わたしたちと音楽の関係性は、日々変化している。レコード/CDからApple MusicやSpotifyといったサブスクリプション制サーヴィスへとメディアが移行したことで音楽の聴き方は変わったし、ワイヤレススピーカーの普及によって生活における音楽のあり方も変わった。音楽を聴くことはより一層身近なものとなり、生活と音楽は溶け合いつつある。

こうして音楽と生活のかかわり方が変わりゆくなか、オーディオメーカーのBOSEが2018年に発売した「BOSE HOME SPEAKER 500」は「高音質」のスマートスピーカーだ。これまでスマートスピーカーといえば音声アシスタント機能だけが注目されていたが、同社の「BOSE HOME SPEAKER 500」はリスニング用スピーカーとしても高い品質を実現することで、スピーカーを次なるフェーズへとステップアップさせようとしている。

蓮沼執太|SHUTA HASUNUMA
1983年、東京都生まれ。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュースなどでの制作多数。近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、 サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会や プロジェクトを活発に行なっている。

わたしたちとスピーカーの関係が変われば、生活と音楽の関係も変わる。日々多様な音楽と向き合っている音楽家の人々に、こうした変化はどのように見えているのだろうか。音源のリリースやライヴだけでなく映像・演劇作品への音楽提供やギャラリーなどでの展示を行ない多彩な活動を続ける音楽家、蓮沼執太に「BOSE HOME SPEAKER 500」を使ってもらいながら、いま音楽を「聴く」こととどう向き合っているのか尋ねた。

環境の変化と音楽の変化

──BOSEの「BOSE HOME SPEAKER 500」は空間を包み込むようなサウンドを特徴とした、高音質のホームスピーカーです。本日事務所で使っていただいてみて、どんな感想を抱かれましたか?

音のバランスがとれているし、一つひとつの音の再現性も高い。大切な音域がきちんと届いている感じがしましたね。生活のなかで使われるものなので、ニュートラルな感じがするのもいいなと思いました。実はBOSEのBluetoothスピーカー(SoundLink Mini II)を家でも使っているんですが、家の中で結構置く場所を変えながら音楽を聴くことが多くて。だからHOME SPEAKER 500も自分の家にあったらばんばん置く場所を変えてみると思います。あとはスピーカーって音質ももちろん重要ですけど、デザインによって存在感が変わってしまうじゃないですか。これはデザインもいいし、部屋にも馴染みそうだなと。

──普段事務所にいらっしゃるときも音楽は聴かれていますか?

事務所だとMacbookのスピーカーで聴いてしまうことが多いですね。この全然ローが出ない内蔵スピーカーで(笑)。HOME SPEAKER 500は今日使ってみて色々な空間にスピーカーが慣れてそうな感じがして、この事務所でもいい音が出るなと思いました。低い音もきちんと届いている感じがしますし。普通スピーカーってガラスを嫌がるんですけど、いまこのガラス製のテーブルに乗せて聴いていても違和感がないですから。環境によらず均一に音が反響しているのかなと。

「BOSE HOME SPEAKER 500」のプロモーション映像。2018年10月に発売されたこのホームスピーカーは、「高音質」の「スマートスピーカー」という、これまでほとんど存在しなかった商品だったことで注目された。

──そもそも「BOSE HOME SPEAKER 500」のような「スマートスピーカー」にご興味はあったんでしょうか。

実は使ったことがないんですよね。いまは人口の減少をはじめとして社会のあり方も変わってきていますし、生活へのテクノロジーの入り方が変わりつつあるタイミングですから、試してみたいとは思ってます。ぼくはレコードもSpotifyも自分のスタイルに合わせて使っている人間なので、自分のライフスタイルと合えば使っていくんじゃないかなと。ニューヨークのことを思い出してみると、まだ使ってる人は向こうにもあまり多くないかもしれないですね(笑)。

──現段階だとスピーカー単体では機能も限られる部分がありますからね…今回、ご自身の曲もBOSE HOME SPEAKER 500で聴いていただきましたが、再現性などはいかがだったでしょうか。

