クリエイティブ業界の注目情報や求人情報などを発信する、クリエイターのための総合情報サイトです。

LGBTのキャリアや働く環境についてJobRainbow代表 星賢人さんが見つめる未来とは?

2017/07/28 働き方

「あなたの周りにLGBTの人はいますか?」現在日本の人口のうち7.6%はLGBT(※)と言われています。これは13人に1人がLGBTの方であり、学校のクラスに2~3人いるということになります。何百人、何千人の企業でしたらどうでしょう。しかし、そういった実情が次第に明らかになる中、サポート面はまだまだ進んでいません。就職に関しても同様です。
株式会社JobRainbow代表取締役の星賢人さんは学生時代に起業し、LGBTの就活生を支援するサイトichooseを立ち上げました。
今回は起業に至った経緯、LGBTの方の就業の現状をお伺いする中でLGBTがイキイキと働ける社会の今後のあるべき姿をお聞きしました。
※電通ダイバーシティ・ラボ調べ
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0423-004032.html


星 賢人(ほし・けんと)
すべてのLGBTが自分らしく働ける職場に出会えることを目指し、2016年1月に株式会社JobRainbowを創業。2016年3月よりLGBT企業口コミサイト「JobRainbow」を立ち上げ、テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』で取り上げられるなど、注目を浴びる。
2017年6月にはLGBT専門の求人サイト「ichoose」を立ち上げ 、現在はLGBTフレンドリーな会社を増やすべく、企業向けに研修を開催したり、講演会活動に勤しむ。


差別を受けてトラウマに―LGBTの厳しい就活の現状を目の当たりにし起業を決意

私はセクシャルマイノリティであることがきっかけで、中学生時代にいじめられていたこともありました。先生にも相談しましたが助けてもらえず、そのまま不登校に…。
そんな中、インターネットでLGBTという言葉を知って、割合的にクラスにも同じような悩みを抱えている人がもう一人くらいはいるということに気づき、自分一人ではないんだと励まされました。また、世界的にも活躍されているLGBTの人たちがいることも知り、そこから勇気をもらい「自分もちゃんとした大人になれるんだ」と高校からまた学校へ通えるようになりました。
そういった経験を経て、大学入学後はLGBTの方々にとってのセーフティーネットになりたいと思うようになり、大学内のLGBTサークルで代表を務めました。

ある時、私は悲しい出来事に遭遇しました。それは、就職活動中のトランスジェンダーの先輩の身に起きたことなのですが、とある企業で最終面接まで進んだところで、先輩は「ここなら信頼できる」と思い、人事の方に思い切ってカミングアウトをしたのです。
ところが「あなたのような人はうちにはいない」と言われ、面接開始5分で帰らされてしまったのです。先輩はそれがトラウマとなり、就職活動を諦め、そのまま大学も辞めてしまいました。

私は当時、誰かのためになりたくてサークルに入ったものの、先輩の悩みをただただ聞くことしかできませんでした。そのことがとても悔しく、全てのLGBTが自分らしく働ける社会を作りたいと思い起業に至りました。

LGBTが社会で受け入れられる環境づくりを目指して立ち上げた求人サイト「ichoose」

株式会社JobRainbowでは企業に対してLGBTの方の雇用に関するセミナーを開催したり、当事者向けの仕事情報サイト「JobRainbow」の運営をしたりしています。
この仕事情報サイトでは、LGBTに対してフレンドリーな取り組みをしている企業の紹介や、口コミで得られたLGBT支援に取り組む企業の情報、またその時々で得られるLGBT関連の時事ネタなどを配信しています。

そうした取り組みを行いながら、2017年6月に「ichoose」という求人サイトを新たに立ち上げました。
口コミを主としたサイトJobRainbowを運営する中で、“LGBTフレンドリーな企業です”と客観的な情報として載っていても、主観的な、人事からの情報として掲載がないと、「本当に理解のある企業なのか」と就活生は懐疑的になってしまう。しっかり窓口をそこまで広げている、ということをLGBTの就活生や求職者の方々に伝えていくことも必要だと考え、求人サイトを立ち上げたのです。

LGBTに特化した当サイトの大きな特徴は、掲載いただいている企業が「LGBTフレンドリー企業」として審査を受け、通過しているという点です。認定するために7項目の基準があり、その内容はたとえば「LGBTに関する社内研修が行われているか」とか「採用選考についてLGBTに対してのマニュアルがあるか」といったものです。しかし実際は基準をすべて満たしている企業は多くはなく、そこが課題でもあります。

