてから、しばらくしてドンナーの歌の部分に続くようにアレンジされています。(こちらの方はもちろんドンナーの歌の旋律は演奏しています。)ニーベルハイムの部分は神秘的な感じがして、やたらとかっこよく響きます。この部分は全曲盤以外ではどの演奏ででも聴くことはできない部分みたいです。


「ラインの黄金」~前奏曲(ワーグナー) 2003.4.20

 次回のシティフィルの演奏会に取り上げる曲について楽譜や音源について少しずつ取り上げていきたいと思います。

 まず、初めである今回は楽劇「ラインの黄金」の前奏曲についてです。
 この曲は有名ではありながら、単独では楽譜は出ていないみたいです。今回もオペラのスコアから手書きで楽譜を起こしました。また、オペラ全曲盤以外で耳にできる音源もわずかしかありません。

 単独で取り上げているのは前にも紹介したレーグナーの指揮したベルリンsoの演奏だけでしょう。数年前にドイツ・シャルプラッテンの1000円盤シリーズで出たので、探せばまだ在庫があるかも。その何年か前にも違うカップリングで出ていました。とてもたっぷりした演奏で、通常5分足らずで終わる曲を7分くらいかけて演奏していました。
 今回の私たちの演奏はドラティの演奏版によっています。1部分をカットして、2分30秒くらいにまとめてあります。あまりなじみのない人に前奏曲ってこんなものだと思わせるに十分だと思います。(ずっと同じコードで5分間も続くのですから)
 あとは、全曲を70分くらいにコンパクトにまとめたマゼール盤とテ・ワールト盤でもこの前奏曲を聴くことができます。

 私の知っている限りでは「ラインの黄金」の前奏曲を聴くことができるのは全曲盤を除いては、おそらくこの4種だけだと思います。もっともこの曲だけ聴きたいと思う人はあまりというかほとんどいないのではないかと思いますが…。 


「ニーベルングの指輪」(ワーグナー) 2003.3.24.25

 ワーグナーの超大作「ニーベルングの指輪」は言うまでもなく、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の4つのオペラ(ワーグナーは楽劇と呼んでいますが)からなる物語ですが、全曲演奏に四夜、のべ15時間もかかる作品です。とてもわかりやすくあらすじを語ることなどできませんので、興味のある方は検索エンジンで「ニーベルングの指輪」とキーワードを入れるとその道の専門家や愛好家のホームページがたくさんありますから、そこでご覧ください。

 私も今までにBSで放送されたものをビデオに撮ってあるものを何種類か持っていますが(ブーレーズ、サバリッシュ、レヴァイン、バレンボイムの指揮したライブ映像)、通して観た記憶はありません。しかし、学生の頃からこの中の「ワルキューレの騎行」「ジークフリートの葬送行進曲」などの有名曲は聴いて知っていました。しかし何と言ってもその時に、大学の恩師である水野修孝氏(作曲家)に教えてもらった「神々の黄昏」のフィナーレ(別名「ブリュンヒルデの自己犠牲」)には衝撃を覚えました。4つのオペラのいろいろなメロディーが走馬燈のように駆けめぐらせる構成の素晴らしさとワーグナーらしい叙情とダイナミズム。この曲がないと「指輪」は終わらないよ、とまさにそんな曲でした。そしていつか演奏してみたい曲のひとつになったのでした。

 その大学生の時に聴かせてもらったのが、ジョージ・セルの指揮したクリーブランド管弦楽団の管弦楽ハイライトと題した1枚です。管弦楽による抜粋盤の走りだと思いますが、現在でも手に入ります。そのほか、ドラティ、テンシュテット、ショルティの指揮したもの、マゼールが新たに構成したもの、新しいものではオランダのVliegerが構成した「オーケストラ・アドベンチャー」と題するテ・ワールトのもの、ブルガリアの指揮者Panayotopoulosが構成した有名な曲がちっとも出てこない交響組曲版などいろいろあります。また。「神々の黄昏」からの曲のみで構成した演奏もストコフスキーやシュワルツの指揮のもので聴くことができます。もちろん歌付きのハイライト盤というのもたくさんあります。(こちらの方が手に入りやすいかも)どうせならフィナーレの入っているものを選びましょう。

 惜しむらくは、富山のレコード店ではこういうレパートリーの在庫が極端に少ないので、金沢の山蓄あたりに出向くか、HMVやタワーレコード、Amazonのオンラインショップを利用した方が確実に手に入れることができます。(または好きな人に借りるとか…)
 また、よく知られている割に音源の少ないのが、「ラインの黄金」の前奏曲です。マゼールとテ・ワールトでは勿論演奏していますが、私の記憶では単独で演奏しているのは、レーグナーだけだったと思います。(しかもこのCDには、「指輪」の曲は他に入っていない)しかし、抜粋版と言うからにはぜひ入れたい曲ですけどね。

 楽譜の手配などをしてわかったのですが、こういう抜粋という形であまり日本で演奏されないのは、楽譜の用意が大変だからでしょう。単独に有名曲だけ集めてもけっこう楽譜代がかさむし、オペラの全曲から持ってくると切り貼りが大変そう。アマチュアオーケストラではなかなかできないわけです。
 ですから、今回の演奏会はなかなかすごいものになりそうですね。なんか宣伝みたいになってしまいましたが、プログラムだけでなく演奏の質も問われるものにしたいのは言うまでもありません。

 その後、持っているCDを聴き返してみたら、いくつか面白い発見がありました。

 「ラインの黄金」の前奏曲ですが、ドラティ盤でも聴くことができました。多少カットして2分ちょっと演奏した後、ラインの乙女の歌の部分のメロディーを少し入れてから、ワルハラ城の音楽に続くようにアレンジしてあります。ちなみにオペラでは、前奏曲は4分30秒から5分30秒くらいで演奏されます。レーグナーは7分もかけています。

 ショルティの「ヴォータンの別れと魔の炎の音楽」ではバリトン歌手が歌うヴォータンのメロディをすべて複数のワーグナーホルン(たぶん2本)で吹かせています。歌で聴くのとではずいぶん印象が違いますが、これはこれでなかなか面白い。ワーグナーチューバの音色が堪能できます。この歌の部分をまったく入れていない演奏もありました。(マゼール版、もっとも歌のはいる部分は元々大部分カットしてありますが…)




RING文献


「ニーベルングの指環」対訳台本-ライトモチーフ譜例付 

 訳/天野晶吉 ライトモチーフ分析/川島通雅 新書簡

 ワーグナー畢生の大作『指環』完全対訳した本です。ただの対訳ではなく楽劇を豊潤に彩るライトモチーフ(特定の人物・事象・想念を象徴するメロディ)の譜例を付したところが画期的だと思います。スコアを見ながらだけでは筋が追えず、対訳だけではどこまで進んだかわかりづらく、そうしたところにリングの理解の難点があったのですが、この本ならば対訳の横にその時に出てくるライトモチーフの楽譜がつけてあるので、わりとすんなりと音楽と筋が理解していけます。(というが実際には曲がとんでもなく長いので、私自身もまだ最後まで到達していません。)
 とても便利な本ですが、かなり前に絶版になり、現在は入手できませんが機会があればぜひ手に入れて活用してみて下さい。(私はインターネット・オークションで入手しました)