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「外国人受け入れ拡大『共生』への道」(時論公論)

飯野 奈津子  解説委員

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コンビニで買い物をしたり、外で食事をしたりすると、働く外国人の姿を目にすることが多くなりました。人手不足が深刻になる中で、外国人の支えなしには、私たちの生活が成り立たなくなっていることを実感します。そうした現実を正面から受け止めて、外国人労働者の受け入れを来年4月から拡大することを目指して、具体策の検討が始まりました。日本に来る外国人、そして迎え入れる私たち双方にとって、メリットを感じられる関係をどう作ればいいのでしょうか。
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<解説のポイント> 今晩の解説のポイントです。
▼今回の受け入れ拡大策とその課題
▼外国人への生活支援をどう充実させるか
▼先進的な自治体の取り組みから「共生」について考えます。
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<今後の検討の柱は二つ>
先週開かれた関係閣僚会議で安倍総理は、来年4月からの外国人受け入れ拡大を目指して、準備を進めるよう指示しました。その柱は大きく二つあります。
ひとつは、新たに設ける在留資格の制度設計。もうひとつが地域で暮らす外国人への生活支援の充実です。
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<受け入れ拡大策>
まず政府がどう受け入れを拡大しようとしているのか簡単にみておきます。
これまで政府が就労目的の在留を認めてきたのは、医師や研究者など、専門的技術的分野の人たちだけです。日本で働く外国人の2割弱にすぎません。単純労働の分野で働いているのは、就労目的以外で在留する、留学生によるアルバイトや働きながら技能を学ぶ国際貢献を目的にした技能実習生。定住が認められている日系人たちです。
今回の受け入れ拡大策は、表玄関の門戸を広げようというものです。人手不足が深刻な業種に限定して、高度な専門性がなくても就労を認める新たな在留資格を設けます。条件は一定の能力を有すること。技能や日本語能力を問う試験に合格した人か、最長5年の技能実習を終えた人が対象です。新たな資格での滞在は最長5年。家族を連れてくることは認めていません。ただし、滞在中に高い専門性が認められれば、専門的・技術的分野の資格に移れる仕組みも検討するとしています。そうなれば、家族を連れてきて期間の定めなく日本で暮らすことができるようになります。
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<受け入れ拡大策の課題>
この方針を受けて、政府が今後検討するとしている柱の一つが、新たな在留資格の制度設計です。対象となる人材不足が深刻な受け入れ業種をどこにするのか。能力を測る試験でどんなレベルを求めるのかといったことです。
新たな在留資格は、単純労働の分野で働く人を正面から受け入れる現実に即した対応で、その中身を検討することは必要です。しかし気がかりなのは技能実習生です。最長5年の技能実習を終えた人が新たな在留資格で引き続き働くとなると、最大10年もの間、家族と離れての単身生活を強いられることになります。母国に帰って技能を役立ててもらうという制度本来の趣旨ともかけ離れます。しかも、新たな在留資格ができても、違法な長時間労働や賃金の不払いなどが相次ぐ技能実習制度は温存されたままです。受け入れを拡大するこの機会に、技能実習制度の在り方も含めた外国人の受け入れ戦略を根本から考える必要があるのではないでしょうか。
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<生活支援策>
そしてもうひとつの柱が地域で暮らす外国人の生活支援の充実です。
まず、今回政府が、受け入れの入り口の制度とともに、生活支援もあわせて考える姿勢をみせたことは評価したいと思います。安心して生活を営める環境がなければ、職場への定着は難しいですし、地域から孤立して住民との摩擦が生まれれば、社会不安につながる恐れがあると考えるからです。問題はその中身です。

関係閣僚会議で示された、支援策の検討項目には◎日本語教育の充実◎外国語による行政・生活情報の提供や相談窓口の設置◎外国人を受け入れる医療機関の整備など幅広い分野の項目があがっています。それぞれにさらに詳しい方向が示されていて、たとえば、日本語教育の充実では、教室の設置を支援することや日本語を教える人材を養成するといった内容が盛り込まれています。そして、法務省に関係省庁などとの総合調整を行う権限をもたせ、年内に総合的な対策をとりまとめるとしています。
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<支援策の評価>
さてどうでしょう。今回示された支援策の項目は、これまで国が行ってきた支援に比べ、メニューがきめ細かくなっていますし、総合調整役をはっきりさせたことも前進だと思います。しかしいくら立派な支援策をまとめても、それが外国人に届かなければ意味がありません。支援を確実に届けるためには、他の先進国のように、法律で国と自治体の責任を明確にして、財源を確保することが必要ではないでしょうか。これまでも財源が十分確保できずに、縮小、廃止した支援がありましたし、実施するかどうかは自治体次第なので、取り組みに地域格差が生まれているからです。どこに住んでいても、安心して地域で働けて生活を営める環境を整えることが、受け入れを決めた国の責任だと思います。
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<共生への道>
さて、政府は今回の受け入れ拡大を、労働力不足を補うためとしていて、単身での一時的な滞在を原則としています。しかし、人口減少が進むこれからを考えると、家族も一緒に長く暮らしてもらうことも検討が必要ではないかといった意見が出ています。互いの違いを認め合って共に生きていく「共生」への道です。
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<先進自治体にみる共生>
実は、日本にはすでに合法的に定住する日系人を中心とする外国人が数多く暮らしています。そうした人たちが受け入れてきた自治体では、外国人が支援の受け手という立場を超えて、地域に貢献する存在になってきています。
そのうちのひとつ、ものづくり産業が盛んな浜松市です。全住民の3%にあたる23000人あまりの外国人が暮らしています
浜松で外国人が急増したのは、1980年代後半から。背景にはバブル期の人手不足で国が日系人の定住を認めたことがあります。1990年年代になると、家族を呼び寄せたりして定住化がすすみ、ゴミ出しや騒音トラブル、子供の教育など生活全般に関わる問題が噴出します。その中で、日本語教室や相談窓口を設けるなど草の根的な生活支援の取り組みが広がりました。
2000年代になって、行政による生活支援が本格化します。日本語の会話や読み書きを無料で教える教室や6カ国語で対応する生活相談や生活者向け情報サイト、学校に行かない子供をなくす不就学ゼロ作戦など。国の動きを先取りした対応です。同時に、住民ボランティアの育成にも力を注ぎ、延べ2000人を超えるボランティアが取り組みを支えています。
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浜松市が目指しているのは、外国人に支援の受け手から担い手になってもらうこと。最近は、地域にとって欠かせない存在になってきています。
災害時に備えた避難所運営訓練には外国人も参加して、万一のときの大きな支えになっています。高齢化が進む自治会で役員として活動の中核を担う人もいて、地域の祭りを盛り上げます。第2世代の若者も動き始めています。大学生高校に出向いて経験を語ったり相談に乗ったりする出前授業を始めています。
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<まとめ>
浜松の取り組みから見えてくるのは、共生の実現を目指すには、言葉や文化の壁を抱える外国人への手厚い支援と、住民の理解と協力が欠かせないということです。
人口減少が進む日本で、外国人をどう迎え入れるのか。
人手不足を補うための労働力としてだけなのか。それとも地域を共に支える共生への道を選ぶのか。私たちの生活にも大きく関わる問題ですから、社会全体でこの問題に向き合い、議論を重ねることが必要なのだと思います。

(飯野 奈津子 解説委員)


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