政府と企業が一体で進めてきた原子力発電所の輸出政策が行き詰まった。三菱重工業がトルコで、日立製作所が英国でそれぞれ進める建設計画は費用の増大などの理由で継続が厳しくなりつつある。
政府が原発輸出を成長戦略の一つに位置付けたのは、インフラビジネスとしての規模の大きさもさることながら、新設計画がない国内では維持が難しい原発技術を輸出で守る狙いがあったからだ。
しかし、輸出頼みには限界が見えてきた。日本が原発を使い続けるなら、どのように技術を高め、担う人材を育てていくのか。技術・産業基盤を維持するための方策を早急に考えねばならない。
三菱重工の計画は建設費が想定の2倍近い規模に増えたという。日立の計画も事業費が膨らんだ。トルコや英国政府に支援を求めているが交渉は難航している。これらが頓挫すれば日本が関与する海外案件はゼロになる。
投資に見合う事業採算が見込めないなら断念はやむを得まい。だが、国内での新設原発の稼働は2009年が最後だ。国内の原発プラントメーカー3社の原発事業の人員は、15年度までの3年間で1割減少した。建設に従事した経験者も年々、減っている。
米国やフランスの原発メーカーも苦戦が続く。一方、中国やロシアの国営メーカーは国内での新設に加え、新興国の原発導入に際して、資金の提供や燃料の供給・処理まで丸抱えで請け負う。実績を積み上げる中ロとの競争力の差は開くばかりだ。
エネルギー利用の指針となる政府の「エネルギー基本計画」は、30年の全電源に占める原発の比率を20~22%と定め、重要電源として使うことを確認した。
そのために当座は既存原発を再稼働させても、老朽原発はいずれ廃炉の時期を迎える。その先はどうするのか。原発の建設には長い時間が必要だ。しかし、今年のエネルギー基本計画の見直しでは、新増設の議論を素通りした。
いざ新たな原発が必要になった時に、信頼できる技術が手元になくて良いのか。企業が人員配置や設備投資を判断できるように、まず国が原発活用の考え方を長期的な視点で示す必要がある。
原発メーカーや電力会社は効率的な体制の構築へ、再編・集約から目をそむけてはならない。同じ課題に直面する日米欧が技術の維持で連携していくことも重要だ。
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