報道の自由が脅かされている

社説
2018/12/29付
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世界で記者が殺害される例が増えている。今年は権力の腐敗や不正を暴く行為の報復とみられるケースが増えているのが特徴だ。真実の解明に命を賭した記者に哀悼の意と敬意を示したい。

報道の自由は民主主義の土台だ。フェイクニュースがあふれているいまこそ、改めて真実を追求する意義を訴えたい。

米国に本部がある非営利団体ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、2018年に死亡した記者の数は11月末までに53人(動機不明を除く)と昨年1年間の46人をすでに上回った。

シリアなど紛争地で銃撃戦などに巻き込まれて死亡した記者は11人と依然多いが、昨年から6人減った。一方で、口封じや見せしめとみられる殺人は昨年の18人から34人に大幅に増えた。

その代表はサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏だ。10月にトルコのサウジ総領事館内で情報局員らによって殺害された。同氏は言論弾圧など母国の現体制への批判を繰り返していた。

懸念されるのは、報道の自由を脅かすような権威主義的な政権が世界で増えていることだ。2月には政治汚職を取材していたスロバキアの記者が銃殺された。10月には政界や経済界の不正を告発したブルガリアの女性記者が乱暴されたうえに殺害された。

両国はいずれも欧州連合(EU)に加盟している。自由と民主主義という価値観を共有しているはずだ。自分とは異なる意見を暴力で封じようとする風潮がこうした国の社会で広がっているとすれば危険だ。民主国家としては自らの首を絞める行為だということを認識すべきだ。

政権のプロパガンダ(宣伝工作)や世論の誘導を狙ったフェイクニュースが氾濫している。そのうそを暴き、真実を明らかにすることは報道機関の使命である。

日本国内では記者が殺害される例は最近10年起きていない。しかし、海外の危険な風潮は決して対岸の火事ではない。

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