戦争について


 ここでは「ソ連軍戦車兵の回想」の付録として、著名な弁護士セミョーン・リヴォヴィチ・アリヤの短編集『戦争について(Про войну)』より、そのいくつかを訳してご紹介したい。
 セミョーン・アリヤ氏は1922年生まれ、戦後の1948年より弁護士としての活動を続けており、古くはアンドレイ・サハロフ(ソ連時代の核物理学者にして人権活動家、反体制知識人の1人)の弁護を引き受けたことで知られる。ロシア弁護士界の長老と言ってもいいだろう。一方、アリヤ氏は対独戦で最前線を経験した退役軍人でもあり、その戦車兵時代の回想は『私はT-34で戦った』に収録されている。そして昨年、自らの戦場体験を短編という形でまとめたのが、この『戦争について』である。
 本書を読む限り、アリヤ氏は他の数多くのソ連兵と同じく過酷な戦いを経験しているのだが、しかしその語り口は意外なほど淡々としており、皮肉とペーソスに満ちている。どことなく大岡昇平の戦記文学を思わせるもので、非常に読みごたえがあった。それで、一部ではあれ日本の読者にご紹介したいと思った次第である。

 あらかじめお断りしておくが、この本の内容は『私はT-34で戦った』に比べて相当に地味なものとなっている。正直なところ、一般の軍事・戦史マニアにとってはそれほど面白くないかもしれぬ。描写の範囲はアリヤ氏個人の見聞に限られているし、ソ連軍の兵器や作戦について詳細な説明があるわけでもないからだ。極めて平凡な兵士の体験談にすぎない。
 しかし一方で、ソ連軍の「極めて平凡な兵士」が経験した戦争はどのようなものであったか、これまでの日本ではイメージしにくかったように思う。将軍の伝記を出版することはあっても、兵士の回想が紹介される機会はあまりなかったからだ。その意味で、『戦争について』は貴重な資料になるだろう。さらに、「ソ連軍」の枠を超えて戦争や軍隊そのものについて考える上でも、本書は有益な示唆を与えてくれるかもしれない。アリヤ氏の抑えた語り口の中には、確かに戦場の実相を伝える何物かがあるように感じられる。

 相変わらず能書きが長いな…まあ、興味のある方は読んでみて下さい。

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