Decipit exemplar vitiis imitabile 作:エンシェント・ワン
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とある国に金髪碧眼のお姫様がおりました。――物語の開始にありがちなものだが、それでもイビルアイことキーノにとっては全ての始まりだ。
平和に暮らしていた筈の日常は壊れ、気が付けば
長い旅をしてきたようで思い出せない事がとても多い。
「君の名前は?」
豪奢なローブを身にまとう存在が声をかけてきた。しかし、当時は何らかの原因でひどく知性が低下していた。それゆえに応答に不自由した。
懸命に考えても混乱する頭では唸ることしかできなかった。
「……あぅあ……」
最初はこんなものだった。
それから随分と時間が経ち、相手もちゃんと待ってくれたようで質問に答えられた。
「なまえはきーの・ふぁすりす・いんべるん」
つたない幼児の言葉に相手は安心したようだ。
表情は窺えないが人当たりのよさそうな男性だと――感じたのも一瞬だ。
自身もそうだが相手もアンデッドモンスター。
その
「ここが何処なのか聞きたいのだが……。君はアンデッドのようだし……。困ったな……」
周りは廃墟と化した建物しか無い。
ここは廃棄された大都市『ガテンバーグ』――。人間の国であったが
現在の三大国家が現われる前の時代――に存在していた人間の国の一つ――
「現地の情報を持っていそうにないけど……。一人で探索するよりはマシか……」
骸骨の人物は独り言を何度も呟き、納得していく。その間、キーノはただ相手を見つめていた。
自身が何者で何を目的としているのか分からなかった時代であった。
旅のお供としてついて行く事を了承したキーノは骸骨の顔を何度も見つめた。
白骨死体が珍しいというよりは自身がアンデッドゆえに親近感が湧いて仕方が無い。
物腰は柔らかく、言葉は割りと丁寧であり、好感の持てる人物だと感じた。
名前は確か『サトル・スルシャーナ』といった。
聞きなれない名前のためにこれが正しい名称なのか、当時は
アンデッドのサトルはとにかく凄いの一言に尽きる。
魔法に精通しており、様々なことを教えてくれた。――しかし、キーノからは何も教えられなかった。何も知らず、何も覚えていないゆえに――
全てでは無いとしても自分から言えるような情報が全くと言っていいほど無かった。
「……都市に生存者は無く、ただ
「……おおきなたたかいがあったからだとおもう」
「戦争か……。しかし、それで
う~んと唸るサトル。
博識の彼は度々、物思いに耽る。それをキーノは邪魔せずに眺めた。
二人旅はその後も続き、他の国や都市に向かうこともあった。――その時は仮面を被って旅の
キーノ自身も友達が出来たような気分で嬉しくなっていた。
自分の身に起きたことを忘れるくらい――
それから一年が過ぎようとしたある日、冒険者になろうとサトルが言い出した。
いつまでも二人では寂しいと。
それと他の仲間を入れて知識の幅を広げようと考えていたようで、キーノも反対しなかった。
サトルは様々な魔法から人間に偽装し、パーティメンバーを募る。
「俺は魔法には自信があるけど戦士系は苦手なんだよな。せいぜい振りくらいしかできない」
「……それでパーティを組んで各地を回るの?」
「ここが何処なのか知る上で、な……。世界を知って、それから今後の身の振り方を考えようと思う。時間はたっぷりあるけれど……、人間社会はまだまだ未熟だから……」
苦笑を浮かべる顔は人間のもの。
偽装しているとはいえ――誰か――基にしているのか訪ねたい気持ちがあったが、それを知ってどうするのかという疑問により諦めた。
変に知ってしまうとサトルの正体をどこかで喋ってしまうおそれがあるからだ。
赤い瞳である自分も偽装しなければアンデッドモンスターだと看破されるというので、正体を隠蔽する指輪をサトルから借り受けた。
姿は変えられないが魔法による探知などを阻害してくれるという。
「キーノもチームに参加すればよかったんじゃないか?」
「……私はどうも仲間として相応しくないというか……。ボロが出そうで……」
それに仲間が流血した場合、
今のところ吸血衝動は起きていない。けれども
適度に食事を摂るように心がけている。――そのお陰か、飢えには苦しまずに済んでいる。
サトル・スルシャーナと呼ばれる男から様々なことを学び、キーノは
サトルが大抵の魔法の知識を持っていたことも幸運で、第五位階までの知識を早い段階から吸収する事が出来た。
