堕天使のちょこっとした冒険 作:コトリュウ
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意味はありません。
なんとなくです。
というわけで、ツアーがんばれ!
遠い昔の戦いを思い出す。
相手は信じられないような化け物だった。
そう――今、漆黒聖典と戦っているあの者達と同じ。我ら
その名は八欲王。
「やはり邪悪な存在のようだね。あのヴァンパイア共々、此処で滅ぼさないと世界を壊されてしまうよ。漆黒聖典もついでに全滅してもらうとしようか。悪いけど、ね」
カルネ村から少し離れた森の外縁で、白銀に輝く
この者の名は“白銀”
二百年前に世界を救った十三英雄の一人、――として現世を生きる、数少ない本物の英傑であった。
「でもあの六人……
不安を幾ら呟いても、慰めてくれる相手はいない。
白銀は覚悟を決めて一歩を踏み出す。今からその身丸ごと、戦場となっているトブの大森林へ突っ込み自爆するつもりなのだ。
我が身を基点とした
アインズ側からすると自爆テロにしか見えないだろうが、白銀にとっては全く命の危険は無い――生命力は大幅に失うが――行為である。
それなりのカラクリがある、ということなのだろう。
「さて――あっ、れ?」
「おや? 気付かれてしまいましたか。中々の探知能力ですね。此方は高位のアイテムを使用していたというのに……」
白銀が顔を向ける先には、南方で着用されているというスーツに身を包んだ仮面の男が立っていた。
口調は丁寧で敵意は見えない。しかし人に有らざる尻尾の存在が警鐘を鳴らす。加えてかなりの接近を許してしまった。
周囲の気配を探知する術に長けていると自負するが故に、白銀としては剣を抜くしかない。たとえアイテムを使われていたとしても、仮面の男が強者であることは疑いようがない事実であろうから。
「そんなに警戒しないで頂きたい。私は話をしに来ただけなのです。おっと失礼、私の名はヤルダバオト。お見知りおきを」
「その名は聞いたことがあるね。王都で暴れた悪魔の名だ。あれは……君がやったのかい?」
警戒の度合いが跳ね上がる。
白銀の思考には、王都の住人を数万人攫っていったという魔王の情報が巡っていた。その時は『漆黒の英雄』なる剣士に撃退されたと聞くが、実力は『蒼の薔薇』を遥かに凌ぐ難度二百超えの化け物らしい。
白銀としては、この場で討ち果たしておきたい相手ではあるが……。
「王都へはアイテムの回収に赴いただけです。邪魔されたので別のモノを頂いた訳ですが、何か問題でもありましたかねぇ。……それで、貴方の御名前を伺っても?」
「白銀――と呼ばれているね。どうぞ宜しく、と言いたいところだけど私に何か用かな? 今ちょっと忙しいんだけど」
白銀は穏やかな口調ながらも、剣先をヤルダバオトへ突きつけ牽制する。
今はヤルダバオトよりも、トブの大森林に集まっている
世界の歯車を狂わしかねない強者が一箇所に六人も集まっているのだ。ついでに漆黒聖典も。
こんな好機はそうないだろう。
多少の危険を冒してでも強引に突っ込むべきなのだ。
「簡単に言いますと、貴方を誘いに来たのですよ。私の仲間に、ね」
「は、はぁ? 何を言っているんだい?」
「私は聖王国を拠点にしているのですが、近日スレイン法国と戦争になりそうでしてね。手勢を集めているのですよ。あの国には結構な強者がいるみたいですし……。あぁそうそう、今森の中で戦闘を行っている
嘘か真か? 白銀には読み取れなかった。やはりある程度の実力者が相手では、本体での接触が必要なのだろう。人形のままではどうにもならない。
「断る、と言ったらどうするつもりなのかな? それにあの
「ほう、それは困りますね」
ヤルダバオトからは明確な怒りが噴き出していた。
仲間への誘いを断ったからか? 勧誘候補者を消すと言ったからか? 白銀の感覚では、後者の方に殺意が向いているように思えてならない。
「仕方ないなぁ。可能かどうかは分からないけど君から消すことにするよ。でもちょっと聞くけどさ、君って『ぷれいやー』じゃないよね?」
「プレイヤーですか? ふむ、貴方に余計な情報を与えても私にメリットはなさそうですし、無回答とさせて頂きましょう」
「ふ~ん、『ぷれいやー』のことを知ってはいるみたいだけど……えっ?」
ヤルダバオトとの会話を終わらせ、即座に斬り殺そうと腰を落とす白銀であったが、周囲に佇む異様な気配に動くことができない。
いつの間に其処にいたのか? 発見できない筈はないのに!
