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未来の紅茶っぽい銀河帝国に転生したチートが無双するだけの話 作者:猫弾正
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3-10 ストーム戦闘艇

新しい登場人物が大勢いるけど、多分、一過性のモブだから名前覚えなくてもいいぞ

 ログレスには、銀河にその名を轟かせる王立海軍以外にも、各星域や富裕な惑星に属する独自の艦隊が存在している。これらは辺境総督や星域議会などが独自財源で揃えた警備艦隊で、辺境に配備されつつも中央の命令で行動する正規艦隊とは異なり、地方政府の権限で編成し、行使することが許されている独自の軍事力であった。辺境軍の他にも企業や諸侯の私兵、属領の現地人からなる現地人部隊などが存在しており、これら地方軍は、兵器の質においては二線級ながらも、数においては王立海軍及びログレス正規軍をも上回る規模を誇っている。


 ストーム戦闘艇ピーコック号もログレス辺境軍の所属艦艇であり、僚機ムスタング号と共に現在は輸送船オベロン号護衛の任に就いている。

 ピーコック号に配属されたのは9名×2組の18名。3名が8時間ごとに交代して2日間の勤務を行い、48時間ごとにもう1組と交代してオベロン号で休息を取るシフトとなっていた。

 ストーム級戦闘艇が最高の性能を発揮するには、24名の乗組員が必要とされていたが、一方で乗組員が4名でも80%、2名でも60%の戦闘力を発揮できるように設計されているとカタログ上には記載されている。

 いずれにしてもオベロン号には常時18名の交替乗員が乗り込んでおり、2日ごとに同僚たちと交替で勤務に就いていた。


 オベロン号の司令室では、2等士官のケンダルがオペレーターに指示を飛ばしていた。

「第2シールド解除だ」

「了解、第2シールド解除します」オペレーターが基盤を操作して、シールドを解除する。命令の復唱は間違いを犯さないように必要な確認作業だった。危険だが単調な作業に対してケンダルは手抜きをしないので、アンドロビッチ船長に監督を任せられている。

「第3ハッチを開放」ケンダルが言った。

「了解、第3ハッチ開放します」とオペレーター。

 30メートル程の小型戦闘艇ピーコック号が、下腹部の防御力場を解除したオベロン号の巨大な船体に収容されていく。


 もう1隻の戦闘艇ムスタング号は、シールド解除されたオベロン号の弱点を守るように、オベロン号の下腹部へと移動していた。僚機の人員が交代する時、ムスタング号は必ずこの援護運動を行う。生真面目だとはケンダル2等士官も思う。

 ただ、ケンダル2等士官は、このムスタング号の行動は万が一、海賊が観察していた場合、オベロン号の外部シールドを解除した場所がすぐに分かってしまうのではないかと思っており、定位置を離れずに戦える位置を維持し続けるピーコック号の判断のほうが好ましく考えていた。もっとも、ただ単にピーコック号の艇長がずぼらなだけだと言う可能性も多分にあった。


「ピーコック号を収納しました」とオペレーター。

「下部第2シールド回復」とすぐにケンダルが言った。

 すぐにオペレーターが基盤を操作し、虹色の輝きが開放されたハッチの周囲にきらめいた。

「下部第2シールド回復」シールドを回復してから、オペレーターが報告してきた。

「ハッチを閉めろ」とケンダル2等士官。

「了解、ハッチを閉めます」

 ハッチが閉まったのを確認して、ケンダル2等士官は安堵のため息を漏らした。

「放蕩娘たちのお帰りですな」

 笑いながら言った年嵩のリットン航海士にケンダル2等士官が咳払いをした。

「これは失礼」

 ケンダル2等士官がピリピリしているのを感じ取って、航海士は酢を飲んだような顔をした。

 ケンダル2等士官は、指令室中央で輝く立体航路図に視線を転じた。

 最近、海賊の襲撃が増えてきている。或いは反乱軍かもしれないが、まさか、ストーム戦闘艇2隻を護衛につけたオベロン号に襲い掛かってくることはあるまい。王立海軍や辺境勅許会社も第7辺境管区の戦力を増強しつつあるし、オベロン号はかつて王立海軍の強襲揚陸艦であったのだ。単独での戦闘力も相当な水準にある。相手がコルベットや雷撃艇でもない限り、むざむざと不覚を取るとは思えない。とは言え、万が一の事態は常に起こりえるのだ。ケンダル2等士官は、警戒を怠らなかった。当直中に気を緩めて海賊に船を奪われた間抜けな士官の一人として公報に乗るのはご免であった。