「死の神スルシャーナと同じだと言われているけど……。いやいい、スルシャーナで」
どうせ、サトルとしか呼ばれないし、と何やらサトルはがっかりしたようだ。――キーノは理由が分からなかった。
随分と学習した筈なのだが、
「その……死の神は実在のものなのか?」
依頼の無い日にとある宿屋で質問を受けたキーノ。
自分が知る限りの情報を互いに交換していく。
サトルは大人で割りと大柄な人物。対するキーノはそこらの子供と遜色ない背格好だ。しかもアンデッドとなったので成長が――全く――見込めない。
「そうらしいね。八欲王に最後に殺された神様ってことになってる。姿は……サトルの
「……つまり
この
ランクで言えば白金級以上。
難度は六十から八十までと幅広い。
キーノにとっては脅威でもサトルにとっては雑魚モンスター扱いされている。――実際、その通りなのだが――
日銭を稼ぎつつ様々な情報を得て数年――。二人の旅はじつにのんびりしたものだった。
仲間については検討だけされていたが本格的な始動はまだ少し後になる。
自分の事を多く忘れてしまったキーノだが、それでもサトルは構わないと言っていた。代わりに彼の事を色々と教えてもらう機会があり、そのお返しとして諜報員のような仕事を頑張った。
姿の変わらない不死性のモンスターはいずれ人間の町では怪しまれる。それを避ける術を日々練っていた。
キーノだけならば耐えられるのだが、サトルにまで迷惑をかける事になっては困る。――せっかく出来た友達であり、旅の供だ。
そのせいもあって各地の都市で活躍するわけには行かなくなった。
「隠密行動において不都合はないが……。キーノは構わないのか?」
「この
「その時はそうさせてもらうよ」
「死の神スルシャーナはあらゆる死の体現者であり、畏敬すべき存在だ。だからこそ人々は信仰の対象としている。……国によっては存在を否定されていたりするけど」
サトルは度々――もし推測通り、
殺された。隠れた。消滅した。
各説話の最期は様々な解釈で締めくくられている。
「取得している種族や
数多の
そんなことが出来る存在はサトルの記憶では『
だが、仮にそうであったら疑問が残る。
最上位
複数の敵との相対による補正が働いていたとしても負ける要素があるとは思えない。その根拠として各
自分の知る技は空間を直接切り裂き、範囲内に居るクリーチャーに大ダメージを与え続けるものだ。
影響がしばらく残る為、まともに攻撃を受けてしまえば即死してもおかしくない。
効果が一瞬の第十位階が劣化版として存在しているが、それとは比べるべくもない。
考えられる点として有力なのは八欲王の敵が
最強の敵は――やはり最強の力を持つ彼ら自身だ。
仲間割れによる戦力ダウン――
それでも最後に生き残りが居る筈だ。――その最後の一人に対して残る
推測しか出来ないし、今の世は
「……その戦いで多くの
「全体の数は減っているのは確かだそうだよ。……戦いに参加していない
「
南方の砂漠地帯にある不可侵の国家『エリュエンティウ』がそうだと言われている。
浮遊する都市とその真下にもう一つ都市がある二重国家。だが、その実体は遠く離れた国々には伝聞すらあまり伝わっておらず、謎の国家として有名だった。
国家であるならば交流が少なくともあるはずなのだが、それが無い。
その理由として国家を守護する存在が異常に強いこと。その守護者によって都市の情報は今まで漏れた事が無いと言われている。――もちろん例外もあり、侵入を許されたものがいくつか情報を持ち帰った事例があるので、かの国家の名前が後世に伝わっている。
「三十人近い屈強な守護者か……」
サトルの知識で該当するのは高レベル
実際に観察してみないことには真実は明らかにはならない。何ごとも調査は必要だ。
何の対策もせずに突入するのはバカのすること。――時には無謀な賭けに出ることもあるけれど――
「……調べたい事がたくさんあって退屈しない事は良いことだ」
「私もサトルと一緒に旅ができて楽しいよ」
「……それがいつまで続くのやら」
キーノは不死性のモンスターだ。――サトルも同様だが。
種族的な特性により実はキーノを大切に思えた事が少ない。――旅の供としているのだから努力は欠かしていない。
単なる小動物を愛でる程度にしか愛情は無い――サトルの中では――と思っている。
ちゃんと愛でて大切な仲間として迎えたいのに淡白な性格に自分自身嫌気が差す。
もし、肉体のある人間であったら――例え
それなのに
アンデッドモンスター特有の精神抑制は喜怒哀楽全てに適応されている。