白銀は小さく笑うヤルダバオトへ殺気を向ける。
「(ふふ、アインズ様の仰る通り、会話による誘導は極めて効果的ですね。しかもこの者は隠密系アイテムの効果を軽くみているようです。私が見つかったのは、私自身でアイテム効果を低減させたからだというのに……。ワザと見つかって会話を進め、その間にアイテムで姿を隠した部下を有利な場所へ配置する。やはりアインズ様は恐ろしくも素晴らしい御方だ)――では紹介いたしましょう、私の親衛隊『三魔将』で御座います」
ヤルダバオトの手振りに呼応し、白銀を取り囲む周囲三方にその悪魔達は姿を現した。
黒い蝙蝠の翼とこめかみの辺りから伸びる二本の角を備えた細マッチョの美男子『
カラス頭で男を惑わせる肉欲満載の女体を晒す『
蛇のように長い尻尾と燃え上がる翼を持つ剛腕のモンスター『
悪魔達は既に万全の戦闘態勢を整えており、交渉の余地はない。
「こ、こんな超級悪魔を三体も?! ヤルダバオト! 君はいったい?!」
「さぁ、手足をもぎ取りなさい!」
「「「はっ!!」」」
一体でも自身を滅ぼせるであろう悪魔が三体。白銀は即座に敗北を自覚するも、ヤルダバオトへ一矢報いるべきか――と頭を悩ませる。
鎧人形ごと
白銀は――無い下唇を噛むような想いで剣を握り、魔将の頭部へ振り下ろそうとしていた。
「ふむ、何か切り札を持っているような振る舞いでしたが、今回は使用を断念した……というところでしょうか?」
少し退屈そうなヤルダバオトは、片手を失い兜の半分を爪で抉られてしまった白銀を眺め軽く呟く。
どうやら白銀の戦いは終わりを迎えるようだ。
三魔将の連携を前に手も足も出ず防戦一方。だが一対一でも勝てない相手ばかりなのだから当然の結果なのであろう。そんな相手がチームの訓練成果を発揮せん、と言わんばかりに張り切っているのだから手に負える訳がない。
白銀の
十三英雄と称えられし白銀――その正体は、中身の無い動く鎧人形であったようだ。
それにしては、ヤルダバオトに驚くような素振りは見られないが……。
「な~んだ、驚かせてやろうと思っていたのに……。その調子だと全部分かっていて仕掛けてきたのかい?」
「生命及びアンデッドの反応が皆無でしたから、ゴーレムの
「ふん、教えてもらえる――とでも?」
ヤルダバオトへの最後の抵抗、とでもいうのか? 白銀は己の胸部分を強く叩くと、短い捨て台詞と共にその場へ崩れ落ちた。
先程までも強き気配は微塵もない。ただの――値打ち物の素材ではあろうが――破損した鎧のようだ。
「おやおや、何もせずに撤退するとは……。此方へ余計な情報を与えたくない、と言ったところでしょうか? それなりの知能は持っているようですねぇ、興味深い」
満足げなヤルダバオトは、部下の三魔将に残骸回収と現場の戦闘痕跡隠ぺいを命じると、
口調からすると報告を行っているのだろうか?
魔王たるヤルダバオトが命令ではなく報告とは――、この場に白銀がいれば強烈な違和感を口にしていただろうが、いないのだから知りようがないし事実なのだからどうしようもない。
「はっ、では直ぐに第六階層へと戻ります」
トブの大森林近く、未だ派手な戦闘跡が地面に刻まれている平原に於いて、ヤルダバオトの美声が響く。
無論、彼が帰る先は聖王国ではない。
鎧ってどの程度の価値があるのだろう?
魔法で作ったのか?
既製品に魔法をかけたのか?
モモンの鎧と同じ原理だとすると、回収できないかな?
ん~、洞窟内で転がっていたから魔法生成ではないとしましょう。
うん、そうしよう!