 ハッチが完全に閉じてから、オベロン号の内部甲板に着陸したピーコック号から乗員たちが吐き出された。入れ替わりに整列していた交代の乗員たちが乗り込んでいくが、すぐには発進せずに、艇内の機器のチェックを行いだす。

「ローズ、調子は?」

 ピーコック号から降りてきたローズ・シャーウッド少尉艇長に、交代要員のイレーネ・ダマー少尉艇長が話しかけた。

「右舷スラスターの出が少し悪い。重力帆の制御装置が反応が遅い。シールドジェネレーターが暖まり難い」とシャーウッド艇長。

「つまり何時も通りね」とダマー艇長がうなずいた。

 整備員たちがピーコック号へと駆け寄っていく。2時間の簡易チェックの後、ピーコック号は再び発進するが、それまでオベロン号は、ムスタング号単独で護衛することとなる。


 任務を終えたストーム戦闘艇の乗員たちは、整備デッキの壁際に設置されたベンチに腰掛けて、ストロー付きの飲料を口にしていた。

「あー、空気が美味い」バンダナを巻いたノッポの赤毛。ラファティ伍長が口を半開きにしてくつろいでいた。

 背の低い色白のパーセル曹長が、傍らの植物プラントから、アンドロビッチ船長が丹念に育てている謹製のトマトをもぎ取って口にする。

「……うま」

「またお前は。船長にバレたら、文句言われるのは少尉なんだぞ」コッパード上級曹長が咎めると、パーセル曹長は、もう一つトマトを捥いでコッパード曹長の口に押し当てた。

「……共犯」とパーセル曹長。

 コッパード上級曹長はパーセル曹長を睨んでいたが、もしゃもしゃと口を動かして、トマトを咀嚼した。

「風呂に入りたい」だらしない姿勢で壁に持たれかかっているのは、バックリー軍曹。

 上下関係も勤務態度も随分と緩い乗組員たちだが、彼女たちは王立海軍の所属ではなく辺境軍。それも船会社の私兵に近い将兵であった。所有艦艇も中古や型落ち、大破・撃沈判定を受けた艦艇からの再生品であったから十全の性能は期待しようもなく、王立海軍に比べれば練度も劣るし、規律も随分と緩い。


 ぼやいている乗組員たちだが、王立海軍及び王国諸軍に正式採用された兵器のうちで最も貧弱な戦闘艦艇と呼ばれるストーム戦闘艇は、しかし、同時に最も名高く、最も恐れられている艦艇であった。

 ストーム戦闘艇は、小型艦艇に類別されながら、単独で強力な防護力場を展開する能力と星間移動が可能な跳躍機能を有しており、速力と機動性、運動性は他のありとあらゆる艦艇を凌駕していた。

 ログレス王立海軍の軍用短艇カッターとほぼ同等のコストと戦闘能力を保持しながら、しかし、はるかに小型で少人数でも運用可能なこの戦闘艇は、単独で武装商船くらいは撃破可能な戦闘力を保持しており、特に追跡に関しては卓越した能力を発揮する。

 多数で運用することで、より大型で強力な艦艇からなる敵艦隊をも壊滅させることも可能なこのストーム戦闘艇は銀河系の何処でも目撃することが可能であり、ログレスの庇護下にある者たちにとっては秩序と繁栄の象徴であり、逆にログレスに追われる密輸業者や反乱軍などにとっては、恐るべき圧制の象徴と見做されていた。