心の底から喜びたい気持ちも悲しみたい気持ちも一緒くたに――
戦闘や人付き合いに対して役に立つこともあるけれど、誰かと分かち合いたい気持ちはサトルとて持っている。
無理矢理な抑制は我がことながら呆れてしまう事態だ。
「……キーノは精神抑制は起きないのか?」
「んっ? そういう事はよく分からない」
話ぶりでは喜びも悲しみも一般人と大差がないようだ。それはそれで羨ましい。
同じアンデッドモンスターでも種族によって差があるようだ。
本人が過去の記憶を失っているので詮索しても答えは出て来ないけれど――
「………」
共に旅する仲間として迎え入れてモンスターの特徴という理由で切り捨てるのは非人間的だ。――外見などがモンスターだとしても心は
言葉で人間だと言い続けても現実問題としてアンデッドモンスターから脱却する事は出来ないのだが――
サトルはこの世界の住人ではない。
ある時を境に迷い込んだ異邦人だ。――それも自らが作り上げた
キーノに言っても無駄だし、実は正体は何だ、と告げても意味があるようには感じない。
仮に告げたとしよう。
それ何って言われるのがオチだ。
彼女は
異世界に転移した。
言葉としては簡単だが、
自分の本当の姿は人間である。それを自宅に残したままの転移だ。――全く意味不明の状況だ。
アバターがここにあって自由に動いているなら自宅の方はどうなっているのか。
――数年も過ぎているので既に餓死しているのか。それとも精神が分離しているので本体は本体で普通の生活を続けているのか。
確認する術が無いから困っている。――本体が死んでいた場合、今の自分が仮に死んだ時にどうなるのか。――アンデッドモンスターだから平気というオチは安直過ぎる。
少なくとも自分の本当の身体の状況を知りたくてたまらない。
焦る気持ちは強制的に抑制される。そうするとしばらくはどうでもよくなる。――どうでもいいはずがないのに。
(焦る気持ちと戦い続けて何年も過ぎてしまった)
手遅れなほどに――
諦める事も一案だが、サトルの気がかりとしては同じ境遇に陥った者の存在――または有無――
出来ればギルドメンバーが望ましい。――だが、多くが引退してしまっている。
淡い希望を抱き続けるのも不毛だと理解している。けれども知り合いに合いたい。その気持ちは今も小さく燻っている。
活動拠点を北方の『アーグランド評議国』に置き、南方の広大な森林地帯に向かう依頼をこなしていく。
自らが異形種である事を考慮し、バレても損害が少ない地域を選んだ結果だ。
キーノも評議国内では素顔で徘徊できるとあって、精神的負担軽減のありがたみを知る。
六大神が現役だった頃から存在している古い国の一つで何体かの
「そろそろ仲間を募りたいところだが……。どんなパーティがいいかな?」
人間の姿のサトルは旅の供であるキーノに尋ねた。――出来るだけ仲間に意見を聞くように心がけてスキンシップに励んでいた。
そうしないと今後の活動で不和を起こしやすいからだ。
サトルは人付き合いに関して過敏なほどに神経質であった。
「凄い魔法が使えるのに……。細かいところがあるよね」
「……昔大勢の仲間を率いていたからな。それぞれの意見集約は俺の仕事だった。……ただそれだけのことさ」
仲間内での喧嘩は日常茶飯事。お互いの矛を収める仕事は主にギルドマスターたるサトルの仕事――
それを何年も続けていれば大抵の事は対処できる自信がついた。それでも出て行く仲間が現われると傷付くのだが――
「交渉は俺がやるが……、キーノはどうする? 参加しない事も選択の一つだぞ」
「……う~ん。まだ少し魔法の勉強がしたいな。……でも、強くならないと発展しないのも……」
サトルとしては小さな女の子に血生臭い仕事をさせたくないだけだった。
それが異形種であろうとも――
口にすると恥ずかしくて強制的に精神が抑制されるので、黙っている。
冷静になれば迂闊に言いそうになる事もある――だからこそ恥ずかしいので。
いざ仲間募集――といっても簡単に現われるわけは無い。というか簡単に現れては困る。
有象無象の輩に用は無い。――サトルの基準に合格しない者は特に。
大所帯でも困るが――最初は四人か五人から。――これは基本のパーティ数だ。
「俺のパーティに参加しようと思った動機は何です?」
冒険者組合の一室を借りての『面接』が始まる。
組合に申請すれば部屋を貸してもらえるので、早速利用するサトル。
側で見ているキーノはサトルのやり方を不思議そうに眺めた。
(めんせつって何だろう?)
