政権に復帰して以降の安倍晋三首相の外交・安全保障政策はおおむね順調といってよい。何かと物議を醸すトランプ政権になってからも日米同盟は安定しているし、歴代首相で最多の78カ国・地域を訪れ、「地球儀を俯瞰(ふかん)する」外交を展開中だ。
そうした積み重ねを、具体的な果実につなげられるか。国際情勢が混沌とするなかで、安倍外交の真価が問われる年を迎える。
「日米同盟の絆を強める」。安倍首相はそう言い続けてきた。来年早々にも2度目の米朝首脳会談がある見込みだが、北朝鮮の核・ミサイルの脅威がなくなったわけではない。日米の安保協力はさらに緊密にする必要がある。
他方、安保と経済を絡めることは好ましくない。米通商代表部(USTR)は日本との新たな貿易交渉に向けて22分野の要求項目を議会に通知した。安倍首相は貿易交渉で押し込まれることがないようにしなくてはならない。
米国一辺倒のリスクを回避するうえからも、「準同盟国」的な存在であるオーストラリアやインドなどとの連携の強化に努めたい。「自由で開かれたインド太平洋」構想を推し進め、日本外交に厚みを持たせるべきだ。
安倍首相が掲げる「戦後外交の総決算」はいよいよ正念場だ。
日中関係は改善に向かいつつあるとはいえ、中国が海洋進出を目指していることに変わりはない。米中対立の長期化もにらみ、中国とは対峙しつつ対話する、したたかな外交で臨んでもらいたい。
日ロ交渉は大きなヤマ場を迎えており、平和条約の締結に向け、日本も歩み寄りを迫られるかもしれない。国民世論を踏まえた交渉が重要だ。衆参同日選に持ち込むための駆け引き材料にするようなことがあってはならない。
北朝鮮による拉致問題の解決を被害者家族は待ち焦がれている。日朝首脳会談に導くため、日本が核・ミサイル問題で積極的な役割を果たしたい。
交渉ごとは途中で中身を明かせないケースが少なくない。だが、あまりに秘密外交に陥っては国民の理解を得られまい。どこに向かおうとしているのかを上手に伝えることも国のリーダーの務めのひとつだ。記者会見で質問を無視した河野太郎外相のような対応は厳に戒めるべきだ。
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