BOSEの取材だから言うわけじゃないですけど(笑)、結構BOSEの音が好きなんですよ。いま聴いてみているのは10年くらい前にリリースしたアルバムなんですけど、ヴォーカルもクリアに聞こえますし、昔のアルバムがいい音で聴けるのは嬉しいですね。ぼく自身、時間が経っても新鮮に聞こえるよう常に心がけているんですが、レコーディングしかり、機材を更新していく必要があるじゃないですか。しかもSpotifyのようなサーヴィスを使っていると、昔の曲も新しい曲も一緒くたに流れてくる。それがHOME SPEAKER 500だとどれもいい音質でフラットに聴けるのはいいですね。

──今日蓮沼さんの事務所で初めて使っていただいているのでわからないことも多いと思うんですが、使ってみたいシチュエーションなど思い浮かびましたか?

映画とかいいかもしれないですね。ぼくは家で映画を観るとき音楽制作用のスピーカーを使ってたんですけど、こっちの方がいいかもしれない。部屋中に広がる感じがあるから。

「聴き方」はひとつではない

──「BOSE HOME SPEAKER 500」はホームスピーカーですが、蓮沼さんは作品の制作を含め自宅やスタジオなどさまざまな場所で音楽を聴かれる機会が多いと思います。普段はどんな機材を使われているんでしょうか。

いろいろな機材で聴いてますね。さっきも言ったとおりBOSEのBluetoothスピーカー(SoundLink Mini II)も持っているし、ノイズキャンセリングのイヤフォン(QuietComfort® 20)も使ってます(笑)。いわゆるオーディオセットもあるし、音楽制作用のスピーカーでも聴きます。音楽をつくっているときは自分の曲しか聴けませんが、ソフト・ハード問わずいろいろな環境で聴いている方だと思います。レコードでもテープでもスピーカーを切り替えられるようにしているので、気分によって変えてる感じですね。家で聴くような環境と制作の環境だと全然違ってくるので。

蓮沼執太フィル『アントロポセン』
2018年7月に発売された蓮沼執太フィルのセカンドアルバム。男女ヴォーカル、ラップ、ユーフォニアム、フリューゲルホルン、サックス、フルート、グロッケンシュピール、シンセサイザーなど個性豊かな16人のメンバーからつくられた大作。タイトルの「アントロポセン」は、地質年代における完新世の次となる新たな年代「人新世」を指す言葉。

──だから色々な環境で聴くようにされているんですね。

あとはいい段階までできあがってきたら、クルマに乗って爆音で流しながら走ることもありますね。もっとも、そういうふうにしながらつくってる人は多いと思いますけどね。

──なるほど。そういうときっていくつかの環境に最適化させていくようにつくっていくものなんでしょうか。聴く人によって音楽が流される環境も変わりますよね。

特定のシチュエーションだけを想定しているわけではないですね。そもそも同じ曲を聴いていても、聴く人が違えば絶対に変わって聞こえているものだと思いますから。HOME SPEAKER 500は壁の反射を利用することで場所を問わず音を響かせられますが、厳密に言えば人のいる位置で音楽も変わってくるでしょう。「同じ音楽」というのはないので、聴き方もひとつなわけではない。そういったなかでどこに落とし込んでいくかは考えるのは難しいですよね。自分も色々な環境で聴きますが、「聴く」という作業が「つくる」ことになっていく部分があるかもしれません。

──一方で、美術館やギャラリーでインスタレーション作品などをつくるときは空間が固定されてますよね。そうすると感覚も変わってくるものなんでしょうか。

展覧会だと確実に空間と時間の制約を受けますからね。とはいえ、レコードだってレコードという空間に音を入れていく作業だし、ライヴでもパフォーマンスでも特定の場所があってエンジニアと話しながら考えていくので、割とどれも似ているんですよね。展覧会の場合はわかりやすくスピーカーが置いてあるわけじゃないし、音だけでなく視覚のような五感で捉えるものになりますが、そのスペースに人がいることで作品がどう受け取られていくのか考えると変わってくるのかなと思います。

──人がいることで受け取られ方が変わっていく、と。蓮沼さんは楽曲をつくってライヴをするだけでなく、映像や演劇への音楽提供をされる機会も多いと思うのですが、音楽を聴く人のことはどれくらい意識しながらつくられていますか?

