TPPで自由貿易の旗高く掲げよ

社説
2018/12/30付
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米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国の新協定「TPP11」が、30日に発効した。歴史に刻まれる巨大な自由貿易圏の誕生である。

米国が拡散する保護貿易の防波堤を築く意義は大きい。TPP11の確実な履行によって自由貿易の旗を高く掲げ、世界経済の安定に貢献すべきだ。

参加11カ国の国内総生産(GDP)は世界の13%程度、貿易総額は15%程度を占める。その広大な市場でモノ、サービス、投資の自由化を推進し、公正で透明な経済ルールを構築する。

急ぎたい参加国拡大

8カ国による交渉開始から8年、日本の交渉参加から5年を経て、ようやくここまでこぎ着けた。米国の離脱は残念だが、TPP11の価値が揺らぐことはない。

格差の拡大や移民の増加にいら立ち、グローバル化や多国間主義に反感を抱く人々が世界的に増えている。そんな感情につけ込み、ナショナリズムをあおる指導者が後を絶たない。

国際ルールに抵触する一方的な制裁を科し、主要国に貿易戦争を仕掛けるトランプ米大統領が典型だ。それを望む民意が存在したとしても、米国自身や世界の経済成長に資するとは思えない。

自由化の水準が高いTPP11は、アジア太平洋地域の経済を底上げし、ヒト・モノ・カネの磁力を強める。日本では実質GDPを8兆円押し上げ、46万人の雇用を創出するという。

こうした恩恵を顕在化させ、自由貿易体制の価値を世界に示したい。安易な保護貿易に走る米国に軌道修正を促す意味でも、TPP11が果たす役割は大きい。

次の課題はTPP11の拡大である。参加国は2019年1月にも閣僚級の委員会を開き、新規加入の手続きを決める運びだ。タイやインドネシア、コロンビアなどが有力候補といわれる。

同じ価値観を共有する仲間が増えるのは大歓迎だ。現行の高い自由化の水準を維持することを条件に参加国の輪を広げ、TPP11の基盤を強化してほしい。

米国の離脱で暗礁に乗り上げたTPPを立て直し、新協定の発効を主導してきたのは日本である。世界貿易機関(WTO)のパスカル・ラミー前事務局長は「良い意味で多くの人々を驚かせた」と話す。日本は新規加入の交渉にも指導力を発揮すべきだ。

19年2月には日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も発効する。世界のGDPの約3割、貿易総額の約4割を占める自由貿易圏の誕生だ。TPP11を上回る規模である。

「自由貿易の旗手」を自任する安倍晋三首相には、さらに先に進むよう求めたい。日本と中国、韓国、インドなどを含む16カ国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結を19年に先送りした。

RCEPには中国を日本などと同じ土俵に上げ、最低限の自由化を迫る意味もある。参加国の対立を解き、交渉をこれ以上漂流させないようにせねばならない。

日本は19年1月にも始まる米国との新たな物品貿易協定の交渉で、TPP11の基準やルールに沿った合意を目指すのも重要だ。米国は自動車の対米輸出の数量規制や通貨安誘導を封じる為替条項の導入などを求める見通しだが、自由貿易の原則から逸脱した要求は断固、突っぱねるべきだ。

WTOの機能不全続く

機能不全に陥ったWTOの立て直しも忘れてはならない。多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は先進国と途上国との対立で17年間にわたって迷走し、空中分解した。第1の使命である新しい通商ルールづくりでWTOへの期待はしぼんでしまった。

第2の使命の紛争処理では、最終審にあたる上級委員会の委員7人のうち4人が空席という異常事態が続く。米国が新任者の承認を拒んだからだ。多発する紛争をWTOで処理するのは、もはや不可能だろう。

TPP11には次世代の通商ルールとともに、強力な紛争処理の仕組みが盛り込まれた。自由貿易体制を支える土台として、まず参加国の活用が見込まれる。参加国が広がれば、WTOの改革を促す力としても働くのではないか。

トランプ氏は保護主義を貫き、自らの支持基盤を鼓舞し続けるだろう。これに対抗すべきメルケル独首相やマクロン仏大統領は指導力が衰えた。もちろん中国の習近平国家主席に代役が務まるはずはない。安倍首相が自由貿易の旗を振り続けるしかあるまい。

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