 とは言え、航路警備艦隊の雇われ兵士である娘たちに、自分たちが法と秩序の守護者であるとか、ログレスの防人であるなどの御大層な自覚はなかった。半ば、民間警備会社の為、彼女らは階級の違いさえ、給料と技能の違いくらいにしか受け取っていないのだ。


 格納庫を一瞥できる上層フロアの展望ラウンジでは、乗客の子供が窓に手を当てて興奮した叫び声を上げている。

「うっひゃあ、ストーム戦闘艇だ!」

「本物だぁ!」

「かっこいい!」

 子供の姿に気づいたストーム戦闘艇の乗組員たちがそれに気づいて手を振った。歓声が上がる。

「ストーム戦闘艇!ストーム戦闘艇!うひー!」

 ストーム戦闘艇を模した小さな玩具を握りながら、小さい子供が小猿のように飛び跳ねていた。その子の姉が微笑ましそうに笑っており、眼帯を付けた父親は、幼い我が子の肩に手を置いてうなずいた。

「坊や。お父さんの船はな。ストーム戦闘艇と追いかけっこして勝ったこともあるんだぞ」

「すごお!」尊敬の眼差しを向ける我が子にご満悦の父親だが、娘が聞き捨てならぬと口をはさんできた。

「ちょっと!お父さん、何をしたの?!」

 言われて父親もまずいと気づいた。ストーム戦闘艇は基本、王立海軍とそれに属する勢力の装備。つまり官憲の乗り物である。気まずげに口ごもった。

「……お母さんと出会う前に貿易商をしていたんだが。地元の税関職員と、ちょっとした行き違いがあってな」

「……密輸業者だったのね」

 不器用に娘にウィンクしてから、父親は小さな我が子を抱き上げた。

「ザラについたら、お前たちをお父さんの船に乗せてやるからな。早すぎてびっくりするなよ?」  


 展望ラウンジの隅の方では、人相が分からないよう茶のフードを深く被った二人のメルト人が陰気な様子で窓の下の整備デッキで動き回る人影を眺めていた。

「どうだ?お前、宇宙船乗りだったんだろ?」ストーム戦闘艇の様子を観察しながら片方のメルト人が小声でささやいた。

「……駄目だな。あまり居住性がよくなさそうだ」

 乗組員との対比でストーム戦闘艇の大きさを測り、運び込まれる生活物資の量を目測していたもう一人のメルト人が首を振った。

「それに多分、あれは軍艦だ。やめておいたほうがいい」

「なんでだ?軍艦の方がいいだろ」と背の高いメルト人。

「第一にあれはログレスの軍艦だ。性能は大して期待できない。

 第二に乗組員たちが武装している。第三に奪っても軍に追われることになる」と小柄なメルト人

 ふん、と背の高いフードが鼻を鳴らした。

「軍、つってもログレスだろ?逃げちまえば探しようもあるまいよ」

「まあな。だが、軍艦というのは大抵、厳重なセキュリティ認証があるもんだ。民間船に比べれば、取り扱いも難しい」

 小柄なメルト人は冷静な船乗りだったが、一世代上のメルト人たちがログレスを容易く追い払った事件は、その後の海賊への強烈な恐怖の記憶も相まって、彼らに根付いたログレス人への蔑視を知らず深めていた。

「あちらの格納庫にも、幾つか宇宙船がある。取り合えず、奪いやすそうな船を見繕おう」

「おう」

 小柄なメルト人の言葉に、大柄なメルト人が相槌を打った。



 整備甲板では、シャーウッド少尉艇長が目の前に整列した8名の部下に通達していた。

「交代は46時間後。36時間後には集結すること。では、解散!」

 敬礼して三々五々に散ろうとする部下たち。

「ああー、本艦の風呂に入れる」

 バックリー軍曹のわざとらしいだみ声にシャーウッド艇長が立ち止まった。

「一言、忘れていた。だらしのない姿で12区画に近づくな」くぎを刺す。

 オベロン号の12区画は、もう一隻の護衛艦。ムスタング号の乗員たちの居住区であった。

「少尉殿。ムスタング号の連中がなにか?」ラファティ伍長が尋ねる。

「連中は、今も待機中である。お前たちの極楽とんぼが感染すると困るからな」とシャーウッド艇長。

「アーツ少尉。生真面目だねえ」とバックリー軍曹。

「お前らがだらけているんだ。とにかく、アーツ少尉に嫌味は言われたくない。わかったか」

 シャーウッド艇長の言葉に顔を見合わせてから、一斉に敬礼した。

「了解であります」

「レメディア・アーツ殿は騎士階級で士官学校も出ておられる。いずれはもっと上に行かれるだろうから、それまでの我慢だぞ」シャーウッド艇長が言わずもがなの一言を付け加えた。


 さて、36時間の休息時間である。読書をするもの。ベッドで眠るもの。運動に励むもの。食事を楽しむもの。時間の使い方は人それぞれであるが、一部を除いたピーコック号の乗員たちが大挙して向かったのはオベロン号の大浴場であった。

 海賊や反乱軍が襲撃してくれば、真っ先に危険に晒される護衛艦乗員の為、宇宙では貴重な水を惜しげもなく満たした浴場を3時間独占させてくれるのだ。


「あああ、気持ちええ。生き返る」

 湯気の漂う空間に若い娘たちの叫び声が上がった。

「風呂上がりにラム飲みたい」

「むしろ風呂に入りながら、酒を飲みたい」

「お、いいねえ」

 湯船の隅で下士官が二人、のんびりと話をしていたが聞きとがめたものがいた。

「ギネス!ランドル!」とシャーウッド艇長が厳しい声で二人の名を呼んだ。

「はい!」二人が返事をする。

「私の分も持ってこい」

 湯船に肩まで浸かったシャーウッド艇長が目を閉じたまま命令した。

「了解であります」


 浴場を出た二人は、ローブ姿で士官室のある上層エリアへの直通エレベーターに乗り込んだ。

 怪力のパーセル曹長を手伝いにつれてきている。

「何もってく?」とパーセル曹長が尋ねる。

「ラムとか、レモンとか」ランドル伍長。

「キンキンに冷えたビールやライスワインも」ギネス軍曹が口を挟んだ。

「ビール在ったっけ?」ランドル伍長が首をかしげる。

「仕入れたのが、士官室の冷蔵庫に置いてあった筈やで」とギネス軍曹。

「今は、まずい」とパーセル曹長が渋った。

「なぜ?」とランドル伍長。

「客が使ってる」とパーセル曹長。

「うーん、士官室に誰もおらんことを祈ろう」ギネス軍曹はあきらめる気はない。

「誰って誰?」とランドル伍長。

「ザラに赴任する本国のエリート士官がおるかもしれん」ギネス軍曹が言った。

「それはまずいでしょう」

 ランドル伍長にギネス軍曹がうなずいた。

「パッと行ってパッと帰ってくれば大丈夫だって」


 しかし、3人が士官室に入り込み、ピーコック号第1班の冷蔵庫を開けて中身を取り出していると、折あしく王立海軍の将校が入ってきた。

 襟元の階級章は、艦隊勤務少尉である。

「海尉殿!」3人が敬礼した。

 金髪の女性士官は、バスタオルやらローブに下着姿の3人をまじまじと眺めてからつぶやいた。

「泥棒か?」

「違います」

「我々はシャーウッド艇長の命令で、艇長の私物を取りに来たんであります」

 3人は、上官にすべての責任を放り投げた。

 女性海尉は呆れた顔をしたが、バスタオルを巻き付けた態で敬礼する3人の姿に憐れみを催したのか、手を振った。

「勤務外だろうな」と金髪の女性海尉。

「もちろんであります!」と3人。

「なら、いい」言ってから顔をしかめた。客人用の戸棚に向かってアブサンの瓶を取り出す。

「いや、本当はよくないが。次からは、もう少しましな格好をしておけ」

 アブサンをグラスに注いで着火しながら、優雅に肩をすくめた。


「ありがとうございます」

 ギネス軍曹が後ろに隠れていたパーセル曹長にビールの箱を渡す。

「ほら。もって」

「うい」ひょいとビールの箱を持ち上げるパーセル曹長を見て、金髪の海尉が露骨に嫌そうな顔をした。

「パーセル曹長はノマドでありますが、いい奴であります」とランドル伍長。

「ああ、別にノマドに偏見があるわけではない」と金髪の海尉が手を振りつつ、言葉をつづけた。

「ただ、身近に性格のねじ曲がったのを思い出して」

「誰のことかな。ミュラ君」と士官室の入り口に姿を見せたノマドの女性。やはり王立海軍の将校が冷たい口調で尋ねてきた。

「誉め言葉であります。サー。小官では、とてもあんな凝った囮戦術は思いつかないもので」

 しれっと言ったミュラ少尉に、ノマドの女性海尉が冷ややかに笑った。

「まあ、猪武者のカペー人には、頭を使うことは最初から期待していない」

 歩み寄りながら、ミュラ少尉の真面目な顔を下からのぞき込む。

「実際のところ、君の無駄に頑丈な頭蓋骨にどれほどの脳みそが入ってるか。存在すら疑わしいと常々、考えているのだ」嫌味な口調で言うノマドの海尉。

 顔を見合わせているピーコック号の3人に視線をくれると、彼女も手を振った。

「そこの3人。さっさと行け」


「うわ、可愛い。あのノマド。人形みたいな綺麗な顔してたよ」とランドル伍長が興奮して言った。

「中身は、毒の塊だったけどな」とギネス軍曹。パーセル曹長を抱えて、困ったように首を振った。

「それよりちょっと、パーセルがあっちのちっちゃいの見てから、ガチガチに成ってるんだけど」とギネス軍曹が途方にくれた口調で言った。

「おチビさん、なんで固まってるの?」とランドル伍長が首をかしげる。

「い、入れ墨。じょ、上位戦士。アバドン氏族」パーセル曹長が震えていた。




 ピーコック号の乗組員であるコッパード上級曹長とロックウェル准尉は、最近の辺境の情勢。とみに海賊の跳梁に対して深い憂慮と危機感を抱いていた。といっても、二人のそれは天下国家に類する話ではなく、あくまで自分たちが所属している警備艦隊の護衛任務において危険が増しているのを肌で感じ取っての、締め付けられるような不安から来ているものだった。

 ともあれ、近年の不穏な情勢に危機感が増すばかりの二人は、お互いが同じような危機感を抱いていると知って以降、なにかと行動を共にするようになっていた。軍用カタログを見て宇宙艦艇や兵器のスペック把握に努めたり、警備部本部では海賊の取り調べに立ち会い、暇を見つければ少しでも操船技術を上げたいと日頃から訓練に励んでいた。


 コッパード上級曹長とロックウェル准尉は、本来、もっと楽天的な性格の娘たちであったが、半ば気休めに過ぎないと理解しつつも、頭と体を動かしているうちに性格も変わって来たのかも知れない。

 二人とも簡潔な会話を好むようになり、他の乗組員たちが聞き流すような海賊の襲撃のニュースに痛ましい表情を浮かべ、他の艦艇が襲撃を受けた時には海賊の戦術を分析しつつも、自分たちと出会った際には残酷な報復をくれてやると誓約を口にするのであった。


 四六時中、厳しい顔つきを保つ二人は、何処か気の抜けた辺境警備艦隊では少し異質で浮いた存在になっていたし、偶の休暇で故郷の友人たちと会っても大半と話が合わなくなってきていた。とはいえ、二人にとっては海賊の脅威のほうが生々しい現実であって、おしゃれだの芸能人だのの話は、何処か現実離れした浮世の絵空事のようにも思えるのだった。


 36時間の休暇の始まりで軽くシャワーを浴びた二人は、ピーコック号の仲間たちと別れると、その足でオベロン号の戦術シミュレーター室へと向かっていた。

「設定はどうする?」とコッパード上級曹長。

「練度Dでやろう」ロックウェル准尉が言うと、コッパード上級曹長は眉を曲げた。

「厳しくない?こっちは二人だよ。現実の海賊はシミュレーターほど強くないし」

「その分、やり直しは効かない。それに一握りの海賊はAを超えている」とロックウェル准尉が戦術研究室の扉をカードキーで開けて足を踏み入れると、部屋の中央にある巨大な球体が既に起動していた。