あまり学の無いキーノにとってサトルの行動のほとんどが新鮮に映っていた。
彼は今までの人生をどう過ごしていたのか、とても興味がある。しかし、個人の過去を詮索するのは冒険者としての規則に抵触する――気がする。
人に言えない過去は誰にでもあるから。
戦士職のはずのサトルは事務方の仕事がとてもよく似合う。冒険者以外でも充分に働き口が見つかるのではないかと思わせるほど。
言葉も丁寧で人当たりも良い。
住民達からも信頼を得ている。――亜人や異形種の多い国にしては珍しい人種だと噂されていた。
実際、様々な種族に対して分け隔て無く接している。
見かけは人間でも中身は骸骨のアンデッドモンスターだが――
一般的なアンデッドモンスターは生者を憎む存在、というのが世間での常識だ。――その中にキーノも含まれるが――
それが表裏の無い、好感さえ抱かれる者が
どういう経緯を持ってアンデッドモンスターとして存在しているのか。それに関して色々と聞いた覚えがあるのだが、専門的な言葉が多かったので理解出来た事が
脳味噌が腐りかけているせいかと思ったほど自分の無知さに嫌気が差す。
「うちのメンバーに必要なのは簡単に死なないことです。……それと裏切らないこと」
本当は後者が大事な事だとサトルは言っていた。それを後ろに回す意図はキーノには分からないが、彼なりに何か考えての事だと思われる。
人当たりの良い人物にとって怖い事は裏切られること。嘘よりも重いという。
常に疑心暗鬼のまま暮らしたくないから。
そう言っていた事を思い出す。
サトルにとって信頼に足る仲間の存在は何者よりも重いものという認識があり、それを求めてしまうから仲間が集まりにくい。
既に二十人は追い返している。
仲間の中にキーノが居る理由はどういうことなのか、聞いてみたいけれど怖いとも思う自分がいる。
サトルが信頼できるから、ではなく自分がサトルに信頼されていない事を知るのが――
茫然自失の自分を見つけて仲間に引き入れてくれた彼の信頼に応えたいという気持ちはある。――けれども実力が足りずに足を引っ張る結果にただただ辟易する。
ある日、何気なく尋ねてみた。
自分はサトルの仲間としてどうなのか。――相応しいのか、という言葉は使わなかった。
「拾ったペットの面倒を見るようなものだ。……俺は自分が決めたことに最後まで責任を持ちたい……。ただそれだけだ」
男らしい言葉なのだが、ペットという言葉がいまいち理解出来なかった。
聞き慣れないだけなのか、彼独自の言葉なのか――
「……女の子を一人で放浪させたくない……が正しいか。お互い道に迷う者同士だ。助け合い精神で行こうと決めた」
「それだけ? サトルにとって私が利用価値のある人間だった……、ということはない?」
「仮に価値ある人物だとすれば良い拾い物をしたと嬉しがるところだ。キーノは優良物件として破格の待遇が必要な存在だ。それを手放す気は無いさ」
人間に偽装した彼は笑顔で言った。
これが
そう考えれば表情の読めない相手に四苦八苦する自分が容易に想像できるというもの――
「あまり深読みしてほしくないのだが……。俺としては最初の出会いを大切にしたいだけだ」
「そうお?」
最初の出会い――
キーノにとって記憶が不鮮明の時代――
何かがあって何かが起きた。その過程の殆どが曖昧に満ちている。
おぼろげに覚えている事は何処かの都市を滅ぼす原因を作ったのが
今はサトルのマジックアイテムのお陰で平気だが、
もしかして彼のせいで今の自分が形成されたのではないのか、と疑った事は――あるにはあるが――荒唐無稽すぎて納得できない。
都市を滅ぼすようなアンデッドが冒険者をする理由に繋がらないためだ。
実際、彼の目的は無いに等しい。――いや、あるにはある。
この世界を知ること。
もし、それが事実なら国を滅ぼす理由が無い。
