漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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トブの大森林の手前に五人の人間が立っていた。
「モモンさんたち無事だと良いんですが・・」
そう言ったのはンフィーレアだった。
「大丈夫ですよ。モモンさんたちなら必ず帰ってきます。」
そう力強く答えたのはぺテルであった。
「そうだぜ。ンフィーレアさん。」
「二人の言う通りであーる。」
「だと良いんですが・・」
「そうですよ。あの二人なら大丈夫ですよ。王国戦士長に匹敵する程の実力者なんですから。」
「そう・・ですよね。」
(・・・モモンさんは僕たちを守る為に戦っているのに・・それに比べて何て小さいんだろう。)
ンフィーレアはそう思った。理由はモモンに依頼をした本当の理由がそこにあったからだ。
(僕は・・・)
モモンに対して後ろめたい気持ちがあった。
(モモンさんが帰ってきたら、依頼した本当の理由を打ち明けよう。)
そうンフィーレアは密かに決心した。
「あっ!モモンさん!無事!?」
ルクルットが真っ先にモモンたちを見つけてそう声を掛けていた。
「皆さん。無事ですか?」
モモンはそう答えた。
「!!?モモンさん・・・そのモンスターは?」
ぺテルがそう問うたのも無理はない。何故ならモモンはモンスターに乗った状態で現れたからだ。その横にはナーベが付き従う形で歩いていた。誰もが無傷だったのだ。
「無傷ですが・・・戦闘を避けられたんですか?」
「いえ、戦闘して勝ちました。えーと・・挨拶してくれるか?」
「それがし!『森の賢王』改めてハムスケでござる。」
そう言ってハムスケが自慢気に鼻息を鳴らす。
「『森の賢王』!!?モモンさんは『森の賢王』を従えたと言うんですか!!?」
「えぇ。中々可愛い目をしていると思いませんか?」
その言葉を聞いてナーベ以外は「敵わないなぁ」と思った。
モモンからすればかつてギルメン村で飼っていた犬と全く同じ感覚で言ったのだ。アンコが飼っていた犬と同じ名前を付けたのもそういうことだ。
「あの・・」
「どうしたんですか?ンフィーレアさん。」
「『森の賢王』・・いやハムスケさんがトブの大森林からいなくなることでカルネ村に影響は?」
(あぁ・・そうか、この少年はカルネ村を心配しているのか。エンリ=エモットのいるカルネ村を・・)
「どうなんだ?ハムスケ。」
「恐らく問題ないでござろう。それがしがいた時でも何故か森の中に不穏な空気が流れていたでござるし・・」
「そんな・・」
(大事な人を守りたいのだろうな・・・)
「皆さん、ここで話すのもアレですし一度カルネ村に戻って休憩しましょう。カルネ村の人たちにお礼を言いたいですし。」
「そうですね!そうしましょう。」
モモンの提案に一番食いついたのはンフィーレアであった。
「あの・・モモンさん。少しいいですか?」
「はい。」
モモンがハムスケから降りるとンフィーレアと二人でその場から少し距離を取る。
「どうしました?」
「えぇ。実は・・今回の依頼をした本当の理由は・・ポーションです。」
「ポーション?」
「酒場の一件でブリタさんに渡した赤いポーション。あれをブリタさんがうちの店に鑑定しにきまして・・それでモモンさんが赤いポーションを所有しているのを知って・・」
「もしかしてこれの作り方を知りたかったんですか?何でまた・・」
「えぇ。実はそうなんです。赤いポーションは市場にはありません。何故なら赤いポーションは完成されたポーションだからです。」
「?」
「伝説ではポーションは別名『神の血』と呼ばれています。真に完成されたポーションの色は赤いんです。ですが薬師がどれだけ頑張っても制作過程で青くなってしまいます。エ・ランテルで一番の薬師と呼ばれるおばあちゃんですらそうなってしまうんです。そしてその『神の血』のポーションを作るのが薬師全員の目標と言っても過言ではありません。だから今回依頼しました。」
