強くてニューゲーム   作:トモちゃん
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番外編の時系列はバラバラです。
今回はジルクニフ編のちょっと前。


番外編 ラキュース

―リ・エスティーゼ王国王都―

 

「はあぁああ」

 

蒼の薔薇のリーダー、ラキュースは大きな溜息を吐いた。

前衛を努める戦士ガガーランが、結婚を機に引退してしまったのだが、彼女に代わる前衛が見つからないのだ。

 

魔導王が提唱する新しい冒険者、未知を既知とする冒険者の姿は、彼女の心を捕らえて離さない。

この際、国に仕えることなど大した問題ではない。

彼の魔法詠唱者の力を知るものからすれば、魔導王のバックアップというものがどれだけ魅力的なものか、想像に難くない。

すぐにでも冒険に出かけたいのだが、アダマンタイト級冒険者の代わりなど、そうそう見つかるものでは無い。

 

「リーダー、また溜息」「今日8回目」

「私たち、いつになったら冒険に行けるのかしら? いっそ、今のメンバーで出発しようか?」

「焦るなラキュース。焦って行動するのは自殺行為だぞ」

 

仮面の魔法詠唱者、イビルアイが窘める。

 

「分かってるわよイビルアイ。私もそこまで馬鹿じゃないわよ」

「自覚が無いというのは困りものだが、分かっているなら良い」

「……遠回しに馬鹿って言ってない?」

「そんなことは無いぞ」

 

ほぼ単刀直入にそう言っている。

 

「さあ、女王陛下に呼ばれているのだろう。とっとと行ってこい」

 

 

 

 

 

 

―ロ・レンテ城ヴァランシア宮殿―

 

「女王陛下、お招きにあずかり、参上致しました」

「いらっしゃい、ラキュース。さあ、そんなところに居ないでこちらに」

「久しぶりだな、アインドラ嬢」

「え? ま、魔導王陛下?」

 

何故ここに魔導王がいるのだろうか?

宗主国の王の御前、慌てて跪く。

 

「魔導王陛下、ご無沙汰しております」

「ああ、うちのセバスのせいで最近は暇にしていると聞いてね」

「うふふ、驚いたみたいね、ラキュース」

 

どうやら、この悪戯好きな女王は、わざと教えなかったようだ。

 

「もう、驚かせないでよ、ラナー」

「ごめんなさいね、ラキュース。」

「驚かせて済まないな、アインドラ嬢。さて、本題に入るとしよう」

 

人類の生存権のほぼ全てを支配し、さらに支配地域を拡大中の偉大なる絶対支配者が何故こんなところに?

 

「陛下、本日は一体、どのようなご用件でしょうか」

「うむ、先も言った通り、君たち蒼の薔薇が開店休業状態と聞いてね。ラナー女王に言伝を頼んでいたが、例のアイテムは持ってきてくれたかな?」

「はい、こちらに」

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)を魔導王に手渡す。

 

「さて、君たちの戦力強化の為、これを強化しようと思うのだが、どういう能力が良いと思う?」

「え? 陛下御自らですか?」

「ああ、前に見たときから面白いアイテムだと思っていてな。手を加えてみたいと考えていたのだ」

「強化……どのような効果をお考えなのですか?」

「ふふ、いくつか候補があるのだが、例えば、六本全てに別々の効果を付与するというのはどうだろう?」

「六種類もの効果を付与されると? そのような事が可能なのですか?」

「大丈夫だ。ただ、扱いは今のものより難しくなるだろうな。だが、それに見合う能力を保証しよう」

 

扱いにくく、強力なアイテム…その言葉は不治の病に侵されたラキュースの心に突き刺さった。

 

「へ、陛下、その効果をお教え頂いても?」

「ふふふ、勿論だとも」

 

魔導王も実に楽しそうに、ニヤリと笑う。

骸骨の表情に変化は無いが、眼窩の赤い光が怪しく揺らめいた。

そう、魔導王もラキュースと同じく、不治の病に侵されているのだ。

羊皮紙を机に広げる。

それにはびっしりと、剣に付与する追加効果の候補が書き込まれていた。

 

「これを見てくれ。まず、4属性の魔法は基本だろう」

「ですが、この回復魔法や召喚魔法を使用できるというのも心を惹かれますね」

「これはどうだ? 威力は若干下がるが、無属性で使いやすいぞ」

「陛下、この複数の剣を使用するというのは、どのような効果が?」

「複数の剣の力を同時に開放することで、全く別の魔法を放つことが出来るぞ。組み合わせを考えるのも面白いぞ。ただ、タイミングが少し難しいだろうな。実戦で使いこなすには、要練習だな」

