sportsnavi

合言葉は「俺たちが歴史を変える」
柱谷哲二が語るアジア制覇の記憶 1992年

心臓の鼓動を感じながら、柱谷はラモスと向き合った

ブラジル出身のラモスは当初、オランダ人のオフトとウマが合わなかった。だが、日本代表に欠かせない存在なのは間違いなかった
ブラジル出身のラモスは当初、オランダ人のオフトとウマが合わなかった。だが、日本代表に欠かせない存在なのは間違いなかった【写真:アフロ】

 W杯アジア最終予選を翌年に控えた1992年は、日本代表の強化に多くの時間が割かれた。7月にはオランダ遠征に臨み、8月に入るとイタリアの強豪ユベントスとの親善試合を2試合こなした。その直後に挑んだのが、中国・北京で開催されたダイナスティカップ(※のちの東アジア選手権、現E−1サッカー選手権)だった。


「オフトと俺自身にとっては勝負だった。オフトは自分のスタイルを貫いてきた。キャプテンに指名された俺は、みんなに対して『まずはやってみよう』と声をかけてきた。ここで結果を出せば、ふたりがやってきたことが揺るぎないものになる」


 日本は中国と北朝鮮を圧倒し、決勝でPK戦の末に韓国を下して東アジア王者のタイトルを獲得した。オフトと柱谷は、賭けに勝った。


「結果だけじゃなく内容にも手応えを感じて、自然と『面白い』という声まで聞こえるようになってきた。ダイナスティカップに勝って、みんなの信じるものがひとつになったという感じかな。いや、まだ若干1名だけは違ったんだけれど」


 バクバクと音を立てる鼓動を感じながら、柱谷はラモスと向き合った。


「ダイナスティの後、どのタイミングだったかな。とにかくどこかのホテルで、ラモスさんのところに行った。俺はずっとソワソワしていた。でも『言わなきゃ』と心に決めた」


 こう伝えた。


「今、チームはひとつにまとまっている。オフトを信用して、ついて行くと決めている。結果も出た。日本で開催されるアジアカップは、なんとしても優勝しなければならない。俺たちにはその力がある。だから、ラモスさんも“チームの中”に入ってください」


 柱谷の真剣なもの言いに驚いたのか、ラモスはただ聞いていた。柱谷は言葉を続けた。


「ラモスさんは大事な選手。でも、俺はひとりの選手よりもチームを大事にする。日本代表はチームであって、ラモスさんのものじゃない。だからもし、チームの中に入れないのなら、ラモスさんが辞退してほしい」


 強い言葉の裏側には、特別なリスペクトの念があった。


「協会にもいろいろな要求をして、細かい部分を改善しながら、チームは上下関係のないオープンな関係を作ろうとしていた。ラモスさんは誰よりもサッカーがうまい。誰よりも経験がある。絶対的な中心であることは誰もが認めているのに、その人がオープンにならないんじゃ話にならないでしょ。正直、震えたよ。俺自身はキャプテンとしての使命感だけで取った行動で、心臓はバクバクだった。でも、横山さんのチームのとき、上の人たちに何も言えなかった自分を後悔していた。だから変わらなきゃと本気で思っていた」

カズやラモスら個性派集団をまとめた柱谷。オフトのサッカーを理解し、チームメイトに伝えるのもキャプテンの任務だった
カズやラモスら個性派集団をまとめた柱谷。オフトのサッカーを理解し、チームメイトに伝えるのもキャプテンの任務だった【千葉格】

 まるで“オチ”のような後日談もある。


「そのあと、確か、ラモスさんがメディアに“余計なこと”を言ったんだよね。それにオフトが怒って、ラモスさんを呼び出した。そこで何を話したのか知らないけれど、それ以降、ふたりがめちゃくちゃ仲良くなってるのよ(笑)。そのギャップが大きすぎて、俺たちは『あれ?』という感じで驚いちゃって。


 ただ、やっぱりうれしかった。ラモスさんが“チームの中”に入ったことが、すぐに分かったから。俺は『できないなら辞退してくれ』と伝えたわけで、理解してくれたからチームにいる。その日を境に、チームが一丸となっていくことを感じたよ。オフトはすごいよ。上下関係を崩せない日本人監督と選手の関係だったら、ああいうチームにはならなかったと思う。みんなも感じていたんじゃないかな。『あ、今までと全然違う』って」


 迎えた10月、初めて日本で開催されたアジアカップが幕を開けた。

細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て2009年に独立。サッカーを中心にスポーツ全般にまつわる執筆、アスリートへのインタビュー、編集&企画構成などを手がける。

スコアボード

12月22日(土)

鹿島

0-4

試合終了

リーベルプレート

スポナビDo

イベント・大会一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント