オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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時系列などはあまり考えずにお読みください。
トブの大森林の奥地にあるひょうたん湖。
その近くにある
「モモンガ様、村みたいなのが見えてきましたよ」
「あれがブレインの言っていた
とある事情からブレインに紹介された集落。モモンガの姿は思いっきりアンデッドだが、ブレインが話を通してくれている筈なのでそのまま近づいていく。
「何者だ…… ん? ああ、ブレイン殿が言っていた子供と使役魔獣のモモンガ殿だな」
「ちゃんと伝わっていて良かったよ…… そのモモンガだ。この子はネムという」
「ネム・エモットです!! 薬草を持ってきました!!」
「おお、ありがとう!! 我々は陸を歩くのが苦手だから助かるよ。それと失礼したな、私は
ザリュースに案内され、辿り着いた場所は魚の養殖場。大きな魚がピチピチと元気に跳ねて、生簀の中を泳いでいる。
ブレインが
更にはザリュースの考えた魚の養殖も様々な者たちの助言が集まったおかげで軌道に乗り、食料問題もほぼほぼ解決していた。
「さぁ、この一番デカイヤツを持ってってくれ。薬草のお礼だ」
「わぁーっ!! 凄い大きいです!! ありがとうございます!!」
「ふふふ、良かったなネム。エンリもこんな大きな魚が食べられると知ったら驚くだろう」
「はいっ!! お姉ちゃんもきっと喜びます!!」
人も亜人も異形種も助け合う世界。
正義の味方が助けたモノは、確かに平和に繋がっている。
◆
エ・ランテルで最高と名高いバレアレ家の薬品店。
そこには全身を汗だくにしながら一心不乱に腕立て伏せをする少年の姿があった。
彼は様々な筋トレを行っては休憩し、瓶に入った白い液体を飲むという行為を繰り返している。
「ンフィーレアや、お前さんはさっきから何をしとるんじゃ…… それにその白い液体は何じゃ?」
「ああ、お婆ちゃん。遂に完成したんだ、今までの概念をひっくり返す新しいポーションが!! 今はその効果を試している所だよ」
孫が惚れた女に会いたいために、言い訳としてトブの大森林に通っているのは知っていた。そこで本当に新種の薬草を見つけて研究に没頭し始めた事も……
「神の血…… では無いな。見るからに真っ白じゃ。それで、これと筋トレに何の関係があるんじゃ?」
「このポーションはザッバースという薬草を調合して作ったものでね。従来の一時的に筋力を強化するポーションと違って、筋肉を鍛える効果を高めるポーションなんだ!! 名付けて『ぷろてぃん』!!」
「それは…… 確かに凄いが……」
こんな短期間で新しいポーションを作ったのは凄い。流石ワシの孫じゃと褒めたい。しかし…… それって只の栄養剤なんじゃ…… いや、見方によっては一つの効能に特化したポーションと言えなくも無い。
「これを使って僕は強い漢になる。エ・ランテル一の…… いや、世界一強い薬師になるよ!!」
(孫の薬師の腕は一流の域に達しつつあるかもしれん。このまま行けば薬師としては確実に大成するじゃろう…… しかし――)
――男としては心配じゃ……
どこを目指しているのか分からない孫を前に、リイジー・バレアレはこれまで通り温かく見守るしかなかった。
ちなみに新型ポーション『ぷろてぃん』は冒険者を中心に、健康を気にする人達にも幅広く売れた。
◆
最近とても元気で絶好調なリ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。
彼女は自室で鼻歌を歌いながら、明日はクライムと何をしようかと妄想を膨らませていた。
もちろん公務は体調不良という体で、全て第二王子にぶん投げるつもりでいる。
「ああ、毎日本当に楽しいです。クライムとのささやかな幸せがあればそれで良い…… なんて思っていましたけど、人間知ればもっと欲しくなるものなんですね」
クライムとのアレやコレやを妄想している中、ラナーはある企画を一つ思いついた。
クライムやみんなの驚く顔が見たい…… もとい幸せになるお手伝いをしようと考え、それを実現するべく頭を高速回転させていく。
「みなさんはどの様な反応をしてくださるのでしょう? クライムの反応も気になりますし、当日が楽しみです!!」
数日後、自らの頭脳をフル活用したラナーは全ての準備を終えた。
そしてラナーの色んな人を巻き込んだ壮大な計画が実行されることとなる……
リ・エスティーゼ王国の某所。
今は使われていない王家の所有する建物に、ある男達は集められていた。
「いったい何が始まるってんだ? クライムかモモンガは知ってるんじゃ無いのか?」
「申し訳ありません。私はラナー様に皆様をここに連れてきて欲しいと言われただけで……」
「私も知らないな。それにしてもまさかガゼフまでいるとは…… 戦士長って暇なのか?」
「いや、私は公務として連れてこられた筈なんだが…… まぁいい機会だと思う事にしよう。モモンガ殿、カルネ村の件では本当に助かった。貴殿のお陰で私も部下達も命を救われた。心から礼を言う、本当にありがとう――」
「……」
クライムを通して集められたのは、ブレイン、モモンガ、ガゼフの三人。そして、無言で眉間のシワを押さえているのはバハルス帝国の皇帝ジルクニフ。
彼らはここに着くなり全員正装に着替えさせられ、この場に置いてある長テーブルの席で待っているようにと、ラナーから指示を受けていたクライムに言われた。
なのでこれ以上は何もわからず、モモンガ以外は用意された飲み物を飲みながらそのまま仕方なく黒幕ラナーの登場を待っている。
「――男性陣はもう準備も出来て揃っている様ですね。お待たせしたようですみません。ではそちらの皆さん、入ってきてくださーい!!」
程なくして、いつもの様にドレスを着たラナーが笑顔で現れた。こちらが揃っているのを確認した後、扉に向かって声をかける。
そして扉から出てきたのは、モモンガからすればどれも見知った顔である。
一つ共通点を挙げれば皆がドレスを着て、綺麗に着飾っているといった所か……
モモンガはこの状況とラナーが黒幕という二点から、当たって欲しくはない推理を立ててしまった。
「ブレイン、ここは恐ろしい戦場になるぞ。俺も経験した事の無い…… 無事でいられるか分からん戦場だ」
「モモンガ…… 何が起こるか分かるのか?」
「モモンガ様程の強者が経験していない戦場……」
「あの女…… いったい何が狙いなんだっ」
「いや、みんな反応がおかしく無いか? モモンガ殿もちょっと大袈裟なのでは……」
ガゼフを除いた四人は既に、戦いに挑む戦士のような顔になりかけていた。
ラナーはこのまま進行役をするためなのか、自身の席のところで立っている。
連れてこられた残りの女性陣は順番に長テーブルの向かいの席に座って、簡単に自己紹介を始めた。
改めて集められた者達を見て、よくもまぁこんな濃い面子を集めたものだと、モモンガは呆れを通り越して感心してしまう。
「エンリ・エモットです…… うぅ、どうしてこんな事に……」
「ネム・エモットです!! 今日はよろしくお願いします!!」
「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです…… はぁ、ラナーはまたこんな事を…… 能力の無駄遣いにも程があるわ……」
「番外席次、絶死絶命。敗北を知りにきたわ」
会場に集められたのは複数の男と女。モモンガは自分の推理が当たってしまいそうで焦る。
いや、まだそうと決まったわけでは――
「さぁ、みなさん。『合コン』というものを始めましょうか!!」
――ラナーが宣言してしまった。
合コン、合同コンパニオンの略…… たしか男女の仲間を意味する言葉……
うん、現実逃避しても無駄だな。
流石ラナー、この面子でそれを行おうとするとは恐れを知らない姫様だ。
俺は未知の冒険を求めたりもしたけど、これは未知すぎるというか何というか……
「ラナーよ…… 色々と人選ミスじゃないか?」
「大丈夫ですよモモンガ様、全員未婚の方ですから。それに女性はみんな綺麗どころを集めましたよ? 年齢の幅も広いですし、好みのタイプはいませんでしたか?」
そこじゃない、全員知り合いだし!! あと年齢の幅も広すぎると思う。一番下なんか10歳だぞ。
それに最後の一人は第一声からして色々と間違っている…… というか散々敗北しただろうに。
「モモンガ、以前お前が言ったことだ。人間諦めも肝心だぞ」
「モモンガ殿、ここで逃げては女性達に恥をかかせることになる。男には挑まねばならん時があるのだ」
ブレインめ、ここぞとばかりに良い顔しやがって…… 俺はアンデッドだぞ。
あとガゼフ、何故お前はこの面子を見てそこまで堂々としていられるんだ……
あっ、そういやコイツは殆ど彼女達を知らないのか。
モモンガはあれこれと考えを巡らすが、ラナーが止まってくれるわけもない。
「では全員が納得したところで、まずは好みの異性でも聞いてみましょうか。エンリさんはどんな男性が好みですか?」
「えっ、私!? 私は、その…… グイグイと私を引っ張ってくれるような、私よりしっかりした力強い男の人が…… あと常識のある人で」
((ガゼフでも引っ張るのは無理だろうな……))
モモンガとブレインの思考は人知れずシンクロしていた。
英雄級の筋力でもちょっと力不足なので、某薬師の少年は死ぬ気で鍛える事をお勧めする。
「いいじゃない。私の理想も自分より強い男ね。性格や見た目はどうでもいいわ」
「エンリさんは結構夢見がちな乙女ですね。高すぎる理想は男性を遠ざけちゃいますよ?」
「えっ!? 私のこれってそんな高望みなの!? 割と普通ですよね!?」
エンリの理想は番外席次からは共感を得られたが、微妙にズレている。
「さてさて、戦士長様はどうですか? 正直に答えちゃってください!!」
「巨乳だな。実は私は胸の大きさに強く惹かれるところがある」
コイツは真面目な顔をして何を言っているのだろう。
堂々としていたのは彼女達を良く知らないからじゃなく、元々の性格だったようだ。
モモンガは質問から何が飛び火してくるか分からないため、気持ち的に表情を引き締めて気合いを入れ直す。
「皇帝陛下はどうですか?」
「私は――」
「――まぁどうせ知性のある女性とか言いますよね。私はお断りですので、ごめんなさいね」
「貴様ぁ!! 同盟国の親睦を深める名目で連れて来ておいて、流石に扱いが雑すぎるぞ!!」
ジルクニフがこの場にいた理由を知り、一時的な同盟の筈なのに意外と律儀な男だと思う。
それに対してラナーは今日も相変わらずだ。まさに黄金と呼ぶに相応しいメッキを纏っている。本当に笑顔が眩しい。
「モモンガ様とブレインさんはどうですか?」
「いや、私は骨だからあまりそういうのは無いんだが……」
「俺も昔から剣ばかり振っていたからな、正直よく分からん……」
モモンガとブレインは危険なものを感じ取り、何気なく質問を躱そうとする。
数々の戦いを経験し、人外領域に達した俺たちの危機回避能力をナメて貰っては困る。
「そうなのですか…… そういえば、お二人とも『兎』、お好きなんですってね?」
((何故それを!?))
ラナーから不可避の一撃が叩き込まれた……
予想外の言葉にブレインは目を見開き汗だくになっている。
ラナーの言う『兎』が何を揶揄しているか気付いてしまったのか、それを思い出したエンリも顔が真っ赤に染まった。
この後もお姫様による情け容赦の無い質問により、場はどんどん混沌へと掻き回されていった――
「――中々面白い話が聞けましたね。では次は王様ゲームをやるしかないですね」
「やめろラナー!! それはきっと悲劇しか生まないぞ!? というか合コンもそうだが、何でそんなの知ってるんだ!?」
「大丈夫ですよ。これは六大神が広めたとされる由緒ある遊びですから」
(六大神って絶対プレイヤーだろ…… やっぱり過去にも俺みたいに来た奴がいたんだな)
モモンガは意外な所から神の正体に気付いてしまった。
本当に法国が一丸となって崇める程の奴らだったのだろうかと、信仰心のカケラもないモモンガは疑問に思ってしまう。
「クジを引いて王様になった人の命令は絶対ですからね」
モモンガが言ったところでラナーが止まるわけもなく、当然ゲームは進行してしまう。
