堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ
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処刑とは変身野郎に限ったことではない。
ナザリックの大事な子供を傷つけた、世界級アイテム所持者に対してもだ。

準備は万端!
ナザリック無双!
シャルティア無双!
アインズ様の前に立つ者は全て死すべし!

なお、死は『慈悲』であるのだから感謝するように……。



処刑-5

 漆黒聖典の隊長はカルネ村への温和な接触を計るため、女性を交えた数名での訪問を行おうと考えていた。故に村近くの森中へ顔の怖い隊員らを残し、いざエンリ・エモットの下へ――というところで隊長は耳にしてしまう。

 

『ループースーレーギーナー!! どーこー?!』

 

「なっ、何だ今のは? “占星千里(せんせいせんり)”!」

 

「わ、わかりませぇん。いきなり現れましたぁ。村の中央にぃ……、黒羽の生えた若い女の姿が視えますぅ」

 

 大気を震わせるような大声に、隊長は思わず槍を握りしめていた。と同時に、探知能力に特化した隊員の眼を掻い潜り、カルネ村へ入ってきた何者かの存在に驚く。

 しかも相手は羽を持った雌の亜人らしい。

 そんなバードマンごときに“占星千里(せんせいせんり)”の眼を欺ける能力があるとは到底思えない。先程村の周囲を念入りに偵察してきたのだから、何処かに隠れていたとも考え難い。

 隊長としては、動くに動けなくなってしまった。

 

「誰かを探しているのか? 村の関係者か? “占星千里(せんせいせんり)”、相手の難度は探れるか?」

 

「……あ、あのっ、隊長ぉ。信じたくないことだけどぉ、あの時と同じぃ――難度ゼロ」

 

「なんだとっ?! まさか? 『見えぬ者』がカルネ村に? エモットの仲間なのか? だとするとゴウンとも協力関係にある? ……いや、結論付けるには早いか」

 

 隊長は森の中で身を潜め、本国からの指令を思い起こす。

 主眼となるのはエモットとの対話であり、辺境の村には過分とも言える慰謝料を支払うことだ。戦闘などは端から予定に入っていない。

 スレイン法国最強の漆黒聖典が何を言っているのか――とガゼフなら文句を口にしそうだが、対話する前に消されては意味がないのだ。

 陽光聖典の二の舞など御免である。

 

「“一人師団”、周囲の警戒を密に。他の者は戦闘態勢のまま待機だ。しばらく様子を見る」

 

 隊長の指示を受け、漆黒聖典の隊員達は武器を手に全方位警戒の円陣を組み始めた。

 中央には肩まで伸びるサラサラ茶髪のチャイナドレスを着込んだ若い女性と、大きな帽子を目深に被った“占星千里(せんせいせんり)”が座する。

 円陣の外には、森の木々に隠れるかのようにギガントバジリスクが三体。上空にも真紅のフクロウが数体舞っており、周囲の監視網は万全のようだ。

 

「……喚き声は聞こえなくなりましたね。どうです? 何か変化はありますか?」

 

「す、凄い女が出てきたよぉ。赤い髪でぇ……信じられないほどの美人。でも、でもぉ……隊長でないと手に負えないほどの化け物」

 

「エンリ・エモットですね。やはり普通の人間ではないということですか。しかし聞いていた情報では、確か髪の色は栗毛色のはず……。まさかこの村には他にも強者がいると? むぅ、村の周囲だけでなく中の調査もしておくべきでしたか……いや、気取られる可能性が……」

 

 怯えた声で報告してくる“占星千里(せんせいせんり)”の様子に、隊長は緊張を隠せないまま答えてしまう。このような場合は余裕を持って対応し、部下に安心感を与えるのが上司としての務めなのだろうが、今はとても無理だ。

 隊長は嫌な予感しか持てないのだから――。

 

「さて、どうしたものでしょう。不確定要素が多過ぎて手の出しようがありません。一度退いて、日を改めるべきかもしれませんね」

 

 森の茂みで身を隠しながら、隊長と漆黒聖典の隊員達は時間の経過をひたすら待つ。

 即時対処の戦闘警戒――それを維持し続けるというのは酷く疲れるものであろうが、流石は特殊部隊最強を誇る漆黒聖典である。

 チャイナドレスの女性だけは少し落ち着きが足りないものの、隊員達が放つ静かで澱みない緊張感は、隊長としても頼もしく見えていた。

 

「……ん? 村の方で何か――」

「ひぃ! そんなっ、そんなぁ! あああぁぁ、もう駄目。終わりだよぉぉ!」

 

