漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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『パンドラズ・アクター、お前はナーベラルと交代しろ。そして──』
『傾城傾国の奪取。それも気付かれないように偽物と交換して、ですね。了解しました、ン──アインズ様』
スレイン法国の中心にある神殿。その最奥にあるであろう、この神殿の重役たちが居るであろう場所へと俺たちは向かっていた。
俺が指示を出すが早いか、パンドラズ・アクターは早々にナーベラルと交代したようだ。俺のすぐ後ろを歩いているはずのパンドラズ・アクター扮するナーベの雰囲気がナーベラルのモノと変わっている。俺ですら注意しないと気付けない程の差異であるため他者に気付かれることは無いだろう。現に俺のすぐ前を歩いている絶死絶命が気付いている様子もない。
パンドラズ・アクターを一番に信頼しているのは、単に俺が作ったからだけではない。ありとあらゆる方面において極限にまで特化していたかつての俺の仲間──ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー全員の能力を、全てコピーしているからである。それも単なるコピーとは違う。パンドラズ・アクターは通常、戦闘能力に振るであろう部分すら一切妥協せずレベル100分全てをドッペルゲンガーとしての種族の能力に振り分けている。そのため80%と制限されてはいるものの、コピーした者の能力を扱う事が出来る。
通常本体としての戦闘能力を一切取らず、完全にコピーした相手の能力に依存してしまうこの方法は非常にリスクが高い。しかし俺のパンドラズ・アクターは違う。全員だ。俺を含めた、あらゆる方面に特化した能力を全員分コピーしているのだ。俺と、俺が最も信頼する仲間たちの能力を。弱い筈がない。弱い訳が無い。
(信頼できない筈がない。そうだろう、パンドラズ・アクター)
既に内部に居たこともあるだろうが、瞬く間に宝物殿を見付け交換を終えたとの報告が飛んでくる。暫くしてまた、後ろのナーベの雰囲気がパンドラズ・アクターのものに戻っていた。3分と掛からぬ早業であった。
宝物殿を守っていたのは大した強さの無い者たちだったらしい。しかし特殊な能力を持っていたらしくその死体は既にナザリックへと転送済み。代わりに上位二重の影<グレーター・ドッペルゲンガー>の配置を行ったようだ。
『パーフェクトだ、パンドラズ・アクター』
『お褒め頂き、光栄の極みです。我が神よ』
全く凄まじい程の無警戒さである。逆に罠ではないのかとも思ったが、確認したところ本物だったらしい。追跡等の魔法も掛けられておらず、プレイヤーの気配もなし。全力で警戒していた俺たちが馬鹿だと思ってしまうほどに。
(法国のプレイヤーは一体何を考えている?それとも既に居ない?寿命か?人間種等で、しかも俺たちよりも先にこの世界に転移していたと想定するならばあり得る話だけれど)
アインズ・ウール・ゴウンが伯爵となったこと、俺が英雄と呼ばれていることもあり様々な情報が耳に入るようになっている。その中で最も気になったのが『過去の話』についてだ。この世界の過去。六大神や八欲王。英雄に賢人。それらは現状では考えられない程の高い戦力を持って居ると思われた。であれば、そいつらがプレイヤーだったのではないかと思ったのだ。
確かに俺たちはこの世界に転移してきた。どれだけの規模の転移が行われたかは全くの不明だが、ナザリックのみ転移されたなどとということは『ありえない』。しかし俺の知る範囲にプレイヤーの影が無い。つまり『近い位置』に転移されたわけではないということ。つまり、それは同時に『近い時代』に転移されたわけでもないかもしれないということだ。
この世界は明らかにユグドラシルの世界とは違うというのに、位階魔法というユグドラシルの魔法があり、デスナイト等というユグドラシルのモンスターも一部だが居る。ならばこう考えた方がいいのだ。
(遥か昔、ユグドラシルから転移してきたプレイヤーがこの世界には居た、と)
その時にはこの世界には位階魔法等は無かった筈だ。それをワールドアイテムの一つ『五行相克』を使用してこの世界に位階魔法等を『作り上げた』プレイヤーが居たはず。そう考えた方が納得がいくのだから。