「あー。誰かシミュレーター使ってる」コッパード上級曹長が髪を掻きながら言った。

「他に空いてるのは?」とロックウェル准尉。

「大型は、クイン大尉が使っている。残りはオベロンの水兵が訓練中」

「……待つしかないか」舌打ちしたロックウェル准尉が、手持ち無沙汰に手近な電脳基盤を操作して、シミュレーターの記録を呼び出した。

「4時間もやってるよ。こいつ……3戦目か」ロックウェル准尉がつぶやいた。

「どれどれ」とコッパード上級曹長も記録映像を覗き込んだ。


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 条件 ストーム戦闘艇 マシンドロイド水兵 練度C

 敵  ストーム戦闘艇 練度C 勝利〇


 条件 ストーム戦闘艇 マシンドロイド水兵 練度C

 敵  ストーム戦闘艇 2隻 練度C 勝利〇


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「おお、やるな。練度Cに勝てる奴はちょっといないぞ。しかも連勝……あれ?」

 関心して言いかけたコッパード上級曹長が、興味をなくした様子で椅子に座っているロックウェル准尉を呼んだ。

「おいおい。ちょっと見てみろ」

「なに?」とロックウェル准尉。

「これおかしいぞ。相手が2隻になってない?」とコッパード上級曹長。

「なに?」ロックウェル准尉が立ち上がって、シミュレーター記録をのぞき込む。

「ありえないだろう。戦闘機とかじゃないんだぞ。練度Cで1対2なんてエースだって勝てない」

 宇宙戦闘機や機動騎士などと違い、互いに拮抗する戦力の宇宙艦艇で、1対2の戦力差は不利を通り越して絶望的なものだった。

「いや、確か教導部隊には、実際に1対3でカペーの同級に勝った艦長がいるとか」とコッパード上級曹長が自信なさげにつぶやいた。

「教官クラスか」ロックウェル准尉が首を振った。

「今は?どういう設定だ?」

 二人は設定を呼び出してのぞき込み、息を呑んだ。


---------------


 条件 ストーム戦闘艇

 敵  ストーム戦闘艇 3隻 練度B 精鋭


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「なにを考えているの?こいつは?マゾなの?」ロックウェル准尉はあきれたように言った。

「でも勝負になってるよ」とコッパード曹長はうめいた。

「すげえ。変態的な機動だ。うちのおチビさんだってこんなの無理だぞ」画面を眺めて首をふる。

「しかも2時間もやってる」とロックウェル准尉。

 二人とも、シミュレーターの推移を食い入るように見つめていた。



 1時間後、二人は同時にため息を漏らした。


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 自機撃沈。

 撃沈されました。


 敵A 撃沈

 敵B 損害5割 中破

 敵C 損害3割 小破


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「粘ったなぁ」とロックウェル准尉が唸った。

「逆転するかと思った」呟いたコッパード曹長が、友人に振り向いて言った。

「いやあ、凄いのが世の中いるもんだね」

 シミュレーターが中断する音が微かに響き、二人ともそれとなくうなずいた。

「ちょっと声をかけてみよう」とロックウェル准尉が口を開いた。

「健闘を称えてやるか」とコッパード曹長がうなずいて、球体のシミュレーターが開くのをじっと待った。



 果たしてどんな奴だろう。百戦錬磨を思わせる魁偉な容貌か、鋼鉄を思わせる武人か。

 待ち受けている二人の前。シミュレーターの中から出てきたのは、王立海軍の青年士官であった。だが、大尉。加えて艦隊勤務の海尉艦長。雲の上のエリートであったが、それ以上に二人を驚かせたのは、驚くべき記録を残した人物が、貴公子然とした顔立ちの持ち主であったからかも知れない。


 それも予想以上に眉目秀麗な青年士官が、汗だくで出てきたので、二人の辺境艦隊下士官は思わず硬直し、口を半開きにして見入ってしまった。青年士官はそんな二人を見て、自分が6時間の間、シミュレーターを独占していたことに思い至ったのだろう。