 首筋がチリチリする違和感に、隊長は村の方角へ視線を向けるも、背後から飛び出てきた悲鳴に事態の急変を悟る。

 大きな帽子を転がり落とし、頭を抱えて蹲る女性――“占星千里(せんせいせんり)”は、誰が見ても異常なほど怯えていたのだ。

 そんな馬鹿な――と漆黒聖典の隊員は思っただろう。もちろん隊長も、である。

 なぜなら彼女はスレイン法国の切り札、“絶死絶命”を知っているからだ。人類の最後の希望とも言える彼女の存在を見知っている者が、地べたに額を擦り付け「だから来たくなかったのにぃぃ」と恨み言をひねり出すだろうか? いや、神の秘宝を身に付けた“絶死絶命”の戦闘力を知っているのなら、尚更恐れることはない筈だ。

 竜王(ドラゴンロード)とも一騎打ち可能な戦力を知っていて、それでも怯え戸惑い地にひれ伏すなんて……。

 何かの冗談であってほしいと、隊長は少しだけ神に祈った。

 

「“占星千里(せんせいせんり)”、頭を上げなさい。先ずは報告を――」

「無理だってぇ、みんな死んじゃうよぉ! もう嫌ぁ、視たくないぃ!」

 

 妙齢の女性が赤子のように駄々をこねる様は見苦しい事この上ないが、漆黒聖典として活動してきた彼女の経歴を知る者としては、自分達の死を予感せずにはいられない。

 隊長は決断するしかなかった、即時撤退を。

 無論、間に合わないが――。

 

「隊長! 魔獣達がっ!」

 

 “一人師団”の言葉をそれ以上聞くまでもなく、隊長は理解した。

 矢に貫かれて落ちてくるクリムゾンオウル。蔦のような植物に巻き千切られて、幾つかの肉片に分離してしまったギガントバジリスク。

 そして隊長の、漆黒聖典の前に降り立つ真紅の鎧を着込んだ――忘れるはずのない美しき少女。

 

「馬鹿なっ! 討伐されたのではないのか?!」

 

「その反応……間違いないでありんすね。私を……この私を洗脳しぃぃ、アインズ様と戦わせたぁぁ、ゴミ屑どもぉぉおおおお!!」

 

 みすぼらしい槍を持つ一際強い人間の声を耳にして、シャルティアはド級の怒りと共に全力戦闘態勢へと入った。

 油断も隙も驕りもないナザリック最強の個体が、神器級(ゴッズ)武器スポイトランスを構える。それは正に異世界に於いて無敵の存在と言えるだろう。

 通常なればその強さが災いして足元を掬われるなり、怒りに我を忘れて『血の狂乱』を発動させるなりして、良い結果を得られなかったはずだ。

 しかし今は違う。

 シャルティアは『血の狂乱』を抑えながら全力を出すことは困難と判断し、恥を忍んでアウラへ助力を求めたのだ。失敗を経験しなければありえない行為であろう。

 そして試行錯誤の末、アウラの吐息が持つアンデッドにも有効な状態異常を複数ブレンドして、『血の狂乱』の発動阻害を成功させたのだ。

 これによりシャルティアは、アウラの特殊な吐息に包まれている間ならば、どんなに激高しようとも血を浴びようとも我を忘れることはない。

 つまり名実ともに最強となったのである。

 

「この時を待っていたぁあああ!! 愚かな私の罪を私自身で叩き潰せる! この機会を!!」

「カイレ、使え!」

 

 隊長の脳裏を駆け巡ったのは――ヴァンパイアと遭遇し、神の秘宝を使用した瞬間――隊員諸共カイレ様を撃ち抜かれたあの時のことだ。

 故に今度は隊長自身で壁を作り万全を期す。

 敵のヴァンパイアに傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)が有効なのは実証済みなのだから、隊長としても勝機は十分にあると判断していた……のだが。

 

「――んぎぃ、けはっ!」

「な、なにぃ? 何処から射られた?!」

「分からん! 全く見えん!」

「そんな、これだけ近くにいて分からないだとっ?!」

 

