「日本の転換点 ~外国人就労拡大」(時論公論)
2018年12月07日 (金)
竹田 忠 解説委員
堀家 春野 解説委員
竹田)国会では、日本の将来を大きく左右する法案をめぐって、
今まさに(23時40分)、与野党の攻防がヤマ場を迎えています。
法案はあす(8日)未明にも成立する見通しで、
そうなれば、外国人労働者を大幅に増やす新たな制度が
来年4月から施行されることになります。
しかし、実は多くの論点が、議論が深まらないまま、残っています。
この問題を共に取材している堀家春野解説委員とお伝えします。
[ 深まらない論点 ]
まず、今回の法案、一言でいいますと、
人手不足で困っている職種に限定して、外国人労働者を増やす。
そのために、新たな在留資格を作る。
それが、この特定技能1号と、特定技能2号という資格です。
この二つ、どちらも一定の経験や技能が必要ですが、
特に2号は、1号よりも、高い能力が必要とされます。
在留期間も、1号は最長5年間ですが、
2号は更新することか可能で、事実上、
永住への道を開くことになる、とみられています。
では、どういう仕事が、この新たな制度の対象になるのか
政府は、介護や建設、農業など、14の業種を検討しているといいますが、
実際に、どういう業種が対象になるのか?
それは、法律には書かず、法案成立後に省令で決める、としています。
また、どれだけの人が入ってくるのか?
政府は、5年間で最大およそ34万5000人という見込みの数を出しています。
しかし、これは、あくまで各省庁が出してきた数字を積み上げたいわば素案であって、
実際に政府として事実上の「上限」をいくらにするのか?
これも法案成立後に決める、と答えています。
このように、肝心な点の多くが、法案成立後に省令で定める、
つまり、国会の審議を経ずに、後で役所の判断で決められる、
という形になっているために、
国会で質疑をしても、なかなか議論がかみあわない、
という状況になっているわけです。
堀家)生活や教育環境の整備など、総合的な受け入れ対策も必要です。
政府は今月中に対策をまとめるとしているため、
国会では詳しい議論が行われていません。
さらに、政府は法務省の入国管理局を格上げして
新たに出入国在留管理庁を設けて支援策も行う方針です。
ところが入国管理局の関係者からは
「これまで外国人の取締りしかしてこなかったのに
支援を行うことができるのか」といった不安の声も聞かれます。
そして、雇用環境の改善を行う厚生労働省や
教育を担当する文部科学省など
役所の縦割りを超え連携できるのかということも課題です。
[ 技能実習制度の改善は? ]
竹田)このように新たな制度や組織をめぐって
多くの論点が深まらない中、
そのかわり、国会質疑で、大きな焦点となったのは、
すでに、導入されている、日本で技能を学び母国に持ち帰る、
技能実習制度をめぐる問題でした。
堀家)新たに作る予定の特定技能1号も
この技能実習の経験が3年以上あれば、無試験で移行することが可能です。
また1号のおよそ半数程度は、技能実習生から移行する人が占めると
見込まれています。
つまり、技能実習制度は、新たな制度を下から支える、
特定技能 ゼロ号 とでもいうべき、位置関係にあります。
竹田)それだけ密接な関係にある技能実習制度が、
実は大きな問題を抱えていることが国会質疑の中で、
次々と明らかにされました。
つい、きのうも国会で深刻な問題が指摘されましたね?
堀家)去年までの3年間に69人の技能実習生が
死亡していたことがわかりました。
法務省は「プライバシーに関わる問題だ」などとして
詳細を明らかにしていません。
技能実習生をめぐってはこれまでも「低賃金」や「人権侵害」の問題が
繰り返し指摘されてきました。日本で働く外国人およそ128万人のうち、
技能実習生は全体の20%にあたるおよそ26万人に上っています。
実習生を受け入れている事業者のおよそ70%で
長時間労働や残業代の未払いなど法令違反が確認されています。
先月、支援団体に寄せられたあるケースを取材しました。
岐阜県の縫製工場で働くミャンマー人の女性3人です。
午前7時から午後10時までスカートやジャケットを
ミシンで縫う仕事をして、受け取るのは月に10万円から13万円程。
時給に換算すると最低賃金以下です。
残業は月に100時間以上に上っていて、過労死ラインを超えています。
【VTR】
こちらは、実習生が撮影した部屋の様子です。
1部屋に5人が暮らし、自由になるスペースは2段ベッドだけ。
ねずみに足をかじられることもあるといいます。
実習生は、「こんなに働いても少ない給料でショックです。
人間らしい生活がしたいです」と話していました。
実習生たちは1年以上日本で暮らしていても、
ほとんど日本語が話せませんでした。
仕事をするだけで、地域の日本人と接することもないというのです。
竹田)問題は、なぜ実習生たちはそんな劣悪な環境でも
我慢しなければならないのか?という点ですが?
堀家)そこには、2つの理由があります。
ひとつは、実習生が借金をして日本にやってきていることです。
実習生の多くは、母国の送出し機関に保証金などの名目で
多額の現金を支払っているケースが少なくありません。
日本の監理団体を通じてそれぞれの企業に入る際には、
すでに多額の借金を背負っているのです。
実際、先ほどの、取材した3人も、60万円から90万円の借金をして
日本に来たと話していました。
そして、もう一つの理由は、職場を移動する自由がないことです。
技能実習制度はあくまでも技能を習得するのが目的だとして、
労働者であれば当然、認められる転職の自由がないのです。
こうした状況に耐えかねて失踪する実習生も後を絶たず、
去年1年間で7000人余りに上っています。
法務省はこうした問題を受け、制度が適正に運用されるよう対策を
検討するとしていますが、そもそも技能実習制度を
存続させるのかどうかも含め検討することが必要だと思います。
竹田)技能実習では「転職の自由」は、認められていませんが
新たな制度では、一定の範囲で認められています。
労働者としては当然の権利です。
ところが、地方の企業や経済界の一部からは、
今、この自由をある程度制限してほしいという要望があがっています。
転職が可能になれば、
外国人労働者は、より賃金の高い都会へ流れてしまうに違いない。
地方の人手不足は、むしろ悪化してしまう、という懸念です。
これは、できるだけ日本人と同じ立場で働いてもらおうという制度の趣旨と
矛盾する要望です。
こうした法案の根幹にかかわるような話しは、
本来、国会でもっと時間をかけて議論しておくべきです。
法案が成立すれば、制度は来年4月にスタートします。
しかし、大島衆院議長は法律の施行前に
政府が作る省令や政令を含めて、
全体像を国会に報告するよう求める異例の裁定を行いました。
堀家)政府は、これを重く受け止めて、今後は制度の詳細について
できるだけオープンに議論すべきだと思います。
(竹田 忠 解説委員 / 堀家 春野 解説委員)