「待たせたな」青年士官は、軽くお辞儀したその態度までが、堂に入っていた。

「い、いえ」慌てたコッパード上級曹長が持っていたタオルを差し出した。

「ど、どうぞ」

 青年士官が無言で鋭いまなざしを向けた。

「汗を。お体が冷えます」とコッパード上級曹長の言葉に、ロックウェル准尉がこくこくとうなずいた。


「すまないな」

 タオルを受け取った青年士官が上着を脱ぎ、汗を拭った。

 ギリシア彫刻のように均整の取れた肉体に二人の女性下士官が喉を鳴らした。

「タオル。こ、こちらで洗いますので」とロックウェル准尉が言った。

「ありがとう」

「コッパードです。辺境警備艦隊の」とコッパード上級曹長が上ずった声で言った。

「コッパード君、礼を言う」タオルが返された。

 青年士官は上着を羽織ると、きびきびした動作で部屋から立ち去った。


 その背中を見送って、ロックウェル准尉が大きくため息を漏らした。

「いいもの見たわ」

「大尉だって。あの年で艦隊勤務で艦長」とコッパード上級曹長。

「若作りしてるかも」ロックウェル准尉が言った。

 コッパード上級曹長は、返ってきたタオルの匂いを嗅いでみた。

「加齢臭がしない。本当に若いか、細胞レベルでアンチエイジングできる金持ちか」

 コッパード上級曹長は、そうつぶやいた。

 ロックウェル准尉は、うらやましそうに彼女の抱えたタオルを眺めていた。



 ピーコック号乗組員たちの溜まり場となっているオベロン号下層の酒保の一角で、コッパード上級曹長とロックウェル准尉は、自分たちの目撃した凄腕の記録の持ち主について同僚たちに語っていた。