一方、そういった明確な制度はないながらも、LGBTを受け入れる文化を作ってきた企業も多くあり、実際制度がある企業よりもカミングアウトしやすい環境であることもあります。そういった“想い”の部分は指標を決めても明確にできないため、まずは理解を進めていこうと社内啓発活動に取り組みはじめている企業についても研修などを実施した上で、フレンドリー企業として認識し、掲載させていただいています。

企業と当事者の架け橋となり、LGBTが安心して働ける環境づくりを支援

私は常に当事者の方の声に耳を傾け、企業に改善するべき課題があれば、直接働きかけるよう取り組んでいます。
たとえば、恋愛や結婚についてなどプライベートに関して不必要に詮索されたり、LGBTをカミングアウトした人が、あたかもその場にいないかのように会話の輪から外された、などといった不快な思いを職場でされた場合、企業に改善をお願いすることもあります。
そうした企業努力をしない企業については、サイト掲載を取りやめる措置も行います。

また、LGBTが自然に溶け込める文化が整っている会社でも、福利厚生がきちんと制定されていないケースがあります。たとえば、何年も事実婚状態にあるLGBTのカップルが、一般の夫婦なら受けられる手当等の福利厚生を受けられない、というのは、明らかな差異が存在するということ。文化が出来上がっているから何もする必要がないというものでもなく、世の中に対するメッセージとしてきちんとした形で発信することが当事者の方にとってとても力になりますので、改めて研修を受けていただき制度を用意していただくなど、継続的なフォローをしていくスタンスで運営しています。

ichooseとしては今年度中に100社の掲載を目標としています。日本のフレンドリーな企業は私たちが知る限りでも500〜600社になってきていますが、まずはメッセージ発信ができるプラットホームを作っていきたいと思います。その上でまだフレンドリーでない企業もサポートしていきたいです。大切なのはソフト(文化)面の部分を養っていきながら、ハード(制度)面を整えていき、LGBTでも差別なく平等に働ける環境を整えていくことだと考えています。

地方自治体でも進むLGBTの働き方支援

先ごろ、政令都市で初めて、北海道札幌市がLGBTのパートナシップを認めると発表しました。それを受けて地元企業も一緒にムーブメントを作り出そうという動きが出てきたようで、我々も研修を開催するなどお手伝いさせていただいています。

これまでに当事者向けのリアルイベントを何度か開催しているのですが、地方からの参加者もとても多く、話を聞くと、地方の若者ほど周りからの理解が得られず孤立している人が多く見受けられます。そんな中、こうして地方にも理解が進んでいくことは喜ばしいこと。経団連がLGBTに関する指針を発表して、対応企業の事例も出されていましたが、これが国全体での取り組みに及んでいくことを願いますし、そうなるように我々も働きかけていきたいと考えています。

多様性を認められる社会になることが最終的なゴール

統計的には13人に1人がLGBTとされていますが、今まで生きていて会ったことがないと言う人もいます。日本の社会、特に年次の高い世代では、まだLGBTの人はテレビの中の存在でしかないことが多いです。認識を改める上で一人の人間として存在を認めて頂いて、身近な存在であることをわかっていただければと思います。
若い世代の中では当たり前になりつつあり、理解の輪が広がっているのは嬉しいことです。ただしこれはLGBTだけの問題ではありません。家族のかたちや夫婦のあり方が変化している中で、制度が追いついていない部分があります。LGBTの問題を本当に解決したいのであればLGBTだけにフォーカスしていては一向に問題は解決されません。個人が個人として輝ける社会、人が一人ひとりを尊重し、多様性を認められる社会になることが最終的なゴールであると思いますので、そこに関して自分ができることを生涯通して取り組んでいきたいです。

将来的にはLGBTという言葉がなくなったらいいなと思います。ichooseも必要とされなくなった方がいいですね(笑)。カミングアウトが“カミングアウトである”うちは、あるべき社会の姿ではないかなと個人的に思っていて、もっと自然な文脈でパートナーが異性だったり同性だったりする価値観のある社会が理想なのではないかなと思います。

(取材・ライティング:野本 梢/編集・撮影:CREATIVE VILLAGE編集部)


【関連記事】
LGBTのキャリアを企業はどうサポートする?ソフトバンクのLGBT社内施策インタビュー記事公開

野本 梢 (のもと・こずえ)

映像作家
1987年、山形県生まれ埼玉県育ち。学習院大学文学部卒。2012年よりテレビ局にてデスク業務を行う傍ら、ニューシネマワークショップにて映像制作を学びはじめ、以後短編映画を中心に制作している。
2015年・2016年に短編映画『私は渦の底から』が東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、あいち国際女性映画祭にてグランプリ、田辺・弁慶映画祭にて映画.com賞を受賞した。

【インタビュー】C&R Staff’s Voice Vol.2|映像作家 野本 梢さん