 若きカイレの頭に突き刺さる三本の矢。脳髄を完璧に貫いているので、カイレの即死は間違いないだろう。

 直ぐ傍にいた“巨盾万壁(きょじゅんばんへき)”と“人間最強”、そして“天上天下”からは悲鳴とも思える驚愕の声が轟くものの、その声に隊長が応えることはない。

 動き出したシャルティアを止めるには相応の実力が必要なのだ。

 現時点で僅かな可能性を持っているのは漆黒聖典隊長ただ一人。とはいえ、シャルティアがたった一人に拘ることはない。

 獲物は他に十一人も残っているのだ。

 片手間で隊長の相手をしながら、次々と屍を積み上げることなど造作もない。

 たとえ時間の流れを操作されようが、縛鎖を放ってこようが、ゴーレムを繰り出してくると同時に神聖属性の魔法で場を満たそうとも、第五位階の魔力系魔法を撃ち込んできたとしても――美しきヴァンパイアの手が獲物を逃すことはないだろう。

 さらに、森の奥へ走り出そうとしても蔦が絡みついてくるので逃走不可能だ。転移(テレポート)の魔法すら効果を発揮しない。

 

「なんなんだ!? 貴様はいったい? 我々をどうしようというのだ!」

 

 呼吸を忘れるほどの猛烈な突きを百撃浴びせても、ヴァンパイアの纏う紅き鎧を貫けない。それでも鎧の隙間を縫って傷を負わせた――そう隊長は手応えを感じていたはずなのに、目の前で“時間乱流”を串刺しにしているヴァンパイアは美しい顔を晒している。

 傷は何所にも見えないし負傷している気配もない。

 ヴァンパイアの高速治癒なら何度か目撃したことはあるが、これ程驚異的な能力だっただろうか――と隊長の心は折れかけていた。

 

「あはははは、他愛ないでありんすねぇ。もうおんしと其処で蹲っている女だけでありんすよ。もっと何か奥の手はないのでありんしょうかえ?」

 

 “一人師団”の頭にスポイトランスを突き立て、シャルティアは退屈そうに欠伸をする。もちろんこれは、アウラやマーレと打ち合わせていた通りの演技だ。油断していると見せかけて相手の切り札を誘っているのである。

 

「……お聞きしたい。貴方は『ぷれいやー』なのか? 何故に我らを攻撃する? 先の遭遇戦では此方にも甚大な被害が出ているのです。我らは襲いかかってきた貴方から、自分の身を守るために戦っただけなのですよ!」

 

 隊長は構えを解き、言葉による訴えに希望を託した。

 いや――もう他に手は無かったのだから、託さざるを得なかったのだ。目の前のヴァンパイアは異常なまでの宝具に身を包み、個体能力と合わせて手の出しようがない。加えて弓を使う何者かが近くで援護をしているのだ。

 もしかすると、植物を操る森司祭(ドルイド)までいるのかもしれない。

 疲労のあまり座り込んでしまう隊長は、最後の希望――とは言い難い己の槍を抱えながら、神の奇跡に全てを委ねようと逃避気味の考えに沈んでいた。

 

「ほう、やはりプレイヤーを知っているか……。スレイン法国の特殊部隊、六色聖典が一つ、漆黒聖典――だったか? 陽光聖典からの人相情報と合致する者が数名いるから間違いないだろう。ふむ、中々興味深いな」

 

「ア、アインズ様? どうして此方へ? まだ狩り終っていんせんが……」

 

 多くの木々が薙ぎ倒されている森中の戦場へ、邪悪なオーラを噴き上げながら骸骨の顔を晒し――死を支配していると言わんばかりの魔王のごとき存在が姿を見せる。

 傍らには老体ながらも逞しい肉体を持つ執事、そしてライトブルーに輝く虫のような巨躯の異形――なぜか小脇に黒い羽を生やした亜人を抱えている――が付き従っていた。

 

「いやなに、見たところ相手は戦意喪失のようだしな。世界級(ワールド)アイテムも問題無く奪取できたし、全ては順調だろう? 流石はシャルティアだ」

 

「ああ、我が君……」

 

 真正面からの賛辞に真祖(トゥルーヴァンパイア)は涙を堪えきれない。ついでに下から流れる涙も堪えきれないようで少し内股気味だ。チャイナドレスを抱えて木の上から降りてくる闇妖精(ダークエルフ)からは、呆れているような――困ったような空笑いが響いてくる。

 

 漆黒聖典隊長はこの時、全てを理解した。

 自らの信奉する神と同じ外見であったからかもしれないが、現れ出でた魔王を一目で『ぷれいやー』こと『神』であると認識できたのだ。

 引き連れている一人一人が“絶死絶命”を超える存在であるのだから、他の選択は有り得ないとも言えるが……。

 

「――神よ! 私どもには敵意も害意もありません。どうか対話の機会を頂きたく、お願い申し上げます!」

 

「このっ、アインズ様と直接話そうなんて身の程知らずがっ!」

「まぁよい、シャルティア。命乞いぐらいは聞いてやろうではないか。それで返答だが――。駄目だな、皆一度死ね。対話はアンデッドになってからでも可能だろう」

 

 即時却下に死の宣告、蘇生の道を断つかのようなアンデッド化。

 魔王に相応しき血も涙もない対応に、隊長は腹をくくるしかなかった。

 

「我が命はもとより、隊員の命も身に着けている秘宝も全て差し上げます! その代わりスレイン法国には御慈悲を! 無為な国民は助けて頂きたい! 国民に罪は無いのです!」

 

「却下だ。お前達は……スレイン法国はすべて死ね」

 

 国を丸ごと滅ぼすとの物言いは、まるで害虫駆除を語るかのようだ。

 国には乳飲み子も妊婦も、恋人も家族も――多くの罪なき善良な人々が暮らしているというのに……。

 隊長は決断する――人類救済の切り札を手に、合言葉を口にして。

 

 ――『スルシャーナ様に栄光あれ』――

 

 隊長が手にしていたみすぼらしい槍の名は『入れ替えの槍』。

 合言葉一つで、登録した槍系の武器を手元へ持ってくることが出来る『入れ替えシリーズ』の一つである。

 登録した武器は宝物殿の奥底で厳重に保管されていたとしても、一瞬で呼び出せるので使い方によっては便利かもしれない。もっとも課金すれば上位互換アイテムが簡単に手に入るので、無課金者しか使用していなかったが……。

 

(おお、無課金者救済アイテムって珍しいな。しかしそれを使ってわざわざ呼び出すってことは、絶対にデスドロップしたくない超絶レア武器だろうけど……。この場合は槍だから……あ~ぁ、そうくるか)

 

 アインズは珍しいアイテムを目にして少しだけ興奮してしまうものの、隊長が手にした新たな槍を認識すると、コレクター魂に火がつくどころか――嘗ての重要NPC消滅事件を思い出してニヤニヤしてしまう。

 とはいえ今は一人、進めなくなったクエストの苦労話を語り合える相手なんて何処にもいない。

 

 ――世界級(ワールド)アイテム『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』――

 

 漆黒聖典の隊長が手にする槍は、先程のみすぼらしいモノではない。

 濃密な力の波動と尋常ならざる加護。隊長ですら数度しか手にしたことのない、スレイン法国における秘宝中の秘宝である。

 この槍があったからこそスレイン法国は八欲王の侵攻を抑える事が出来たのだ。相手が神であろうと何であろうと、使用者の消滅を代償として敵を完全に抹消する使い切りの最秘宝。口伝ではどんな蘇生魔法であろうと復活できないと伝わっている。

 故に八欲王はスレイン法国を避けて暴れたのだ。

 ちなみに何処かの竜王(ドラゴンロード)が鎧使役の技法を習得したのもこの槍が原因らしいが、事実かどうか確かめる術はない。

 

「ほう、二つ目の世界級(ワールド)アイテムとは中々楽しませてくれる。しかし……だ、お前はその槍の効果を知っているのか? 使えば命は無いぞ」

 

「神の秘宝たるこの神槍を知っているとは話が早い! ――神よ! どうかスレイン法国の民に御慈悲をっ! さもなくば!!」

 

 追い詰められた鼠の一撃というものなのか、隊長の殺気は膨れ上がり、アインズへと向けられる。

 当然ながら、シャルティアを始めとする五名の絶対強者が黙っているはずもなく――。

 

「アインズ様、この虫けらを潰してもかまいんせんでありんすか?」

「私の弓なら一瞬で殺してみせます!」

「ぼ、僕もやっちゃいます!」

「アインズ様、万が一を考えて御身の盾となる許可を頂きたく」

「効果発動前ニ首ヲ切リ落トシテ見セマス。ドウカ御指示ヲ、アインズ様」

 

 隊長の殺気が小動物のものかと思うぐらいに、その場は濃密な殺意で満たされていた。身を縮めて蹲っていた“占星千里(せんせいせんり)”が口から泡を吹いているのを見ると、普通の人間では呼吸することすら許されないのだろう。

 だが隊長は毅然と立ち向かう。

 今この瞬間の対応一つで、百万を超える人類が死ぬかもしれないのだ。たとえ心臓を握りつぶされたとしても退く訳にはいかない。

 

「皆、そんなに目くじらを立てる必要はない。人間が必死に足掻いて私を楽しませようとしているのだ。声援の一つでも送ってやろうではないか」

 

「神よ! 何を言っているのですか?! 神槍が力を揮えば神であろうと消滅してしまうのですよ!」

 

「ああ、もしかしてお前は知らないのか? 世界級(ワールド)アイテムの効果は、世界級(ワールド)アイテム所持者には効かないのだ。つまり、この場の誰一人たりとも消滅させることはできん。残念だったな」

 

「御言葉ですが、私にハッタリは通用しません! 神よ、今一度考え直してください!」

 

 隊長の必死な嘆願も空しく、アインズから零れるのは「せっかく教えてやったのに」とか「もったいないから」とか「ハンゾウ」などの呟きだ。

 どう聞いてもスレイン法国を救済しようとする内容ではない。

 隊長はただ静かに、この世から消え去ることを覚悟するしかなかった。

 

「おっとそうだった。一つ教えておこう」

 

「え?」

 

 無駄死にまっしぐらの隊長へ、アインズが声をかける。

 

「戦闘中の会話には気を付けた方がイイぞ。大抵は次の策を張り巡らせるための時間稼ぎだからな。普通に受け答えしていると、最終的には――このようになる」

「――ぐっ?!」

 

 どのように鳴らしているか分からないが、アインズがパチッと骨の指を鳴らすと――隊長の両腕が突然切断された。

 神槍を掴んだまま落ちていく己の両腕を眺めながら、隊長は呆然としてしまう。

 斬られた瞬間も、落ちていく両腕が地面へぶつかることなく空中を運ばれていくその時も、周囲には誰もいなかった筈なのだ。

 ジワリジワリと鈍痛が腕から伝わり、一瞬の間をおいて真っ赤な鮮血が噴きあがる。

 

「――っがぁあああぁぁあ!!」

 

「探知能力が貧弱だな。会話の途中からハンゾウ達に囲まれていたというのに……。あの人がいるパターンだったら『首ちょんぱ』だったぞ。ユグドラシルでは同じ手を使い過ぎて、私の発見と周囲警戒は攻略wikiで常識扱いされるほどだったからな。まぁなんだ、相手が長話を始めたら距離をとって周囲の警戒を行うべし、ということだ。――お前達も注意しておけ」

 

「「はっ、アインズ様!」」

 

 傷口を押さえる腕すらない状態で隊長は転げ回り、その様子を眺めるアインズは部下の返事に御満悦であるようだ。

 隠密系忍者型モンスター“ハンゾウ”達が持ってくる『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』を手にして、骸骨魔王様の機嫌は一層良くなる。

 

「ははははっ、大収穫だ! ユグドラシルでも一度の遠征で世界級(ワールド)アイテムを二つ奪取できたことはない! 素晴らしいぞ! ははは――ちっ」

 

 アウラからチャイナドレスを、ハンゾウからは神槍を受け取り、気分は最高潮を迎える――と言いたいところだったのだが、アインズの精神安定化が働いたようだ。

 良い気分も一瞬で平坦なものとなる。

 地べたでピクピクしている隊長の有様は滑稽に見えるが、アインズの気分を再浮上させるほどのモノでもない。

 

「くそっ、もう少しレアモノ獲得の気分を味わっていたかったが……。まぁイイか、さて……デミウルゴスの方はどうなったかな?」

 

 アインズは転がっている漆黒聖典らの死体を眺め、コキュートスに捕獲させている変身野郎を一瞥し、最後に探知系の魔法や能力に対する攻性防壁を解除している理由について考えを巡らせる。

 探知を阻害しないのはワザとだ。

 派手な戦闘行為を覗かせるために、ワザと隙を作っていたのだ。

 今この瞬間、何者かが近くまできている筈である。

 デミウルゴスには、この場での戦闘を監視している――その何者かを確保するよう命じてあったのだ。

 幾度となくエ・ランテルやカルネ村周辺をウロチョロしていた、生者とも死者とも言い難い奇妙な存在。ナザリックの監視網をギリギリで避ける、それなりの強者。

 アインズは「ようやくその面を拝める」と、シャルティアがうっとりするような笑みを浮かべるのであった。

 




スレイン法国終了のお知らせ……。

人類最後の希望が、死の支配者によって滅ぼされます。
まぁ、仕方ないか。
って流石に皆殺しは酷いのでは?
ナザリックに敵対しないのであれば、むやみに殺さない方針だったのでは?

う~ん、誰か何とかしないと……スレイン法国が本当に死の国になってしまうぞ。





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