紅組はシャンソンの女王・越路吹雪。昭和40年代にレコード大賞の審査員を務めた音楽評論家・塩澤実信氏が言う。
「もちろん『愛の讃歌』でしょう。彼女はステージにあがるとガラッと雰囲気が変わる。宝塚出身で、歌えて踊れてスタイルも抜群。だから派手な衣装も様になる。彼女ならば紅白という舞台で美しく映えるでしょう」
対するは、フランク永井だ。昭和の名曲『有楽町で逢いましょう』を歌う。当時の若者はこの曲を聞いて、都会暮らしへの憧れを募らせた。
「'57年に大阪の百貨店・そごうが東京へ進出するときのキャンペーンソングとして使われ、大きなヒットとなりました。
タイトルは流行語となり、曲は半世紀以上も愛されて多くの人の耳に残っています。永井はジャズから歌謡曲の世界に入り、『魅惑の低音』で多くの人を魅了しました」(前出・塩澤氏)
『黒い花びら』で第1回レコード大賞を獲得した水原弘も外せない。'78年に42歳で早世した無頼派の天才歌手。代表曲に『君こそわが命』があるが、前出の亀渕氏や馬飼野氏は隠れた名曲『黄昏のビギン』で一致する。
「個人的に好きということもありますが、何より永六輔さんと中村八大さんコンビの曲だからです。日本を代表するヒットメーカーで、彼らの曲だと『上を向いて歩こう』ばかりが語られますが、ここでは水原さんに歌ってほしい」(亀渕氏)
これに続くのは、西田佐知子の『アカシアの雨がやむとき』。昭和のヒット曲に詳しいコラムニストの橋本テツヤ氏が言う。
「発売された当時は『日米安保闘争』の真っ只中。そうした暗い世相と西田の物憂げな歌声が重なり、人々の心を捉えました。愛のために死んでしまいたいという女性の切ない心情が伝わります」
ステージでは昭和のヒット曲の競演がまだまだ続く。三橋美智也vs.藤圭子という異色の対決が始まろうとしていた。前出の塩澤氏が解説する。
「三橋は、昭和30年代にヒットを連発し、絶頂期は『三橋で明けて三橋で暮れる』とまで言われたほど。美声で何を歌わせても巧い。『哀愁列車』や『古城』などの代表曲がたくさんありますが、ミリオンセラーの『リンゴ村から』を歌ってほしい。
対する藤圭子は対照的。演歌ではなく『怨歌』だと言われ、そのドスのきいた低い声は、衝撃をもって世の中に迎えいれられました。彼女は生き様も歌のようでしたよね。
『新宿の女』もいいですが、私は『圭子の夢は夜ひらく』を推す。歌詞に『私の人生暗かった』なんてあって、彼女の魅力が存分に出ています」
次も目が離せない実力派同士の好カード。ジュディ・オングvs.寺尾聰。ご存じのとおり、二人は元恋人同士でもある。
前出の酒井氏が語る。
「ジュディが、エーゲ海の澄んだ海と壮大さをイメージさせる『魅せられて』を歌い上げれば、誰もが心を動かされるのではないでしょうか。
サビで両手を広げたときに映える羽のような衣装もあいまって、この曲は人々の心をさらに音楽の魅力に浸らせてくれます」
この衣装と美声に対抗できるのは、寺尾の渋い歌声しかない。
ここで会場が静まり返る。今回が初出場となる鶴田浩二がどんなステージを見せるのか、固唾を呑んで見守っているのだ。すると、期待どおりの着流し姿で登場。『傷だらけの人生』を歌う。
任侠に生きる男が荒んだ世間を嘆き、筋を通す歌詞に映画ファンは涙する。あの右手にハンカチを添えてマイクを持ち、左手を耳にあてながら歌う、独特のスタイルも健在だった。