みんなに混じって意外と素直にクジを引くジルクニフ。本当の王族が二人もいる王様ゲームをやる事になるとは、人生何があるか分からないものだとモモンガはシミジミと思っていた。
「やった!! ネムが王様です!!」
「良かったですね。それではネムさん、番号を指定してお願いを決めてください」
「じゃあ、1番の人が3番の人にデコピン!!」
(ああ、流石ネムだ。この面子の中では最も危険の少ない王様だろう)
なんとも子供らしい命令に、これなら大丈夫そうだとモモンガはホッとする。
「1番は私ね。誰にデコピンすればいいのかしら?」
「3番は私だな。絶死絶命殿、お手柔らかに頼む」
(あっ、これはダメなやつ――)
――ガゼフ撃沈。
「あらあら、戦士長様はここでリタイアですわね」
「リタイアってなんだ!? ゲームの趣旨変わってないか!?」
「モモンガの言う通りだったな…… これは確かに戦場だ」
――脱落者が出ようがゲームは続き……
「一般人に負けるなんて…… アダマンタイト級冒険者の誇りが無くなりそう……」
「私が村娘だという自信はとっくに砕け散ってますよ……」
――一人、また一人……
「では4番のブレインさん。このバレアレ家特製の激辛デスソースを一気飲みしてください」
「姫さん、今名指ししただろ!? なぜ番号が分かった!?――」
――肉体的、精神的に……
「はっはっはっ!! どうしたラナー王女? 投げ飛ばせという命令だぞ? 私は皇帝だが遠慮は要らない、その細腕で出来るものならやってみるがいい!! これはゲームなのだからなぁ!!」
「モモンガ様」
「はい。〈
「おい、それは卑怯じ――」
――倒れていった……
「あら? いつの間にか随分と人数が減ってしまいましたね。それではこれを最後にしましょうか。じゃあ1番の方…… 私に愛していると言ってください」
「1番は私です…… ――んんっ!! ……ラナー様、愛しております」
「愛の言葉とは良いものですね…… 次に聞く時は命令じゃなく、貴方からの言葉を期待しちゃいます!!」
こうして世にも危険な合コンは幕を閉じた。
分かりきっていたが、ラナーの一人勝ちである。
完全にお開きとなり、集まった人達が殆ど帰った頃。
ラナー王女は皇帝ジルクニフを呼び止めて、クライムに席を外させ二人きりで話していた。
「ラナー王女、貴様は結局何がしたかったんだ……」
「皇帝陛下は楽しくありませんでしたか? 人も亜人も異形種も、立場なんて関係ない。素の自分を出せる空間は良いと思いませんか?」
「何が言いたい……」
「共存の意思があればどんな種族でも共に生きられる世界…… それが欲しいのです。友人が自由に生きられる世界が……」
「その友人とやらがアイツを指しているのなら、十分自由に生きていると思うがな」
アンデッドに対して生きているという表現が正しいかは分からないが、ジルクニフはラナーが誰を指しているのかはちゃんと理解している。
ラナーは笑顔のままこちらから目を離さない。思わずこちらから目を逸らし、背を向けてしまった。
「では言い方を変えます。平和って良いと思いませんか? 貴方の国にも利益のある事なので、それに協力して欲しいのです」
「……くだらん。私はバハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、鮮血帝と呼ばれた男だぞ。自国の繁栄が第一に決まっている―― ……だが、もしそれに協力する事で、我が国に一番利益があるというのならば考えよう……」
「ええ!! どの国よりも莫大な利益をお約束しますわ!! 皇帝陛下が協力してくださるなら法国も、他の国もきっと動かせます……」
ああ、私はこの女が嫌いだ。
猫を被り、黄金を纏って自分の望みを押し通す…… 王たる能力も資格も持ちながら、それに価値など見出していない。
きっと自国を私に売り渡しても望む平和とやらを作るのだろう。皇帝としての誇りを持つ私とは一生相容れない存在だ。
「皇帝陛下は知ってましたか? 人って同じ目線に立てなくても、仲良くなれたりもするんですよ」
(コイツは人の心でも読めるのか…… やはり私はこの女が嫌いだ!!)