ならばこの国にも現在居ないとしても『かつて』居たのだろう。少なくとも数百年前に。
「絶死絶命よ、お前は神人だったな」
「──えぇ、そうね」
神人。一説では神々の血を引く者らしい。単純に考えれば、過去に神と呼ばれたプレイヤーの子孫ということになる。その当事者であるというのにまるで他人事のような返事だ。しかし動揺した様子もない。この世界で神人であること、つまり凄まじい力を持つ存在であることはそれなりに自慢できることであると思ったのだが法国では違うのだろうか。
いや、むしろ俺たちに警戒しているからなのか。絶死絶命はまず間違いなく主犯の一人なのだろうから。
では何故ここまで無警戒なのか。確かに彼女は相当の強さを持ってはいるが俺たちを斃せるほどではない。一対一ならば苦戦はするだろうがこちらにはパンドラズ・アクターが居る。法国への被害を考えないならば何もさせることなく封殺することすら可能である。だというのにこの余裕は一体何なのか。
『何か面白いものはあったか』
『色々と。持って帰りますか、アインズ様』
王国でも帝国でも、然程目に付くものは無かったという報告は受けている。しかしこの法国は色々と『レアもの』があるようだ。
この国が黒だというのは傾城傾国があった時点で確定している。しかし先の人物の様に使えそうなものもいるのも確かだ。
(坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とまでは行きたくないかな。甘いと言われそうだけど)
『今はまだいい。リストを作っておくのだ』
『かしこまりました、アインズ様』
ふと前を歩く絶死絶命の足が止まる。まだ廊下の途中。目的地の途中であろうにも関わらず。
「貴方は違うのよね。ううん、貴方がそうなのよね」
振り向きざまに言った言葉。それは一体何を意味するのか。
俺はその答えを得る機会の無いまま、彼女は再び歩き始める。
(俺が『そう』?)
疑問は大きくなる。しかし明確な回答はどこからも得られなさそうである。
突如現れる巨大な扉。いや、違う。転移されたのだろう。恐らく先ほど右へ左へと歩いた道順そのものが鍵だったのだろう。
「来たわ」
小さく短い一言。しかし通る声が響く。一瞬の間の後扉が開かれた。
「よくぞ参られた、漆黒の英雄殿よ」
荘厳とは言い難い。壁に床に様々な防御術式が刻まれており、一見すれば雑多な一間という感想が最初に来るであろう空間がそこにあった。
地下であるためか一切光が入ることのないそこは魔力光すら使って居ないのだろうか、古びたカンテラ等は吊るされているものの使用されている様子は無い。無数の蝋燭に灯された空間は見た目よりも熱が籠っていそうだ。
一歩踏み込めば分かる特異な空間。懐かしい感覚だ。確かにここにある術式はユグドラシルのもの。対外用防御術式である。恐らく対転移等を複雑に織り交ぜたものなのだろう。ナザリックで言うなら、オーレオール・オメガが行っていることを術式で代わりに行わせているといったところか。勿論彼女の様に汎用性も融通も無い。ただの堅牢な空間というだけなのだが。
『対超位魔法防御術式も組み込んでありますね。あれは割と設置が面倒だったと記憶していますが』
『確かにな。しかも効果範囲も狭く実用的ではないと戦場では基本見かけないものだ。拠点防衛に関しても、防衛能力の高いNPCやプレイヤー一人でより広範囲をカバーできるので使っている者を見たことは滅多になかったが──こんなところで見るとはな』
ざっと考える。地上からここへ向かって超位魔法を使った場合どうなるかを。例えば《フォールンダウン/失墜する天空》。恐らく周囲のみが破壊尽くされここだけが残るだろう。《ソード・オブ・ダモクレス/天上の剣》ではどうだ。直撃させても特化防御結界による減衰によって破壊までは至らない筈だ。ではここを破壊するとするならばどうすればいいか。直撃させるのではなく、結果として破壊という形を取るしかないだろう。だとするならば《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への贄》や《パンデモニウム/魔軍迸発》辺りか。皆殺しで良いのであれば《ディザスター・オブ・アバドンズローカスト/黙示録の蝗害》ならばいけるだろう。しかし恐怖候の配下の様に消えない可能性がある。そうなると後始末が大変そうである。
『あの、アインズ様?』
『──どうした』
『いえ、無理に超位魔法でなくてもよいのでは、と』