ひとつの曲のなかで
能動と受動は切り替わっている

そういうふうに変化していくのは面白いですよね。音楽に対して受動とか能動とか、「聴く」ってことが何なのかを考えられることはいいことだなと思うんです。だけどレコードやCD、カセットを知っている世代だったらサブスクリプションと比較して能動/受動となりますけど、いまの10代の子だったらYouTubeで次の曲が自動的に流れるのは当たり前だと感じていると思いますけどね。それにHOME SPEAKER 500のプリセット機能のようなものがあることでも受動と能動のバランスは変わっていくでしょうし、受動と言われるサブスクリプションも能動といえば能動といえる部分がある。それぞれ感覚が違うのが面白いなと思いますね。聴く方法だけで能動と受動が分かれているわけではないですから。

BOSE HOME SPEAKER 500のプリセット機能は、例えば「夜聞きたいJAZZ」などAmazon MusicやSpotify上の任意のプレイリストを1〜6のボタンに割り振れる。各サーヴィス上でプレイリストが変更されるとプリセットも自動的に更新されるため、スピーカーがあればいつでも最新の音楽を楽しめる。

──ひとつの曲のなかでも受動や能動は入れ替わっているということでしょうか。

たとえば「パンッ」と突然音がしたら、みんな気になって振り向くじゃないですか。展示のような場所だと、意識させない音、聞こえてないけど鳴っている音があって、そこから急に音楽を意識させるように音楽をつくることがあります。展示に限らず、フィル(蓮沼執太フィル)のアンサンブルでもそういうことはあります。ヴォーカルが真ん中にいると思いきやサックスやドラムのソロがいつの間にか始まっていて気づかない、というような。受動と能動が切り替わることで、より音楽のなかに入っていけるような仕組みになってますね。少し話はずれますが、お店のBGMとかラジオも受動的なものですし。

──同じ曲でもBGMだったら全然意識しないこともありますし、環境によっても変わるということですよね。いま蓮沼さんはニューヨーク在住だそうですが、ニューヨークと東京でも音楽の聴き方は変わりましたか?

生活スタイルが変わるので変わりますね。ニューヨークは渋谷とかと比べると街にBGMがないのも影響しているかもしれません。東京は大きくて移動に時間がかかるので音楽を聴きながら移動することが多いですが、ニューヨークだと逆にあまり聴いていない気がします。それに東京にはずっと住んでいたので街の音に飽きてますが、まだニューヨークは数年しか経っていないので、サブウェイのホームで演奏してる音とか、色々な変化を楽しんでいる感じです。旅行しているときに近いのかも。

蓮沼が2018年4月6日〜6月3日に銀座・資生堂ギャラリーで行なった展示『 ~ ing』の様子。

──たしかに、旅行先の環境音も含めて楽しむために音楽を聴かないようにしている人もいますね。

知り合いのダンサーなんかは、ホテルに戻ると必ずこの音楽をかけるって決めてる人もいるので、人によるとは思うんですけど(笑)。色々な聴き方があって、聴く場所を色々選べるのはいいですよね。そういう意味では、SoundLink Mini IIはBluetoothスピーカーなので外で音楽を聴けるようになったのが面白かったです。ぼく自身もたまに外で寝ながら聴いたりしますから。

テクノロジーは豊かな「聴く」を生み出せるか

──この10年で音楽を聴くための機材も音楽を聴く方法も大きく変わっていったわけですが、蓮沼さんご自身も活動を通じてこうした変化を肌で感じられてきたんじゃないかと思いました。

ぼくは活動を始めてから10年くらいなんですが、10年前はiTunesがやっとみんなに知られてきたくらいの時期でした。その時期と比べても変化は感じますよね。ぼく自身はレコードが好きなので買いますし、SpotifyやApple Musicも使います。ただBuetoothのスピーカーでレコードを聴くことはなくて、パッとインスタントに自分と音楽を接続したいときに使っていたり、自分なりの使い分けがある。なので制度やフォーマットはいくらでもあった方がいいなと思いますけどね。

インタヴューは蓮沼の事務所で収録された。「BOSE HOME SPEAKER 500」はサウンド・機能面が注目されがちだが、アルマイト加工のアルミボディには継ぎ目がなく、テーブルの上に置いておくだけで上品な気配を醸し出している。