嵐のような合コンが終わり、家へと帰ろうとするモモンガ達。
「あー、疲れた。疲れないアンデッドの筈なのに疲れた……」
「私って理想高いのかなぁ。このままじゃ結婚できないのかな……」
「モモンガ様もお姉ちゃんもグッタリしてるね?」
あの場を最後まで楽しみ切ったのはラナーとネムぐらいではないだろうか……
帰るための〈
「モモンガ……」
「ん? なんだ番外席次か。 ……そういえばラナーが呼んだんだろうが、どうしてコレに参加してたんだ?」
「それは話すと長くなるけれど――」
『――番外席次さん。モモンガ様をメロメロにする催しがあるのですけれど参加しませんか?』
「――ってあのお姫様に言われたのよ」
「お前アホだろ」
ラナーに騙されて丸め込まれただけみたいだ。法国ってやっぱりポンコツの集まりかもしれない。
「ひどいわね…… それでどうかしら?」
「何のことだ?」
番外席次が両腕を広げてみせるがモモンガは何のことか分からない。
「ドレスよ!! ド・レ・ス!! 折角お姫様に借りたのに……」
「ああ、その事か。えーと、とても良く似合っていると思うぞ」
そういえば今日は誰のドレス姿も褒めていない。
何時もなら真っ先にネムやエンリの事を褒めただろうが、あまりの展開にそこまでの余裕が無かった。
「ふふっ、そうなの…… それじゃあ結婚ね!!」
「お前はもうちょっと色々考えた方がいいぞ…… 取り敢えず結婚直結の考えをやめなさい」
「別にいいじゃない。あの時聞いてなかったのかしら? 私の好みは私より強い男よ。それにモモンガの性格も顔も嫌いじゃないし」
「私はアンデッドなんだけどな……」
番外席次は笑顔で骸骨の顔が好きだと言い出すし、モモンガにはどこまでが本気か分からない。
「こんな骨が求婚されているのに…… 私ってもしかして魅力ないんじゃ…… ラナー様とクライムさんはゴールするのが確定してるし。ああ、ロリコ…… モモンガ様にも先を越されるなんて…… こうなったら偶然を装って道の角でンフィーにぶつかりにいって――」
「お姉ちゃん、それしたらンフィー君死んじゃうよ」
「ここにきて血濡れ案件は勘弁だぞエンリ」
ラブコメ伝統の出会いは、ヒロインが強過ぎるときっと大惨事を引き起こすだろう……
合コンに参加したことにより色々と刺激されてしまったのだろうか? モモンガからすれば16歳なんて少女と言える年齢だ。まだそんなに焦る段階では無いのに、エンリはブツブツと作戦を練り出している。
このまま村娘がダークサイドに落ち無いように、モモンガとネムは祈った……
◆
トブの大森林の一角で一人の男と骸骨が向かい合っている。いつも二人が修行していた場所だ。
「修行や模擬戦はいつもの事だが、観客が一人もいないってのは少し寂しいんじゃないか?」
「今回は本気だからな…… 本気で俺の剣を試す。だから観客はいらない」
いつものように真剣ながらも楽しそうな雰囲気はまるでない。決闘を行う雰囲気そのものだった。
「俺はきっと
「ブレイン…… 分かった、近接戦闘を行う者としての本気を出そう。〈
「ああ、それで良い。それは俺が憧れた頂の一つだ。正義の味方としてはこの執着は間違ってるかもしれんが、捨てきれなかったんだ…… 生涯最強の友を超えたい。この先お前より強い奴に会うとも思えんからな……」
かつてふざけてブレインをボコボコにした戦士化の魔法。
ユグドラシルではネタ扱いの魔法とはいえ、今のモモンガのステータスはレベル100の前衛職と同等かそれ以上。修行を重ね続けたブレインでも届くようなモノでは無い。
「武技〈神域〉〈能力向上〉〈能力超向上〉――」
「どうした、それで終わりか? そんなものでは私には届かんぞ」
次々と発動するブレインの武技は見事なものだ。それにこれだけの数の武技を重ねがけ出来る者は、この世界でもそうはいない。英雄の領域を遥かに超えている証拠だろう。
だが、それでもモモンガには届かない……
「焦るなよ…… 今から修行の果てに編み出した、とっておきを見せるさ。きっとこの武技は他の相手に使う事はない。憧れの友に並ぶ為、お前に勝つ為に辿り着いた境地…… これがその答えだ!! 武技〈
最後の武技によりブレインは人の領域を完全に超え、超越者といえる力を手にする。
「ああ、流石だよブレイン。お前はやっぱりかっこいいなぁ…… 人の身で俺の隣に立ってくれるのか……」
モモンガには相手のステータスを測るようなスキルは無い。
だが、それでも分かる……
この男は一時的でも自分と対等の領域にいると。
「はははっ!! 最高だよ!! お前はこの世界で初めて俺と対等に戦える人間だ!!」
「そう言ってくれるなら頑張った甲斐があったな。魔法を使うお前に挑めないのが悔しいが…… モモンガ、随分と待たせたが辿り着いたぞ」
正義の味方ではなく、ブレイン・アングラウスとしての挑戦……
「ああ、構うものか!! さぁ、やろうじゃないか、ブレイン・アングラウスよ。正々堂々、一対一のPvPだ!!」
「……いくぞ、モモンガ!!」
「俺を超えてみせろ、ブレイン!!」
この世界で最高の戦い、その勝敗を知るのは二人だけ……
「辺り一帯を更地にするまで戦うとか、何考えてるんですかぁぁぁああ!!」
「「すみませんでした」」
この二人を怒れるのは一人だけ。
やはり今回の作品は綺麗な終わりや、シリアスな終わりよりも、こんな感じで終了です。
番外編までお読みいただきありがとうございました。