補説1
スラヴ人のこと
「補説」というほど大袈裟なモノではありませんが、ここではスラヴ人について少し書いてみたいと思います。
ロシア人がスラヴ民族に属することは比較的知られているかもしれません。しかしながらスラヴ民族全体に対しては、なじみがないと感じる人が多いと思います。「ゲルマン的」「ラテン風」などは何となくでもイメージがわくでしょうが、「スラヴ」となるとちょっと…というところでしょう。しかし実際のスラヴ人はヨーロッパで最大の人口を擁する民族集団であり、ゲルマンやラテン諸族と並んで重要な歴史的役割を果たしてきたのです。
スラヴ人は使用言語などをもとに東・西・南の3つにわけられています。以下、その代表的なものを挙げてみます。
東スラヴ…ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ(白ロシア)人
西スラヴ…ポーランド人、チェコ人、スロヴァキア人
南スラヴ…ブルガリア人、セルビア人、クロアチア人、モンテネグロ人、 スロヴェニア人、マケドニア人
一見して東ヨーロッパ、というよりかつての共産諸国がほぼスラヴ世界と重なることが分かるかと思います。また東スラヴがソヴィエト連邦、南スラヴがユーゴスラヴィアという多民族国家の構成要素となっている(いた)のに気づかれた方も多いでしょう。ついでに言えば、「ユーゴスラヴィア」とは文字どおり「南スラヴ」を意味する言葉なのです。
この3集団のうち、西スラヴと南スラヴの間にはハンガリー、南スラヴと東スラヴの間にはルーマニアという非スラヴ国家がそれぞれ「はさまって」います。従って、直接に境を接しているのは西スラヴと東スラヴだけ、ということになります。
宗教的には東スラヴは東方正教会、西スラヴはカトリック/プロテスタントに属しており、比較的均一と言えるのですが、ただ南スラヴ(バルカン諸国)だけは正教、カトリック、そしてイスラム教と複数の宗教(宗派)のるつぼであり、それが今日の複雑な民族問題の原因となっていることは周知の事実です。
あと、スラヴ民族の特徴としては、言語の均質性が高いということがあります。実際、スラヴ人同士であれば通訳なしでもかなり意志疎通ができるようです。スラヴ諸国での国際会議などがあると、一応通訳もつくのですが、みんな無視して直接議論を始めるという話すらあるくらいです。これはスラヴ人が比較的後代まで分裂せず、また地理的にもそれほど広範囲に拡散しなかったからだと言われています。
英語はもちろん、お隣の韓国語や中国語などともあまり互換性のない日本語の使い手から見ると、ずいぶんうらやましい話ではあります。
ところで「スラヴ」という名称は「奴隷 Slave」に由来している、と思っている人はいないでしょうか?昔はそう教えられていたようですが。これは全くの逆で、かつてスラヴ世界から多くの人が奴隷として連れてこられたため、奴隷が「スレイヴ」と呼ばれるようになったのです。そりゃ、自分の民族の名を「奴隷」とはつけないでしょうね、やっぱり。
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