漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!) 作:疑似ほにょぺにょこ
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うずうず。うずうず。こう、なんというか、うずうずする。とでも言えば良いのだろうか。何をうずうずしているのか、それは理解している。
先ほどから──玉座から立ち上がろうか、どうしようかと腰を浮かせたり座り直したりと妙な動きになってしまっている。
「なぁ、アルベド──」
「なりません」
隣に立つ階層守護者統括のアルベドに話掛けるも、にべもなく断られる。その笑顔は何時ものように眩しい限りなのだが、その目は確固とした信念がありありと浮かんでいた。お前の意見は絶対に通さないぞ、という信念が。
「な、なぁ──ちょっとだけ、な?」
「いけません」
傍から見れば玉座に大仰に座る主とその従者なのだが、会話だけ聞けば情けない事この上ない状態だ。まるで尻に敷かれた旦那である。いや、まるで──ではなくそのまま、か。
「ちょっとくらい良いじゃないか」
「いけませんと──先ほどから申しているではありませんか」
俺が食い下がるのも仕方ない事だと受け入れてほしいが、そうままならない。
何せ暇なのだ。早朝から行われている襲撃から早数日と数時間。もう残るは後10人にも満たないだろう。弱い。そう、想定以上に弱すぎたのだ。だからこっそりと、分かり辛いように折角作ったこの玉座の間への直行テレポーターも結局見付けられる事もなく。──いや、そもそもそのテレポーターまで来れた襲撃者すら皆無。
全体の凡そ90%の襲撃者が、だ。このナザリック地下大墳墓の第一階層どころか、一階すら踏破出来ないなど誰が予想できるだろうか。余りに酷すぎて別の階層にランダムで飛ぶテレポーターの設置まで行ってしまう程だった。だがそれは階層守護者達を喜ばせただけならば良かったものの──
「今回の襲撃は余りに弱すぎて、防衛を行った者達から少なからず不満の声が上がっております。そんな状態でアインズ様に暴れ回られでもしたら──」
「不満が爆発する──か」
「いえ、皆の標的が襲撃者からアインズ様に代わるだけですわ」
なにそれ怖い。本気<ガチ>モードのコキュートスが嬉々とした表情で俺に突っ込んでくるとか恐怖しか湧いてこないぞ。死ぬかもしれないという恐怖ではなく、終わりの見えない凄まじく面倒臭い方でだが。
「アルベド、あとどれくらいで終わりそうだ」
「えぇと──はい、今終わりました。パルパトラという老人が主体となったチームが最後まで残っていたようですね。最終撃破者<ラストアタック>はアウラとマーレのようです」
そうか、と呟く。終わった。そう、終わってしまった。楽しい楽しい祭りが終わってしまったのだ。一切参加する事なく。
嗚呼。そうため息が出る。視線の端に見えた遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>にマーレとニニャが嬉しそうにハイタッチしている姿が映し出されていた。
まるで──帰るまで楽しみにしていた新作ゲームを、先に帰っていた家族に先にプレイされていた気分である。楽しそうにしている所を見てしまっては怒るに怒れず、落ち込むことすらできない。
「少し出る。後は任せた」
「いってらっしゃいませ、アインズ様」
あぁ、参加出来ない祭りに価値はあるのだろうか。
──こうして、楽しい楽しい襲撃祭りは密かに涙する俺を置いたまま終わりを告げたのだった。
「ねえ、イビルアイ。このラナーの手紙どう思う?」
モモンさんに用無しと言われて消沈している私が、ようやく気持ちを持ち直したその朝の事だった。まるで計ったかの様に届いたラナー姫の手紙。それに書かれていたのは──
「ナザリック地下大墳墓へ──いや、アインズ・ウール・ゴウンへの使者の話だろう。どうと言われてもな」
話の内容はこうだ。元々王国領地内にあるナザリックは元々この王国のものである。だから恭順しろ。という旨を伝えるために使者がアインズ・ウール・ゴウンの元へと送られる。ただ送られるだけならば良くある話だろう。だがアインズ・ウール・ゴウンは恐らく人間ではないこと、そもそも王国が成り立つ前からあの地にあったであろうことを鑑みるに──
「普通にやったらミンチにされて街道にばら撒かれて終わりだろうな」
「やっぱりそうよね──」
アンデッドとして、ヴァンパイアとして絶対強者である真祖<トゥルーヴァンパイア>シャルティア・ブラッドフォールンを妻とするアインズ・ウール・ゴウン。余程特殊な契約でもしてない限りは、まず間違いなくアインズ・ウール・ゴウンの方が強いと考えて良いだろう。そんな相手を上から抑えつけたらどうなるか。
「軽く見積もって、このエ・ランテルを含む周辺全ては草木一本生えぬ土地に早変わりだろうな」
「最悪の事態を想定するなら?」
「それはとても簡単な事だ」
そう、とても簡単な話だ。最悪な事態など想定する意味すら無いほどに。だが私が簡単と言った意味をどう捕らえたのか、ラキュースは少し気を持ち直したようだ。なぜ持ち直せるのか。
「ラキュース、神は信じるか」
「え?えぇ、まぁ──人並に、かしら」
「だったら祈れ。祈り続けろ。世界の全てが滅ぶまでに出来るのはそれだけだ。せめて安らかに死ねる様に祈り続けるんだ」
