子供に「護憲平和教」を刷りこむ教科書 ―小学校編―
社会2017年7月21日掲載
洗脳しているのは誰か
安倍首相のいささか唐突な提案によって、また大きくクローズアップされることになった憲法9条――その改正を訴える改憲派は、護憲派に対して「洗脳されている」といったことばを用いて批判することがしばしばある。
戦後、GHQが日本人に対してある種の洗脳に近い教育あるいは「指導」を行なっていたことは事実だ。だが、当然ながらもうGHQは日本にいない。ではいま、誰が国民を「洗脳」しているのか。それを「朝日新聞」という人もいれば、「日教組」の存在の大きさを指摘する人もいるだろう。
では、実際の子供たちは憲法をどのように学んでいるのか。潮匡人氏は、新著『誰も知らない憲法9条』で、さまざまな教科書に実際に目を通して、その偏向ぶりを具体的に指摘している(以下、同書より抜粋・引用)。
潮氏がまず問題視しているのは、表現の書き換えだ。小学生向けの教科書では、憲法の文章を勝手に変更してしまっているというのだ。複数の教科書で、表現を勝手に改めているが、そのようなことが許されるのならば、憲法改正の是非を真面目に議論することが空しくなってしまうではないか、と潮氏は指摘する。
護憲平和教の教典?
それ以上に問題なのは、解説部分だろう。複数の教科書で、子供同士の会話形式という形で、「護憲平和教」に誘導するようなつくりになっている、というのが潮氏の指摘だ。
たとえば、日本文教出版の教科書『小学社会6年下』では、子供同士の会話として、次のようなセリフが紹介される。
「憲法の平和主義との関係で、日本の平和と独立を守ることをおもな目的としている自衛隊に対してさまざまな意見があると書かれてたよ」
「沖縄にあるアメリカ軍基地をめぐって、基地をなくしてほしいという住民運動がおこなわれたというニュースを見たよ」
もちろん「さまざまな意見」も「住民運動」も事実だが、ここでは「自衛隊を早く国軍にせよ」といった「意見」も、「早く基地を辺野古に移してほしい」という「意見」も書かれていない。
また、光村図書の教科書『社会6』では、次のような会話が登場する。
「日本が非核三原則を守り続け、平和の大切さを世界にうったえることが大切だと思う」
「世界でただ一つ、核兵器の被害を受けた国だから、日本の役割はとても大きいよね」
この記述に対して、潮氏はこう述べている。
「私も小学生相手に、極東有事(朝鮮半島有事など)における『核の持ち込み』の必要性や『密約』の存在を教えろ、とは言いません。
ですが、せめて『核抑止力』の重要性も説くべきではないかと思います。かつて『学べば学ぶほど、抑止の重要性が分かった』との名言(迷言)を残した総理もいましたが、今後そうならないよう、義務教育段階から、きちんと教え、学ばせ、考えさせるべきことではないでしょうか。
まだ小学生段階では難しいとの理由から、『非核三原則』にも『核抑止力』にも言及しないのなら、それはそれで一つの見識でしょう。ですが以上のとおり、小学校の社会科教科書が、前者を教える一方、後者には触れていません。
要するに、憲法9条で世界は平和になる、とのイデオロギー教育に終始しています」
もちろん、小学校のときには「キレイゴト」だけを教えてもいいではないか、という立場もあるだろう。ところが、事はそう簡単ではない。潮氏が調べてみると、中・高校生の教科書もまた同様の問題を抱えているというのだ。