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習近平への提言

1.「良い」論文を書けば収入が増える!?
・上海交通大学では、大学内の学術委員会が学術誌のインパクトファクター(IF)を参考に雑誌をS(Nature,Cell,Science)、A、B、Cに分け、例えばAクラスの学術誌に論文を投稿すると5千元の報奨金が支払われる。
・大学や研究所に設置されている「国家重点実験室」では、投稿学術誌のIFの2乗×100元が支払われる。学術誌のIFが20であれば、論文当たりの報奨金は4万元となる。
・これらの施策のお陰?で、IFの高い学術誌152誌への2015年の投稿論文数は8286編の世界2位で、前年比50%の伸び。NCS掲載論文数は290編と日本を上回り、前年比18%の伸び。
・このような過度な定量的評価は弊害もあるとして、北京大学、清華大学、科学院研究所(一部)等では取り止めまたは軽減して、国際評価委員会の導入などオリジナリティを重視したピアレビューへの転換を模索中。
・なお、研究者の人事評価は3~5年毎に、論文の質と量、総説数、獲得した研究費の額、特許出願数、セミナー開催数、海外との共同研究数、招待講演数等に細かく定量化されて行われる。中国人は評価指標が透明化されていれば、競争を厭わない。

2.競争的研究費等を獲得すれば収入が増える!?
・政府の競争的研究費や企業の研究委託費を獲得すると、総額の5~20%が代表研究者や共同研究者の人件費として得られる。また、自然科学基金委員会(NSFC)の競争的資金の間接経費は採択研究者の所属機関に配分されるが、その一部はボーナスとして採択研究者に支払われる。
・競争的研究費などは第二の報酬の源泉となっているため、獲得競争は苛烈になる。コネを使った不正も行われるようになる。また、研究費を稼がないと、所属研究機関から研究室を借りることも、研究者を雇うこともできなくなり、研究が行われなくなり、その結果、人事評価も悪くなる。
・海外の超優秀な中国人研究者を呼び戻す「千人計画」に採択される(競争率100倍)と、中央政府、地方政府等から合計300万元(無税)の報奨金が支給され、高額研究費も保証される。それと引き替えに、論文発表数、授業数、国際会議開催数、特許出願数、海外ポスドク採用数等が細かく記載された契約書を締結する必要がある。それらが3年後の人事評価の基準となる。

3.大学院生は比較的裕福
・中国の大学院生は格安の宿舎が提供された上で、大学と担当教授から生活費が支給される。優秀な学生は条件の羽振りの良い大学や研究室を目指すため、そのような学生は結婚生活が送れるほど裕福である。
・なお、一流大学の学部卒業生の約7割が海外に留学していたが、現在は3割まで低下。

4.ポスドクの生活は厳しい
・ポスドクの年収は7万元と少なく、かつ2年の任期中に競争的資金を確保しないと再任されないため人気がなく、博士号取得後は海外のポスドクポストを探すか、国内の国有企業等に就職する。

5.大学の学長はランキングに一喜一憂
・学長の評価(特に二、三流大学)は大学の世界ランキング等によって行われるため、優秀な研究者の確保に懸命になるなどランキング上昇に向けて努力する。これは地方政府の書記がその地域のGDPを上昇させるために競争させられている姿と重なる。

6.技術移転の促進策
・或る国立研究所では、薬品開発のインセンティブを挙げるため、フェーズⅠの前まで開発した新薬を研究所の下部の企業に売却する場合、その売却益の3割は研究所に、4割は研究室の研究費に、残り3割は開発関係者のボーナスとして分配される。頑張るほど研究費と収入が増える仕組みだ。
・大学の研究者や学生が創業の優れたアイデアを持つ場合、大学も支援するなどベンチャーを興すのは比較的容易という。しかし、統計上は、北京大学等の一流大学の場合、卒業後創業するのは1%前後。4割の卒業生は報酬が良く、安定している国有企業に就職する。

7.研究者の引退
・研究者の定年は60歳と決められているが、一定額以上のプロジェクト研究費を獲得した場合、著名な学会の会長に選任された場合、院士の場合等は延長が可能である。最近、院士の過度の干渉を軽減するために、退職年齢が80歳から70歳に引き下げられた。

8.問題点
・カネを「飴」に、定量的指標を「鞭」として研究者を論文製造に駆り立てるのが中国式研究システムである。この手法は論文数と被引用数の急増をもたらした反面で、大量の「ゴミ論文」の発生、捏造等研究不正、科学業績よりも論文重視という主客転倒、過当競争による研究者の多忙・焦り等の問題を引き起こしている。
・今後は真の科学大国になるための発想の転換(過度な定量的指標による評価からピアレビューへの転換)が必要と考えられる。定量的評価は客観的であるかもしれないが、科学の最終的評価はノーベル賞受賞に現れているように「直観的」であることを再認識する必要がある。そのために、科学業績や人格を評価できる人材育成が急務だ。

(2016年11月25日、寺岡伸章)
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