様々な魔法の実験がしたいから、の方が余程説得力がある。
それら全てが欺瞞工作だというのであれば彼の真の目的とは何か――
それを知る事がキーノにとって有益になるのか。
未だに分からない事が多いキーノにとってサトルを疑う事はとても――有益とは思えなかった。
出会いからしばらくは目的を定めずに彷徨い、適度にモンスターを倒したり、サトルから色々な事を教えてもらう毎日だった。――だからこそ無益にしか思えない相手に知識を与える意味が分からない。
戦力にするでもなく――
話相手以上の関係にもなっていない。
寝食を共に――飲食不要だが――し、色んな街を巡った。その日々は何かを利用するため――とは到底思えない。
キーノの持っているアイテムの殆どはサトルのものだ。自分のものはせいぜい最初から身にまとっていた服装くらいだ。
「……そんな私がサトルを裏切ったら……きっと怒るよね?」
「当たり前だ」
声は大きくなかったけれど、力強く言われた。――それだけで萎縮しそうになる。
彼の怒りは冗談ではない事が窺えた。
「ま、まあ俺の方から裏切る事も……無いわけじゃないよな……。キーノを悲しませたい気持ちは無いぞ。……せっかく出来た……」
後半は尻すぼみになって聞き取れなかったが、雰囲気的には恥ずかしがっているようだった。
長く付き合ってきて彼の反応はだいたい分かるようになってきた。――それは喜ぶべきことなのか、それとも彼を特別だと思い始めているのか。
後者だとしてキーノに何の得があるのか。
彼女自身は
自分の事もままならないのにサトルの事をどうこう言う資格は無いなと苦笑するキーノ。
二人旅にも限界があると感じたのはキーノよりもサトルの方だったので、それを尋ねてみた。
確かに人数が多ければ様々な事に対処し易い。その一貫かと思っていた。
「それもあるが……。自分を隠蔽する手段にしたいのさ」
「はっ?」
サトルはとても賢い。キーノは知性が足りない。
それを思い知らされるとぐうの音も出ない。――悔しい限りだ。
いずれ賢くなって言い負かしたいとキーノは誓う。
自分がチームを率いる時は指揮官
「今は二人で俺がサトルという名前で活動している」
「うん」
「人数が多くなればチーム名で呼ばれるようになる」
「うん」
生返事に対してサトルは不機嫌を現わすように唸った。しかし、キーノも他に言いようが無かったので仕方がない。
理解しようとこちらも必死だ、と無言の反撃を試みるキーノ。
口を固く結んで次の言葉を待つ。
さあどうぞ、と手だけ前に出した。
「個人名からチーム名に移れば俺がメインで活動しなくて良くなる」
今までサトル主体で活動してきた。それはつまり活躍すればする程サトルの知名度が高くなる。
目立ちたい性格ならばそれでいい話だ。しかし、サトルは地味な活動を好む。
高い身長や身体能力のせいで必然的に目立ってしまうけれど、それを抜きにしても活動に支障が出るような事は避けたいと思っていた。
キーノとしては目立つことこそが冒険者としての責務と同義ではないかと言い返してみた。
「……いやまあ、それはそうなんだけど……。目立ちすぎると世間的に煩わしくなる。……あと、余計な敵が生まれやすいんだ」
特に他の冒険者に疎まれたり、自分の知らない内に敵が出来ていたりとか。
あくまで普通の冒険者として慎ましやかに生活したいのがサトルの願いだった。――中身が強大なアンデッドモンスターなのに――
「……時々サトルが分からなくなる。別に活躍して名を馳せてもいいんじゃないの?」
「……う~。メリット、デメリットがあるからなんとも言えん」
一人で難しい事を考えている事は理解出来た。
キーノはサトルの力になりたいのだが、どうすればいいのか分からない。
人生の師であり、支えてくれる友人としてどんな言葉を掛ければいいのか――