不確実性にたじろがず改革進めよ

社説
2019/1/1付
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平成最後の元旦を迎えた。5月には新元号の時代が始まる。日本は平成の「停滞の30年」を脱してどう針路をとるべきだろうか。

世界はめまぐるしい変化の渦中にある。米国をリーダーに世界の集団的な安全保障や自由貿易を守ってきた体制は大きく揺らいだ。

トランプ米大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、地球温暖化を防ぐパリ協定に従わない姿勢を示した。世界貿易機関(WTO)の紛争解決の機能は瀕死(ひんし)の状態だ。

G20で国際協調を守れ

欧州連合(EU)は、英国が合意のないまま離脱するリスクに直面している。盟主のドイツはメルケル首相の政治的な影響力が弱まり、フランスのマクロン大統領も支持率低下に苦しんでいる。中東もサウジアラビア人ジャーナリストの殺害や、シリア紛争の泥沼化によって、不安定化が進む。

今後数十年の世界秩序のカギを握る米中関係は、ハイテク覇権を巡り先鋭的に対立している。米国では政府や議会、有識者に「中国は豊かになれば民主化する、という従来の対処法は誤りだった」という見方が広がっており、2月末を期限とする米中貿易交渉は打開の糸口がみえない。

こうした地政学リスクに日本は立ち向かわなくてはならない。6月に大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれ、安倍晋三首相が議長を務める。自国第一主義に傾くトランプ大統領らに、自由貿易や国際協調の重要性を説き続ける必要がある。

安倍首相にとってはロシアと北方領土返還交渉を進め、北朝鮮に拉致問題の解決を求める年でもある。日米同盟を外交の基軸としつつ、中国との関係改善も重要だ。習近平国家主席の来日を実現し、米中の緊張緩和を側面支援するのも首相の役割である。

世界経済は2018年後半から緩やかな減速をみせる。11月に経済協力開発機構(OECD)が発表した今年の世界の経済成長率予測は、18年9月時点より0.2ポイント低い3.5%だった。08年のリーマン・ショックから続いた超金融緩和が潮目を迎え、米国の利上げが続く。前例のない規模で供給されたマネーが逆流し、株式や社債などの市場に動揺がみられる。

日本の景気は今月、戦後最長の74カ月の拡大を記録する。企業は好業績を謳歌し、停滞していた雇用者所得も増え始めた。10月には消費税率が10%に引き上げられるが、19年度予算で手厚すぎるほどの対策を講じており、消費腰折れのリスクは小さい。

日本企業が抱える課題は、時代を変えるようなイノベーションを主導できていないことにある。グローバル化とデジタル化という二大潮流に乗れなかったことが一因だ。中国の国内総生産は日本の2倍以上に増えており、この潮流の恩恵を最大限活用してきた。

コストダウンだけで利益を確保する「縮小均衡」の経営を脱する必要がある。18年は生産現場に起因する不祥事が相次いだが、海外と国内の開発・生産体制のバランスをもう一度点検すべきだ。イノベーションは従来の技術の延長線上には生まれにくい。たこつぼ型や年次重視の組織を見直さないとデジタル化の波に乗ることはできないだろう。

中間層の安定を生かせ

幸い日本企業の内部留保は潤沢だ。超高齢化社会で必要とされる医療・介護の技術や、環境技術など世界に貢献できる分野は多々ある。人手不足は生産性向上のチャンスともいえる。電気自動車の欠点を埋める次世代蓄電池の開発などでも世界をリードしてほしい。

日本には他の先進国にない強みがあることを忘れてはならない。中間層が分厚く、米欧でみられるような世論の分断がさほどでもないことだ。日本の社会的、政治的な安定は突出した存在だ。

9割を超える就職内定率が象徴する雇用の安定が下支えする。企業の新陳代謝や労働市場の流動性を高めつつ、分配政策などを活用し、この安定はできるだけ維持すべきだ。資本主義や民主主義の疲弊が海外で目立つが、日本はこのふたつの価値を守り、米中などに働きかける責任がある。それが国際協調の復権をもたらし、日本の活路をひらくことにつながる。

さまざまなリスクを抱え、今年は変化がどう起こるのかが読みにくい、不確実性をはらむ年だ。

だが、たじろいではいけない。平成の次の時代を豊かなものにするために、20年の東京五輪・パラリンピックを越えて日本の復権を実現するために、政府も企業も改革に全力を尽くす年にしたい。

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