 

二人は新しいおもちゃを与えられた子供のように、夢中で効果の組み合わせを考えている。

ラナー女王を放って盛り上がる二人が我に返った時、既に夜の帳は下りた後だった。

 

「おっと、済まないな、もうこんな時間か。では、一週間ほど預からせてもらおう。改修したらまた持ってこよう。楽しみにしていてくれ」

「今日はありがとうございました。陛下、次を楽しみにしております」

「私も良い気晴らしになった。実に楽しいひと時だったよ。ああそうだ、次回はもう一つお土産を連れてくるとしよう」

 

連れてくるということは、人だろうか?

言い終わると、魔導王は転移の魔法で帰っていった。

 

「ところでラナー、どうして魔導王陛下ご自身がこちらに来られたの?」

「陛下が仰った通りよ。貴方達が冒険に行けないことを気にかけて下さったの」

「そうなの? ガガーランのことは陛下のせいじゃないのに」

「魔導王陛下も貴方達に期待されておられるのよ。それに、今日はとても楽しそうにしておられたわ」

 

確かに、忙しい中を縫って、態々王国まで来られたのだ。

自分たちに期待しているというのも、決して間違いではないだろう。

 

それでも、やはり魔導王はガガーランが抜けたことを気に掛けてくれたのだろう。

部下に任せることが出来ることにも関わらず、態々、御自ら足を運ぶのだから。

偉大なる王の期待に応えられるよう、今から準備しておかなければ。

 

 

 

 

 

 

 

―ロ・レンテ城、訓練場―

 

約一週間後、訓練場には、蒼の薔薇とアインズの姿があった。

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)射出!」

 

ラキュースが腕を振ると同時に、魔法の剣の一本が目の前の藁人形に突き刺さる。

 

「開放!」

 

声と同時に剣に込められた炎の魔法が解放され、一瞬で藁人形が燃え尽きる。

 

「ふむ、動作に問題は無さそうだな」

 

アインズは満足そうに頷く。

 

「魔導王陛下、射出速度や切れ味も上がっているようですね」

「ああ、基本的な性能が低くては折角の追加効果も当たらないからな。これを同時に六本扱えるようになるには相当な練習が必要になるぞ?」

「ふふふ、望むところです。それに、これを上手く使えるようになれば、ガガーランの穴を埋めることも出来るようになりますから」

「うむ。時に、解放時は、その手は外側に向けて開く方が良いと思うぞ」

「こうですか? ……成程、こちらの方が格好良いですね」

 

二人はキメのポーズの検討に熱中している。

たまらず、イビルアイが突っ込みを入れる。

 

「…いや、ラキュース、格好良さは関係ないだろう」

「何よ、イビルアイ、英雄を目指すのだから、格好良く戦ってこそじゃない」

「ははは、これは仲間たちへの合図も兼ねている。動作と効果の発動が連動していれば、実践でも役に立つぞ」

「な、成程、そういう意味があるのですね。ティナやティアのハンドサインみたいなものだな」

「そうだ、それに、効果を知っている相手にはフェイントにも使えるだろうな」

「流石は魔導王陛下、格好良さだけでなく、色々とお考えなのですね」

 

改修されたマジックアイテムは非常に強力で、何よりも格好良い。

ラキュースはいつになくご機嫌だった。

 

「喜んでもらえたようで、こちらとしても嬉しい限りだ。前衛の戦士については、私に当てがあるので、これから会ってもらえないか?」

「陛下のご紹介であれば、喜んで。先日仰っておられたお土産ですね」

 

元帝国四騎士の一人、“重爆”レイナース・ロックブルズ。

彼女ならば、レベル的にも蒼の薔薇のメンバーとして遜色ないだろう。

いくつかの装備を与えてやったので、十分にガガーランの代わりが務まるはずだ。

これでようやく、部下にちゃんとした職場を与えてやれると思うと、肩の荷が下りた気分だ。

帝国から魔導国に降った最初の騎士として、それなりの地位を与えてやらなければ、折角人材が集まってくる良い流れが途絶えてしまう。

帝国四騎士と比べても、アダマンタイト級冒険者の地位は決して低くは無い。

冒険者も国に努めているのだから、ある意味、どちらも公務員だ。

レイナースの場合は腕が立つ分、冒険者の方がより稼げるだろう。

それに、冒険者を支援すると公言している魔導王が、アダマンタイト級冒険者チームを開店休業状態に追い込んだなど、噂されるわけにはいかない。

 