そう言ってンフィーレアが背中を曲げてモモンに対して頭を下げる。
「そんな勝手な都合で依頼して申し訳ありませんでした。」
「それのどこが悪いんですか?」
「えっ?」
「それで誰かが傷ついた訳でもない。誰かが苦しんだ訳でもない。」
「・・モモンさんは懐が広いんですね。」
「違いますよ。・・・あなたがポーションの件で依頼したのは分かりました。でもカルネ村に来てからのあなたはこの村やエンリ=エモットのことばかり考えていた。そんな人が悪い人な訳がない。信用できる人だと思いました。それだけです。」
「・・・」
「エンリ=エモットと仲良くなれたら良いですね。」
そう言われてンフィーレアの顔が赤くなる。
(分かりやすい少年だ。)
それを見てモモンはある人物の言葉を思い出す。
『何かを守るには『未知』を知ることは必要不可欠だ。』
(・・・・彼の根底にあるもの。未知なる赤いポーションを作りたいと思うのはもしかしてエンリ=エモットを守りたいという気持ちから来てるのかもしれないな・・)
(彼らには結ばれて欲しいな。そして幸せになってほしい。)
死ぬ間際になってお互いの気持ちを告白しあって引き裂かれた二人みたいにはなってほしくない。
(最早癖になっているな・・・悪い癖かもしれない。)
「そろそろ戻りましょうか。ンフィーレアさん。」
二人は彼らの元へと歩き始めた。
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カルネ村に戻ると一同は『森の賢王』ことハムスケを連れて村長夫妻の元へ。その後ンフィーレアと『漆黒の剣』はエンリ=エモットの元へ行き、モモンとナーベは村長からある人物居場所を聞きそこへと向かった。
「・・・村長から私がここにいると聞いたのか?」
「えぇ。ゴウン殿。」
村を一望できる木が一本ポツリとある場所で三人と一体がいた。モモンとナーベとアインズ・ウール・ゴウン。それとハムスケだ。
「殿・・このお方は?」
「あぁ。彼はアインズ・ウール・ゴウン殿だ。少し前にこの村を救った方だよ。」
「ふむ・・殿と同じで圧倒的な強者の匂いがするでござるな。」
ハムスケがそう言うと何故かナーベにチョップを食らう。
「痛いでござる。」
「ハムスケ。あなたは少し黙ってなさい。」
ハムスケが頭を押さえて黙る。
「それで私に何か用かな?モモン。」
「えぇ。実はお願いがあって会いに来ました。」
「お願いだと?」
「えぇ。トブの大森林はご存知ですか?」
「あぁ・・あの森か。それがどうかしたのか?」
「えぇ。そこにいる『森の賢王』のハムスケが言うには森の中に不穏な空気が流れているらしいんですよ。そうだな?ハムスケ。」
「えぇ。間違いないでござるよ。殿。」
「ふむ・・それで私に何をして欲しいのだ?」
「トブの大森林の中にいるであろう脅威からカルネ村を守ってほしいんです。」
「それが頼みで間違いないか?」
「えぇ。お願いできますでしょうか?」
「いいだろう・・と言いたい所だが私にメリットが無いように思えるが?」
(当然の反応だ。今日会ったばかりの私の頼みを無条件で聞くメリットなどある訳がない。)
「これならどうでしょうか?」
そう言ってモモンは懐からそれを取り出した。
「・・・・」
モモンが取り出したのは赤いポーション。あの酒場の一件でブリタに渡したものと全く同じものだ。
「この赤いポーションをあなたに差し上げます。これでどうでしょうか?」
「・・分かった。引き受けよう。」
「ありがとうございます。それでは私はこれで・・」
モモンがナーベたちを連れて去ろうとした時だった。
「モモン!」
「どうしましたか?ゴウン殿。」
「私の知り合いからエ・ランテルで不審な人物を見かけたと連絡があった。帰ったら気を付けろ。」
「!っ・・ありがとうございます。」
そう言ってモモンは頭を下げて去っていった。
その後モモンたちは『漆黒の剣』とンフィーレアと合流し、エ・ランテルに帰還する。