「すごい」と操縦士としては一番腕のいいパーセル曹長がつぶやいた。

「すごいよ。練度B設定で1対3。それで拮抗していたんだから」コッパード上級曹長がうなずいている。

「格好良かった?」とランドル伍長。

「……格好良かった」タオルを握りしめながら、コッパード上級曹長がうなずいた。

 誰かが黄色い声を上げた。ピーコック号では、堅めの二人が揃って頬を染めているのだから、相当なものに違いない。

「こう、銀色の髪を後ろに纏めて。まあ、海軍は皆その髪型だけど」

 ロックウェル准尉が説明すると、酒保の片隅で雑誌をアイマスク代わりに寝ころんでいたシャーウッド艇長が声を上げた。

「そりゃあ、ピアソン男爵だな」

 シャーウッド艇長は、ソファから身を起こしながら、感心したように鼻を鳴らした。

「ただのボンボンじゃなかったかー。まあ、只者じゃない雰囲気は確かにあったけど」


「お知り合いで?」とロックウェル准尉。

「航海前の打ち合わせで一回、顔を見合わせた。ザラへ赴任する例の海尉艦長の二人。艦艇も増えているし中央も結構、海賊の跳梁には神経尖らせているみたいだね」

 結構、結構とうなずきながら、シャーウッド艇長はミネラルウォーターを手に取った。

 それから眠そうな目を薄く見開いて、意地悪そうに笑った。

「アーツが、かちんかちんになってた。憧れらしい」

「へえ、アーツ少尉が。一回見たかったなぁ」とランドル伍長。

「パール中尉なんてもっとひどかった」とシャーウッド艇長。

「あの鬼瓦が?」ギネス軍曹がにやりと笑う。

「鬼瓦がもうでれでれ。お前は誰だってくらい」

 シャーウッド艇長の言い草に笑いが巻き起こった。

「そのピアソン大尉とソームズ中尉、ミュラ少尉」

 シャーウッド艇長は指を折りながら、記憶を探って言葉を足した。

「確か、3人ともキャメロット士官学校の出だ」

「へえ、キャメロット。どおりで」難関の士官学校の名に、得心したようにコッパード上級曹長がうなずいた。

「美男、美女、美女。もう一人いたよね」

「いい男だぞ。きっと」

「期待できますな」



 事務室に隣接した台所では、エプロンを付けたマクラウド中尉がオーブンを覗いていた。

「さあ、できたぞ。ミートポテトパイだ」

 オーブンを開いて香ばしい匂いを嗅いだマクラウド中尉のブルドッグとか、パグとかある種の愛玩犬に似た顔が喜びに輝いた。

 大きく切り取って皿に乗せると、電脳を操作していたユル・ススに声をかける。

「さあ、食べなさい」

 ユル・ススがうなずいて、フォークを手に取った。一口大に切り取って口に含む。

「美味しい」

 つぶやいて、マクラウド中尉を見上げる。

「ありがとう」


「なに、私の仕事を手伝ってくれてるお礼だ。どうも、電脳仕事が苦手でね」

 マクラウド中尉が言った。もちろん、軍の仕事などを任せたりはしない。メルト人解放奴隷の名簿化や料理の発注書、水兵たちのメニューとカロリー計算に、将校や下士官たちの持ち込んだ私的な食糧のリスト化など、重要ではないが手間のかかる仕事を、多分、マクラウド中尉が行うときの百倍くらいの速度でユル・ススはリスト化し、見やすい資料を作り上げていた。

 この子はどこに行ってもやっていけるわい。とマクラウド中尉は上機嫌で、事務室で仕事をしている二人の水兵にも声をかけた。

「スミス、ワッツ。良ければお前たちもどうだ?」

「いただきます。サー」とワッツ。

「ありがとうございます。サー」スミスが頭を下げた。

 新鮮な小麦にたっぷりのバターを使った焼き立てのパン。蜂蜜やベリーのジャム。

 薄く切った人参や玉ねぎとやわらかいレタスに、茹でたブロッコリーと軽く揚げたニンニクのスライスを振りかけたサラダ。卵はチーズとひき肉を合わせたオムレツに新鮮なケチャップ。

 ドレッシングはビネガーに醤油、シーザー、オリーブオイルにバルサミコ、レモンが揃っている。

 二人とも遠慮はしなかった。むしろ、これが楽しみで水兵たちは仕事を手伝っている。

 焼きたてのパンとサラダがこれほどうまいことを忘れかけていた。

「玉ねぎは苦手かね?ユル・スス」とマクラウド中尉が尋ねた。

「苦いんだ」

「ふむん、それは前の寄港地パラスで買い求めた冬の玉ねぎだ。パラスは農業惑星で今の時期の南半球では素晴らしい玉ねぎを作るのだ。だまされたと思って食べてみなさい」

 マクラウド中尉の勧めに、しぶしぶ、玉ねぎを口にしたユル・ススが驚愕に目を見開いた。

「次はブロッコリーだ。新鮮な春の息吹を感じ取れるぞ。この一味違うマヨネーズをかけるんだ」

 マクラウド中尉の手にかかれば、野菜嫌いになる子供はいるまいとワッツは思った。


「大尉殿は、料理が上手いですね」とスミスがミートポテトパイを口に放り込みながら頷いている。

「なにしろ独り身が長いからなあ」マクラウド中尉はしみじみと言った。

「私が子供のころ、お腹が空くとうちのお袋はこれを作ってくれたものだ」

 マクラウド中尉がしみじみと言ってから、ハッとして口を閉じた。

「……うん、僕は大丈夫」とユル・ススは微笑んでいる。

「済まない」マクラウド中尉が、首を振った。ユル・ススが両親を失ったことを思い出したのだ。

「美味しい。お姉ちゃんにも食べさせてあげたい」ユル・ススがつぶやいてから、マクラウド中尉をそっと窺った。

「少し持って帰っていいかな」

「勿論だとも。多めに作ったんだ。包んであげよう」マクラウド中尉は大きくうなずいた。



このお話は遠い遠い時代。遥か彼方の銀河系の物語です。

現実の銀河系には一切関係がございません。

ふう、これでうちうじんが読んでいても文句を言われまいぞ




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