意外と知らない有名外食チェーン系列(※写真はイメージ)

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 回転寿司チェーン「スシロー」の系列ながら……まず寿司皿が回っていない。席に着くと、お茶を運んできてくれる。シャリも高級店で見られる赤みがかった色で、訊けば「赤酢ではなく、バルサミコや黒酢など……工夫しております」とのこと。美味いし、やっぱり安い。これが昨年春まで、その正体を隠していた寿司居酒屋「杉玉」である。

 5年で100店舗を目指すという「杉玉」のみならず、実は有名外食チェーンの系列だったという店が、いま増えている。

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「スシロー」を展開するスシローグローバルホールディングスが、“実は「杉玉」は「スシロー」の系列店”と公表したのは、昨年3月、神楽坂店(東京都新宿区)の内覧会でのこと。神楽坂店は3号店だった。スシロー広報が説明する。

意外と知らない有名外食チェーン系列(※写真はイメージ)

「『杉玉』1号店は一昨年8月にオープンした西宮北口店(兵庫県西宮市)で、2号店は昨年1月の神保町店(東京都千代田区)、そして神楽坂店(東京都新宿区)、9月の阿佐谷店(東京都杉並区)、11月の武蔵境店(東京都武蔵野市)、いまのところ5店ですが、5年で100店舗を目指します。2号店まで『スシロー』の名を出していなかったのは、『スシロー』のイメージで来てくださることなく、新しいブランドとして『杉玉』の力を見ていただきたかったからです。『杉玉』のメインはあくまでお寿司ですが、他にもお酒や一品料理にもこだわりがあります。そうした新しいお店を一から始め、これならやっていけそうだと見えてきたところで、3店目でお披露目させていただきました」

 だが、「スシロー」は過去にも新業態の出店を試みたことがある。スマート・スシ・ダイニングをテーマにした、やはり回転しない寿司とつまみ、酒を充実させた「ツマミグイ」がそれだった。15年1月、中目黒に1号店、同年6月には赤坂見附に2号店、そして翌7月には新橋に3号店……。だが、1号店は同年11月に「七海の幸 鮨陽」と看板を変えた。シャリロボットを使わない伝統的な鮨を提供する店となったが、16年には3店舗すべてを閉店している。失敗だったのだろうか。

「そうした、回転ではない寿司の研究・実験を重ね、ある程度、成果が見られたということです。そうしたノウハウは、現在の『杉玉』に反映しております」(同・スシロー広報)

「杉玉」は確かに新業態ではあるが、あくまでも寿司中心である。

「そうですね、やはり食材の仕入れなど、これまで培ったノウハウがありますから、そこを活かした店舗を出したかったのです」(同・スシロー広報)

吉野家を救った「京樽」「千吉」

 一方で、まったく異なる展開を見せる系列もある。

●牛丼「吉野家」を展開する、吉野家ホールディングスの傘下には、讃岐うどん「はなまるうどん」、テイクアウト寿司「京樽」、回転寿司「海鮮三崎港」、おむすび専門店「おむすび畑」、「ステーキのどん」、しゃぶしゃぶとすき焼き「どん亭」、ステーキレストラン「フォルクス」、カジュアルイタリアン「donイタリアーノ」、カレーうどん店の「千吉」がある。和洋取りそろえた展開だ。

●同じく牛丼の「すき家」のゼンショーホールディングス傘下には、うどんとどんぶりの店「なか卯」、ステーキ・ハンバーグの「ビッグボーイ」、和食レストラン「華屋与兵衛」、ファミリーレストラン「ココス」、回転寿司「はま寿司」などがある。ちなみに、「スシロー」もかつてはゼンショー傘下だったが、離脱している。同様に、ハンバーガーチェーンの「ウェンディーズ」もグループから離れた。

●現在「ウェンディーズ」の親会社はヒガ・インダストリーズであり、創業者のハワイ生まれの日系3世、アーネスト・M・比嘉(66)は、日本に「ドミノピザ」を広めたことで知られる。同氏は、同じくハンバーガーチェーンの「ファーストキッチン」の会長でもあり、「ウェンディーズ」とのコラボレーションを進めている。

●ハンバーガーチェーン「フレッシュネスバーガー」のコロワイドグループには、「手作り居酒屋 甘太郎」、「牛角」、「かっぱ寿司」、「海鮮アトム」、「ステーキ宮」、イタリアン「ラパウザ」……ありとあらゆる飲食店がある。

●あらゆる業態の飲食店を展開する、クリエイト・レストランツ・ホールディングスもそうだ。どんなレストラングループかといえば――、一番目立っているのは、主要駅前には必ずといっていいほどあり、店構えが大漁旗のようで、しかも客が自分で海産物を焼く居酒屋「磯丸水産」だろう。だが、同社の主力はショッピングセンター内のレストラン・フードコートの運営だ。また鳥料理専門居酒屋「鳥良商店」、ラーメン・中華「いち五郎」、しゃぶしゃぶ・すき焼きの「しゃぶ菜」、洋食「RIO GRANDE GRILL」、六本木ヒルズなどの「Mr. FARMER」、東京ミッドタウンにある「BROOKLYN CITY GRILL」、同じくオイスターバー「BOSTON OYSTER & CRAB」などなど、とても磯丸水産の系列とは思えないおしゃれな展開がなされている。

 なぜ、こうした幅広い展開が多くなっているのか、フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏に聞いた。

「多業種に展開していくのはM&Aによるホールディングス(持ち株会社)化の産物ですが、いわゆるポートフォリオ経営を志向しているからです。投資家がリスク管理のために自分の資産を複数の商品に分散するように、企業も様々な業態を集めることで資産を潤沢にし、かつリスクを回避することができるのです。たとえば、狂牛病(BSE)問題で2003年に日本政府が米国産牛肉の輸入を禁止したとき、大きな影響を受けたのが、93%を米国産牛肉に頼っていた『吉野家』でした。『吉野家』は豚丼などで凌ぐ一方、いくら鮭丼やカレー丼なども提供しました。この食材に『京樽』の海鮮や『千吉』のカレーなど、系列会社の存在が役立ったのです」

 近年ではどのような変化が出ているのだろうか。

「多様性のある業種を束ねるということで顕著なのが、クリエイト・レストランツ・ホールディングスです。岡本晴彦社長(54)は三菱商事の外食畑出身ですが、さながら外食の総合商社を志向しているような事業展開です。傘下のさまざまな事業会社には、それぞれの関係性が感じられないのですが、これを同社では『グループ連邦経営』と呼んでいて、戦略の異なる企業がそれぞれの領域を開拓していくことによって、全体として成長していこうという方針です」

 2020年東京五輪への訪日客に向けた、さらなる出店や大規模M&Aもありそうである。

週刊新潮WEB取材班

2019年1月5日 掲載