──蓮沼さんが音楽を聴くときの感覚も変わってきているんでしょうか? 自分なりのルーティンとかあるんでしょうか。

昔はこういうときはこれを聴くみたいなことがありましたけど、最近はないですね。新譜をチェックするのが好きなので、一日のなかである程度決めて今日はこういう曲探して聴いてみようとすることはありますね。昔はレコード屋に行ってましたが、最近はApple MusicやSpotifyもそうですし、インターネットでお店に入荷したものなどを探すようにしていて。

──サブスクリプションの時代になったことでアクセスできる新譜も膨大な量になりましたし、SoundCloudのようなサーヴィスでも絶えず新しい音楽がリリースされていますが、新譜を追いかけるのは大変じゃないですか?

音楽を選んで聴くことは
「自由」だからこそできるもの

ただ知らなかっただけで昔も同じ量はあったと思うんですよ。ぼくが20歳くらいのころレコード屋さんでバイトしていたときも、毎日アメリカから12インチが入ってきていましたし。そういう意味ではほぼ一緒だと思いますね。その分、「俺の一枚」みたいなかたちで同じ音源をずっと聴くようなことはなくなっていくのかもしれませんけど。レコードのような録音芸術が生まれる前はみんな音楽を聴くときはコンサートへ行っていたわけで、その演奏は記録されないから一回しか聴けなかった。もし5年後に同じ演目があったらまた聴きに行こうと考えていたわけで、そういうものと似ている部分もあるのかもしれません。音楽の聴き方自体がテクノロジーとともに変わっていくと思いますし、ぼく自身は変化に対してすごく肯定的です。

──実はBOSEを設立したアマー・G・ボーズ教授も「LIFELIKE SOUND」という言葉を踏まえて、ライヴを再現する音を目指していたんですよね。ライヴに行ったあとの「また聴きたい」という感覚を再現しよう、と。これからテクノロジーが進化していくことで、新たな機材やサーヴィスも出てくると思うんですが、蓮沼さんはこれからの変化をどのように捉えられているでしょうか。

ライヴ再現の話は面白いですね。音楽を聴くことって割とリッチなことじゃないですか。生きていくうえで必要ではないけど、確実に人間にとっては必要なもので。音楽を選んで聴くことは「自由」だからこそできるものだと思うので、もっと自由になっていけばいいと思うんですよね。HOME SPEAKER 500が空間を使って音楽を鳴らすのもそうですが、「耳」だけで聴くとは考えないようになればいいなと思います。耳がふたつあるからふたつのスピーカーを考えがちですけど、音楽や音がふたつに分けられるわけじゃないので。そういった根源的な部分を忘れずにテクノロジーが進化してほしいなとは思いますね。それぞれの状況に応じてテクノロジーが豊かな環境をつくってくれるようになるとすごくいいですよね。

2018年8月18日に行なわれた蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』のダイジェスト映像。蓮沼執太フィルは2019年1月7日に恵比寿LIQUIDROOMで蓮沼執太フィル・ニューイヤーコンサート2019を行なう予定だ。

蓮沼が語るとおり、テクノロジーやメディアの変化によって「聴く」のあり方も大きく変わっている。注意すべきなのは、テクノロジーは単に新たな「聴き方」を提示するだけでなく、「聴く」という行為がわたしたちの想像以上に豊かなものであることを教えてくれるということだ。

HOME SPEAKER 500もまた、蓮沼が語る「豊かな環境」をつくりだしうるテクノロジーのひとつなのだろう。それはBOSEの優れた音響技術を生かすことで従来音楽を聴いていなかったような空間を「聴く」ための空間につくり変えるし、プリセットをはじめとするさまざまな機能によって音楽の聴き方を更新する。さらにはAmazon Alexaというアシスタント機能が今後アップデートされていくことで、スピーカーそのものも止まらず進化を続けていくはずだ。

革新的なスピーカーとは、単に音質のいいスピーカーでもなければ、さまざまな機能を有したスピーカーでもない。豊かな「聴く」を生み出すスピーカーこそが、革新的な存在なのだ。そのことをBOSE HOME SPEAKER 500は教えてくれる。

ボーズ合同会社

Wired

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