IWC脱退は冷静な判断か

社説
2018/12/27付
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政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を発表した。IWCの停止措置で1988年から中断している商業捕鯨を来年7月に再開する方針だ。

菅義偉官房長官は「条約に明記されている捕鯨産業の秩序ある発展という目的はおよそ顧みられることはなく、鯨類に対する異なる意見や立場が共存する可能性すらない」と脱退の理由を説明した。

科学調査のための捕鯨も認めようとしない反捕鯨国の強硬な姿勢に問題はある。しかし、議論が先に進まないことを理由に、日本が国際的な協議の場を捨てることは冷静な判断とは言いがたい。

商業捕鯨の再開に踏み切れば、欧米やオセアニア諸国との関係に悪影響は避けられない。政府が先週まで脱退について明言を避けたのは、欧州での日欧経済連携協定(EPA)承認手続きに影響しないよう配慮したことが理由ではないのか。

米国などが自国優先主義に傾く中で、来年20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国となる日本は国際的な連携の維持をけん引しなければならないはずだ。

IWCを脱退しても、完全に自由に商業捕鯨をできるわけではない。日本も締約国である国連海洋法条約は、排他的経済水域(EEZ)の内外を問わず、鯨類は国際的な枠組みで管理しなければならないと規定しているからだ。

IWCへの加盟を前提にした南極海での調査捕鯨もできなくなる。日本が訴えてきた調査捕鯨の重要性はどこへいったのか。

日本は自分勝手だと海外の消費者のイメージが悪くなり、食品の輸出拡大に障害となることも懸念される。こうしたリスクを冒してまで、IWC脱退に大きな意味があるとは思えない。

地域に根付くクジラの食文化を残すことは重要だ。だが、食料の選択肢が豊富になった市場で、商業捕鯨が経営として成り立つのかも検証すべきだ。商業捕鯨になれば、これまでのような補助金頼みの事業継続は許されない。

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