長谷川 亮太の公式ブログ

――長谷川亮太の今。

『ようこそ実力至上主義の教室へ7.5』 とらのあな購入特典 8P小冊子 衣笠彰梧先生書き下ろし SS 「気づいた心」 軽井沢 恵 SS

Google ドキュメントで文字起こし。

スキャンした画像をグーグルドライブにアップロードし、アプリで開くからGoogleドキュメントを選ぶと簡単にテキストになります。

! ? …… ―― あたりのOCRの精度が甘いというかアメリカで使われてないんだと思います。

 

『気づいた心』
あたしは大きな決断をした。自分でもそう思う。
出した言葉は二度と引っ込めることは出来ない。

『洋介くんと別れる』

それは軽井沢恵にとって、究極至極、普通の状態なら選ぶはずのない選択肢。

「3学期になったらクラスの皆、驚くだろうな」
どこか浮ついた気持ちのまま、あたしは静かにそう呟いた。

「それはそうだろ」
多分すぐに、洋介くんを巡る女の戦いが始まることが予想される。

「あいつ、他の誰かと付き合うと思うか?」

「あたしに聞かれてもわかんない。洋……ううん、平田くんのことは詳しいわけじゃないし。でも どっか清隆と似て冷めてるところあるよね。あたしと嘘で付き合ってたら別の子と付き合ったり出来なくなるし、あんまり恋愛には興味ないのかも」

嘘でもカップルじゃなくなる。下手に親しげなままだと他の女子にも悪い。

あたしは今から慣らすため『洋介くん』じゃなく『平田くん』に戻すことにした。

「平田の呼び方は戻すのに、オレはそのままなのか?」
気がつけば無意識に下の名前で呼んでいた清隆。

平田くんに戻したことで清隆からそんな当たり前の疑問が飛んできた。

「あ.........そう、か。戻したほうがいい?」
「そういうわけじゃない。どんな風に呼んでも自由だけどな」
そう言って一呼吸、清隆は間を空けた。

「いい機会かもな」 下の名前で呼び続けることに対して、清隆は難色を示さなかった。 そして、あたしにとって運命的な瞬間は、唐突に訪れることになった。

「オレも普通に『恵』って呼ぶことにする」


恵って呼ぶことにする。恵って呼ぶことにする。恵って呼ぶことにする。

あたしの心の中で言霊のように繰り返し、そして反響する言葉。

ひゅるひゅるひゅる〜と、上空から落ちてくる一本の矢。

それは佐藤さんから清隆へと向けた矢。弾かれてどこかに飛んでいったはずの矢。

それが――

「たうわ!?」

あろうことか、あたしのハートに突き刺さった。

「……たうわ?」

腹の底から飛び出した謎の単語を聞き返してくる清隆。

な、ななな、なんでもない! なんで清隆もあたしを名前で呼ぶわけ!」

片方だけが苗字で片方だけが名前、それに少し気持ち悪い感じがしてた」

いやいやいや、そうかもしんないけどさあ! 前触れも何もないし!

 

高鳴った、いや.........跳ね上がったあたしの心音はバクバクいっている。

その音が清隆にも聞こえてしまうんじゃないかってくらい巨大だ。

そんなあたしのパニックなどお構いなしに、清隆は話を変えてきた。

「ところで……一応答え合わせしておきたいんだが。あのWデートを仕組んだ発案者はおまえじゃ なくて佐藤でいいんだよな?」

やっぱり、というべきか。清隆はWデートのカラクリに気づいていた。

あたしは必死に感情を抑えながら聞き返す。

「な、何よ仕組んだって」 一応誤魔化してみる。

「おまえは結構上手く演技してたが、ところどころ佐藤の挙動がおかしかったからな」 「あー……やっぱ気づいてた? あたしも佐藤さんは怪しいと思ってたのよね」

何とか落ち着きを見せてきたあたしのハート。

ふう、ふう。これでもう大丈夫。

「そうだ。オレもおまえにクリスマスプレゼントがある」

「え?  嘘っ!?」

そう思ったのに、またあたしのハートはバクンと跳ね上がった。

「嘘だ」

「はあ?  あんたぶん殴られたいわけ?」

急上昇させてからの急降下に、あたしは清隆を睨みつけた。

ひょっとして、あたしからかわれてるだけ?

「正確には単なるプレゼントだな。おまえには不要の産物だと思うが」

「……ちょっと、ドラッグストアの袋って何よそれ。バカにしてんの?」

そんなもの貰ったって、全く嬉しくない。

そう思いながらも受け取り、中身を確認する。

袋がそうなだけで、実は中身は~なんてことを期待していた。

中から出てきたのは 「風邪薬とレシート……?」

淡い期待は呆気ないほど簡単に裏切られた。

でも、変な違和感を覚える。どうしてこれをあたしに?

「レシートの方は気にするな、捨てておいてくれ」

そう言われると余計に気になる。あたしはレシートの細部に目を通す。

そして疑問に気づいた。

「ねえ、このレシート23日の午前10時55分って書いてるんだけど……」

今日買われたものじゃない。普通風邪薬とかって、必要に駆られた時に買うものだ。 「それを買った帰りに、おまえと佐藤が2人でケヤキモールにいたのを見た。それでWデートが仕組まれたものだってことにも比較的早い段階で気がついたってことだ。てっきり体調を崩すと思っ てたんだけどな。見事に予想は外れた」

「じゃあ……あんたがあたしを心配する連絡を寄越さなかったのって……」

あたしに対して冷たくしていたからとか、忘れてたとかじゃないってこと?

「マスクもしてなかったし、遠目にも元気なのは分かったからな」

な、何よそれ。聞いてないんだけど!

「し、心配してくれてたんだったらさあ……こんな遠回りなことしないで、もっと早くに訪ねてく るなり、電話一本かけるくらいしなさいよね。それで確認できたじゃない」 「目立つ寮で、直接お前の部屋を訪ねるわけにもいかない。電話は有効な手段だが、その場合は強 がることも考慮した。おまえは自分の弱さを見せるのが苦手だからな」

何よ、何よ何よ何よ何よそれ!

あたしは急激に赤くなっていく顔を隠したい衝動に駆られた。

あの日、屋上での出来事の直後から、清隆あたしのこと気にかけてくれてたんじゃん!

あああああ、もうう、あああああ!

心の中でキャーキャー言いながら走り回るもうひとりのあたし。

これはもう間違いない。認めざる絵尾得ない。

※認めざる絵尾得ない。:誤植。認めざるを得ない。

 

マジで、マジでマジで、マジで持っていかれた。

あたしのハートに刺さってしまった矢。もう抜けることのない恋の矢。

こんなことってある?  半ば虐め来てたヤツに恋するなんてこと、あっていいわけ!?でももう遅い。この矢の効果は絶大だ。 あたしは、あたしは清隆を――

――マジの本気で、好きになってしまった。

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