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『ようこそ実力至上主義の教室へ8』 メロンブックス限定 書き下ろしSS小冊子 「意地悪なパートナー」 軽井沢恵 視点

8巻本編 P164参照。

軽井沢恵さんって、冴えなんたらの相楽真由(嵯峨野文雄)って人に似ているな。

意地悪なパートナー

林間学校が始まってすぐ、あたしは清隆に頼まれ女子グループの把握に注力していた。
そして今日、ついに清隆があたしの視界に入った。

こちらを一度見る清隆。

すぐに理解した。今からあたしに接触してくるってことを。

そして背後に座ったのを感じ取る。

 

「んー」


あたしは左右にいる友達や周囲に悟られないよう、だけど清隆に気づいたことを分からせるため喉を鳴らすようにして合図を送った。

それからあたしは、友達と気兼ねなく満足いくまで雑談した。中断するようなこ とをすれば怪しまれる。

それから20分くらいして、あたしは少し別の子との待ち合 わせがあると言って先に帰すことに成功した。

 

「それで? 3日目にしてあたしの力を借りたくなっちゃったわけ?」

 

背後に座る清隆にそう声をかける。

だけど安易に振り返ったりしない。 こんな時女スパイは、間抜けな行動はしないから。

 

「そんなところだ。女子の情報がなさ過ぎる」


堀北さんとは最近ちょっと疎遠みたいだし、クラスで頼りになるのはあたしだけだ。

清隆が内心、泣きつくように頼ってきていることが凄く嬉しかった。

……いやいや。こき使われて喜ぶってなんなのよ。

 

「まあ仕方ないんじゃない?? コミュ障のあんたに接触できる子は限られてるし」


だからちょっと強気に出てからかってみた。

 

「ならオレのアドバイスがなくても、特別試験は切り抜けられそうなんだな?」

 

そんなカウンターパンチを貰う。 アドバンテージを取ったはずが、一撃でフラフラだ。

 

「あ、当たり前でしょ。あたしを誰だと思ってるわけ」


虚勢を張ったものの、間違いなく清隆には動揺したのが伝わったと思う。

 

「そうか。なら心配無用だな」


後は自分で出来るな? そんなプレッシャーを受けてあたしは降参した。

もしピンチに陥ったら、一人でどうにかできることじゃない。

「……あとで一応、あたしの状況が心配ないかどうかも分析しておいてよね」

 

そう素直? にお願いしておいた。


「とりあえず女子のグループ分けから聞かせてもらおうか」

「あ、話の前にひとつ気になってたことがあるんだけど」

「手短にな」


もちろん分かってる。下手に清隆を誰かに注目させたくはない。

 

「結構大事なことって言うか……あいつ、龍園のヤツはどうしてるわけ」

「気になるのか?」

「そりゃあ、ね。女子の方でも話題になってるし。どうしてあいつがリーダーを辞めたのか、本当のことは誰一人分かってないみたいだけどね」


あたしに散々酷いことをしてきた男が、どうなっているのか気にならないはずは ない。

 

「借りてきた猫、って表現は龍園には合わないが、今は随分大人しくしてるみたいだ」 「あんたのお灸が効いたってことか」

「お灸、ね」


当面の間、あたしがあの男に狙われることはない。それが本当に嬉しかった。

 

「龍園のことは心配するな。あいつは不用意なことはしない。少なくとも恵に対して何かするってことは今後ないと言い切れる」


ぶっ! 不意打ちの『恵』呼び。

 

まだ下の名前で呼ばれることに慣れてないあたしは、思わず焦った。

だけど、下の名前で呼ばれたくらいで焦るのは格好悪い。呼吸を整える。

 

「……ごめ、なんでもない」

 

そう断りを入れ会話を戻そうとした。

 

「なんでもないって様子じゃないだろ恵」


またも呼ばれる下の名前。その度にあたしの貧弱な心臓が大きく跳ね上がる。

そして、瞬く間に高速で鼓動を奏で始める。

「な、なんでもないってばっ」


落ちつけ、落ち着くのよ恵。

あたしは下の名前を呼ばれたくらいで動じない女。

それくらい朝飯前でこなすイケイケのギャルなんだから。

にしても今までそんなに呼んでなかったくせに、立て続けに呼ぶ? 

 

「恵、本当か?」


3度目の正直、ここであたしはからかわれていたことを確信する。

 

「……ちょっと待って。あんたわざとでしょ!」

 

振り向きたかったけど、出来なかった。 周囲にバレるとか以前に顔が真っ赤になっているのが分かったからだ。

 

「ああもう。ほんと、下の名前で呼ぶのなんて許可しなきゃ良かった……」


顔を隠すように蹲りたいのに、それが食堂じゃ出来ない。

※蹲りたい――うずくまりたい

 

あくまでもゆっくりとご飯を食べている、

女子を演じなきゃならない辛さ。

 

「そもそも最初に呼び出したのはそっちだけどな」

「あ、あれは仕方なくだし」

 

仕方なく……は、嘘だけど。 恋は惚れた方の負け。

誰が言ったのか、上手い言葉だと思った。