アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫
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※13巻終了時点で、2~3月くらいだと思うのですが。
どうしてもハロウィンネタを書きたかったので、閑話として入れました。
本編とかなり関係ないので、Pixivではシリーズに追加扱いしました。


閑話 鈴木さんとハロウィン

「……デミウルゴス。そう言えば、今は暦の上ではいつ頃だったか」

 悟は相変わらずの魔王ロールでデミウルゴスにそう問い掛ける。各階層全てを見終わって、次は護身の為にレベルアップを、という話が出た直後の事だ。

「はい。確か……10月、31日かと。こちらとユグドラシルの暦の擦り合わせに少々時間が掛かりましたがズレは無いかと」

 デミウルゴスはインベントリからカレンダーを取り出すと、自分の手帳と照らし合わせてから悟にそう告げる。

「そうか。では今日はハロウィンということか……」

 そう言うと、悟は黙り込んでしまう。その視線は、虚空を見据えたままだ。

「……アインズ様?」

 数分の後、デミウルゴスが悟の様子を伺いつつそう声を掛ける。

「あぁ、すまないなデミウルゴス。私の悪い癖だ、すぐに物思いに耽ってしまうのは。デミウルゴス、お前はハロウィンを知っているか?ウルベルトさんならお前に教えていそうだとは思うのだが」

「ハロウィン、ですか……。申し訳ございません。私の知識には入っておりません。ですが、この時期にウルベルト様が愉しげに過ごされていたのは覚えております。アインズ様やペロロンチーノ様とご歓談されていた際に、イベントの戦果が……と仰っていたような記憶が」

 デミウルゴスのその言葉に、悟は恥ずかしげな笑みを浮かべる。

「そうか。お前はそういった断片の記憶があるのだな。……何と言ったら良いのだろうな。ハロウィンとは一般的に、死者の霊が戻って来る期間だと言われている。その際に、悪霊がやって来て人間を襲うので、人間は悪霊たちに自分が人間だと気付かれないように悪霊に仮装するのだが……ナザリックは異形種しか居ないからな……」

「左様でございますか。では、ユグドラシルではどのようなイベントがあったのでしょう?」

 ふぅ、と小さく溜息を吐いた悟に、デミウルゴスは小首を傾げながら問い掛ける。

「そうだな……ハロウィン限定のモンスターが現れて、その討伐報酬がなかなかのレアアイテムでな。ウルベルトさんとペロロンチーノさん、他にも前衛の人と組んで狩りまくっていたな。こちらではそういったモンスターも出ないだろうし……。そもそもハロウィンの由来と全然関係ないからなぁ……。

 ……デミウルゴス。お前、トリックオアトリートって聞いたことはあるか?」

 思い出しながら喋っているせいで鈴木悟の素が出まくっているが、悟は気付かない。デミウルゴスも特に気にせず、悟の問いに答える。

「申し訳ありません、私の知識には無い言葉でございます」

「そうか。トリックオアトリートとはハロウィンの合言葉のような物でな、"お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ"と子供たちが言って大人に菓子を貰うんだ。お前たちは仲間の残してくれた子供のようなものだしな、少しでもハロウィンらしさを楽しめればと思ったのだが……」

 ほんの少し困ったような顔でそう言う悟に、デミウルゴスは小さな声で訊ねる。

「……アインズ様。悪戯、というのはどういった行為を指すのでしょうか?場合によっては、御身に危険が迫る可能性が高いと思うのですが……」

「危険?何故だ?悪戯程度では……って。あぁ、そうだな、今の私のレベルでは確かにな……」

 レベルアップをしなければ、という話は出ていたが、まだ悟はレベリングをしていない。つまりまだレベル1のままなのだ。そんな状態で『トリックオアトリート』なんてやらせたとしたら……。その事に思い至り、悟はぶるり、と大きく体を震わせた。

「はい。それに……女淫魔(サキュバス)のアルベドに"悪戯"などという甘美な響きの言葉を知られたら……」

「……あー……。そうか、性的な方向に持って行くのに都合が良い言葉か……」

 デミウルゴスの言葉に、悟は頭を抱える。自分がレベル100ならまだしも、レベル1の今だと肉食女子のアルベドとシャルティアに為す術無く食われる可能性が高いと理解しているからだ。今の所は警護のデミウルゴスと八肢刀の暗殺蟲に影の悪魔の必死の働きで、何とか貞操は死守しているが……。

「……デミウルゴス。今聞いた事は忘れるように。これからナザリックでは、ハロウィンとは私が配下に菓子を与える日としよう。……ナザリックの平和の為にも」

「畏まりました、アインズ様。では、菓子の手配は如何致しましょう?」

 悟の言葉に、デミウルゴスは安堵したような表情で一礼する。その尻尾は、その心情を表すかのように穏やかに揺れていた。

「そうだな……。階層守護者の分と、主だったシモベの分を料理長に作らせろ。ハロウィンだしな、カボチャのクッキーやパウンドケーキ、マフィンなど個包装が出来る菓子が良い」

「はい、では料理長に伝えて参ります」

 悟に一礼し、部屋を辞そうとしたデミウルゴスの背に向かって、悟が声を掛ける。

「頼んだぞ、デミウルゴス。あぁ、菓子が出来上がる頃に階層守護者たちが私の部屋に来られるように手配してくれ」

「承知いたしております。アインズ様はこちらでお待ちください」

「あぁ。私は暫く休む。戻ったら声を掛けてくれ」

 悟はそう言ってデミウルゴスを見送ると、大きく溜息を吐いた。

「今の体はすごく快適だけど……やっぱり、戻らないとダメなんだろうなぁ……。皆に守られるんじゃなくて、俺が皆を守らないといけないんだし。……仲間が残してくれた、大切な子供たちを」

 今はもう、その存在はここには無い。嘗ての仲間たちを思い出し、悟は静かに目を閉じると暫し過去の事を思い返すのだった。





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