流石俺が作っただけあって、俺が何を考えていたのか気付いたのだろう。確かにパンドラズ・アクターの言う通り対超位魔法防御術式があるからといってそれを真っ向から撃ち抜こうとするのは愚の骨頂だった。効かないなら他の方法を取るのが重畳。例えば──
「来て頂いて早々すまないが、一体何用ですかな」
「あぁ、実はホニョペニョコと私が戦った時に違和感を感じたのだ」
おっといけない。本来の目的を忘れるところだった。
「ほう、違和感ですかな」
「えぇ、『自分には仕える主人が居る。しかしそれが誰だか分からない』と」
「ふむ、ただのモンスターの戯言でしょう」
奥に座る男の一人が笑みを崩さぬままに一蹴してくる。確かにただのモンスターであればそうだろう。しかしホニョペニョコはただのモンスターではない。あれはシャルティアだったのだから。
「確かにただの上位モンスターであればそうだろう。しかしホニョペニョコは上位のヴァンパイア。つまりアンデッドだ。アンデッドに精神支配は効かないというのが通例だからな」
「その通り!アンデッドを操るなど出来るはずが──」
捲くし立てるように声を大にして言おうとする男を手で制す。無駄だ、と。ゆっくり頭を振りながら。
「それが、出来た者が居たのだ。私が独自に調査を行って出た結果──」
「──我々漆黒聖典がそこでホニョペニョコと戦ったという事実に辿り着いた。そういうことでしょう、モモン殿」
ざわり、と空間が揺らぐ。動揺が一様に走っている。それはそうだ。のらりくらりと躱そうとしていた矢先に、突然答えを言った者が居たからだ。
「第一席次よ、貴様を呼んだ覚えは無い筈だぞ」
「覚えは無くとも私は当事者ですから。そもそもそうやって躱そうとしていると疑惑が増えるだけですよ」
第一席次と呼ばれた男は悪びれた様子も無く堂々と俺に対峙してくる。確かに強い男だ。しかしそれはあくまでこの世界の冒険者基準で言えばの話である。ソリュシャンよりも強いだろうが、精々そこまでだろう。
非常に長い射干玉<ぬばたま>の髪に白を基調とした鎧。まるでモモンの真逆のような存在である。
「私──いえ、我々漆黒聖典は陽光聖典のニグンの死亡とそれを監視していた巫女の不意の死亡の原因の調査のためにあの地域に派遣されていました」
「原因の調査だと?」
「えぇ、実際ニグンが戦ったであろう区域では、ありえない程の強さの魔法が行使されたのを確認しました。そしてその後の調査の途上にて、未知のアンデッド──つまり、上位ヴァンパイアであるホニョペニョコと遭遇したのです」
「なるほど、ニグンを倒した『何か』を探していたらホニョペニョコと遭遇したと」
「えぇ、未知のアンデッド──貴方がホニョペニョコと呼ぶそれのあまりの強さに瞬く間に何人も殺されました。故に、我々は──」
「第一席次!それは第一級秘匿事項であるぞ!」
声を荒げる奥の男に第一席次はニコリと笑みを浮かべた。完全にこの男のペースに飲まれている。どうやらホニョペニョコという名前もただの偽名であると看破されているようだ。
「──我々はこのままでは退却も出来ぬままに全滅すると『ケイ・セケ・コゥク』を使用しました。が、支配は失敗。反撃に合い、我々はそのまま退却しました」
「──私に言う義理は無いが、良かったのか。部外者である私にそこまで話しても」
「勿論です。もはや世界の英雄ともゆうべき貴方であり、本来我々が倒さなければならなかったあのアンデッド──ホニョペニョコを倒してくださったのです。隠し事をするなどという不義理はむしろ、我らの神も許されることはないでしょう。あちらの方々は知りませんけど、ね」
ホニョペニョコ──シャルティアとの不意の遭遇戦。そこで撤退のための使用。あくまで操るためではなかった、か。
確かに筋は通っている。そしてそれを裏付ける証拠は漆黒聖典の発言のみ。他にはない。
それを知っている奴らは早々に『ケイ・セケ・コゥク』つまり『傾城傾国』を所持、使用したというカードを切ってきた。だったらこちらもカードを切る他無いだろう。
『パンドラズ・アクター、準備は出来ているな』
『もちろんですとも、アインズ様』
このままいけば俺は何も言えずただただ言いくるめられていただろう。しかし俺には切り札がある。この切り札を見た時に、目の前で笑みを浮かべる男は一体どういう顔をするのか。
(さぁ、スレイン法国よ。漆黒聖典よ。我がシャルティアを操ろうとした敵たちよ。今度は俺のターンだ──)