T-34:戦車と戦車兵 アレクセイ・イサエフ


 以下に翻訳を掲載するのは、『私はT-34で戦った』の序文として収められた「T-34:戦車と戦車兵」である。戦史研究家アレクセイ・イサエフ氏がまとめたこの序文は、T-34の技術的特徴と実戦での運用についての解説であり、戦車兵たちの回想を捕捉する内容のものとなっている。

 全体の序文でも書いているように、訳者はもともと軍事に関する知識を豊富に持っているわけではなく、特に技術的な方面に関しては無知と言ってもいい。従って、イサエフ氏の解説がどれほど正確なものであるかは分からない。しかしながら、素人なりに興味深く読める内容であったことは確かである。
 まず第一に、T-34の性能に関してできる限り客観的な評価を心掛けようとしている点。戦車が具体的にどのような長所と短所を持っていたのか、1つ1つの技術的特徴をピックアップしてはその得失が論じられている。言うまでもなく、筆者はロシア人としての目線でT-34を検証しているのだが、「祖国を救った伝説の名戦車」を徒に神格化するような姿勢は感じられない。場合によっては、一般的に長所とされてきた部分の隠された問題点を明らかにしてさえいる(例えばディーゼルエンジンの防火性について、など)。あるいは逆に、明らかな欠陥に対しても、何故そのような問題が生じなければならなかったのか、その背景を掘り下げる試みが行なわれている。
 また、T-34を構成する様々な要素に関して、実際にこの戦車で戦った兵士の声を紹介している点も大きな魅力である。もともと、本書は元戦車兵へのインタビューによって成り立っているものであり、体験談には事欠かない。T-34を運用するにあたってはどのような問題があり、どこが便利であったのか、乗員による生の評価を知ることができる。一方で、「現場の声」を絶対視するのではなく、兵士たちの思い込みが統計資料と相反する場合、きちんとその矛盾を指摘するという姿勢にも好感が持てる。
 
 実際のところ、ソ連軍の元兵士の体験談はともかく、T-34自体については日本でも数多くの書籍が出版されている。しかし、ロシア人の手による研究となると、やはりまだまだ紹介される機会は少ないように思う。この一文が、T-34に関心を持つ読者の方々に新たな視点を提供するものとなれば幸いである。

 問題は、何度もくどくどと言い訳しているが、やはり訳者にその方面の知識が不足していること。特にこの「T-34:戦車と戦車兵」では、専門的な技術用語が頻出し、なかなか訳が進まない上に自信もない。訳者には荷が勝ち過ぎたテキストであると思います。謙遜でも何でもなく。なので、もしも明らかに翻訳ミスと思われるものや、訳者の知識の欠如による間違いなどを見つけられた方は、遠慮なくメールや掲示板などで指摘していただければ幸いです。

 なお、「T-34:戦車と戦車兵」のテキストは長大なものであり、訳文そのままを掲載することは困難である(それに、いつ全体を公開できるのか見当もつかない)。そこで、テーマごとに区切りのいい場所で分割し、少しずつ載せていきたいと思う。なお、小見出しは訳者が便宜的につけたもので、原文にはないことをお断りしておく。

1.T-34を支えた2つの技術的特徴

2.車体ハッチと砲塔ハッチ

3.トランスミッション


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