「それは良かった。ちょうどここは訓練場だ。腕を見てもらうのにも都合が良いだろう」

「うふふ、流石は魔導王陛下、準備に抜かりはありませんね」

 

その後、蒼の薔薇に合流したレイナースは、その実力を認められ、チームの一員として受け入れられた。

双子の片割れが大変懐いたようで、微笑ましい光景だった。

ラキュースの表情が引き攣っていたのが気になるが。

 

 

 

 

 

 

―エ・ランテル、黄金の輝き亭―

 

数週間後、蒼の薔薇はようやく王都からエ・ランテルへと移ってきた。

 

「さあ、今日、此処から私たちの伝説を始めましょう!」

 

ガガーランの結婚からずっと、冒険が出来なかったラキュースは、今にも宿を飛び出しそうだ。

 

「だから落ち着け。余りレイナースにみっともないところを見せるなよ」

「あら、同じチームなのですから隠し事は嫌ですわ」

 

にっこりと笑うレイナースの笑顔には、かつてのような陰りは無い。

ようやく忌々しい呪いから解放されたのだ。

至高なる神々の王からの祝福を受け、これからの新しい人生は輝きに満ちているに違いない。

 

「そうそう」「鬼リーダーが残念なのはいつも通り」

 

双子の忍者も遠慮なく追い打ちをかける。

 

「ああもう! ほら行くわよ! 良い仕事が取られちゃったらどうするの? ここには私たち以外に、3チームもアダマンタイトがいるんだからね」

「ん? 2チームじゃないか? 帝国からやってきたとかいう、銀糸鳥に漣八連」

「イビルアイさん、あれですわ。あの新しいチーム。黒と白の。」

「漆黒の戦士モモンと」「白銀の剣士ツアーの二人組」

「白銀の剣士ツアー…だと…?」

「多分、そのツアーよ。何でも、リグリットと一緒にいるところを目撃した人がいるらしいわ。それに、モモンさんは魔導王陛下の御落胤っていう噂もあるらしいわ。コキュートス様が頭を下げたところを目撃した人がいるって」

「おい、ちょっと待て。何でそんなお方が冒険者なんてやるんだ?」

 

ツアーと組めるということは、同レベルということか?

あのツアーと同レベルの戦士など、どう考えてもおかしい。

 

あの従属神たちに匹敵する強者であれば、冒険者などという枠には収まらない筈だ。

というか、ツアーの奴は何を考えているのか。会って問い質さなくては。

そもそも、リグリットの婆も何をやっているのか?

いつもいつも、大事なことに限って報告してこない。

 

「まあ、その二人はまだ一回だけしか冒険をしてないみたいだけどね」

「一度の冒険で最高位のアダマンタイトか? どんなインチキだそれ? 誰も文句言わなかったのか?」

「ポイニクス・ロードを生きたまま捕獲してきたらしいわよ。それで魔導王陛下に献上したって」

「……そうか、じゃあ仕方ないな。むしろ、文句言える奴がいたら見てみたいな」

 

ツアーと同等の戦士なら、そんな無茶も出来るだろう。

というか、完全に魔導王の側近とかそんなのだ、間違いない。

 

「それに、此処からなら帝国も近いですしね」

「例の帝国四騎士? イケメン貴族の? 確か、激風って二つ名」「リーダーに紹介するって本当?」

「ちょ、何で貴方達が知ってるのよ? ちょっとレイナース?」

「あら、ごめんなさい。口止めされた訳じゃないから、ねえ」

 

レイナースが悪戯っぽく笑う。

 

「ま、まあ良いわ。今日が私たちの魔導国デビューなんだから、気合入れていくわよ!」

 

無理やり気合を入れ直し、再び、新たな冒険に思いを馳せる。

子供の頃から憧れ続けた、本当の冒険の日々がこれから始まるのだ。

 

 




酒場の客A「おい、遅えぞ! もう始めてるぞ。あ、ラキュースさんち~っす」

酒場の客B「悪い悪い、ちょっと遅れちゃって。ラキュースさんこんにちは」

ラキュース「ちょっと貴方達、今、私のこと行き遅れって言わなかったかしら?」

酒場の客AB「え? いや、言ってませんって」

ラキュース「確かに聞いたぞゴラァ!!」

イビルアイ「誰かあの馬鹿を殴ってでも止めろお!」




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