なぁ、簡単だろう。と私は彼女に微笑んだ。正直な話、あのシャルティア・ブラッドフォールンが激怒したら間違いなくリ・エスティーゼ王国は滅ぶ。返す刀で襲撃の主犯であるバハルス帝国も滅ぶだろう。都市国家など元から無かったと言われる程度に牽き潰され、ローブル聖王国も消えるだろう。ギリギリ残るのはスレイン法国とア―グランド評議国位だろうが、終わる頃には強者が単体で残るだけで国は滅んでいるだろう。つまりは──
「私から言えることはただ一つ。アインズ・ウール・ゴウンを本気で怒らせるな。怒らせたら──え?モモンさん!?」
「随分と物騒な話をしているな、イビルアイ」
ラキュースとの話に夢中になっていたせいで気付かなかった。気付けたのは、私の真正面に彼が座ってからだった。ラキュースも同じの様で、突然隣に座った彼に目を丸くしている。
「もう、終わったのですか?まだ十日も経っていないと思うのですが」
「ん?あぁ、これでも大分掛かった方だ。今回は一人も逃がさないために相当念入りにやったからな」
あれだけの人数を、手練れだって相当居ただろうに事も無げに言う彼が、少し寂し気に見えたのは気の所為なのだろうか。
「そうだわ、モモンさん。あなた、アインズ・ウール・ゴウンと知古なのよね?」
「え?あ、あぁ。そうですが、それが?」
少し寂し気な、少し悲し気な雰囲気はほんの一瞬の事だったようで、ラキュースに話しかけられた彼は何時もの彼に戻っている。やはりアンデッドに身を窶したとはいえ、人を殺すのは余り気持ちの良い話では無いのだろう。やはりあの時私達を帰らせたのは、無暗に人を殺させたくはないという彼の優しさから来るものだったに違いない。
「──なるほど、使者ですか。良いと思いますよ。彼も隣人と無暗に喧嘩したい訳ではないでしょう。そういう意味では歩み寄るのは良いと思います」
私はラキュースと視線を交わし『あぁ…』とため息を付いた。仕方の無い話だ。国の長たる位置に居た彼に、やられる側を察しろというのは難しかったのかもしれない。
「あの、モモンさん。実は──」
「──なるほど。威圧外交ですか」
彼の言う言葉を滑稽に思ってしまう。威圧外交。威圧だと。生物学上絶対強者に位置する相手に対して威圧?出来るわけがない。小さな蟻が威圧したところで竜がそれに怯むのか。頭を垂れるのか。ありえない。
「あまりそういうのはお勧めしないのですが──」
「だ、大丈夫!大丈夫です、モモンさん。しない方向に決まっていますので。事態を分からぬ阿呆が喚いているだけですから!」
「そうですよ。ラナーからの手紙で上手く妨害<インターセプト>出来たとありましたから問題ありませんよ、えぇ!」
苦笑いしながら必死にオブラートに包もうとする彼の言葉に被せるように早口で捲し立てる。良くて国が滅ぶ、悪くて世界が滅ぶという選択肢しかないのに威圧外交などさせるものか。私が変わりにそいつをミンチにしてやるわ。世界平和のために。
私とラキュースの詰め寄りに少しだけ引いた感じで頷いてはくれた。妙な誤解を持ったままで居て欲しくはない。姫様だって私たちだってアインズ・ウール・ゴウンと戦いたくはないのだ。
「えぇ、ですか──うひゃぁ!?」
「くんかくんか、いやされるにほい」
突然走る怖気に思わず飛び上がろうとするも身体が動かない。そう思った瞬間に耳元から聞こえてきたのは恐らくティナの声だろう。気付けばモモンさんの膝の上に青い柄の入った方──ティアが座っていた。
「平時とはいえ気を抜きすぎ。モモンさんは気付いてたよ」
「うんうん」
すると何だ。モモンさんはティアに気付いていただけでなく、膝に座らせたと。あと頷いているふりしてティナが私に頬ずりしている。いい加減に離れろ。私に頬ずりして良いのはモモンさんだけなんだぞ。
「何はともあれ、お帰りなさい、二人とも」
「はい──んぐんぐ──ふぁたらしい手紙」
いくら忍とはいえここから王都への往復を1日で行ったのは辛かったのではないだろうか。そう心配しそうになるものの彼女たちに疲労の影はない。というかティア、さっさとモモンさんの膝から下りろ。なんでモモンさんに手ずから菓子を口に運んでもらって居るんだ、うらやまけしからん。
それにしてもまた手紙か。もういっそ姫様がこっちに来た方が早いのではないか。
「えぇっと──ぶふぅっ!?」
「お、おい大丈夫か!」
ティアから受け取った手紙を読み始めた時だった。突然ラキュースが吹き出して突っ伏したのだ。毒かと思って立ち上がると、震える手でラキュースが手紙をこちらに渡してくる。
そこには一文が認められていた。たった一文だった。とても分かりやすい一文だった。けれど、分かりたくない一文がそこにあった。
──使者の候補がありえないくらい馬鹿揃いなので私が行きますね。つきましては蒼の薔薇の皆さんに護衛を頼みます。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ──
これが最善だというのは分かる。理解できる。だが同様に理解したくない。どこの世界に王女自ら使者に立つ国があるというのか。精々相手への人質や輿入れの意味合いが含まれない限りはまずありえない。そもそも行く本人が言う言葉ではない。というか王は間違いなく却下していただろう。だというのに無理を押し通したというわけだ。
「い、一国の王女が国を空けるなぁぁぁ!!!」
静かな高級宿屋の喫茶スペースに私の理不尽への叫びが空しく響く。
まずはモモンさんを説得しないといけないかな、と思いながら。